最近ある人から、企業の中で「システムチェンジを起こしている個人」に焦点を充てたインタビューシリーズを作りたいという相談を受けた。

初めに頭に浮かんだことは、「企業の中でシステムを変えた人なんているんだろうか?」

次に浮かんだのは、「システムチェンジってそもそも、何だ?」

※この記事は、2021年8月16日、オンラインメディアGreenBiz上に掲載されたJoel Makower氏による記事を許諾を得て筆者が翻訳しています。

この厄介な問いのフタを開けてしまったのはつい最近のことだが、多くの概念・意見・視点が一気に噴出させてしまった。明確で簡潔なこともあるが、多くは、少なくとも私や専門知識を持たない読者にとっては、非常に難解なことばかりだ。

これを私が紐解いていった過程は学術的ではない。もしビジネスがより公平で持続可能な世界への移行を牽引していこうと真に考えるならば、少し表面をいじって体裁をよく見せるといった、サステナビリティ領域にありがちな手法以上のことが必要となってくる。​​何に価値を置くか、どのように資本を投入するか、政府や市場が定めるルール、優先すべき人や利益、どのような未来を望むかなど、幅広い前提条件を根本的に見直す必要がある。そのためには、大きく考え、大胆に行動することが必要となる。

それは、つまり、システムレベルでの変革=システムチェンジが必要ということだ。

私たちはもちろん、これまでにシステムチェンジについては幾度となく耳にしてきたことだろう。この言葉は環境活動家の間で一般的になった。3年前にポーランドで開かれたCOP24では、若き活動家グレタ・トゥーンベリ氏が「このシステムの中で解決策を見つけることがそんなにも難しいのであれば、システム自体を変える必要がある」と発言した。

以来、「クライメート・チェンジ(気候変動)ではなく、システムチェンジを」という言葉は世界の気候正義を求めるムーブメントの中で叫ばれてきた。先日の気候変動に関する政府間パネルの報告書を受けて、英国の建築家グループは、「人類がプラネタリー・バウンダリーの中で繁栄できる世界はまだ実現可能で手が届く」状況であり、そのためには「急速なシステムチェンジが必要である」と宣言している。

しかし、システムチェンジとは一体全体、どういう意味なのだろうか。企業や個人によって成し遂げられた、システムチェンジの例はあるのだろうか。もしあるならば、どのようにして成し遂げられたのだろうか。そして、現行のシステムを「人類がプラネタリー・バウンダリーの中で繁栄できる世界」に移行するためには、何が必要なのだろうか。

もしも私に素晴らしい知的エネルギーがあっても、これらの質問すべてに答えようとはしないだろう。2000かもっと多くの疑問が際限なく湧き上がってきてキリがない。ただ、これまで私が、私よりもずっと多くのことを知っている人たちと話し理解した道のりを少しだけ共有したいと思う。あなたにとって少しだけ理解への近道となることを期待して。このテーマを扱った無数のウェブサイトや学術論文、講演などすべてを、私ひとりが網羅的に正当に評価することはできないことをはじめに断っておきたい。他の人たちがその穴を埋め、私の誤解を正してくれることを期待したい。

基礎

まず、私はビジネスの眼を通してシステムチェンジについて考えた。システムを変えるために、企業はどのような役割を果たすことができるのだろう。私たちは、ビジネスは自身やステークホルダーの利益のために、その大きな資産・資源を意のままに動かすことができると考えている。個人や一部の集団にとっての善ではなく政治社会全体の共通の善のために、つまり私たちの繁栄、安全性、持続可能性のために使ってほしいと考えている。それならば、ビジネスはそのようにすればいいだけ、ではないのか?

