香港政府が2021年2月に発表したレポート「Waste Blueprint for Hong Kong 2035(香港の廃棄物に関する展望2035)」によると、同地域における都市廃棄物の量は、2010年の693万トンから2019年の567万トンへと18%減少したという。しかしながら、リサイクルされる都市廃棄物の量も、2010年の360万トンから2019年の164万トンに減ってしまったそうだ。その結果、埋め立て処分される都市廃棄物の量は333万トンから404万トンに増加している。単純にごみの総量を見るだけでなく、リサイクルされた量も含めて考えることが大切だ。

そんな中、2020年11月に香港にオープンしたバー「Penicillin(ペニシリン)」は、資源を循環させることを意味する”クローズドループな”取り組みを行っており、2021年に開催された「Asia’s 50 Best Bars(アジアのベストバー50)」というアワードで、サステナブルなバー賞を受賞した。同店の大きな特徴は、リユースやリサイクルに力を入れて廃棄物ゼロの店を目指していること、サプライチェーンにおけるCO2排出量の最小化に努めていること、そして店内の家具や備品までもリサイクルされたものを使っていることだ。

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Image via Penicillin

抗生物質のペニシリンから名前をとったというこのバーには、ラボと呼ばれる空間があり、スタッフたちが廃棄物を最小限に抑えるべく、科学的な方法に基づいた試行錯誤を繰り返している。たとえば、キャッサバ(常緑低木)チップの余った部分を絞ってジュースにしたり、レモンの皮を乾燥させてカクテルの飾りにしたり、ラム酒に使用済みの茶葉を使ったりと、さまざまなアイデアが生まれている。

製品が消費者に届くまでのサプライチェーンにおいては、お酒を配達してもらう際のCO2排出量を減らし、ガラス瓶のごみも減らすため、繰り返し使える4.5リットルの容器にお酒を入れて届けてくれるサービス「ecoSPIRITS」を利用している。バーでは、この大きな容器から自分たちの酒瓶にお酒を詰め替えることができ、空になった容器は新しいお酒が届く際に回収される。Penicillinによると、この取り組みでカクテル1杯あたり150グラムのCO2を削減できるそうだ。

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Image via Penicillin

また、Penicillinはドリンクや料理に使う材料をできる限り地元で調達しており、配送距離を短くすることで、燃料消費量およびCO2排出量の削減に努めている。同店で取り扱っているワインには、自然のエネルギーを循環させるバイオダイナミック農法で育てたぶどうが使われており、細部に至るまで環境に配慮していることがわかる。

店内の家具や備品にも、ぜひ注目したい。2018年の台風22号(マンクット)で倒れた木を使ったテーブル、ネオン街の看板から調達したLEDウォールライト、再生紙で作った名刺、リサイクルコットンでできたユニフォーム、再蒸留したウォッカを使った手指消毒剤など、製品や原材料を捨てずに使い続けるための工夫が至る所に施されている。

Penicillin

Image via Penicillin

Penicillinの創業者たちは、The World’s 50 Best Restaurantsの取材に対し、「サステナブルな取り組みとは、プラスチック製のストローやカップを使わないことだけではない。他にもさまざまな方法があることを知ってほしい」「お店に来る人には、サステナブルという流行を追いかけるだけでなく、サステナブルな社会を創る先駆者になれると伝えたい」と話している。

彼らによると、サステナブルな取り組みは一般的に思われているほどお金がかからないが、時間はかかるという。長期的な取り組みになるからこそ、「次はこうしてみたらどうだろう」と楽しくアイデアを出し合いながら続けることが、大切なのではないだろうか。

【参照サイト】 Penicillin Bar – Penicillin Bar Hong Kong

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。