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アジア太平洋地域の持続可能な未来を議論する国際会議「アジア太平洋循環型都市フォーラム(Asia-Pacific Circular Cities Forum: APCC-Forum)」が、横浜市にて幕を開けた。本フォーラムは、アジア太平洋の都市が連携してサーキュラーシティ(循環型都市)の実現に向けた第一歩を踏み出すための重要なプラットフォームとして位置づけられている。
横浜市をはじめとする自治体、国際機関、そして国内外の循環経済の実践者が一堂に会し、リニア(直線型)経済からサーキュラー(循環型)経済への移行に向けた議論を交わした。
本稿では、各登壇者のインサイトや先進的な都市の事例から、アジア太平洋における循環経済の現在地と未来への示唆を読み解いていく。
資源制約と気候変動に立ち向かうアジア太平洋の連携と、「都市」の可能性
フォーラムの冒頭、横浜市の松浦淳副市長は、横浜市とイクレイ日本が主導して立ち上げた「アジア循環型都市宣言(ACCD)」の意義を強調した。
松浦副市長「今日、私たちは気候変動、資源制約、廃棄物問題、そしてエネルギー問題という相互に関連した大きな課題に直面しています。経済成長と環境負荷の低減を両立させるサーキュラーエコノミーへの移行は、私たちの生産、消費、そして暮らし方を根本的に変える大きな変革です」
また同氏は、アジア太平洋地域は世界の人口の約60%を擁するグローバルな製造業の中心地であり、世界のサーキュラーエコノミーの成否を握る鍵になると指摘。昨年立ち上げられたACCDには、現在26の都市が参加し、人口5,700万人を網羅する(フォーラム開幕時点)。本フォーラムは、その宣言を「単なる宣言」にとどめず、知識共有や政策立案能力の強化、そして具体的なアクションと協働へと転換するための歴史的なプラットフォームであると位置づけられた。
さらに、「But who will make this transition happen, and where will it take place?(しかし、誰がこの移行を現実のものとし、それはどこで行われるのか?)」という問いを投げかけた松浦副市長。国、企業、消費者など多くのステークホルダーが存在する中で、あらゆる要素が交わり、社会の中で実践される場所こそが「都市」であると語った。
地方政府が、企業や住民が行動しやすい環境を作り、廃棄物、エネルギー、交通、水資源といったセクターを横断して連携を促進することで、都市はアイデアを行動へと変える基盤としての役割を果たす可能性が示されたのだった。
「共通言語」としての宣言は、多様な道筋を支えられるか
続く全体セッションでは「アジア太平洋都市における循環経済への道筋」と題して、地域ごとの特性を捉えたサーキュラーエコノミーへの移行の形が議論された。アジア太平洋の都市における社会経済条件は多様である。だからこそ画一的なアプローチではなく、実態に合わせた柔軟なモデルが必要だ。
はじめに登壇したのは、サーキュラーエコノミーへの移行を加速する国際的な非営利組織、エレンマッカーサー財団のサラ・オキャロル氏。
オキャロル氏「サーキュラーエコノミーの推進において、国家レベルの政策は、ルールと方向性を設定し、ビジネスや都市の活動条件を作り出す点において重要です。しかしモノの素材が日常の中でどう動くかを左右する決定の多くは、都市の計画や調達の契約、廃棄物収集システム、そして近隣のコミュニティで行われます。こうしたビジネスと地域への『近接性』が、国レベルにはない都市の強みなのです」
そう語ったオキャロル氏は、財団がまとめた「都市政策レバー(Urban Policy Levers)」の枠組みに触れ、すべての都市が同じ順序で進む必要はないと指摘。財政力が限られている都市は調達から始め、規制力が弱くても主導権を発揮できる都市はコミュニティや企業をつなぐことができるという。
ここで同氏が強調したのは、「共有された枠組みや宣言は、すべての都市に同じ行動を強制するから価値があるのではない。共通言語を創り出し、学び合い、共通の障壁を特定しやすくするコミュニティを形成する点にこそ大きな意義がある」という点。共通言語を持つことで、協働した実証プロジェクトや共同の政策立案、さらにはファイナンスへのアクセスが容易になると説いた。
