本連載では、サーキュラーエコノミーを学び実践するリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA」の様子を4回シリーズで連載する。第3回の今回は、「サーキュラーエコノミーの実践編」だ。サーキュラーエコノミーの概念と代表的事例が理解できたところで、実践に移していくフェーズである。

1. サーキュラーエコノミーを切り口としたビジネスが生まれる。〜サーキュラーエコノミーデザインワークショップより〜

GREEN WORK HAKUBAの目玉であるワークショップ。今回のワークショップは、エレン・マッカーサー財団とデザインファームIDEOが開発した「The Circular Design Guide」をもとに、アクセンチュアが提示する5つのビジネスモデルを使って、サーキュラービジネスを創出するというもの。プロジェクト事務局によると、GREEN WORK HAKUBA用に練りに練ってアレンジしたワークショップだという。

ワークショップは、午前と午後それぞれ1テーマずつ実施された。その概要をレポートする。

サーキュラー・ストラテジー・ワークショップ(午前)

目的:リニアエコノミーの中で使用している既存製品に「5つのビジネスモデル」を取り入れて、サーキュラーエコノミーの「3原則」を実現するサーキュラーなサービスを考案する。

Step.1 ユーザーインタビュー:普段使用している製品の「無駄」「もったいない」「不満」、改善できる点や要望をユーザー目線で引き出す。

Step.2 アイディエーション:無駄や廃棄処理されている問題点に対して、5つのビジネスモデルを取り入れて、循環するサービスを考案する。

Step.3 サーキュラーサービス・デザイン:新規アイデアがいかに「サーキュラー」かつ「ユーザーフレンドリー」なデザインを前提として設計されているか整理する。

(プロジェクト事務局作成資料抜粋)

私たちは、サーキュラーエコノミー3原則の目的を踏まえ、必要に応じてアクセンチュアの5つのビジネスモデルを使って、サーキュラービジネスの創出に取り組んだ。このワークショップは、午後に行われる実践的なワークショップに向けたウォーミングアップで、これまで学んだ内容を実践できるようにするねらいがある。

白馬岩岳マウンテンリゾート「森のオフィス」でワークショップが行われた。

今回は、「一軒家」と「冷蔵庫」を対象として設定し、それぞれのチームで取り組んだ。

各チームからは、「モジュールハウス(建材の規格化や間伐材の使用、モノの購入コストの低減)」「シェア冷蔵庫(冷蔵庫の中身をシェアすることによる無駄の削減と地域活性化」「モジュラーフリッジ(モジュラー化した冷蔵庫)」など、いくつものクリエイティブかつ実現可能性のあるアイデアが創出された。

各チーム発表場面

サーキュラー・ジョイントベンチャー ワークショップ(午後)

目的:参加メンバーの資産をコラボすることを前提に、「5つのビジネスモデル」を取り入れて、サーキュラーエコノミーの「3原則」を実現するサーキュラーな新規ビジネスを創出する。

Step.1 ターゲットウェイスト:企業の既存のビジネスモデルの中で、保有する資産や発生する廃棄物を抽出し、特に再利用できる「WASTE」を特定する。

Step.2 アイディエーション:1社ではなく、他社の資源や資産、廃棄物を組み合わせることで、「WASTE」を再利用し、廃棄物を出さないビジネスモデルを設計する。

Step.3 ジョイントベンチャー・デザイン:新規ビジネスにおける「循環する」仕組み/フローを、企業同士の連携関係も含めて、整理する。

(プロジェクト事務局作成資料抜粋)

このワークショップは、仮テーマで実施するのではなく、私たちが直面する「リアルな」課題に取り組むことが意図されている。そのため、実際の場面で実現可能なモデルを模索することになった。

参加者からは、「廃棄される家具を再生するサービス」「ユーザーのストーリーがアプリで蓄積される、長期間利用を前提とした服の提供」「空き家と企業から排出される廃材を有効利用する家」など、明日からでも構築が始められそうなモデルが創出された。

今回のプログラムプロデューサーである株式会社インフォバーン代表取締役CVOの小林弘人氏は、「サーキュラーエコノミーを切り口として、素晴らしいビジネスモデルが生み出された」と、ワークショップを総括した。

また、ワークショップは、各参加者の協働が起こるように設定された。サーキュラーエコノミーは製品ライフサイクルに全ての段階にアプローチしなければならないため、1社では完結しづらい。協働の重要性が身をもって感じられた。

午後の発表の様子

2. ビジョンとパッションでサーキュラーエコノミーに取り組む。参加者の事例発表

GREEN WORK HAKUBAに参加している企業より、サーキュラーエコノミーの取り組みを発表するピッチが実施された。各社の発表概要を紹介していこう。

 

株式会社ファーメンステーション 代表 酒井里奈 氏

岩手県奥州市の休耕地で栽培される有機米(有機JASやUSDA Organicなど有機認証済み)を発酵・蒸留させてエタノールを製造・販売する。発酵粕はコスメなどの原材料や、鶏や牛の餌にも使われ、さらにその糞も田んぼの肥料にする循環型の取り組みを行う。まさに、地域内で生物資源を循環させる事業だ。さらに、岩手県奥州市産という完全なトレーサビリティを実現し、顔が見える商品として販売する。直近ではオーガニック認証のハンドスプレーや、シードルの醸造副産物からエタノールを抽出・配合したウェットティッシュを販売するなど、新たな取り組みを進めている。

 

