経済産業省はこのほど、「繊維技術ロードマップ」をとりまとめた。サステナビリティとウェルビーイングに重点を置き、未来の産業につながる繊維技術の創出および繊維産業の国際的な競争力維持の観点から、繊維技術の戦略や工程を示した。

日本の繊維産業は、これまで衣料用の繊維素材として高機能化・高性能化などの技術を蓄積し、生活資材・産業資材へ用途を拡大してきたと経産省は認識している。しかしながら、国内外でサステナビリティやデジタル化の動きが進むなか、速やかな対応が急務であるとして、経産省は2021年12月、繊維産業事業者・大学・研究機関の有識者を委員とする「繊維技術ロードマップ策定検討会」を設置した。同検討会は、2030年の未来像と2040年までの技術開発の方向性を示し、これらを広く共有することで産学官の繊維技術への研究開発投資を促進することを目的として、繊維技術の戦略や工程について同ロードマップをとりまとめた。同ロードマップの主な内容は、次のとおり。

2030年の未来像

  • 革新的な繊維技術、用途拡大に向けた技術~情報技術と連携した利便性、生活の質の向上~:Society5.0の実現に向けた動きが進み、AI・ロボット・IoT・ビッグデータなどの活用により、高付加価値のサービスが提供され、利便性や生活の質が向上する
  • サステナビリティに対応する繊維技術~人や環境へ配慮した製品・生活スタイルの提供~:温室効果ガスの排出削減や世界的な人口増、経済成長による資源・ エネルギーのひっ迫リスクが見込まれ、よりサステナブルな製品が求められる
  • ウェルビーイングのための繊維技術~豊かな生活、健康・医療への支援~:人生100年時代に向け、生涯現役で多様な労働参加・社会参加が進み、ウェルビーイングへの関心が高まる。特に、健康・医療分野において、予防・健康づくりの取り組みや介護支援が求められる

1.重点的に取り組むべき技術開発

  • スマートテキスタイル:スマートテキスタイルの社会実装のための技術・サービスを開発する。官民の連携を図り、デジタルものづくり支援を展開する
  • ヒューマンインターフェース:物性データなどをデータベース化し、風合いや心地よさのシミュレーション手法を開発する。ECなどにおける表示方法の確立を目指す
  • 繊維to繊維リサイクル:サプライチェーン全体が参画する検討会を設け、リサイクルの実現を目指す。技術開発の手順や体制を構築し、分別技術やリサイクル技術の開発を促進する

2.技術開発手法

  • サステナビリティへの対応やデジタル技術の導入などの技術開発手法を提示
  • 事業化に向け、製品需要主導の製品開発や産学官および異業種との連携方法などを提示

3.研究開発機関の紹介

  • 信州大学・福井大学・京都工芸繊維大学・産総研をはじめとする国立研究機関および地方公設研究機関について、活動状況を紹介
  • 特に地方公設研究機関では、事業者などが活用できる評価試験を掲載

4.多様な繊維技術とその方向性を整理

上述の3つの繊維技術「革新的な繊維技術、用途拡大に向けた技術」「サステナビリティに対応する繊維技術」「ウェルビーイングのための繊維技術」の関係性を整理した。

経産省は先日、ファッション業界が直面する課題とファッションの「未来」の創造の仕方を示す報告書「ファッションの未来に関する報告書」を発表している。今回公表されたロードマップでは、繊維技術の創出と繊維産業の国際的な競争力維持に焦点が当てられた。環境負荷・経済性・サステナビリティ・ウェルビーイングをはじめとする分野においてさまざまな課題を抱える繊維産業が、こうした報告書などを参考に目指すべき方向を定め、連携して取り組みを進めていくことが期待される。

【プレスリリース】「繊維技術ロードマップ」をとりまとめました
【参照サイト】繊維技術ロードマップ
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