一方で、短絡的な解決策となりがちな「廃棄物発電」への過度な依存に警鐘を鳴らし、資源回収やリサイクルと並行して、自然を再生し回復力のある経済を築くサーキュラーソリューションを段階的に加速させるべきだと訴えた。
各都市の実践例として、フィリピン・ボロンガン市の情報局長、マーク・グリーガー・アファブル氏が登壇。人口約7万2,000人を抱える同市は、台風の直撃を受けやすい太平洋側に位置する。かつて川の氾濫対策にコンクリート護岸を用いていた同市は、気候適応のための国内資金などを活用し、コンクリートの構造も一部残しつつ、川の最も脆弱な土手に竹を植え、上流の丘には在来種の木を植えるというアプローチを採用。自然の循環を維持しやすい河川管理へと舵を切ったのだ。
アファブル氏「コンクリートは、流し込んだその日からひび割れが始まります。しかし、竹は土を保持し再び成長する。川の上流の森は水をゆっくりと流し、年月を経るごとに強さを増していく。私たちは『自己再生する保護』を構築したのです」
同市ではこの発想を背景に、家庭での生ごみ堆肥化や、電子廃棄物の分別管理、住民と連携した地域ぐるみの活動を展開。既存の自然資産とコミュニティの繋がりを活かすことで、時間とともに価値を増す持続可能な保護や適応の仕組みを築けることを示した。

続くパネルディスカッションでは、国連開発計画(UNDP)の山本晃子氏、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)の久保田利恵子氏、そしてエレンマッカーサー財団のオキャロル氏が登壇。山本氏は、UNDPの新しい戦略プラン(2026〜2029年)においても「人間の開発を加速させながら地球への圧力を減らすこと」が目標に据えられていると説明した。
山本氏「サーキュラーエコノミーは環境ムーブメントではありません。リニアからサーキュラーへとシフトさせる、新しい経済モデルです。アジア特有の課題として、インフォーマルワーカーや廃棄物回収者の存在を無視することはできません。彼らを政府のセーフティネットに包摂する必要があるのです」
欧州発のEPR(拡大生産者責任)などの制度をそのままアジア太平洋に適用するのではなく、各国の社会的文脈やインフォーマルセクターの実態に合わせた適応が不可欠であると指摘した。
さらに世界銀行TDLCの久保田氏は、そうした格差解消とサーキュラーエコノミー実現の両立という課題に言及しつつ、次のように語った。
久保田氏「ACCDが単なる宣言で終わらないためには、都市間の実践的な経験共有だけでなく、それを実際のレンディング(融資)オペレーションへと繋ぎ、融資に適したプロジェクトへと昇華させるブリッジが必要です」
また、インドネシア・マカッサル市などのコミュニティ主導型リサイクル(ウェイストバンク)の成功を称賛しつつ、行政の財政基盤を強固にするための「ステークホルダーごとの段階的なファイナンス設計(デカップリング)」の重要性を提言した。
画一的な正解はないからこそ、共通言語を持つことに意味がある──この議論で浮かび上がったのは、都市ごとに異なる出発点を認めながらも、宣言という共通の枠組みを通じて学び合い、政策や資金へとつなげていく姿だった。地域の自然やコミュニティの力を活かした循環のかたちは、アジア太平洋の多様性そのものを強みに変える可能性を秘めているはずだ。
社会実装の舞台としての「GREEN×EXPO 2027」と、都市を超えた共創
続くセッションのテーマは、「循環型都市への実践知~GREEN×EXPO 2027を契機とした共創と展開~」。はじめに、GREEN×EXPO協会 サステナビリティ推進部長の見宮美早氏が登壇。2027年3月19日から9月26日まで横浜で開催される「GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)」について紹介した。
テーマは「幸せを創る明日の風景」。自然と人、社会がともに繁栄する未来を示す場として、71カ国・5つの国際機関の参加が予定されている。
見宮氏が強調したのは、GREEN×EXPO 2027を単なる展示の場ではなく、サーキュラーエコノミーを含むさまざまな取り組みを「社会実装」する場として捉える視点だ。会場では、サステナビリティ調達や資源循環の方針を定めるほか、大阪・関西万博で使用した木材の再利用、植物残渣の堆肥化などを計画している。
