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インタビュー

壊すときのことを考えて建てる。オランダのサーキュラー建築スタジオ 

壊すときのことを考えて建てる。オランダのサーキュラー建築スタジオ
「この社会に存在するごみの半分以上がどこから来るか知っていますか?」

そう聞かれ、すぐに答えられずに視線を落とす筆者の顔を覗き込みながら、ピーターさんは切実な表情でこう続けた。

「建造物です。建物を壊すと大量のごみが出ます。その建物をデザインする立場として、私たち建築家にはこの世に存在するごみの半分に責任があります。つくってしまった後にごみをどうするか考えるのでは遅い。つくる前からごみにならないようにデザインしなければいけません」

世界のゴミ

ドイツ廃棄物内訳「Statistisches Bundesamt, Statistisches Jahrbuch 2019」より

ピーター・ヴァン・アッシェさんはサーキュラーエコノミーを推進する建築スタジオ「bureauSLA(ビューロ・スラー)」の創業者だ。bureauSLAは建築家と建築史学者、都市設計家、エネルギー専門家からなる建築スタジオで、資源やエネルギー、廃棄物の潜在価値を最大限に高める建築プロジェクトを手掛ける。

2015年にアムステルダム市は、行政主導でサーキュラーエコノミーを推進し、2050年までに確立すると宣言したが、その13年も前からピーターさんはサーキュラーモデルを考え続けている。現在ピーターさんはオランダの建築アカデミーアムステルダム、アメリカのコーネル大学、ドイツのエアフルト応用化学大学などで建築とサーキュラー思考について教鞭をとる。今回、ピーターさんにサーキュラーエコノミー実現の鍵となるサーキュラー思考について話を聞いた。

(c) Thijs Wolzak

Peter van Assche(ピーター・ヴァン・アッシェ)さん (c)Thijs Wolzak

「エコノミー」は大きすぎる

「オランダは国を上げて『サーキュラーエコノミー』達成に向けて取り組んでいます。しかし私自身は、人々に広く呼びかける言葉として『サーキュラーエコノミー』はあまり適切でないと考えています。エコノミーというと、経済評論家や政治家、金融業界のことで、自分には直接関係ないことのように感じてしまうからです。私たちは自分たちが経済活動の一部だということは理解できますが、『経済が良い年は少し得をして、経済が悪い年は少し損をする』というような、エコノミーとの関わりはその程度だと考えてしまっています。『サーキュラーエコノミーを頑張らなければ』と考えるよりも、自分の思考と行動がサーキュラーになるよう、私たちは意識することが大切なのではないでしょうか」

ピーターさんは自身が教鞭をとる「建築アカデミーアムステルダム」でも、科目名をサーキュラーエコノミーと付けず「建築とサーキュラー思考」として教えている。思考と行動がサーキュラーになるように、とは具体的に何をすればいいのだろうか。

新しいものを買わないことから始まるサーキュラー思考

「私がサーキュラーモデルの建物をデザインをするきっかけとなったときの話をしましょう。私の弟はプロのピアニストで、寝る間も惜しんでピアノを弾きたがっていました。防音室が必要でしたが、当時ピアニストとして成功を収めていなかった彼には、業者に工事を頼むお金がありませんでした。そこで、兄であり建築家の私に依頼をしたのです。家族や隣人に迷惑をかけず、時間を気にしないでピアノを弾ける空間を、お金をかけずにつくってほしいと。

私は考えました。新しい建材を使うにはコストが掛かりすぎる。特に防音にするために必要となる窓枠は高額でした。なんとか安く資材を手に入れられないかと探す中で行き当たったのが、オンライン上で個々人が商品を売買できる「Marktplaats」(オランダ版のメルカリ)でした。私はMarktplaats上で防音室にぴったりの窓枠を格安の価格で見つけました。なぜ安いのか不思議に思って調べると、通常の規格とは異なるサイズの窓枠だったためなかなか買い手がつかないようでした。捨てるよりは少しマシ、くらいの価格設定でした。でも、捨てるなんてとんでもない。価格に見合わないほど素晴らしく価値のある資材でした。こうして、私は弟の防音室をお金をかけずにつくることに成功しました。

そしてこのとき、不思議だなと思いました。世の中の人々は資材の初めての利用者になりたがるのに、二人目の利用者になりたがる人はオランダ中で、もしかしたら世界中で、私を除いて誰もいないようなのです。私はひとつ実験をしてみることにしました。このアイデアを応用すれば、とても安く、でも素敵な建物をつくることができると考えたからです」

サステナブルなものが高いというのは思い込み

「一度誰かの手にわたった資材で建物をつくることに、面白さを見出した私は、Marktplaatsで手に入れたものだけを使ってバーを建てるプロジェクトを思いつきました。そして2つのルールを決めました。1つめは、新しい資材を買わないこと。もう1つは、資材を譲ってくれた人からその資材にまつわるストーリーを聞かせてもらうこと。Marktplaatsで中古資材とストーリーを集める日々が続きました。そして、ついにバーが完成しました。100%中古資材でできているなんて誰も信じないほどの仕上がりです。

