本連載では、2021年2月28日から3月3日にかけて、サーキュラーエコノミーをテーマに地域のあるべき姿を提示し、実装につなげるリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA Vol.2」の様子をお届けする。

後編は2日間にかけて学んだサーキュラーエコノミーの概念や事例をもとに、白馬村が抱える課題をサーキュラーエコノミーの視点から解決するアイデアを発散する、最終日に行われたワークショップの様子をお届けする。

 

 

1. 環境・社会・人に優しい宿泊施設を考えるワークショップ

ワークショップの冒頭では、白馬村が気候変動の影響により雪不足に陥っている現状や、これから目指したいサステナブルマウンテンリゾートとしてのビジョンが共有された。自然環境を守り・再生することで持続可能な白馬村を目指している。

今回のワークショップでは、白馬村の主要産業である「宿泊業」に焦点をあて、サーキュラーエコノミーの観点から持続可能な取り組みを考える。サステナブルマウンテンリゾートを目指すうえで宿泊施設が実施しているサステナビリティに関連した取り組みや、それらを取り組む上で抱える課題を伺った。今回は宿泊施設運営者であるIL BOSCOを運営する宗川氏、NOMAD 白馬を運営する福島氏の2名から課題が共有された。

彼らは食品やアメニティの廃棄を減らすことや、節電をお願いするなどといったことに取り組みサステナブルな宿を目指している。しかし、それらの取り組みに対して宿泊客から理解が得られず、不便や不自由だというクチコミが発生してしまうことが課題に挙げられた。宿泊施設としては、このような不快感を宿泊者に与えると収益に影響してしまうため、理解を得られないままサステナビリティを重視したサービスを提供するのには勇気がいるという。

そこで今回のワークショップは、顧客にとって嬉しく、自然環境にもよく、宿泊施設も利益を生むという3つの側面でみなが満足できる宿泊施設を考えるというものだ。

ワークショップの流れ

目的:自然を守り(再生)、廃棄・汚染を生まない、顧客が満足する宿泊施設の提案。

Step. 1 宿泊施設/白馬村の課題のピックアップ:白馬村の宿泊施設の課題と白馬村の課題を挙げていく。

Step. 2 アセットシェア/アイディエーション:メンバーや白馬村、世の中のアセット(資産)を活用して課題解決のアイデアを考案する。

Step. 3 アイデアフロー図の作成:アイデアの中から、ワークショップのゴールを最も達成するアイデアを選定し、フロー図に整理する。

Step. 4 サーキュラーエコノミーの3原則に基づきチェック:選定されたアイデアのCE3原則達成度合いをチェックし、アイデアをブラッシュアップする。

(プロジェクト事務局作成資料抜粋)

5~6名で1チームに分かれ、ホワイトボードや用意された紙を使い、アイデアを膨らませていった。

 

アイデアボード
アイデアボード(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

ワークショップでは白馬村や宿泊施設が抱えるリアルな課題を解決するために、白馬村内のみならず、あらゆるステークホルダーの持っている資産を最大限に活かしたアイデアを出すことが意図されていた。その意図どおりに、施設運営側の目線に立ち、現実味のあるアイデアを考えることができた。

3日目の会場はNOMADで行われた
会場のNOMAD白馬で行われたグループワークの様子(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)
ワークショップの様子
ワークショップの様子(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

グループからは、「人とアイデアが集まる実験場の場としての宿泊複合施設」「白馬滞在を福利厚生にするtoB向けプラン」「バーチャル村民」「地元で作られたものを持って帰りたくなるアメニティ」「解毒/引き算の宿」(後述)「脱観光・旅行者をよばないホテル」などユニークかつすぐにでも始められそうなアイデアが生まれた。

プレゼンテーションをしている様子
各チームによるプレゼンテーションの様子(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

どのアイデアも白馬村が持つ魅力を最大限に活かしつつも、その土地にある自然や地域住民、訪れる人など、あらゆる環境、社会、人にメリットをもたらすものばかりだった。実際に、プログラム終了後には「解毒/引き算の宿」のアイデアが採用された。

「解毒/引き算の宿」のアイデアは、宿泊者がチェックイン時にスマホなどを預け、滞在中はデジタルデバイスから離れて自然を堪能できる仕組みである。滞在期間中は白馬の自然と触れ合いながら、自分と向き合う余白を作り、自分を見つめ直す時間が作れるプランだ。実装に向け、着実に動き始めている。

 

2. まとめ「地方で始めるサーキュラーエコノミー」

2020年9月に行われた当プログラムの第1回目では、グリーンシーズンの白馬を体験できる季節に開催された。第2回目の今回(2021年2月下旬)では、数年ぶりともいわれるほど雪が豊富に積もり、冬の白馬を体感することができた。開催前日の0日目にはスノーシュー体験や、初日の早朝には熱気球に乗り、山脈から上る朝日を迎える体験も用意されていた。

