前編では、真庭市のバイオマス産業杜市としての全体像とこれまでの変遷を見てきた。後編では真庭市のサステナブルツーリズムを中心に紹介し、最後にこれまで取り上げた真庭市の取り組みから見える循環型地域づくりのヒントを考察して締めくくりたい。

真庭観光局のあゆみ

真庭市の観光を一元的に担う一般社団法人真庭観光局は、岡山県に2つあるDMO認定を受けた法人(2021年11月4日時点)である。2021年4月1日時点の職員数は11名(うち4名が真庭市からの出向者)。真庭観光局は、従来の第三次産業の一部としての観光ではなく、「観光地域づくり」に重きを置く。そのため観光は、地域活性化の手段で横軸として位置付けられるため、同局は幅広い活動を展開している。

真庭市の観光に対する考え方(提供:真庭観光局)

真庭観光局設立までの経緯は次のとおり。

2016年の真庭市観光戦略策定時に、若手を中心としたさまざまな業種の地域リーダー等93名と真庭の観光産業に関するアイデアを出し合うワークショップを年6回実施。その際の参加メンバーのうち発足時は4名が「観光地域づくりマネージャー」に就任した(2021年3月31日時点では11名)。

2017年に真庭市観光戦略アクションプランを策定。組織体制についても話し合い、日本版DMO登録を目指し2018年4月に真庭観光局を設立。2020年3月31日にDMOとして登録された。認定を受けた当時は多くの方が観光局視察に訪れたという。

上記の経緯からも、観光局の設立においても官民連携のもとで進められてきたことがよくわかる。

観光地域づくりの一環としての「バイオマスツアー真庭」

観光局が提供する目玉ツアーである「バイオマスツアー真庭」について伺った。

「バイオマスツアー真庭」が誕生するまで

2000年代半ばにバイオマスという概念が一般に知られるにつれ、視察者が急増。当初は市役所で視察の手配をしていたという。視察先のアレンジ・昼食の手配など、市職員が担当するには煩雑になってきたため、当時発足したばかりの真庭観光連盟に事業主体を移していった。

総務省・ふるさと財団の「地域再生マネージャー事業」により派遣された専門家と共に2006年12月、「バイオマスツアー真庭」を開始。今では、視察者向けに市内のバイオマス関連施設や企業を訪問するパッケージツアーとして年間約2,000人が参加するほどに成長した。参加者は、民間や議員、コンサルタントや研究者、学生など多様だ。

ツアー立ち上げにあたり意識したことについて、真庭観光局の森脇さんは次のように説明する。「『顔の見える産業観光』を意識してツアーを企画運営しています。技術を見せるのではなく、誰がどういう思いで実施しているのか。点としての施設だけではなく、市内でストーリーがつながるように地域全体を見せることを目的にしています。」ツアーとしての「商品販売」という観点ではなく、「観光地域づくり」が核となってきたのだ。

一方で、課題もあったという。「当時、バイオマスはあまり知られていなかったため、(バイオマスで)人を呼ぶのは考えられないという声が多くあり、地元の方の理解を得ることに苦労したと聞いています」と森脇さんは語る。その状況が一転したのが2009年。その年に第14回新エネ大賞優秀普及啓発活動部門「経済産業大臣賞」を受賞したことで、地元でもツアーの認知が進んだ。

海外からの参加があるほどツアーは順調に発展していった。その間真庭市内でも先述した「真庭バイオマス集積基地」(2009年4年)「真庭バイオマス発電」(2013年2月)の新施設ができるなど、参加者にとっては訪問する度に新しい施設や取り組みが生まれているため、リピート訪問にもつながったという。

真庭観光局 事業部 森脇由恵さん

地域内連携としての「バイオマスツアー真庭」

視察を受け入れる企業の反応はどうだろうか。受け入れ側にとって、視察者を受け入れるには相応の負担がかかるのは確かだ。「ツアー化することで、企業もボランティアで受け入れることがなくなったので、社内の理解も得やすくなったようです。もっというと、ツアー客がその企業に就職したり、ツアー客と視察先のマッチング事例も出てきたりしているのです」と真庭市役所の森田さんは説明する。

真庭観光局の中村さんは付け加える。「市内の企業に就職した新入社員や市役所職員もツアーに参加しています。そうすることで、新入社員の時から地域の資源を把握することにつながります。市内の他の企業を視察することで、(将来的に)それらの企業との連携が図れる基盤ができることがこの取り組みの特徴ですね」

真庭観光局次長 中村政三さん

「産業観光」から「真庭魅力発信」へ

真庭観光局は、バイオマス関連施設や取り組みを視察する、いわゆる「産業観光」を起点に、真庭市内の地域資源の魅力を発信する役割を担う。

中村さんによると、産業観光後にリピーターとして休暇で真庭市を訪れる人も少なくないという。「視察ツアーを通してバイオマスを視察し、その後たとえば蒜山高原にプライベートで再度訪れるという流れも見受けられます。『また訪問したい』と思ってもらえるように、産業観光ツアーに観光地も入れていることも成果の理由になっているかもしれません。ガイドさんにも地域の魅力やストーリーを話してもらうことなど、いろいろな方策を組み合わせて、もう一度来たい、もう一度あの人に会いたいと思ってもらうことを目指しています」

