Circular Economy Hubでは、Circular Economy Hub Partners一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構が主催するオンライン・コラム討論の「談論風爽」のレポートをお届けしている。談論風爽では、コラマーと呼ぶ話題提供者が、まず10分間話題や意見を提供。それをもとにオンライン参加者とコラマーが約20分の意見交換を行う形式だ。サーキュラーエコノミーや持続可能な社会、脱炭素など、サステナビリティに関する話題が提供されている。Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーに関する回をピックアップしてお届けしていく。

第4回のテーマは、足立直樹氏による「生物多様性から見たパンデミック」。

  • テーマ:「生物多様性から見たパンデミック」
  • 話題提供者:足立 直樹 氏(株式会社レスポンスアビリティ代表取締役)

話題提供パート:「生物多様性から見たパンデミック」

足立氏:

ウイルスは非生物であり自己増殖できず、人間などに感染してその細胞の中で増殖します。したがって、ウイルスはその宿主と共存する必要があります。ウイルス性感染症の多くは、人と動物の両方に感染する人獣共通感染症(zoonosis)であり、たとえワクチンができても人以外の宿主を管理するのは困難であり、注意が必要です。近年、ウイルスが野生生物から人間に感染する例が増えている理由として、人間が野生生物を食用にしたりペットにしたりすることが増えていることや、生息地である森林の破壊や道路建設などによる人間と野生生物との距離が近くなったことなどが指摘されています。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、CO2排出量などの環境負荷が世界的に低くなっていますが、アマゾンの森林破壊は加速しており、2020年1〜4月の森林破壊は前年同期比55%増という過去最悪の状況です。企業の環境活動に関する情報を収集・分析・評価する非営利団体の英CDPは、木材・パームオイル・牛・大豆などの森林破壊の原因となり得る原材料の利用にあたって、どのような原材料を使用するのか、適正に管理するよう企業に注意喚起しています。企業の間では「森林破壊ゼロ」への取り組みが加速していますが、こうした動きをさらに進め、また明確な目標を世界が共有できるようにと、世界的な環境保護団体である世界自然保護基金(WWF)は、2019年に、2030年までに達成すべき目標を以下のように定めました。

  1. 自然生息地の破壊ゼロ
  2. 人為的な生物種の絶滅ゼロ
  3. フットプリント(生産と消費による環境負荷)を1/2に

2020年10月に中国で開催予定だった生物多様性に関してもっとも影響力のある国際会議である「生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)」は、コロナ禍の影響で2021年に延期になりましたが、良い流れを維持するべく国際的にさまざまなレベルの努力が進められています。そうした動きを見ると、2030年までの最重要テーマは「気候変動」と「生物多様性」であることがわかります。

このテーマと関連して、気候変動・生物多様性・食料に十分に配慮した形でコロナ禍からの復興を推進するグリーンリカバリーの考え方が欧州を中心に広がりをみせています。この考え方が目指しているのは、単にコロナ以前の状態に戻るのではなく、安心できるグリーンな経済に移行しながら新しいビジネスと雇用を生み出すことです。日本もこのような視点を持ち、ポストコロナをどうしていくのかを設計していかなくてはなりません。

話題提供後の参加者同士による討議の中心ポイント

生物多様性をどのように捉えるかと、ポストコロナをどう設計していくのかという点が議論の中心となった。参加者から示された主な意見は以下の通りである。

  • 日本の産業では商社を介して調達しているため、生物多様性の破壊を一番実感している開発現場と企業との間に距離感があると考えている。一方欧米は、サプライチェーンのなかでダイレクトにつながっている。この仕組みが、日本が生物多様性への認識が低い原因なのではないか。
  • (足立氏より)気候変動と比べると、生物多様性が喪失していることは感じにくいため、数字やレポートを見てどこまで想像力で補えるかが私たちに問われている。日本は生物多様性が非常に豊かな国の1つだ。それを活かしてどのような経済をつくれるか考えるのも良いのではないか。
  • ポストコロナを考えるうえで、世界がどのようにつながっているか抽象的なレベルで共有して、そのなかから具体的な解を出していくアプローチが必要だと考える。
  • 地方が都市機能のなかにおける分散できる機能を受け入れることで、適正規模の地方都市をつくることがポストコロナにとって答えになるのではないか。
  • 地方分散型の都市モデルの構築を促進するため、グルーピングして議論を進め、地方のトップに話をしていくという動きを始めても良いのではないかと考える。

編集後記

今回の議論で話題になった点が、生物多様性から見たパンデミックとポストコロナの設計についてだ。

生物多様性については、数字やレポートを見てどこまで想像力で補えるかが問われているかと指摘された。気候変動に比べると生物多様性の喪失を感じることは難しいため、データなどに基づき活発に議論を進めて多面的な視点を持ち、行動に移していくことが必要となるだろう。さらに、その課題に対処するツールとなるサーキュラーエコノミーが果たす役割にも焦点を当てていきたい。

また、ポストコロナ時代の設計については、地方分散型の都市モデルの構築が提案された。その実現には世界の事例を参考にしながらも、日本の規模・自然・人口密度などの条件を考慮したうえで、地方の受け入れ体制の整備や、どのような機能を地方に分散させるかの見極めが重要であると考える。

生物多様性や気候変動などの課題と向き合いながら、どのようにコロナ禍からの復興を実現するのか。未曾有の危機のなか、私たちが早急に取り組むべき課題である。

【参照サイト】CDP
【参照サイト】New Deal For Nature and People