先に結論を明かしてしまうが、これは、そんなに単純な話ではないのだ。

まず、基本的な定義から始めよう。アメリカのコンサルタント会社Natural LogicのCEOギル・フレンドは次のように述べている。「システムチェンジとは、いくら組織の運営環境、規範、調整メカニズムなどシステムの部分部分を変えたとしても、複雑な問題を解決することはできないという認識に基づいた言葉です」

システムの一部だけを直したとしても、システム全体は変わらない。これはひとつの重要な概念だ。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の上級研究員マイケル・クリーマン氏は次のように述べている。「人間の活動のほとんどは、複数のプレーヤーが複数のことを行い、それらが相互につながっていて、目的を達成するためにはこれらの相互作用すべてがうまく機能しなければなりません。このように混沌としたのがシステムです。このなかでもがき始めて、もう30年になります」と認めている。

システムの全体を理解すること。導くべき結果を定めること。進行させること。指標を設定すること。これは覚えておくべき4つのカギだ。

ここまで導き出したのは良いが、まだ疑問が山積みだ。まず第一に、クリーマン氏が指摘したように「どのシステムを、どのように変えるのか」。

ストックとフローとループ

システムチェンジの分野では、ストック、フロー、バッファ、レバレッジポイント、根本原因、フィードバックループ、割引率など、さまざまな用語や概念が目まぐるしく変化し渦巻く。システムチェンジには、ゲームのルールを変える、メンタルモデルを変える、新しいパラダイムを構築するなど、さまざまなアプローチがあることを学んだが、学べば学ぶほど、そのどれもがだんだんと持ち上げられないほどに重くなっていく。

もちろん、軽々とこなせるほど単純なことではないのは知っている。自分が今いるシステムを理解するのは比較的簡単なことのように思えるかもしれないが、水に浸かっていることを知らない金魚のように、自分の周りにあるものを理解するのは必ずしも簡単ではない。また、システムを理解しても、それをどのように変えていけばよいのかを判断するのは、理解力や行動力を超えることもある。

「システムを理解したら、それをどのように変えるかを考えると、行動することはおろか、理解する能力もすぐに尽きてしまうようである」

ひとつの例がある。もしかすると消費を報いる経済モデルに変えるべきシステムなのではないか、と私はクリーマン氏に聞いた。

いいや違う、と彼は言った。「消費は、システム・ドライバー。すべての根っこになっているがシステムではない」と。

これには少々戸惑ってしまった。システムを変えるためには、まず、あるものが実際にシステムなのか、それともシステムの症状や、システムの構成要素に過ぎないのかを理解する必要があるということだ。選挙資金は変える必要のあるシステムなのか、それともより大きなシステムの結果に過ぎないのか。リニアな生産モデルとサーキュラーな生産モデルはどうだろうか?工場式農業は?人種差別ならばどうなる?

そこで私は、Forum for the FutureのCEO、サリー・ウレン氏に電話した。Forum for the Futureは、システムチェンジの学校(School of System Change)を設立し、「システムチェンジメーカー」となる人材の育成を目的としたカリキュラムを提供している。

「システムチェンジは、システムの目標が変化し、新しい運営パターンが生まれ、新しい関係やつながりが形成されたときに起こります。それが今、私たちの目の前で、エネルギーシステムで起きていることです。化石燃料によるシステムから再生可能エネルギーによるシステムへと移行しているのです」

新しい運営パターン。新しい関係やつながり。そこまではわかっていた。ウレン氏が次の言葉を放つまでは。

「システムチェンジはプロセスであり目標(アウトカム)なのです」

ため息が漏れる。

システムチェンジを理解しようとすることは厄介で捉えどころがなく、解釈にもまだまだ幅がある。これが理由となって、多くの善意の人々が、システムチェンジを起こすことを望みながらも、結果的に個々の構成要素を少しいじって成果を主張するに留まってしまうことがあるのには間違いない。マイケル・クリーマン氏が主張したように、これでは「治療すること」が「病気そのもの」よりも悪い例となってしまうこともあるだろう。