見宮氏「価値の創造は、単一の技術や最先端のテクノロジーから生まれるのではありません。社会における意識と行動の変化から生まれます」
続いて見宮氏がモデレーターとなり、都市におけるサーキュラーエコノミーの実践や、アジア太平洋地域への展開について議論した。
横浜市政策経営・国際戦略局グローバル都市戦略部長の冨岡典夫氏は、横浜市の取り組みを「共創」というキーワードで紹介。循環型都市への移行を加速させる施策として「Yokohama Circular Link」を挙げ、食、建築、消費財などの資源の流れを可視化し、セクターを越えた新たなビジネスモデルの創出を目指していると説明した。みなとみらい地区では、商業施設などの資源循環を定量的に把握するほか、映画館で廃棄されるポップコーンをビールにアップサイクルする取り組みなどが進む。
冨岡氏「一つの主体だけでは、サーキュラーエコノミーは実現できません。異なるセクターをつなぎ、共創していくことが重要です」
フィリピン・セブ州の州計画開発・投資事務所 上級補佐官、エリザール・ジュニア・レキン・サビナイ氏は、廃棄物処理が自治体ごとに分断されているセブ州の課題を紹介。複数の自治体を横断して廃棄物の収集・処理・資源化を行う統合型廃棄物管理施設「GX Park Cebu」を構想し、2026年9月から一部の地域を対象に実現可能性調査を開始した。
サビナイ氏「廃棄物は政治的な境界や行政区域を認識しません。だからこそ、サーキュラーエコノミーは可能な限り、自治体を越えて考える必要があります」
横浜市内の企業ともパートナーシップを結び、長年、技術協力や知見の共有を受けてきたセブ州。このフォーラムに参加する他の組織や都市から得た知見を活かしながら、専門家やパートナーによる調査結果を踏まえ、本格的な活動をスタートしていくという。
オランダ発の非営利組織・Circle Economyの都市戦略担当のタマラ・イスカンダル氏は、欧州における循環型都市のトレンドとして、公共調達などを通じて循環のルールをつくること、資源の流れを可視化すること、複数都市が連携することの3点を紹介した。一方で、データや人材・知識の不足、行政と民間の連携、資金調達などは共通する課題だという。
イスカンダル氏「まずは資源の流れを測り、現状を理解する。そこから重要な分野を特定し、1つ、2つのセクターから始めればいいのです」

世界経済フォーラム 素材の未来 責任者およびエグゼクティブ・コミッティメンバーのフェルナンド・ゴメス氏は、循環経済における民間企業の役割について紹介した。企業への調査では、サーキュラーエコノミーを経営戦略上重要だと考える企業は、3年前の約30%から現在は約74%に増加(2026年時点)。3年後には約96%に達すると見込まれているという。背景には、環境負荷の低減に加え、競争優位性や収益性、サプライチェーンの強化、資源確保など、事業上のメリットへの認識の高まりがある。
ゴメス氏「企業側は準備ができています。こうした戦略が収益を生み、経済的な価値を創出するという認識が広がり、さまざまなレベルで連携の意欲が高まっています」
続くパネルディスカッションでは、「循環型都市をどう実現し、加速させるか」をテーマに議論が行われた。
サビナイ氏は、自治体ごとに異なる廃棄物管理の仕組みを乗り越えるため、自治体同士が学び合い、企業や地域コミュニティと連携できるプラットフォームの必要性を指摘。イスカンダル氏は「世界で最も優れたデータを持つ必要はありません。まずは、私たちが今どこにいるのかについて共通の理解を持ち、同じ方向に進むことが重要です」と述べ、まずは現状を把握して動き始めることを呼びかけた。ゴメス氏は、課題は「どうやるか」という点にあることに同意し、都市における民間セクターとは何かを問い直すことを提案。データの活用、企業の持つ先進的な技術の活用、そして地域企業と自治体の協働の3点が重要であると語った。
冨岡氏は、資源循環の可視化を個別の実証にとどめず都市全体へと広げていく必要性を指摘。「一つの主体だけでは、サーキュラーエコノミーは実現できません」と改めて強調し、行政、企業、地域など異なる主体による共創が、循環型都市への移行を進める鍵になるとの認識を示した。
このようにアジア太平洋でも、多くの組織がすでにサーキュラーエコノミーを経営戦略の柱と捉え、連携の準備を整えつつある。一方、ここまでの議論から、境界を越えて学び合うプラットフォーム、現状を共有するためのデータ、そして地域に根ざした共創の積み重ねが、次なる一歩へ必要な要素として浮かび上がった。GREEN×EXPO 2027を起点の一つとして、横浜からアジア太平洋へ、実践知を共有する場の広がりに期待がかかる。