「実は、キャンプ企画・紅葉企画・萱刈体験やお寺ツアーなどの新規の企画も、産業観光から出てきているものなのです」と中村さんは付け加える。「産業観光」から「真庭魅力発信」への流れを作ることを象徴する話だ。

雪の中にそびえ立つGREENable HIRUZEN のCLTパビリオン。愛称は「風の葉」

そんななか、観光へのさらなる追い風となるランドマークが誕生した。2021年7月に蒜山高原にサステナビリティを体感できる場所としてオープンしたGREENable HIRUZENだ。GREENable HIRUZENの建物の一つである真庭産CLTでできたパビリオンは東京の晴海に建設、その後「里帰り」(移築)された。一連の過程は、都会と地方を結ぶことと、木材を解体し再建築できる「モジュール設計」の可能性を象徴している。オープンから半年弱でのべ10万人以上が訪れているという。このランドマークは、北に位置する蒜山地域から市内南部へ誘導する役割も果たすようだ。

TREK社の電動バイクをレンタルできる。アプリ(iphoneのみ)を使えば、サイクリングロードのマップを確認できる

「民間主導」を象徴する観光地域づくりマネージャー

「観光地域づくりマネージャー」も、真庭市の文化を象徴する取り組みだ。観光地域づくりマネージャーとは、真庭地域(真庭市・新庄村)でさまざまな事業や地域活動に携わり、それぞれの分野でリーダー・実行者として活動する人のことを指す。「“住んでよし、訪れてよし”の観光地域づくり」の実現に向けた各分野の横断的な取組を推進・具現化する人と真庭観光局独自で取り決めをしている。

真庭市では、酒蔵、遊園地、タクシー企業の社長やお寺の住職の配偶者など幅広い業種出身の市民が観光地域づくりマネージャーとして活動。各マネージャーの強みを活かしてそれぞれが実行したい事業を展開している。これまで実施・計画されているものは、市内の「発酵」をテーマとした「まにわ発酵ツーリズム」・真庭市で活躍する人を紹介する「まにわ人図鑑」・9寺院が連携し各寺院を周遊する観光を展開する「真庭のお寺活用ネットワーク」、「真庭地域を食と人、心でむすぶ」ことを目的に活動する「おむすびプロジェクト」など、市民・民間ならではの視点を活かした活動となっている。

この制度を森田さんはこう評価する。「真庭市は、9つの町村が合併しているのですが、各町村がもう少しつながりを深めるとさらに良いのにと思うことがあったのです。今の仕組みで少し前進したので、今後期待できることが生まれてくるのではないかと思っているところです。マネージャー同士が連携することで、自分の地域だけでなく他地域を知ることができ、新しい動きにつながっているのでは、と感じています」

「2022年は婚活プロジェクト、真庭の木工を振興する『まにわ木工’s(もっこうず)』など、半分冗談も交えながら業種も広げていきます。いろいろなアイデアが出すぎて困るくらい、楽しみながら進めています」と笑みがこぼれる。

真庭市の循環型地域づくりの3つの特徴

以上、ここまで真庭市全体の取り組みとサステナブルツーリズムについてご紹介してきた。ここからは、真庭市の取り組みからサーキュラーシティ移行に向けたヒントを探ってみたい。

今、特に欧州を中心に「サーキュラーシティ(循環型都市)」に向けた取り組みが活発化している。「循環型地域」という概念が以前から発展してきた日本でも、サーキュラーエコノミーの概念を取り入れた都市移行を目指す自治体も出てきている。こうした現状のなか、真庭市の取り組みから参考にできることは何だろうか。以下の3点を挙げる。

1. 「黒子役」として連携を促す市

真庭市のバイオマス産業都市としての起点は、地元の次世代を担う経営者が中心となった「21世紀の真庭塾」だ。地元の将来を真剣に考える有志による議論の結果が、いまの真庭市の地位を築いている。

一方で、官である市はその役割をどのように認識しているのだろうか。経済協力開発機構(OECD)によると、サーキュラーシティに向けた自治体の役割は、規制や能力開発などを行う「イネーブラー」、ステークホルダーを巻き込みコーディネートする「ファシリテーター」、戦略ビジョンを掲げる「プロモーター」と分類されている。