「これらは、私がよく言う『局所的最適化』と『全体における部分最適化』という行為です」とクリーマン氏は言う。

「言い換えれば、ある部分をうまく機能させても、その周りや下流のすべてを台無しにしてしまう行為なのです」

パーム油とバーガー

しかし、システムはゆっくりと少しずつではあるが、変えることができはずだ。2010年、デンバーに世界の牛肉産業に携わる約350人のメンバー(牧場主、肥育業者、包装業者、加工業者、卸売業者、小売業者、レストラン関係者、政府関係者、活動家)が集まり、「サステナブル・ビーフ」を定義するための共通の基盤があるか議論を交わした。その結果、マクドナルド、世界自然保護基金をはじめとする数名のキープレイヤーによって、牛肉の生産方法の変革を目指す「サステナブル・ビーフのためのグローバル・ラウンドテーブル(Global Roundtable for Sustainable Beef)」が結成されることとなった。

それから10年が経ち、最新の年次報告書では、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカの各支部から進捗状況が報告されている。これら支部は、「世界の牛肉バリューチェーンの持続可能性を継続的に改善する」ための地域目標の設定と実施に向けて、着実に前進している。

ラウンドテーブルはシステムを変えているだろうか?長期的に見ればそうだろう。進捗とは、この組織が見せてくれた通り、時として諦めないことから生まれるのだろう。

もう一つの例に、パーム油がある。パーム油は熱帯林の伐採や生息地の破壊に壊滅的な影響を与えている。従来型の「非システム的」な解決策としてとられていたのは、パーム油による悪影響を断つために森林伐採を禁止することだった。これをシステム的なアプローチに変えることは、森林伐採を禁止すれば数え切れないほど多くの農家の生活が失われることを理解し、政府、小規模農家協会、パーム油取引業者、そしてパーム油を使用する数多くのブランドを巻き込んだ別の方法を模索することだ。そして、進捗状況を評価するための指標やモニタリングを開発すること。

これが、世界資源研究所(WRI)をはじめとする60以上の団体が運営する「Global Forest Watch」などに代表されるような(システムチェンジの)基本的なモデルだと言えるだろう。Global Forest Watchは世界中のどこで木が倒れているかを、10分の1ヘクタール単位で継続的に監視することができるのだ。また、東南アジアにある約1,000あまりあるパーム油工場がそれぞれどこからパーム油を調達しているか把握しているため、どの工場がルールを守っているかをかなりの確率で判断することを可能にしている。そして、ブランドは情報に基づいて購入の意思決定ができる。

こうした取り組みは、少しずつ、でも確実に、システムを変えている。

権力と影響力

こうした例に、規模感を持った変化をもたらすのは、企業とその中で働く人々の役割であると考えさせられる。

企業は、その経済力や市場での影響力にかかわらず、ほとんどのシステムにおいては単一のプレーヤーに過ぎない。そして、プロフェッショナル一個人と同様に、他の企業、政府、アドボカシーグループからの支援、加えて粘り強さと忍耐力がなければ、変革を起こすことは困難であろう。その中で、全体の変化への進捗はがっかりするくらいちっぽけに感じられることもあるかもしれない。

ある時、「システミック・レイシズムを終わらせる」という野心的な目標を掲げるアメリカ大手企業と話すことがあった。 その目標に向かって実際に何をしているのかを聞いてみると、社内の慣行や外部との関係を調整したり、共通の課題に取り組むために他社と協力したり、進捗状況を評価するための指標を作ったりと、革新的とは言えない活動が多いことに気がついた。

これらの進捗は、システム変化が起きているという意味なのか、それとも、企業と地球の問題に対処するための、単に一企業が自社の責任を果たすための努力をできているということに過ぎないのだろうか?

