2020年7月より日本国内でスーパーやコンビニ、小売店などでのレジ袋が有料化されたのを機に、買い物時に利用するためのマイバッグを持ち歩く人が増えた。このタイミングと前後して、マイバッグとしての用途で企業やブランドなどのロゴ入りトートバッグが製品として販売されたり、店舗が従来のプラスチック製レジ袋の替わりに布製の袋を提供したりするケースも増えている。レジ袋の使い捨てを減らすための施策であるが、耐久性の低い素材で作られたバッグは数回の使用で穴が開いたり持ち手が取れたりすることもあるし、さまざまな店舗で買ったりもらったりした結果、必要以上にマイバッグを所有しているなど、「エコバッグ、エコじゃない問題」を感じている人もおられるだろう。

レジ袋が有料化されるよりずっと以前から、店舗でのレジ袋から発生する環境負荷を低減させるため、試行錯誤を繰り返してきた企業にパタゴニアがある。サステナビリティの取り組みに関して先進的な実績を持つ同社では、有料の買い物袋を提供するのではなく、袋そのものを新たに生み出さないという視点で、使用していないエコバッグを顧客から提供してもらい、別の顧客が買い物をする際にそれを利用してもらう「エコバッグ・シェアリング」の取り組みを2020年8月より行っている。

本記事では、様々な環境課題と向き合い、サプライチェーン全体でその解決を進めてきた同社の取り組みのうち、レジ袋の環境負荷削減に向けた上記「エコバッグ・シェアリング」に焦点を当てる。今回取材に応じていただいたのは、同社日本支社 リテールサービス リテールオペレーションオプティマイゼーションマネージャー 神田順氏と東京・丸の内店ストアマネージャー 野原梨香氏だ(以下は両氏のコメント)。

リテールオプティマイゼーションマネージャー 神田順氏 (東京・丸の内ストアにて)
東京・丸の内店 ストアマネージャーの野原梨香氏 (手に持っているのは、お客様から提供されたエコバッグ)

パタゴニアのストアで提供する、製品お持ち帰り袋の変遷

当社の店舗では、パタゴニアが大切にしている環境ストーリーをお伝えしてきていますが、お買い物時に提供しているプラスチック製の袋と環境に配慮した製品のストーリーとが矛盾するのでは?という考え方が社内にありました。そして、そのプラスチック製お持ち帰り袋を使用しなくて済むようにと、代替案を検討するようになりました。

当初は、他社も含んだ使用済みの袋をお客様からご提供いただいたり、スタッフが集めたりして、それらを返却不要で提供していました。その後、お米の残渣をアップサイクルして作った生分解性の袋を提供していた時期もありますが、生地の性質上強度に難があり、重たい製品をお持ち帰りいただくのに耐えられないという弱点がありました。

また、低密度ポリエチレンをリサイクルしたプラスチック製バッグをデポジット制で提供し、袋の返却時に100円をお返しするという仕組みを導入していた時期もあります。お米の残渣の袋よりも強度が増し、パタゴニアのロゴが入ったデザイン面でも良いものでしたが、返却率は10%程度という低い数字でした。100円で袋を買ったという感覚でご利用になる方が多かったのかもしれません。

エコバッグ・シェアリングとは

このように様々な試行錯誤を繰り返した結果、来店されるお客様のうち83%はマイバッグを持参してくださるようになりました。2020年8月に店舗における袋の提供を終了し、ご来店されるお客様にはマイバッグを持参いただくよう呼び掛けています。ただし、それでも袋の持参率は100%にはならないものと考え、持参されていない時に利用いただける、「エコバッグ・シェアリング」という取り組みを始めました。

この取り組みは、各家庭で使用されずに眠っているエコバッグ(他社製も含む)をお客様から提供いただき、他のお客様に循環・共有する仕組みです。A4サイズ以上で、畳んでコンパクトになるものを対象としており、提供時と使用後に返却いただく際には洗って持ってきてもらう、ということをお願いしています。ストアでは、マイバッグをお持ちでなければこの仕組みが利用できることを丁寧に説明し、返却についてもお伝えしています。お客様の中には、返却される際に、提供できる袋を追加で2-3枚お持ちくださる方もいらっしゃいますし、丸の内ストアは遠方からのお客様も多いのですが、わざわざ返却のためにお店に寄ってくださる方もいらっしゃいます。

これまでのところ、秋冬時期には1週間に1-2枚の利用があり、夏季はマイバッグを持参されるお客様が多いという傾向にあります。また、提供から1年以内の返却率は23%という実績です。

新しい取り組みを始める際には、社内での理解や共有が大切

エコバッグ・シェアリングをお客様にご理解いただくには、ストアでお客様と直接対面するスタッフの案内が重要となります。全社あげての取り組みですが、個々のスタッフにその意図を理解してもらい、自分の言葉でお客様に接客できるようにするため、各店舗のストアマネージャーが責任を持ってスタッフと理解を共有することを大切にしています。この仕組みに納得されないお客様がいらっしゃった場合、どのように説明すれば納得していただけただろうか、といった点をスタッフ間で協議します。この取り組みについては全社研修のようなことは実施しておらず、業務改善のプロセスづくりなどは、各ストアでのマネジメントに任されています。

