中国、アメリカ、インドに次ぐ世界第4位となる2億7000万人余の人口を抱える東南アジアの新興国、インドネシア。新型コロナウイルス感染症の流行による一時的な落ち込みはあったものの、2021年以降は年率5%台の経済成長率を維持し、発展のエネルギーは衰え知らずのようにも見える。

そんなインドネシアでは今、気候変動をはじめとするサステナビリティに関わる課題解決を目指すスタートアップが増えているという。彼らをサポートすべく、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関であるJICA(国際協力機構)は現在、開発途上国向けの社会課題解決型スタートアップ支援プログラム「Project NINJA」をインドネシアで展開している。このほど東京都内で開催されたピッチイベントに参加したスタートアップからは、急速な成長による負の影響を緩和するという新興国ならではの動機づけや、グローバルなサステナビリティ課題への挑戦意識が見て取れた。

JICA本部で開かれたProject NINJAピッチイベントの様子

コーヒー豆からの廃棄物がバイオレザーに生まれ変わる!

本プログラムでは、インドネシアの約215社から応募のあった社会課題解決型スタートアップから3社が選ばれ、3カ月間の個別メンタリング等を受けてきた。いずれもサーキュラーエコノミーを志向した、あるいは関連したスタートアップだ。

このうち、有機廃棄物を利用した素材メーカーのBell Societyは、コーヒー豆の皮などの有機廃棄物を原料としたバイオレザー「M-Tex」を開発、生産し、バッグやパスケース、靴をはじめ、壁材などとして販売している。カフェやレストラン、コーヒー農家から直接、コーヒーかすを集めてバクテリアによって分解してつくられる皮革は、強度も高く、生分解可能なものだ。

バイオレザー「M-Tex」のカードホルダー(M-Texは特許申請中)

同社は2019年、当時生物学を専攻する大学生だったCEOのArka Irfani氏が創業。コーヒー好きのInfani氏がある日コーヒー農家を訪れた際、畑の脇に山積みにされたコーヒー豆の皮が目に留まった。普段はコンポストにして肥料として活用されているのだが、肥料にするまでには時間がかかる上に、利益率も低いという農家からの声を聞いていた。

インドネシアは世界第3位のコーヒー生産国。コーヒー豆はその半分が皮で、コンポストにできない皮は廃棄されている。そこで同氏は、これらを皮革製品に活用できないかと思い立った。

世界のアパレル・皮革製品市場は2020年時点で約8,189億ドルで、2021年以降も順調な成長が見込まれている。生物多様性保全や動物愛護の観点から動物素材を代替するオルタナティブレザーも増えてきているが、Infani氏によるとその素材の多くがプラスチック由来のもので、毒性などを考慮すると今後のスケールアップは望めないはず。そんな見立てが見事に当たり、Bell Societyはコロナ禍でも順調に拡大し、自社ブランドや提携先とのコラボレーションを通じてインドネシアだけでなく香港、ミラノでも展開。3月にはパリへ進出予定で、日本企業との提携も進みつつあるという。

ファッション、家具、車の内装…  バイオレザーの優位性を活かして広がる夢

Infani氏は今後、バイオレザーが当たり前となる市場環境を作り出すために、さらなるコスト削減に取り組むとともに、家具やファッションなど多彩な商品展開をしていきたいとして、今後のビジョンをこのように話してくれた。

「価格は現状では動物皮革と同じですが、もっと下げられると思います。現に、先日舞台衣装を製作した際、動物皮革を使った場合の1割のコストで製作できました。今後、オランダの*フルートレザーよりもさらに安くできると思います」
*果物の皮などを原料に開発されたビーガンレザーを展開しているFruitleather Rotterdam

「砂糖きびやココナッツなど、素材となる有機物はコーヒー以外にもたくさんあります。もっとユニークな商品展開をして、将来的には自動車の内装材にもできたら素晴らしいですね。皮革だけでなく、今後は有機物由来のパッケージ素材の開発も手掛けていきたいです」

Bell Society CEOのArka Irfani氏

食品ロス削減へ、過剰在庫やメニューを半額で!

