サーキュラーマネージャー。

そんな肩書を持つ人が、ロッテルダム市役所で働いているという。一体何をする人なのだろうか。

Circular Economy Hub編集部は、ロッテルダム市のサーキュラーマネージャー、ヨースト・ヴァン・マーレン(Joost van Maaren)さんに取材し、サーキュラーマネージャーとしての仕事と、サーキュラーエコノミーへの移行に対して行政として担う役割について聞いた。

 
ロッテルダム市 サーキュラーマネージャー、ヨースト・ヴァン・マーレン(Joost van Maaren)さん

その街の特色に合わせ、暮らすすべての人がサーキュラーエコノミーの一部になれるよう「整える」人

Q:ヨーストさんの仕事、ロッテルダム市のサーキュラーマネージャーとは具体的に何をする役職ですか?

サーキュラーマネージャーという役職を聞いたことがない人が多いかもしれません。私は2015年からこの役職で仕事をしています。

仕事内容は、市としてのサーキュラーエコノミーのネットワーク(人のつながり)統括、といえば正しいでしょうか。特に中小企業に対してサポートを提供したり、サーキュラーエコノミー分野を担当している長官やサーキュラーエコノミー戦略担当者、プロジェクトコーディネーターらと密に連携して働いています。

サーキュラーエコノミーとは、これまでやってきたすべてのことを、前とは少しやり方を変えて行うことです。

私たちは、ロッテルダム市行政が、そして市に住む人やそこで活動する企業らをよりサーキュラーに変わっていけるよう手助けする立場にいます。

規制や法律をつくるのではなく、私たちが自ら循環する仕組みをつくっていくことで、後に続いてほしいと思っています。

さらに、地域内で起きているサーキュラーな取り組みを共有し、人々が関わり、つながることのできる場・コミュニティをつくっています。

スポーツのカーリングで言えば、私はブラシを持って氷面を磨く人です。氷の上を滑るストーンが言わばサーキュラー化に向け動く皆さんで、皆さんが目指す場所にたどり着き、そこに留まれるように必要な人々にスキル、会社、テクノロジーなどをつなげます。

ロッテルダム市の組織のなかで、サーキュラリティに特化した職務を担っている人もいますが、ほとんどの人たちは兼任する形で、自分の通常業務に加えてサーキュラーエコノミー移行のための活動を行っています。

サーキュラーエコノミーの専門部署をつくるのは簡単ですが、それで終わってしまってはいけません。本質的な変化を起こすには、すべての人が、それぞれの持場でサーキュラーエコノミーを実現していかなければならないのですから。

同じオランダでは、アムステルダム市やユトレヒト市などもサーキュラーエコノミーへの移行に向けた数々の取り組みを進めています。ロッテルダム市としても、他の都市と連携できることはしていきたいと感じています。

一方で、他の都市が行うことをそのまま真似すればいいかというと、そうではないとも感じています。

それぞれの都市は、政治、産業、地域性などの独自でユニークな基盤の上に成り立っているためです。もちろんロッテルダムもその例に漏れません。

ロッテルダムは、ヨーロッパ最大の港湾であり、多くの資源や製品、廃棄が行き交うハブとして機能してきました。ドイツやユーラシア大陸の内陸部などをつなぐインフラとしての役割を担っています。さらに、重工業地帯だったため第二次世界大戦で徹底的に破壊された歴史を持ち、その後の復興によりモダンな風景へと生まれ変わった都市でもあります。よって、ロッテルダムらしい、数々の独自の特色があります。

これを理解した上で、他の都市から取り入れられることは取り入れ、自分たちの都市に合わせた工夫を凝らし、サーキュラーエコノミーへの移行を進めているのです。

モダンな建築が目を引くロッテルダム市内(筆者撮影)

潮目が変わったのはこの5年 

行政としては、昔からごみの分別などについては取り組んできました。サーキュラーエコノミーという言葉は使っていませんでしたが、サーキュラーエコノミーを実現するために必要な取り組みは当時から行っていました。廃棄物管理から今のサーキュラーエコノミーへの取り組みへとつながっていきました。