中古で手に入れる資材には無駄がないことや安いこと以外に、新しい資材にはない大きな価値があります。ストーリーです。

中古資材とストーリーのコレクションからなるサステナブルなバー中古資材とストーリーのコレクションからなるサステナブルなバー

これが私の考えるサーキュラー思考と行動で、今日のbureauSLAの活動につながっています。サステナブルなものが高いというのは思い込みです。お金のかからない中古資材だけでこんなにクリーンで魅力的な建物をつくることができるのですから」

壊すときのことを考えて建てる

「大きなイベントが開催されるとき、建設費として多額の予算が充てられ、イベントのために建てられた建物は終わった後に負の遺産となってしまうケースも多くあります。設計する時に壊すときのことを考えていない、つまりサーキュラー思考が欠如しているためです。

数年前、北ヨーロッパ最大のデザインの祭典「Dutch Design Week」で使う建物をつくってほしいと運営局から依頼を受けました。世界で一番サステナブルな建物にしたいと。私にはその意味がわかりませんでした。イベントが開催されるたった9日間のためだけに建物をつくる。その考え自体がサステナブルではないからです。

ただ、イベントに向けて環境負荷がかからない建物を用意するのであれば、いくつか方法があります。イベントが終わった後に他の場所に動かせる建物をつくるか、分解できる建物をつくるか、もしくは、建物自体をつくらないで、借りるか、です。

私たちは、この3つの方法をすべてを採用することにしました。具体的には、木材や外壁、ガラス、タイル、プラスチックなどの資材を様々なところから借りてきて、9日間のイベントが終わったらまたみんなに返すという方法です。借りてきたものをそのままの状態で返すことができれば、廃棄がほぼゼロの建物が成り立ちます。

このとき、私たちはひとつルールを決めました。借りてきたすべての資材を一切加工しないことです。穴を開けたり、切り落としたり、接着剤を使ったりしてはいけません。物資の価値を損ねた結果物資が廃棄されてしまっては、サステナブルだとは言えません。この条件で建物を成立させるためには新しい建築モデルが必要でした。ここで私たちのプロの建築家としてのクリエイティビティと専門性が活きてきます。検証に検証を重ね、新しい建築モデルを編み出しました。紐でくくりつけるような構造です。

建築モデルができあがったところで、一般に向けて資材の提供を募りました。多くの市民や企業から資材の提供を受け、私たちは100%サステナブルな建物「People’s Pavilion」の建設を実現しました。世界で一番サステナブルな建物です。この「People’s Pavilion」はいくつものデザイン賞やイノベーション賞を受賞しました。

建築を全く異なる視点で捉えることで、9日間のイベントに最適な建物をつくることにつながりました。9日間が可能なのであれば、きっと9年間も実現することができるはずです。この考え方が、異なるモデルのエコノミー、「サーキュラーエコノミー」を実現するのだと私は考えています」

People’s PavilionPeople’s Pavilion

イベントを終えすべての資材を返す前に記念撮影 (C)Jeroen van der Wielenイベントを終えすべての資材を返す前に記念撮影 (c)Jeroen van der Wielen

負の遺産にしないためには使うしかない

「最後にひとつ、お伝えしたいことがあります。すでにつくってしまった、使われていない建物についてです。

特に80年代以降、建設業界は接着剤やシリコンを多用するようになりました。建物がべったりと接着されてしまうため、資材を剥がすことができなくなります。剥がせないとなると、建物を解体するとき、廃棄するしかなくなってしまいます。

すでに存在する、解体できない構造の建物は、残念ながらこれからサステナブルにつくり変えることが難しい。廃棄しない唯一の方法は「使うこと」だけです。今の時代のセンスに合わない、時代遅れの風貌の建物もあるでしょう。でも、人は不思議なものです。そこに愛着や感情的なコネクションを感じると、使ってみようと思います。つくってしまった建物を負の遺産にしないためには、愛着を持つしかないのです。そして、その建物の辿ってきた運命というストーリーを知ることが愛着を育てるのには大切なのです」

ピーターさんの話してくれたサーキュラー思考とは、不要になったときのことを考えてからつくる、買うことだ。また、サーキュラーでないものを負の遺産にしないためには、使い続けること、そしてそのためには愛着を持つこと。ストーリーを知ることは、愛着を持つのに大切なプロセスだ。それは建造物だけでなく、今の社会に存在するすべてのものにいえることではないだろうか。

自動車工場の部品を使って自身がデザインした建物の前で。自動車工場の部品を使って自身がデザインした建物の前で。

【参考サイト】Statistisches Jahrbuch 2019

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

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