エコバッグ・シェアリングが目指す未来

来店されるお客様にマイバッグの持参を呼び掛けていますが、持参率を100%にする、といった数字の追求はしていません。顔を合わせることのないお客様どうしがパタゴニア直営店を介してサポートし合う共助の仕組みの構築を通じて、お客様のマインドチェンジや消費行動の変化につながることが成果であると考えています。そして、この仕組みがうまくいって他の企業さんもお手本としてくれたら嬉しく思います。

現在、パタゴニアの店舗では97.3%のお客様がマイバッグを使用して購入した製品をお持ち帰りされますが、この数字を100%にすることを目指すのではなく、お客様と共に、問題の根本原因となっている既成概念を再考し、インパクトを拡げることを目指しています。お持ち帰り袋の「廃止」まで踏み切った理由のひとつは、当たり前に配られ無意識に受け取ってきたレジ袋を通じて、現代の多くの環境・社会問題の根本の原因になっている“take-make-consume and dispose(取って、作って、消費して捨てる)”というリニア・エコノミー(直線型経済)へ疑問を投げかけることでした。

そして、お持ち帰り袋のような課題を解決するだけでなく、私たちが目指すストーリーを伝えていくことを今後も大切にしていきたいと考えています。お持ち帰り袋ひとつとっても様々な試行錯誤を繰り返してきましたが、常に中長期的な未来を見据えて、新しい試み、ときには苦労も含めて楽しむ文化があることは当社の特徴です。エコバッグ・シェアリングは私たちにとって、ワクワクするチャレンジのひとつです。

店舗における循環性向上の取り組み

なお、お持ち帰り袋以外の店舗における取り組みについても以下お話いただいた。

パタゴニアでは、お持ち帰り袋以外にも、店舗における循環性向上に取り組んできました。

製品を長く使っていただくための取り組みとして、シェルに穴が開いた、バッグの持ち手が取れた、などという場合に、店舗やリペアセンターで修理を行っています。小規模な修理はどこの店舗でも対応しており、大がかりな修理が必要な場合は、製品をお預かりして対応します。

製品が寿命を迎え、お客様が手放すタイミングが来た時は、使用済み製品を店舗に設置した回収ボックスにお持ちいただいて回収しており、それらは国内でリサイクルを行う際の原料となります。自社製品を焼却・埋め立てなどの廃棄処分にしたくないという想いから、衣類のみでなくすべての製品を回収対象としています。

梱包された商品を納品する際に使用する箱は、以前は段ボールだったものを再利用可能な折り畳み式コンテナに変更したため、箱の廃棄もなくなりました。東京都内にある8店舗に商品を納品する際は、ミルクラン方式と呼ばれる各店舗を巡回する集荷方法を採用し、配送効率の向上、CO2の排出削減につなげています。

このような製品の配送における改善の取り組みについては、実際に製品を取り扱うストアスタッフから改善の提案が出されることが多く、提案に基づいて特定地域で実証実験を行い、その結果を見てから全店舗に展開することが多いのです。

【取材店舗】パタゴニア 東京・丸の内ストア

取材後記

使い捨てのレジ袋がどの程度二酸化炭素を排出し、マイバッグを利用するとどれだけ抑制されるのか、それらの原材料や製造工程、使用回数などを含むライフサイクルアセスメントの観点からCO2排出量を算出した調査報告(*)が出ている。そこでは、耐久性の高いマイバッグなら環境負荷低減に貢献するが、頻繁に交換が必要なものはレジ袋よりも環境負荷が大きくなる場合があることが示されている。また、耐久性の高いバッグであっても使用されていなければ、その原材料生産や製造、輸送工程から発生した環境負荷は、使い捨てレジ袋から生まれる環境負荷を抑制することにはならない。

エコバッグがエコにならない可能性という課題がある中、パタゴニアでは、バッグそのものを新たに生み出さないという視点を持つ。顧客の家庭に眠っているエコバッグを提供してもらうことにより、既存の資源を循環させて活用し、直接会うことのない顧客どうしが提供されたエコバッグを通じてつながる共助の仕組みが築かれている。

サステナビリティ分野においてパタゴニアは先進的な企業の代表と言えるが、店舗を中心とした循環性向上の取り組みについてお話を伺ってみると、トライ&エラーを繰り返してきたことがわかる。こうした方がよいのでは?という案があれば試し、期待値ほどの成果が出なければ他の案を試す、フットワークの軽さが着実に改善を前進させる。また、改善案が現場(ストア)から出されるという点も、お客様の声や現場でのオペレーションをよく把握した上での実現可能な提案になることが理解できる。満点を狙わず、できることから試しうまくいかなければ軌道修正する。パタゴニアのような先進企業だからできる、ということでは決してなさそうである。

(*) LCAを考える 「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例 (プラスチック循環利用協会)より

【参考記事】エコバッグ・シェアリング