ロッテルダム市が実際に「サーキュラーエコノミー」という言葉を使い始めたのは2016年からです。そして、ロッテルダム市として初めてのサーキュラーエコノミーについての計画を発表したのは2017年。このときに発表したのは、現在のものから比べると比較的規模の小さなアクションプランでした。しかし、この計画のなかですでにロッテルダムは100%循環型経済を目指し、2030年までにはロッテルダム市は市内で利用される資源の半分を循環させることを達成すると公言しています。

2017年にロッテルダム市が公表した「ISWA(国際廃棄物協会) World Congress Rotterdam 2020」※ 開催へ向けたプロモーション動画 ※2020年開催予定だったが新型コロナウイルス感染症流行の影響でキャンセルされている

そして2019年、ロッテルダム・サーキュラー都市プログラム2019-2023(Rotterdam Circular City Program 2019 – 2023)を策定・発表しました。

2015年に発表された、2050年までに完全な循環型経済を目指すというオランダの国としての計画「A Circular Economy in the Netherlands by 2050」に、地方行政のロッテルダム市としても同調する形となりました。

2016年になると、兼務という形で、廃棄物の回収とサーキュラリティの両方を任されることなりました。現在は100%サーキュラリティ担当です。

分別回収を促進するのも、実際に難しいところではあります。現状では、空のガラス瓶10本のうち5本は資源ごみではなく燃やすごみにまぎれてしまっています。しかし、少し前はもっと悪い状況だったので、少しずつ改善しています。

サーキュラーエコノミーは資源を循環させ、廃棄を防ぐなどの環境メリットが多くありますが、それだけでなく、仕事を生み出すなどの効果ももたらします。

ロッテルダムは、オランダの他の都市と比べ高層ビルが多い街なので、資源回収にかかる手間や事情も異なります。加えて約180もの異なる国籍・バックグラウンドの人たちが集まっているため、一律に分別を呼びかけても伝わりづらいなどの課題もあります。

住民らに資源回収のための分別を呼びかける (Image via Gemeente Rotterdam)

ロッテルダム市の住民がサーキュラーエコノミーを望んでいる

一方で、初めてロッテルダム市の住民にサーキュラリティについてのアンケートを取った結果、想像したよりもずっと多くの人がサーキュラーエコノミーを実現したいと願っていることがわかりました。実際に9割もの住民が、より循環する暮らしを実現するために何らかの行動を取る意志がある、と回答したのです。正直、良い意味で非常に驚きました。

サーキュラーエコノミー実現のために、今実際に行動を起こしている、と回答した人は20%いました。ロッテルダム市としては、これを3年後の2023年までに30%にしたいと考えています。

それには、環境意識の高い人だけでなく、いかに裾野を広げてより多くの人を巻き込むかが重要になってきます。

そのためロッテルダム市では、NPOやソーシャルビジネスではなく、世界的コンシューマーグッズのブランドのようなマーケティング戦略を強く意識しています。

サステナブル、環境に良い、というメッセージやブランディングを行う際に多く用いられるのは、グリーンやブルーを基調としたイメージです。しかし私たちは、ゴールドをつかったグラマラスなキャンペーンを展開しました。魅力的でおしゃれなこととして、住民や企業に印象づけるためです。

さらに、それぞれの活動を点のままにしておくのではなく、コミュニティをつくることで、点と点をつないで線、そしてさまざまなレイヤーの人たちを集めることで面にする後押しをします。サーキュラーで、おしゃれで、ユーモアのあるコミュニティが重要です。

ロッテルダム市はグラマラスなゴールドカラーを使用してサーキュラーエコノミーのマーケティングを行う (Image via Gemeente Rotterdam)

行政が動くことの意義

ロッテルダムは歴史的に重工業地帯であり、ユニリーバなどの多国籍企業や、数々の企業が拠点を置いているため、それらの企業にきちんとメッセージを届けることが重要です。そのために商工会議所を巻き込み、州政府を巻き込み、活動しています。

中小企業を集めて、サーキュラーイノベーションのハブ、「BlueCity」で研修に参加してもらうこともあります。

企業として、どのようにサーキュラーエコノミーに移行することができ、どのような変化がもたらされるのかが具体的になるため非常に効果的だと感じています。製品のサーキュラー化まで明確にできるのですから。これによって、企業に差別優位性が生まれることも理解してもらうことができます。