朝日を望む熱気球体験
早朝に朝日を望む熱気球体験(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

こうして白馬の地に実際に訪れることで、白馬の自然や住む人々とふれあい、魅力を知ることができる。

最後に、今回のプログラムを通して学んだ、地方でサーキュラーエコノミーを取り入れる際に意識したい5つのポイントをまとめる。

①サーキュラーエコノミーは廃棄物・汚染排出ゼロで自然システムを再生し、レジリエンス・健康・ウェルビーイングを向上させる経済/産業システム

サーキュラーエコノミーを実践することを目標に置きがちになってしまうが、サーキュラーエコノミーは、自然や社会への負荷を極限まで排除しながら良い状態へと再生し、その結果人々の健康やウェルビーイングを向上させる役割を持つシステムのひとつである。そして、それを効果的に実現させるためには「トリプルボトムライン」といわれる3つのP(People(人)、Planet(環境)、Profit(経済))すべてをバランスよく満たしていく必要がある。

②外部の新しいアイデアにオープンな姿勢を持ちながら、地域に根差した取り組みや文化を活かす

新しいものを生み出すことがイノベーションなのではなく、すでにある価値の組み合わせでイノベーションが生まれる。紹介された事例のなかでもあったように、あらゆるデータや資産をオープンに公開する姿勢を持ちつつ、外部の革新的なアイデアを受け入れながら、地域に根付いた取り組みの創出は白馬含め様々な地域でも応用できる。

その際に注意すべきなのは、国や地域によって置かれている環境、状況や保有資産が異なるため、先進事例をそのまま模倣するやり方では持続できないことだ。数々の事例から見えるエッセンスや鍵を抽出し、地域独自の資産を活かした方法へとアレンジする姿勢が求められる。

③地域住民の巻き込みや産官学民との連携を通した共創の必要性

あらゆる産業、観光庁、学校から積極的に意見や知見を取り入れ、連携なくしてはサーキュラーエコノミーを起点とした活動を実現することはできない。そして地方でサーキュラーエコノミーを推進するうえで重要なポイントの一つが、地域住民を巻き込むことである。

そこに関わる人々の幸せを考えた設計をし、あらゆる意見を取り入れてインクルーシブに創造していくことで、一人一人が主役としてコミュニティに関わり続け、持続可能なコミュニティへと発展する。オランダの事例にもあったように、地域に住む住民も一緒に考え、手を動かして作り上げることで愛着が湧き、人々が大切にしたい居場所となる。

④自然とやっていたことが環境や社会、人に恩恵があるデザインが理想

「環境のために」などという言葉で人々を説得しても、どこかで無理をさせたり我慢をしなくてはいけないと思ってしまうことがある。こうした半ば強制のやり方は、取り組みを持続不可能にさせてしまう。

丁寧なコミュニケーションのみならず、思わず参画したくなるデザインや仕掛けづくりが重要である。強要するのではなく、おもしろい、楽しそう、やってみたいという自発的に加わってもらい、いつのまにかそれが自然や社会、人に良い影響を与えているのだと知ることが理想的な巻き込み方である。誰もが気持ちよく無理強いされずに参画できるような工夫を心掛けたい。

⑤自分ごと化をすることがすべての第一歩

産官学民と連携し、巻き込む中で重要なポイントは、関わる一人一人が自分ごと化することである。誰かに強いられた行動は、持続的かつ効果的な取り組みに繋がりにくい。日々の生活の中での出会いや経験を通して感じた気づきや育まれた強い想い、または責任感を持った個人が集合することで、確実に大きな変化へと波及していくのではないだろうか。

3. 終わりに:小さくでも最初の一歩を踏み出すことが大きな変化へと繋がる

 

集合写真
参加メンバーで集合写真(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

今、地球が悲鳴を上げている――。普段都市部に住む人には課題を身近に感じないかもしれないが、白馬村のような自然豊かな環境に身を置く人々は自然が変わっていく姿をひしひしと感じている。

このままでは日本特有の四季が二季になってしまうと同時に、豪雨や豪雪、あるいは降水量の減少による水不足などの危機に見舞われてしまう。実際に2019-2020年の冬では白馬村は雪に恵まれたが、一方で地面が見えてしまうほど全く積もらない年もあったという。当プログラムの会期は2月下旬にも関わらず、思わず上着を脱ぎたくなるほどの暖かさだった。

このような危機的状況においては、一人一人が課題を自分ごと化し、変化を起こしていかなければならない。小さくても初めの一歩を踏み出すことが大きな変化へと繋がるのだ。

このプログラムのように様々な知見や背景を持つ人々があらゆる地域から白馬村に集い、それらを活用しながら地域住民を巻き込み、実践を積み重ねることで少しずつ変化の兆しが見えてくる。地方発のサーキュラーエコノミーのプロジェクトが現れると、地方から日本を活気づけてくれるに違いない。今後もこのようなプログラムを通じて地球環境を、社会を、そして人々のウェルビーイングを、より良いものへと変えていくトリガーになることを期待したい。