近年、ファッション業界が引き起こす環境汚染がクローズアップされ、急速に取り組みが進んでいる。Circular Economy Hubでもファッション業界における取り組みを度々取り上げてきた。今回のテーマである警備服も、環境負荷の高さにおいてはその警備員数の多さから例外ではない。警備員数は約55万人と全体として増加傾向にある(2009年までは増え続け、その後増減を繰り返したが、2014年以降は再び傾向)。警備業者数は現在約9,700社で、2000年にピークとなったが、それ以降再び増え続けている。(「警備業の概況」と「平成30年における警備業の概況」)

一般的に警備服は、劣化すると定期的に新しいものに取り替えられる。その際には、産業廃棄物として廃棄されるのが常だ。先ほど述べた警備員数からみてもその環境負荷は計り知れない。

今回、この問題に取り組む株式会社警備ログ代表取締役社長 長谷川功一さんを取材した。同社は、警備服を循環させる「サーキュラーエコノミーユニフォーム」の普及に努めている。

システムガードサービス株式会社・警備ログ代表取締役社長 長谷川功一さん

「サーキュラーエコノミーユニフォーム」とは?

警備ログは、制服販売業の高宮株式会社や作業服・警備服企画製造販売メーカーの持田繊維株式会社、リサイクル企業、物流会社と連携しサーキュラーエコノミーユニフォームのプラットフォームを構築。2019年4月の開始から1年強で契約数は100件に上るという。その基本的な仕組みはこうだ。

  1. 高宮や提携物流会社と協力し、使用後の劣化した警備服を警備会社から無料で回収する。
  2. 回収した警備服を提携リサイクル企業の工場で、BHET、そしてPETペレットに形を変え、糸・生地に加工され新たな製品に生まれ変わる。
  3. 持田繊維や高宮と協働し、再生ポリエステルを使った警備服を販売する。

サーキュラーエコノミーユニフォームの仕組み

通常、ユニフォームは産業廃棄物として焼却あるいは埋め立てられる。サーキュラーエコノミーユニフォームは原料が維持できるということに加え、通常よりもCO2の排出量を「約55%削減できる」と長谷川さんは話す。さらに、無料で回収するため「廃棄コストが節約できる」という。同ユニフォームにかかる費用は通常の警備服と「大差ない」というのだから、経済的にもメリットがあるそうだ。

「安心安全を守るだけではなく、環境も守る産業」へ

長谷川さんは、1978年に創業した地域密着型の警備業を営むシステムガードサービス株式会社の代表取締役も務める。これまで警備業界一筋で歩んできた長谷川さんが、なぜ警備服の循環に取り組もうと思ったのか。これには長谷川さんの警備業界に対する思いがある。

「警備会社はもともと、『安心安全を売る、お客様の生命と財産を守る』という理念があります。徐々に業界が大きくなるにつれ、昨今では再就職の受け皿産業になっている傾向があります。誤解を恐れずに言うと、誰でもできる産業に成り下がりつつあるので、これを何とかしたいと思ってきました。警備業には先ほど述べた崇高な理念があるので、もっと社会的地位を上げたいのです。『非効率』や『3K』というマイナスイメージも払拭していきたいですし、子どもたちの『夢の職業ランキング』に警備業がランクインするように仕向けたいという思いを持っています。しかし、なかなか業界自体に硬直性があることも事実です。そこで、まずは警備業の未来を変えるため『警備ログ』をシステムガードサービスとは別に立ち上げました」

このように思うきっかけとなったのが、長谷川さんが参加する青年会議所でSDGs(持続可能な開発目標)を知り学んだことだ。次第にSDGsが業界を発展させる一つの突破口になりうると考えたという。これについて、長谷川さんは以下のように話す。

「業界の底上げや社会的地位を挙げるために、SDGsの17目標のうち、警備業ではどこへアプローチできるのかを考えました。警備業界は制服を着用する業界なので、システムガードサービスと提携している警備服業者(高宮)に警備服はリサイクル可能かどうか聞いてみたのが始まりです。制服は汗などで白くなり、汚れが発生しやすいのです。かといって、会社のブランドやイメージを維持するために劣化したものを使い続けるわけにはいきません。そのため、定期的に新品に交換しているという現状です。警備業界は安全と安心を守るだけではなく環境も守る産業として、もっといえばSDGsに一番力を入れている産業として、業界全体の底上げを図りたいと考えるに至りました」

