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アジア太平洋地域の都市は、今や経済成長の原動力であると同時に、資源消費の増大、廃棄物の増加、環境悪化、気候変動といった深刻な課題が集中する場でもある。都市がいかにして成長・繁栄を続けながら、資源の使用量を削減し、廃棄物を最小限に抑え、レジリエンスを高めることができるのか──これは、現代都市に突き付けられた大きな問いである。
その答えの鍵を握るのが「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行」だ。廃棄物管理やリサイクルの枠にとどまらず、素材の設計・生産・消費・回収のあり方そのものを根本から見直し、環境課題をイノベーションと雇用の機会へと転換していくことが求められている。
本レポートでは、APCCフォーラムにて開催されたセッション「都市間連携セッション:ACCD宣言都市と国際機関等が、都市間連携でスケールする循環経済について議論」の模様をお届けする。バンコク、マカッサル、セブの3都市が国際協力機構(JICA)や横浜市などの支援を背景に進める具体的な取り組みの共有とともに、アジア開発銀行研究所(ADBI)やJICAといった開発パートナーの視点から、都市間連携を通じたサーキュラーエコノミー推進の本質に迫る。
都市間連携によるレジリエンスの強化
セッションの冒頭、一般社団法人海外環境協力センター(OECC)理事の加藤真氏が本セッションの趣旨を説明した。アジア太平洋地域の都市が直面する資源消費の増大や気候変動といった深刻な課題に対し、都市が成長と繁栄を維持しながらレジリエンスを高めるには「循環経済への移行」が不可欠であると強調された。
加藤氏「循環経済は廃棄物管理やリサイクルだけの話ではなく、資源の設計・生産・消費・回収のあり方そのものを根本から見直すことです。環境面での課題を、イノベーションと雇用の機会へと転換していく必要があります」
横浜市をはじめとする日本の都市と、ASEAN諸国の都市の間では、国際機関やJICA、ADBIなどの開発パートナーを交えたパートナーシップが構築されている。単発のプロジェクトに終わらせず、制度的な枠組みや実効性のある体制を整えることで、より効果的かつ効率的に都市のレジリエンスを強化していくアプローチが本セッション全体の重要な軸として共有された。
3都市のビジョンを後押しする都市連携
1. タイ・バンコク都:マスタープランから始まるゼロカーボンと循環経済
タイ・バンコク都からは、環境局廃棄物管理戦略室廃棄物管理サービス課長のラッチャダー・マニーワォン氏が登壇。バンコク都は、横浜市との間で長年にわたる都市間連携を続けてきた。その協力は「ゼロカーボン社会に向けた都市間連携プログラム」に基づき、気候変動マスタープランやエネルギー行動計画、廃棄物・排水行動計画の策定・実施へと発展している。
バンコクは現在、2050年までのネットゼロ排出に向けた道筋の加速に注力しており、その中でサーキュラーエコノミーへの移行を推進しているという。
マニーワォン氏「私たちの取り組みは、廃棄物の削減と排出段階での分別から始まり、リサイクル、資源回収、有機廃棄物の活用、そして廃棄物からエネルギーを生み出す取り組みへとつながっています」
具体的には「No-Mix Waste」プロジェクトや、BKK WASTE PAYアプリを展開。デジタルプラットフォームと金銭的インセンティブを活用し、各家庭が排出段階でプラスチック、金属、紙、ガラスなどの有価物を分別・回収するよう後押ししているのだ。有機廃棄物は堆肥やバイオガスに変換され、リサイクル困難な廃棄物は発電に利用。これらの施策を通じて、埋立処分される廃棄物と温室効果ガスの削減を目指している。

2. インドネシア・マカッサル市:ウォーターフロント都市の共通点から導く循環経済の推進
インドネシアの中央に位置し、東部の物流拠点であるマカッサル市は、人口150万人、経済成長率6.61%の海洋都市だ。しかし、急速な都市化に伴い、都市型洪水、廃棄物の増加、そして老朽化した水管理システムが原因となった高い無収水率(漏水などにより料金収入にならなかった水の割合)といった喫緊の課題に直面しているという。
同市 協力室長のアンディ・ズルフィトラ・ディアンタ氏は、こうした課題に対処すべく、同じく海洋都市や物流ハブとしての機能など多くの共通点を持つ横浜市と都市間連携を行っていると言及。さらに、岡山県の真庭市や神奈川県の川崎市とも連携し、サーキュラーエコノミーや水管理・治水に取り組んでいる点が特徴だ。