宣言から行動へ。ACCDが広げる循環型都市の次なる一歩
「都市はもはや資源の消費地ではない。循環とイノベーションを通じて新たな価値を創出する場となりつつある」──環境省の地球環境審議官である関谷毅史氏は、APCCフォーラムの議論を振り返り、2日間の最後を飾るACCD会合・クロージングセッションでこう強調した。14年にわたるアジア・スマートシティ会議の成果を受け継ぐ形で始動したACCDについて、都市間の連携を促す新たな推進力になっていると評価し、初開催となった今回のフォーラムを主導した横浜市のリーダーシップに敬意を表した。
国際連合事務次長・国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)のアルミダ・サルシア・アリスジャーバナ氏もビデオメッセージを寄せ、気候変動・資源枯渇・廃棄物・汚染といった課題が最も顕在化する都市部こそ、「実行可能な解決策が最大かつ即時に効果を発揮する場」だと指摘。欧州循環型都市宣言の宣言都市を代表して参加したドイツ・フランクフルトのマイク・ヨーゼフ市長は、2011年にパートナー都市提携を結んだ横浜市との連携を「欧州とアジアの架け橋」と位置づけた。
クロージングセッションでは、ACCDの新規署名都市も公表された。ACCD事務局を務めるイクレイ日本事務局長の内田東吾氏は、日本の神戸市をはじめ、インド、インドネシア、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、マレーシアから17都市が新たに加わったことを発表。これにより、ACCD宣言都市は11カ国43都市、人口規模にして約8,200万人へと拡大した。
さらに、イクレイ日本が宣言都市を対象に実施したアンケート調査から、計画策定や啓発活動に比べて「市場創造」と「ローカルルール」が共通のボトルネックとなっていることが共有された。こうした課題を踏まえ、初の行動計画「ACCDアクション2026」を策定。優良事例を収集・共有する「ACCD優良事例ワーキング・グループ」、民間ソリューションの導入を促す「ACCDソリューションマッチング/共創ワーキング・グループ」、宣言都市の取り組みを測る仕組みを整える「ACCD進捗管理ワーキング・グループ」の3つを発足させ、2027年に向けて具体的な活動を進める方針を示した。
ユースセッションの成果報告として登壇した清永貴暉氏は、防災レジリエンス、起業、政策参加の各分野で若者が実際に行動している事例に触れ、いずれの事例も、自治体・企業・大学・国際機関・市民社会との協働によって成り立っており、「若者が実践的に学び、アイデアを育て行動する機会を得ることで、より大きなインパクトを生み出せる」と強調した。さらに、横浜市発の学生プロジェクトの始動も発表。横浜の学生たちがアジア太平洋地域の都市課題を調査し、実践的なアイデアと解決策を立案していくという。同氏は「若者は未来を代表すると言われるが、今日の都市を形づくることもできる」と結び、2027年に横浜で開催されるAPCCと第9回アジア太平洋都市フォーラム(APUF-9)に向けて、この2日間の議論と学生プロジェクトが未来世代の刺激になることへの期待を示した。
最後に主催者を代表して登壇した横浜市の松浦淳副市長は、「本フォーラムで、ACCDは宣言から行動へと大きな一歩を踏み出した」と振り返った。2027年はGREEN×EXPO 2027の開催期間中、APCCフォーラムと第9回アジア太平洋都市フォーラム、国内外から約350社の出展と3万人の来場が見込まれる国際サーキュラー総合展(CIR-BAY)も横浜で開催される。松浦氏は来年のAPCCフォーラムをスケールアップするとし、2027年8月30日から9月3日までを「Yokohama Circular Week」と位置づけ、サーキュラーエコノミーに関わる国内外の人々が横浜に集い、交流する機会を創出する意向を示した。
都市同士が知見を共有する場から、具体的な行動と共創を生み出す場へ。その次のステージが、2027年の横浜で始まろうとしている。

【参照サイト】アジア太平洋循環型都市フォーラム2026(Asia-Pacific Circular Cities Forum 2026)