株式会社ReBuilding Center JAPAN 代表取締役 東野 唯史 氏

家や工場の解体などから発生する古材や古道具を引き取る事業。ほとんどは家主から連絡をもらって、「レスキュー(引き取り)」をし、それらを販売するというビジネスモデルだ。古材の癖や使い方をアドバイスし付加価値をつけることで、ユーザーを増やし、コミュニティを形成している。古材を使った空間デザインも手がけ、その利用価値を伝える。廃材を扱うことを通じてコミュニティを強くすることも推進。さらに、解体される空き家の急増という地域課題にもアプローチする。

 

白馬観光開発株式会社 代表取締役社長 和田 寛 氏 

八方・岩岳・栂池の3スキー場の運営に携わる白馬観光開発。スキー人口の減少、冬に頼り切った経済、老朽化したインフラなどの数々の課題があるが、とりわけ雪不足が大きな問題となっている。2014年からの5シーズンのうち4シーズンは、過去と比較しても深刻な雪不足に見舞われたという。そこで、運営するスキー場のうち、白馬岩岳が先陣を切って、サステナブル・リゾートを目指すことになった。自然エネルギーへの切り替えやレストランの地産地消の徹底、再生材を使った内外装を推進することなど、事業を通じたサステナビリティによって、サステナブル・リゾートのポジションNO.1を目指す。

 

ハーチ株式会社代表取締役 IDEAS FOR GOOD 編集長 Circular Yokohama 責任者
加藤 佑 氏

横浜のサーキュラーエコノミー推進プラットフォームを手がけるCircular Yokohama。サーキュラーエコノミーでは「環境」と「経済」に注目されがちだが、そこへ「社会」の視点にもフォーカスする「サーキュラーエコノミー plus」という概念を横浜が掲げる。この概念に基づく形で、横浜のサーキュラーエコノミーに取り組む事業者同士を結びつける活動を行う。ニュース・取材・プロジェクトデータベース・活動マップや学習プログラムなどを提供し、横浜市のサーキュラー化を推進する。

 

みんな電力株式会社 事業本部 コンサルタント 間内 賢 氏

「顔の見える電力™」 を掲げるみんな電力は、国内の再エネ利用率NO.1*の実績を誇る。法人向けに独自のブロックチェーン技術を国内で初めて商用化し、電力のトレーサビリティを実現することで、電力の生産者を可視化する。そのことにより、生産者とユーザーを結びつけるという付加価値のある再エネを提供。お好みの生産者の電力を購入することが可能だ。30分単位で電力の状況が記帳されているため、ユーザーは、生産者や発電の種類、需要量が一目で把握できる。ユーザーと生産者間の交流にも取り組む。

*低圧電灯を年間300MWh以上供給する小売電気事業者153社のうち、東京都公表「東京都エネルギー環境計画書制度 対象電気事業者一覧表」、経済産業省資源エネルギー庁公表「3-(1)電力需要実績(2018年度)」を基に同社調査

 

RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役社長 酒井 新悟 氏

「個のクリエイティブで、人や社会にウェルネスを」をビジョンに掲げるRIDE MEDIA&DESIGN。既存事業のクリエイティブ領域を主軸に、安居昭博氏や四角大輔氏とのパートナーシップを通じた事業など多くの領域で事業展開を行う。直近では、社会課題解決を目的とした共創プラットフォーム「THE VOTE」を始動。オーガニックコットンと再生ペットボトル繊維50%ずつを素材としたワイシャツをハブに、アートやカルチャーの視点から、行政・企業・団体・個人の垣根を超えた共創を生み出していく。

 

株式会社エックス都市研究所 サスティナビリティ・デザイン事業本部 プロジェクト推進チーム 副主任研究員 土井 麻記子 氏

「持続可能な脱炭素社会」をデザインしプロデュースするエックス都市研究所。プランニング・コンサルティング・コーディネート・エンジニアリングを主なサービスとする。土井氏からは、「Circular as a Service(CaaS)」の提案があった。モノを循環する行為をシームレスにつなぐプラットフォームを意図する。消費者の判断のなかに「循環」を組み込み、循環性を見える化し、廃棄物の取引機会を増やす。同時に、協働パートナーも募集中とのことだ。

 

株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業一部 副部長 大坪 岳人 氏

同社のブランド「THE NORTH FACE」は、早くからサステナビリティに取り組む。2006年に「GREEN IS GOOD」というキーワードを打ち出し、「循環型リサイクル」「環境配慮素材」「環境配慮設計」を柱に掲げる。ゴールドウィン以外のブランドも回収し、日本環境設計の「BRING」と共同してケミカルリサイクルを行う。他にも、再生可能かつ再生された羽毛を使用したダウンジャケットや、リペア事業、人工クモ糸から着想した構造タンパク質からできたアウターの販売など、THE NORTH FACEの創業者からの理念を継承する形で、循環型の取り組みを進めている。

3. 最終回「白馬村で考えたサーキュラーエコノミー」へ

連載③では、「実践」をテーマに、ワークショップと各参加者による活動の発表をお届けした。最終回は、総括編として「白馬村で考えたサーキュラーエコノミー」をレポートする。

連載(最終回) 白馬村で考えたサーキュラーエコノミーへ

これまでのレポート

連載① サーキュラーエコノミーの概念編
連載② サーキュラーエコノミーの事例編

【参考ページ】GREEN WORK HAKUBA
【参考ページ】The Circular Design Guide
【参考ページ】HAKUBA IWATAKE MOUNTAIN RESORT
【参考ページ】MOON PARKA