私には、どちらでも良いことのようにも思える。どれだけの善意と豊かさをもって取り組んだとしても、単独の企業や組織が起こしうる変化はさして大きなものにはならない。これらの取り組みは、活動家らの言う「気候変動ではなく、システムの変革を」という言葉の意図するところとは少し異なるかもしれないが、いずれも古いモデルを新しいモデルへと誘導することを目的としているという意味では同じはずだ。

Forum for the Futureのサリー・ウレン氏は、システミックなアプローチを追求していると感じる企業の例をいくつか挙げてくれた。デンマークのエネルギー企業オーステッド社は、エネルギーシステムの脱炭素化と、再生可能エネルギーのコスト削減に取り組んでいる。また、イケアの親会社にあたるIngkaグループは、社会から排除されたコミュニティを支援し、社会起業家精神を事業全体に織り込んでいる。アメリカに本社を置くパーソナルケアのキンバリークラーク社は、ゲイツ財団とパートナーシップを結び、衛生設備へのアクセスを促進する。さらにアメリカ食品大手のゼネラルミルズ社は、食料システムを再生型農業へと牽引している。

こういった例に挙がる企業の多くはシステムチェンジを見据えていることだろう。

マインドセットを変えていく

著名環境科学者のドネラ・メドウズ氏は、1999年、「レバレッジポイント:システムに介入する場所(Leverage Points: Places to Intervene in a System)」という重要な論文を発表している。この論文は、システムを変化させるのに最も効果的な介入の方法を説明したもので、このテーマに関する最も優れた文献の1つとされている。メドウズ氏は、「負のフィードバックループの調整」から、「システム(その目標、権力構造、ルール、文化)を生み出す考え方やパラダイム」への対処まで、12のレバレッジポイントを説明している。

これは、システムの変容とは多くの異なる方法・角度で取り組むことができることを示唆している。しかし、最も重要な点は、政治や経済のシステムを変えることよりも、私たち自身の考え方を変えることの方が重要だと読むとくことができる。

サリー・ウレン氏は次のように話す。

「システムチェンジをもたらす最も大きな動力とは、私たち一人ひとりの考え方です。システムチェンジを起こしたいと感じながらも、自分のものの見方を変えようとせず、自分のやっていることを変えようとしない人を多すぎるほど見てきました」

ギル・フレンド氏もこれに同意する。

「『私たち』というシステムがあるのです。私たちがどのようにこの世界で暮らし、何を信じ、何を普通の姿勢だと考えるか、です」

それが今回の、何よりも大切な学びかもしれない。地球上の最大の問題を解決するには、システムを変えなければならない。しかし、考え方を変えなければ、システムを変えることはできない。そして、考えを変えようとすれば、インスピレーションに満ちたビジョンに出会うことができるだろう。

これを学びとしてしまうのは少し責任回避的だろうか。正直に言うと、今回の一連の対話と思考の中で、システムチェンジに必要なのが何であるか、ほんの少しだけ理解が深まったのだ。まだまだはっきりとしない。例えば、私たちはシステムが変化していたとしても、その中にいてははっきりと気づかないことがあるだろう。またあるいは、システムを変容させているつもりでも、実際にはシステムを織りなす要素一部を少しいじっているだけに過ぎないかもしれない。

システム生態学や組織力学、カオス理論を学んだことのない私たちにも、システムチェンジをより理解しやすく、実行しやすいものにする必要がある。複雑なシステムを変革するために、組織、特に企業がどのような役割を果たせるのかを、より明確に理解する必要がある。私たちは、これらの概念を、よりシンプルに、身近なものとして、変化を起こしたいと望む人々に提供する必要がある。

あなたは、どのようなシステムチェンジの例を見たことがあるだろうか。システムを変えようとして成功した、もしくはシステムを変えようとして失敗した企業や団体を挙げることはできるだろうか。どのような組織戦略ならば有効だろう。成功に必要なシステムの条件とは何だろう。どのような資源、システム変更のどのような例を見たことがあるだろうか。システムを変えようと試みて成功した、あるいは試みて失敗した企業やコンソーシアムを挙げることができるだろうか。どのような組織戦略が有望なのか?成功に必要なシステム条件は何か?特に専門家ではない人を対象とした資料でおすすめはあるだろうか。

あなたの思考やアイディア、フィードバックを聞かせてほしい。

【翻訳元記事】What does system change mean, anyway? (GreenBiz)