サーキュラーエコノミーユニフォーム普及に向けて意識していること

長谷川さんはサーキュラーエコノミーユニフォームの普及を通じて、サーキュラーエコノミー自体の認知度を上げたいと話す。「このユニフォームを普及させるにあたり、ユニフォームが環境に与える影響について、お客さんに話しています。その反応は上々です」

同時に、業界の現状を踏まえた提案もしているそうだ。

「業界の底上げをしていきましょうと話をしています。警備会社が増えてきているので、値段を下げると業界の首を絞めてしまう。『安かろう悪かろう』ではなく、提供できる価値やSDGsなどにも取り組んでいけるようにしましょう、と」

さらに、ユニフォーム導入に際して「サーキュラーエコノミーに取り組んでいる」ことを顧客に示すことができる副次的効果があることも忘れずお伝えする。採用する側にとっても、サーキュラーエコノミーに力を入れているというPRにもなる。また、対外向けだけではなく、社内向けにも教育の機会を提供できる。ユニフォームを材料にさまざまな方面で意識向上のきっかけになるということだ。

導入先の共栄美装株式会社の看板。サーキュラーエコノミーユニフォームロゴ掲載

サーキュラーエコノミーの認知度を向上させるには?

導入に当たっては、サーキュラーエコノミーをもっと身近に感じてもらえるための仕掛けも行う。例えば「サーキュラーエコノミーユニフォーム」のワッペン。見慣れないワッペンに気づいてもらい、その意味を知ってもらうという仕掛けだ。「『あれって何』と言ってもらえるワッペンにしようと思いました。その連鎖が広がるようにしていきたいと考えています。」想像するに、警備服を見る人だけではなく、着用する本人やその家族もワッペンが意味することについて気になるのではないだろうか。多くの方に関心を持ってもらうきっかけとしてのワッペンというわけだ。

 

サーキュラーエコノミーユニフォーム(袖)につけるワッペン

さらに同社は「SDGs防衛団」と名付けて、キャラクターを作って多くの人が関心をもってもらえるように取り組んでいる。

SDGs防衛団のポスター

ワッペンやSDGs防衛団は、難しく捉えられがちな環境問題をわかりやすく伝えるために、間口を広くする仕掛けだといえるだろう。

しかし、普及に向けたハードルも高いという。通常のユニフォームと同等の費用で環境負荷が低減できるというが、警備服を変更すると警備会社は警察に申請する必要があるので、手間がかかると思ってしまうようだ。また、決まった発注先から変えることに抵抗がある会社も多い。そのため、これらの課題を踏まえたうえで、警備服の循環を業界一体となって広める仕組みをつくることが理想だと長谷川さんは考える。

パートナーシップがカギ

冒頭で触れたように、サーキュラーエコノミーユニフォームの仕組みには警備ログ・高宮・持田繊維やリサイクル企業・物流会社など複数社が連携して構築している。サーキュラーエコノミー実現のために必須となるパートナーシップがまさにここに体現されている。警備会社とリサイクル企業など、今までになかった異例の協働ともいえるのではないだろうか。

「このスキームで一番大事なのは、パートナーシップです。それと、社会貢献になるのであればぜひ加わりたいと言っていただけることが大切だと考えています。」と長谷川さんはパートナーシップの重要性を強調した。

警備ログの役割は「SDGsやサーキュラーエコノミー普及をしませんかという提案」をすることだ。警備業に精通し、ネットワークが豊富な警備ログだからこそ、業界の事情を踏まえて提案ができる。

今後の目標

長谷川さんには大きな目標が2つあるという。一つは、警備服を超えて企業ユニフォームもこのスキームに組み入れるというものだ。警備服同様、多くのサービス業はユニフォームを着用している。会社のブランドイメージの維持・向上のため、劣化したユニフォームを着続けるわけにはいかないという事情も警備服と共通している。

もう一つの目標は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会で利用する警備服を大会終了後に回収し、2025年の大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)の警備服に蘇らせる仕組みを構築することだという。

「これは環境負荷が抑えられることに加えて、日本の取り組みを世界にPRするきっかけになると思います。さらに、サーキュラーエコノミーの認知にもつながるのではないでしょうか。東京2020大会はよいきっかけになるはずです」

