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アジア太平洋が挑むプラスチック汚染対策。国際条約の行方と都市・自治体の実践知【APCC2026レポート】

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2026年9月3日・4日にパシフィコ横浜ノースで開催された、アジア太平洋循環型都市フォーラム(Asia-Pacific Circular Cities Forum: APCC-Forum)。2日目にACCD(アジア循環型都市宣言制度)創設都市が集って開催されたセッション「プラスチック汚染と自治体」では、深刻化する海洋プラスチック汚染や廃棄物問題に対し、国際社会、国家、そして最前線に立つ都市自治体がどのように立ち向かっているのかが議論された。

現在、国連の「国際交渉委員会(INC)」による法的に拘束力のある国際プラスチック条約の策定が進められているが、合意形成に向けた道のりは平坦ではない。そんな中で、各都市はどのようにプラスチックの循環を実現しようとしているのか。

本セッションでは、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)による国際条約の最新動向の解説を皮切りに、エレンマッカーサー財団、東京都、そしてアジア太平洋地域の各都市によるプラスチックの循環する仕組みづくりの実践知が共有され、法制化と現場の実装のギャップをいかに埋めるかについて熱い議論が交わされた。

国際交渉の現在地。プラスチック条約の行方と都市への示唆

セッションの冒頭、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の小野氏が登壇し、国連環境総会(UNEA)5.2以降続いている「国際交渉委員会(INC)」によるプラスチック条約交渉の現状について解説した。

小野氏「プラスチック汚染はグローバルな課題であり、一国だけで解決できるものではありません。しかし、条約の合意に向けた議論は延長されており、次のINC会合は2027年3月に予定されています。条約が合意されたとしても、外交会議、批准プロセス、そして第1回締約国会議(COP1)の準備を経て実装に至るには、さらに数年の時間がかかります」

小野氏は、条約がもたらすメリットとして「各国でバラバラな規制を調和させ、グローバル企業にとっての公平な競争環境を創出すること」「生産から消費に至るサーキュラーエコノミーへの移行を促すこと」を挙げた。一方で、生産・消費の抑制を条約にいかに落とし込むか、国ごとの出発点の違いをどう乗り越えるかといった課題も指摘した。

一方で、こうして締結を先延ばしする間にもプラスチックによる汚染が続いていると言及。条約の合意・発効にはさらに数年かかるものの汚染は日々悪化しているとして、同氏は「都市によるプロアクティブで加速された行動が重要であり、その現場からの具体的な実践が、国家により強い交渉や批准への自信を与えます」と、自治体の先導的な役割を強く訴えた。

グローバルな枠組みと「共通言語」の必要性

続いて登壇したエレンマッカーサー財団のサラ・オキャロル氏は、プラスチック問題に特化した国際的な動向と、企業・都市の連携のあり方について語った。

財団が2016年に発表した「2050年には海に魚よりも多くのプラスチックが存在する」という予測以降、2018年には国連環境計画(UNEP)とともに「グローバル・コミットメント」を立ち上げた。その署名企業は世界のプラスチックパッケージ市場の約20%を占め、2018年以降約1,400万トンのバージンプラスチック使用の回避、リサイクル含有量を3倍に押し上げ、そして77万5,000トンの問題のある包装の市場からの排除といった実績を上げてきたという。

しかし、オキャロル氏は個別の取り組みや任意の目標だけでは限界があると指摘する。

オキャロル氏「ボランティアベースの共通目標や合意がこれほど成果を上げられたのであれば、法的拘束力のある世界共通の義務があればさらに前進できる。国ごとのアプローチに依存したバラバラな規制では、先行して動く企業が不利になり、グローバルなサプライチェーンに複雑さを生むだけです」

同財団は、プラスチックの最小化、包装のリユース、リサイクルの向上、リサイクル素材の使用拡大という4つの領域において、法的に拘束力のあるグローバルに調和された要件を求めている。また、インドネシア・ジャカルタやブラジル・レシフェでのリユース・インフラの実証プロジェクトを紹介し、軟包装の小袋など、管理が困難なプラスチックが海洋流入の80%を占める構造的課題に対して、ビジネスと政策、都市が一体となったアプローチが不可欠であると強調した。

東京都が挑む「カーボンクローズドサイクル」と、オフィス街のリユース

自治体の先進事例として登壇した東京都の岩崎氏は、都が直面する具体的な課題と挑戦を共有した。

東京都は2050年のネットゼロ達成に向け、プラスチックを循環させる「カーボンクローズドサイクル」を掲げている。2030年に向けた目標として、家庭および大規模オフィスビルからのプラスチック焼却量を2017年度比で40%削減(約70万トンから約40万トンへ)することを掲げ、取り組みを進めてきた。

1. 家庭ごみの分別支援

都内62自治体のうち、2019年には34自治体だったプラスチックの分別収集が、2026年には48自治体へと拡大(※)。都心部でも分別が進むとともに、年間約60万個廃棄されるポリプロピレン製の収納ケースなど、大型プラスチック廃棄物を回収・リサイクルする仕組みを民間企業と連携して5自治体から20自治体へと拡大させた。