また、オランダのバルケネンデ前首相もサーキュラーエコノミーに関するイベントにスピーカーとして登壇するなど積極的に協力してくれています。

実際の活動を通して、行政側から働きかけるからこそ話を聞き、行動に移してくれる企業も多いと感じています。

公共調達・税制・教育によってサーキュラーエコノミーを加速

同時に、公共調達という観点でみるとロッテルダム市行政としては年間10億ユーロ分程度の購買力があります。これを活用しない手はありません。

一度にすべてというわけにはいきませんが、確実に一歩ずつ、サーキュラーエコノミーへと移行するための購買基準へと書き換えています。こうすることで、ロッテルダム市で活動する企業に対してもサーキュラービジネスを行うインセンティブを強化することができます。

税制を整えていくことも重要だと考えています。現在ロッテルダム市では、資源ごみを回収してもらうのに、住民たちは分別する手間をかけた上で2ユーロを支払う必要がありますが、燃えるごみとして出せば無料です。よって、多くの人が燃えるごみとして出してしまっています。これは当然です。

もちろん税制は国家レベルで策定されるので市としてできることは限られてしまいますが、今後一次資源の利用にはより多くの税金をかけ、雇用に対しては少ない税金となるよう、変更していくことが求められます。

さらに、雇用はサーキュラーエコノミーを実現する上で非常に重要な鍵を握ります。今後、人材と仕事のミスマッチをいかに防ぐかがより重要となるでしょう。

よって、私たちは市内の教育機関と連携し、今後サーキュラーエコノミーに移行するため、そして移行した後に必要となるスキルを培うための人材育成を積極的に行っています。

数多くの大学とも連携しており、特にエラスムス大学ではサーキュラーエコノミーに特化した教育課程を設けています。これだけでなく、「ロッテルダム気候変動イニシアチブ(Rotterdams Klimaat Initiatief)」とともに、雇用に関する同意書にも署名しています。

今後、公共調達・税制・教育について取り組みを進めると同時に、解決しなければならない課題もあると感じています。

例えば、データのセキュリティ問題です。資源がどこからきて、どういう状態なのかを可視化する「デジタル・パスポート」はますます重要となるでしょう。現在各企業にとってセキュリティは課題であり、行政として今後どのような後押しや誘導、規制が必要なのかを慎重に見極める必要があると感じています。

近い将来、間違いなく様々なステークホルダーたちの間で広く議論がなされるべき分野であると言えるでしょう。

こういった点を洗い出し、議論の場を設けることも私たちにできることのひとつです。

サーキュラーエコノミーを完成させるのはロッテルダム住民であり、世界経済でもある

ロッテルダム市としてのサーキュラーエコノミーへの移行に向けた道のりはまだまだ始まったばかりです。また、サーキュラーエコノミーを完成させるのはそこに暮らす人々であり、企業活動を営む企業であり、貿易や取引を通じてつながる世界経済です。ロッテルダム市の職員だけで完成させられる訳ではありません。

今後サーキュラーエコノミーへの移行が進むにつれ、市として担う役割が拡大していくことが予測されます。そして、その過程で誰ひとり取り残されてはなりません。目標に向けて一貫性を持ち続け、一方では柔軟にそのアプローチを変えてステークホルダーたちを巻き込み、進むべき方向を示していくことこそが、私たちロッテルダム市行政の担う役割だと信じています。


ゴールドカラーを用いたロッテルダム市のサーキュラーエコノミー・マーケティングキャンペーン (Image via Gemeente Rotterdam)

編集後記

サーキュラーマネージャーという珍しい肩書きを持つヨーストさんの働くロッテルダム市では、自分たちの街の特性を熟知し、一歩ずつ着実にサーキュラーエコノミーへと歩みを進めている。行政だからできること、そして自然・社会・経済を形成する一人ひとりができることを理解し、リードするその姿勢に私たちが学ぶことは多い。行政だから「できない」、環境にプラスのことは「こうあるべき」、といった概念を破り、サーキュラーエコノミーに取り組むロッテルダム市の取り組みを今後も注視したい。

【参照】ロッテルダムサーキュラーウェブサイト
【参照】ロッテルダムサーキュラー都市プログラム2019-2023
【参照】Groente-, fruit- en tuinafval
【関連記事】CEのインキュベーションセンター 「BlueCity」に学ぶサーキュラーエコノミーの始め方

冒頭のJoost van Maarenさんの画像の出典は、Gemeente Rotterdamより