The Circular Economy in Cities and Regions Synthesis Report(OECD)を翻訳

「関係者が話し合い、合意を取る過程を経てそれぞれが密接になっていくのが真庭市の特徴ではないかと考えています。市内にはプロジェクトがいくつもあるので密接になる人が自ずと増えていくのです。そのハブになっているのが、市役所や観光局ではないでしょうか。やがては民間主導になるように、最初の基盤・条件を市で整備しています。市は『黒子役』といった感じでしょうか」と、森田さんは市の役割について認識する。この言葉にも表れているように、上記の3つの役割でいう「ファシリテーター」としての役割を前面に出しているのが特徴といえそうだ。

さらに、今回の取材でも多くの関係者の名前が挙がり、それぞれがつながっていることが強調された。顔の見える連携は、サーキュラーシティ移行に向けたデジタル社会構築においても、何よりも強力な助けとなる。

「真庭市は、デジタル社会におけるデータの蓄積をアナログで実現できているように思います。それらが将来的にデータにも反映して情報発信につながると、今の国の目指す方向にも連動するのではないかと考えています。こういったアナログの基盤はデジタル移行への条件なのかもしれません」と森田さんは話す。

各ステークホルダーの連携を促す市だが、市における組織内連携はどうなっているのだろうか。サーキュラーエコノミー移行にあたり組織全体で進めることの難しさはあちらこちらで聞かれ、官民問わず課題となっている。同一組織内で連携を推進するには何が一番「手っ取り早い」のか。

森田さんが真っ先に挙げたのは「共通言語の重要性」である。真庭市の場合は「SDGs」だ。2018年に真庭市はSDGs未来都市に認定されて以来、SDGsを共通言語に掲げている。

今回お伺いした取り組みは、市役所内でも環境課、農業振興課、林業・バイオマス産業課、産業政策課など、多くの部署が関わる。市全体で進めるため、SDGsを連携の接着剤として機能させ、一部の部署だけが単独で施策を進めることのストッパーとなっているという。

2. 地域資源の最大活用

地域資源活用は全国各地で掲げられているが、真庭市はその典型的な成功例といっても良いかもしれない。市内で木材のサプライチェーンが完結できることは先に述べたが、本流である木材業から発生する副産物(端材など)を余すところなく使い切る。これが成功事例の一つとなり、真庭里海米や木片コンクリート、液肥など、他の産業や場面に展開しているようにみえる。

その活用方法も「カスケード利用」が基本となっているようだ。マテリアル利用なのかエネルギー利用なのかを判別し、利用価値の高い順と利用用途に適した活用方法が採用されている。

真庭市の事例は、完結した木材サプライチェーンを市内に有する点などにおいて、丸ごと他地域へ横展開できるものではないのかもしれない。それでもこの中山間地域が示す「資源活用」は、地域の循環性を高める必要性と社会の要請が高まっている今、ある種の「型」を示しているのかもしれない。

3. 豊かな自然が市民の誇りを醸成

真庭市では「真庭ライフスタイル」の発信に取り組んでいる。

“多彩な真庭の豊かな生活 「真庭ライフスタイル」とは、地域資源を生かした生活のことを指す。 都会ほどの稼ぎはないが、家族との充実したくらしがあり、地域のつとめをはたす中で自分は一人ではないことを幸せと思う生き方。 それを真庭ライフスタイルと名付け、標榜していきたい。その第1歩は、まず、身の周りの地域資源を見直していきたい。そこには、稼ぎがあり、くらしがあり、つとめがある。”(出典:真庭市 副市長 吉永忠洋氏発表資料)

地域資源は自然資本に根付くものであり、自然豊かな真庭それ自体が市民の誇りにつながっている。そんな想いが込められているに違いない。この要素は、先述した「2010年の真庭人の1日」にふんだんに見られる。丸太棒の復活やGREENable HIRUZENでも採用されている茅葺き屋根など、豊かな自然資本を産業につなげることが市民の誇りともなる。

ちなみに2021年の国連ハイレベルフォーラムでは、自発的国家レビューのなかで真庭市が紹介されている。これは都市部ではなく地方が循環型の取り組みを実施することでSDGs達成にも貢献しうることを海外に示した形で、真庭市民の誇りを醸成することにつながっている。

「地域の方々が持たれている想いが続いていることが、真庭市のバイオマスの取り組みが進んできた背景にあるのではないかと思います」と森田さんは締めくくる。

編集後記

バイオマス産業都市としての地位を確立してきた真庭市は、SDGsを核として新たな段階を迎えている。より一層の原料調達・家畜排泄物の回収や処理・食品廃棄物の分別・地域マイクログリッド構築の必要性など、課題は多くある。「本業」であるマテリアルとしての利用促進も木材需要の拡大政策とともに連動させていかなければならない。しかし、お話をお伺いした3名の熱量からは同市の明るい展望が想像できた。サーキュラーシティへの移行の一つの「型」として、今後の歩みに注目していきたい。

*冒頭の画像は、バイオマスツアー(真庭バイオマス発電所見学)の様子(写真提供:真庭観光局)

【参考】真庭観光局
【参考】GREENable HIRUZEN