※ 島しょ部の9市町村を除く53自治体を対象としたデータ

2. オフィス街におけるリユースの壁

大規模ビルが密集する東京では、オフィスでのリユース(リユースカップ等の導入)が重要だが、使い捨ての安さと便利さに勝るためのインフラ(洗浄・輸送・回収のネットワーク)構築やユーザーの行動変容のハードルは依然として高いという。

3. 焼却量が横ばいの現実

東京都全体で年間約100万トンのプラスチック廃棄物が発生し、そのうち約70万トンが依然として焼却処分されている。岩崎氏は、「過去6年間、リサイクルの仕組みや支援を広げてきたが、焼却量の数字自体は大きく減っていない。抜本的な変化を起こすには、可燃ごみに混ざるプラスチックの回収システムや、大規模オフィスビルにおける規制・インフラの強化が不可欠である」と語った。

このように取り組みの現状を整理した岩崎氏。実践を共有するAPCCの場に触れて、国際的な連携への期待についても次のように語った。

岩崎氏「実のところ、私はほぼ毎週、横浜市の担当者に電話をして、彼らの先進的な政策やその実施状況について尋ねています。そのように、電話やオンライン会議を通してお互いに学ぶことができますし、今日のように一堂に会することができれば、お互いに学び合う上で非常に有益であるはずです」

プラスチックをめぐる現場の本音と、条約への期待

後半のディスカッションでは、ACCD(アジア循環型都市宣言制度)創設都市から多様な自治体が参加し、それぞれの現場での苦悩と国際枠組みへの期待が語られた。

韓国の登壇者からは、1995年から韓国全体で導入されているごみ従量制(pay-as-you-waste)を背景にした徹底した分別状況を共有。一方で済州島では島内で再利用・再資源化するための産業基盤の不足が障壁になっているなど、個別の具体的な環境による課題も報告された。忠清南道(忠清南県)は、公庁舎での使い捨て禁止条例や、カフェでのリユース容器利用に対して自治体が費用の一部を補助するインセンティブ制度など、市民や事業者の行動変容を促すアプローチを紹介した。

フィリピン・セブ州のマンダウエ市は、市内の面積が狭く人口密度が極めて高い中、多くのプラスチック製造・包装関連企業が集積している現状を説明。市独自の条例でレジ袋の禁止などを進めてきたものの、代替品のコストが高く、コミュニティの理解を得るには時間がかかる。フィリピンは「サシェ経済」と呼ばれ、シャンプーや調味料が小分けのプラスチックパックで包装され大量に消費される構造があり、「地方自治体がどれだけ条例や分別を頑張っても、生産者側が上流で変わらなければインパクトは限定的である」と鋭く切り込んだ。

観光地であり島嶼部である同国デル・カルメン市からは、急激な観光客の増加に対してインフラが追いつかず、島外へごみを持ち出せていない現実が語られた。さらに、コロナ禍や2021年の大型台風による被災で一時的に使い捨てプラスチックに頼らざるを得なくなった経験から、災害対応までを視野に入れたプラスチック政策の必要性を訴えた。

一方、エレンマッカーサー財団のオキャロル氏は「都市として、世界で最も優れた選別インフラを構築できたとしても、結局はどこか他の場所で決定された包装やデザインがもたらす結果に対処し続けることになる」と指摘。既存の商品デザインにあわせた循環型インフラが必要であると同時に、商品そのものが持続的に循環しやすいデザインとなるよう、上流とインフラ設計の足並みを揃える重要性が浮き彫りとなった。

イクレイ日本・内田氏は、「各都市が権限の範囲内でできる限りの努力を行っているが、上流での生産・設計の変革がなければ根本的な解決には至らない。国際的な枠組みと国家、そして都市の現場をつなぐ声を、ACCD(アジア循環都市宣言)のネットワークを通じてさらに強く発信していく必要がある」と総括した。

都市という舞台は、モノの潮流を束ねられるか

本セッションを通じて浮き彫りになったのは、プラスチック循環という地球規模の課題に対し、都市の現場はすでにコストを払ってモノや素材の「ループの閉じ方」を模索している一方で、既存の経済インフラが必ずしも循環を後押ししきれていないという現実である。

自治体がどれほど分別や回収、独自の条例による規制を強化しようとも、製品の設計・製造という上流工程に直接介入できない限り、リサイクル不可能な素材の流入を防ぎきれない。この上流の壁は、下流の行政努力だけでは解決しきれない構造的な限界を示唆している。

法的に拘束力を持つ国際プラスチック条約の合意が遅れを見せる中、都市や自治体は、いかにして次のアクションを起こすべきか。国際的な枠組みの合意をただ待つのではなく、都市の現場から実証データや具体的な成功モデルを示していくことこそが、膠着した状況を打破する鍵となる。 小野氏やオキャロル氏が指摘したように、一つの都市が示すプロアクティブな実践と現場間の連携が、ほかの都市の次なる一歩への着実な基盤となるだろう。

サーキュラーエコノミーへの移行は、都市を舞台として産官学のリアルな協働があって初めて前進する。現場の知見と産業界のイノベーションがどう噛み合うか。その具体的な連携を模索する実務的な議論が、今まさに求められている。

【参照サイト】アジア太平洋循環型都市フォーラム2026(Asia-Pacific Circular Cities Forum 2026)

Natsuki

Natsuki

IDEAS FOR GOOD編集部

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