世界共通のサステナブル課題の一つである食品ロス。実は、インドネシアは世界で2番目に食品ロスの多い国(年間最大4800万トン)なのだ。にもかかわらず、これまで全くソリューションがなかったという。そんな現状を変えようと立ち上がったのが、同国初の食品ロス削減のプラットフォームとしてモバイルアプリを開発、首都ジャカルタを中心に展開するSurplus Indonesiaである。

Surplusの仕組みはこうだ。スーパーなどの食品店やカフェなどの飲食店が閉店や営業時間の切り替えまでの約1~3時間前までに余剰在庫品や売れ残り品を告知すると、アプリ上で見つけた客は販売価格の半額で購入できる。客は自ら店舗へ取りに行けると同時に、デリバリーのスタートアップとも提携しているため配達も依頼できる。ジャカルタにある数多くあるホテルの中には、ビュッフェ朝食を昼食に切り替えるタイミングに当たる9時〜10時ごろにかけて余りそうな料理を販売しているホテルもあり、好評なのだそうだ。

Surplusのアプリ画面(同社ホームページより)

Surplusの加盟店は約3000店舗で、その半分が小規模事業者である。顧客からの信頼を得るため、事業者に厨房などを撮影してアプリに掲載してもらったり、Surplus Indonesiaのスタッフが店舗を定期的に訪れて試食したりして確認した事業者を認証するシステムを取っている。こうした地道な取り組みもあり、これまでに顧客からのクレームはゼロ。CEOのAgung Saputra氏は「品質が同じものを半額で買えることが口コミで広がり、売り上げは年率900%増になりました。不可能とも言われてきましたが、余剰食品のマイナスイメージを変えることができたと思います」と胸を張る。

Surplus Indonesiaは日本の食品ロス削減アプリ「TABETE」を運営する株式会社コークッキングとも連携しており、将来的には両国でそれぞれのアプリを利用できるようにしたい考えだ。世界共通の課題である食品ロスの削減ソリューションが、国境を超えて展開される日も近いかもしれない。

アプリ画面を手にするSaputra氏。今後は食品だけでなく、日用品の余剰削減にも寄与できる事業を検討していくそうだ

新興国のサステナブル課題解決へ、スタートアップへの期待度高く

このほか、CarbonEthicsはインドネシアの農家や漁師コミュニティでのマングローブ植林によるカーボンオフセット事業を企業や個人向けに行っている。カーボンクレジットをめぐっては、2050年のカーボンニュートラル化に向けて世界的にニーズが高まっている反面、ディズニーなどのグローバル有名企業で使用されていた熱帯雨林でのカーボンクレジットプロジェクトの大半でオフセットの有効性が確認できなかったとする研究結果が発表されるなど、信頼性への疑義が根強い。同社はコミュニティに根差した質の高いクレジットの供給が足りていない現状に着目し、今後は*ブルーカーボンも含めて信頼性と実効性のある事業を育てていきたい意向だ。
*藻場や浅瀬などの海洋生態系に隔離・貯留される炭素のこと

インドネシアで最大の社会起業家ネットワークを持ち、本プログラムのインドネシア側の委託先であるANGIN社によると、インドネシアの2022年のスタートアップへの投資額は42億ドル余に達し、同国内では13のユニコーンスタートアップが存在する。世界各国と同様に新型コロナによる景気減速はあったものの、スタートアップへの成長期待度は引き続き高いという。

インドネシアのような新興国では、経済成長と資源効率性の両立が必要とされる中で複雑化するサステナビリティ課題を解決することが求められる。関係の深い日本の企業からの投資や連携が強化されることで、グローバルなサステナビリティ課題の解決に寄与する動きにつながることを期待したい。

【参考サイト、記事】

世界のアパレル・皮革製品市場は2027年まで年平均成長率18%で成長する見込み(Report Oceanプレスリリース)
more than 90% of rainforest carbon offsets by biggest certifier are worthless, analysis shows
(The Gardian 2022年1月18日)