事業者向けに廃棄物管理や環境コンサルティング、環境教育などを行う、株式会社サティスファクトリー(以下、サティスファクトリー)は2021年6月、廃棄物処理・リサイクル市場を独自に分析した業界の最新動向データ「再資源化白書2021」を発刊した。

同白書は、静脈産業1,000社にアンケートを実施した独自調査と全国9,500カ所の中間処理場および最終処分場への調査・分析をもとに作成された。静脈産業に焦点を当てた同白書は、サーキュラーエコノミーへの移行を目指す全企業の指南書となることを目的としており、サティスファクトリーは日本企業全体の廃棄物に対する意識改革につなげたい考えだ。今回、同社代表取締役社長の恩田英久氏に、同白書を発刊された背景や意図について改めてお話を伺った。

話者プロフィール:恩田英久氏

株式会社サティスファクトリー 代表取締役社長
株式会社 恩田事務所 代表取締役
元東京大学大学院
新領域創成科学研究科
環境(MOT)マネジメントプログラム
環境ファイナンス(ESG投資)・再生可能エネルギー・地域エネルギーサービス担当講師 (2014年〜2020年)

再資源化白書を発刊した背景や意図

これまでは廃棄物やリサイクルに関する情報を横断的にまとめた資料が存在しておらず、また、廃棄物処理について、国内に約9,500か所存在する焼却施設や埋め立て用の土地などの余力を把握できている自治体は少ないという現状があったため、廃棄物・資源に関する情報を一元化することから始めたいと考えた。また、リサイクルに対する関心が高まってきた一方で、リサイクルをすることでCO2排出量を増やすような実態も起こっているため、再資源化に関する正しい情報を届けたいという思いもあった。さらには、都道府県別、自治体別など廃棄物の処理に関する縦割りの線引きがある現状において、それでも再資源化を実現している施策についても紹介する機会になればと考えた。

廃棄物管理を行う部門にもフォーカスが当たってほしい

一般家庭から排出されるごみと比較し、事業系の廃棄物の量は圧倒的に多い状況にあり、事業を展開する企業にとっては、それらを削減することによる経済合理性は大きい。また、企業内において、廃棄物を管理する部門にはあまりフォーカスが当たりにくい一方で、経営企画部門ではSDGsやESGに注力しようとする、という乖離も生じている。廃棄物を管理する業界内の各社が豊かになるよう、マネジメントと一元化が進み、各社の管理部門である総務部や管理部のような役割にもフォーカスが当たるようになればと望む。

静脈産業がリソーシング産業(動脈産業に対して再生資源を提供する機能)に移行するには

廃棄物の処理をするのみでなく、リサイクラーとしての機能を持つことと、特定品目の物量を集めることが実現できると、回収された特定品目を加工して販売するという出口戦略を持つことが可能になる。加工済み再生原料の販売先としては、加工前の排出者に戻すのが最善であり、動脈産業がリサイクラーに対し資源物を高く売った場合は、再生された原料を高く買い戻すという循環が実現する。これにより、再資源化物を高く売れないという理由でリサイクラーにとって再生へのインセンティブが働きにくいという状況を改善することができ、また需要と供給の安定化につながる。

資源(廃棄物)の効率的な回収のために

複数企業による協業や、廃棄物管理企業の大企業化は大規模に効率よく回収することにつながると考えている。また、消費者との接点となる店頭で回収を行ったり、製品を開発する段階で先々リサイクルしやすいことを考えて単一素材で作ったりすることも有効な方法となる。

廃棄物処理・再資源化・リサイクルを行う業界では、サーキュラーエコノミーはビジネスチャンスと捉えられているか

現在は、業界内でも、処理した成果物から利益を出すところまで描けていないという現状がある。例えば、食品廃棄物は農業における肥料になるし、木製のパレットは紙に生まれ変わることが可能であるということなど、少しのアイデアや工夫でマネタイズに結び付けていく機会は大いにある。

日本独自の環境政策・再資源化政策を定めるとしたら、どのような強みや特徴があるか

廃棄物の再資源化という分野においては、日本は他国に遅れをとっている現状がある。焼却炉の製造などの技術は進んでいるものの、不要物の回収から再資源化し、再資源化したものを販売して利益をあげられるような仕組みは出来ていない。

サーキュラーエコノミー先進国と定義される北欧では、廃棄物管理を拡大生産者責任としている点に強みを感じる一方で、日本の廃掃法ではそれを排出事業者責任としている点が、先進諸国と比較して廃棄物管理を遅らせている要因といえる。サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量のうちスコープ3(事業者による直接排出・間接排出以外の、大半を占める排出量)においては、上流企業がサプライチェーン全体の環境影響にまで責任を持つと定義されるため、廃掃法の責任範囲にとらわれない社会的責任を持つようになる。そうなると、サプライチェーンを網羅したサーキュラーエコノミーへのアプローチが始まり、島国という地形を活かし国内でのクローズドリサイクルを中心とした循環を描くことが出来る。その時には、技術的には国内でほぼリサイクルが可能になり、自国内に1億人超の人口を持つことも、北欧などの国々とは異なるエシカル消費のポテンシャルとなりえる。

日本には、現在メンテナンスされていない、且つ炭素吸収源となっていない可能性の高い森林が存在するが、それらは適切なメンテナンスによって炭素吸収源として機能することができる。さらに、現在は二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の排出源となっている農法を改善することにより、農地が炭素吸収源となるなど、これまで取り組んでいなかったからこそ温暖化を食い止めるためのギャップを生むポテンシャルは高いといえるだろう。

欧州のサーキュラーエコノミーパッケージに対して日本は循環経済ビジョン2020を策定し、循環型経済の構築に向けた取組みを進めており、下記のような点が日本型サーキュラーエコノミーにおける特徴や強みになっていくと考えられる。

  1. 製品の環境配慮設計を促進するガイドライン、サーキュラーエコノミー以降に向けた投資ガイドライン及びナッジの活用など、規制的な手法ではなくソフトローの活用による、企業の自主的な取組みの促進
  2. 動脈・静脈産業だけではなく、投資家なども含めた関係者の連携
  3. デジタル技術によるサービス化の加速

取材後記

廃棄物の処理と再資源化という分野においては、ビジネスチャンスが大いにある。一方、よく指摘される点として、産業廃棄物は都道府県または政令市の管轄で一般ごみは市区町村の管轄になっていたり、それらの境界線をまたいだ処理をすることが出来ないなどの歴史的社会的背景があったり、と新規ビジネスを行う上での課題となりうる点についての恩田氏ならではの考えを伺うことができた。今回発刊された白書が、動脈・静脈関わらず、多くの産業・企業・自治体などにとって新しいビジネス・収入源となりうる廃棄物の再資源化という機会を正しく捉え、その機会を逃さないための学びとなることを期待する。

【参考】株式会社サティスファクトリー公式HP

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