サーキュラーエコノミーの視点では

サーキュラーエコノミーユニフォームをサーキュラーエコノミーの視点で見てみると、次の3つの特徴が見えてくる。

1. 製品と原材料を使い続ける

同ユニフォームの目的は、英国のサーキュラーエコノミー推進機関のエレン・マッカーサー財団が挙げるサーキュラーエコノミー3原則のうちの1つ、「製品と原材料を使い続ける」に当てはまる。警備服や企業ユニフォームに代表されるユニフォームは、一定期間利用するとどうしても交換しなければならないが、原材料まで廃棄(焼却)する必要はない。原材料を保持し再生ポリエステルに生まれ変わらせて活用することで、これまで焼却・埋め立てされていた警備服を循環サイクルに組み込むことができる。そして、バージンポリエステルから作るよりも約55%のCO2(警備ログ公表値)が削減できるという。

温室効果ガス削減に取り組むには、再生可能エネルギーへの移行だけでは全温室効果ガス排出量の55%にしか取り組むことにならないというレポートがある。残りの45%は消費財や耐久財等の製造や利用で占めている。まさに同ユニフォームが貢献する分野といえる。

また、同財団が掲げるもう1つの原則「廃棄物と汚染が出ないように設計する」がある。これは設計(デザイン)が、ライフサイクル全体に与える影響は大きい(デザインが環境負荷の80%を決定づけるという報告もある)ので、あらかじめ廃棄物を出さない設計をしようという原則である。長期間使えるユニフォームや、原材料の種類を増やさないようにすること、あるいは生物由来素材の活用など、今後は設計の観点からの取り組みも期待したい。

2. 経済的メリット

経済的なメリットは最大のポイントだろう。警備ログのサーキュラーエコノミーユニフォームは、他の通常の警備服と同等の費用だという。しかし、これまで警備服を産業廃棄物としてお金を支払って廃棄していた現状を考えると、同ユニフォームの仕組みは、無料で警備服を回収してくれるため、全体的にはコストが低減できる可能性があるという。

導入する側にとっても、環境配慮型の重要性は認識しているものの、追加コストがかかってしまうようでは普及へのハードルが高くなる。この点は現実的な問題として重要な点だが、同ユニフォームはこの問題を解決してくれる。経済的な恩恵と環境負荷の低減を同時に達成する仕組みだといえるだろう。

3.「パートナーシップ」を成り立たせる前提

先に述べたように、これまでなかったような業界を超えた協働がこの仕組みの特徴である。警備業界を熟知した警備ログの役割も大きい。参画企業それぞれの強みが何一つ欠けても成り立たない仕組みだろう。

サーキュラーエコノミーではパートナーシップが大切だとよく言われるが、長谷川さんにインタビューをして感じたことが2つある。「ウィンウィンの関係」と「共通の思い」である。

まず、「ウィンウィンの関係」を構築することが、パートナーシップの前提であることは言うまでもない。この点はよく語られるのでここでは割愛したい。

もう一つの「共通の思い」とは、「ウィンウィンの関係」であること以上に、成し遂げたい何かがあるかどうかということに関連する。長谷川さんの「警備業界を良くしたい」という思いがサーキュラーエコノミーユニフォームをさまざまな企業を巻き込み、「共通の思い」となって、このプラットフォームを誕生させたといえる。

リニア型からサーキュラー型への移行には、これまでの延長線上ではなく仕組みを変えていくことが必要で、精神的なエネルギーがいることは確かだ。そのエネルギーの原動力は、長谷川さんの場合は「業界に対する思い」で、関わるパートナーがその思いに共感することが、パートナーシップを成り立たせる前提であるのではないだろうか。そんなことを感じながらインタビューを締めくくった。

終わりに

長谷川さんによると、警備業界には他にも人手不足や高齢化など課題は山積しているという。警備服を循環させることだけが警備業全体の課題解決になるとは思ってはいないと強調していた。それでも、サーキュラーエコノミーユニフォームが果たす役割は大きく、今後の警備ログの動向に目が離せない。

【参照サイト】警備ログ
【参考サイト】エレン・マッカーサー財団公式ホームページ
【参考レポート】警備業の概況 (一般社団法人全国警備業協会)
【参考レポート】平成30年における警備業の概況 (警察庁生活安全局生活安全企画課)
【参考レポート】Ecodesign your future
【関連記事】サーキュラーエコノミーと気候変動対策の関係とは?エレン・マッカーサー財団レポートより