ディアンタ氏「国際的な都市間連携は、複雑な都市課題を解決するうえで、知識と技術の交流、共同資金調達の機会の獲得、そして新たな商業市場や貿易機会、文化的つながりの創出という3つの利点をもたらします」
横浜市との連携では、電動バイク用バッテリー交換ステーションへの太陽光発電設備の導入やバッテリー交換式電動バス導入のための調査や、高度な清掃機能を備えた塵芥車の導入のための実証実験に向け調整しているという。同氏は、都市間連携を通じてイノベーションを共有し、代替資金を確保して課題を共に克服するとともに、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させることができると話した。
3. フィリピン・セブ市:危機を乗り越える施策としての「Rising Above Waste」プロジェクト
人口約120万人を抱えるフィリピン・セブ市は、過去25年間、1日あたり600〜700トン排出されるごみを埋立処分に依存してきた。しかし、地震、台風、そして埋立地の崩壊事故という相次ぐ災害などに見舞われ、多額のコスト(1日あたり約200万ペソ:約500万円)を伴う従来の埋立依存型モデルの限界を痛感したという。
そこで、同市市長のネスター・ディオンソン・アーチバル氏は、「Rising Above Waste(ごみのその先へ)」プロジェクトを推進している。
アーチバル市長「私たちは発想の転換をする必要があります。従来のやり方は持続可能ではなく、毎日多額の費用を費やし続けています。だからこそ、ごみを埋立地に回さず、分別してからエコステーションへバイパスさせる取り組みを進めています」
セブ市では、約80あるバランガイ(フィリピンの最小行政単位)のうちすでに25のバランガイで排出段階での分別(セグリゲーション)を開始。学生や市民を巻き込み、回収された生分解性廃棄物は「アメリカミズアブ(Black Soldier Fly)のバイオエコノミー」を活用して幼虫の餌とし、その幼虫を家禽の飼料、そして有機肥料へと循環させている。
また、回収されたペットボトルは機械処理を経て造形・加工用資材として再利用し、使い捨てプラスチックはセメント工場へ持ち込み活用する仕組みを構築しているとのこと。
さらに、横浜市も創設都市として推進しているアジア循環型都市宣言(ACCD)に署名しており、2035年までに持続可能でスマート、かつ包摂的な都市を目指すビジョンを掲げ取り組んでいくと話した。

都市を繋ぎ、連携を下支えする開発パートナーの役割
続いて、アジア開発銀行研究所(ADBI)人材育成研修部 スペシャリストのジョイ・ブレッシルダ・シナイ氏が登壇し、政策立案者や都市行政官向けの研修やオープンなセルフラーニングプラットフォームを通じたキャパシティ・ビルディングの取り組みを紹介した。
シナイ氏「ADBIは、研究部門が発行する出版物やケーススタディの知見をキャパシティ・ビルディングプログラムに翻訳・反映させ、科学的・エビデンスに基づく政策づくりを支援しています。政府の財政資源だけではインフラ投資やサーキュラーエコノミーの課題に対応しきれないため、民間セクターの専門性や金融機関、さらにはフィランソロピー(慈善事業財団)を呼び込むプログラムにも取り組んでいます」
また、都市間ネットワークを通じて、成功事例だけでなく失敗談も含めて学び合い、多様なステークホルダーを巻き込むプラットフォームの重要性を強調した。
一方、独立行政法人国際協力機構(JICA)社会基盤部 次長兼都市・地域開発グループ長の杉田樹彦氏が指摘したのは、近年の国際協力のあり方がより対等なものに変化しつつあることだ。
杉田氏「2015年のSDGs採択以降、国際協力はかつてのような『ドナーと受益国(教える国と教えられる国)』の関係から、より『パートナーシップ志向』のアプローチへと変わってきています。日本とアジア太平洋地域の共通課題に対し、同じ国際パートナーとして先進的な解決策を支援し、共に取り組んでいきたいと考えています」
また同氏は、都市間で知見共有が、同地域・同アジェンダに関する学び合いに繋がる好循環を生む場として、都市間協力を高く評価している。そのうえで、具体的な3つのポイントを強調した。
- 人材育成: 技術協力やハンズオンの知見共有に加え、若い世代や地域リーダーの参画を促し、都市レベルの協力を支える資源となる。
- 民間企業との連携: 強固な都市間協力の基盤があるからこそ、日本企業や大学、公共機関が安心して参画できる。マカッサルでの電動バスに係る横浜企業との協働はその優れたモデルである。
- 地域間ネットワークの拡大: これまでの都市間協力の経験を経て、被援助国がパートナー国となっている今、当該経験をアジア太平洋地域の他都市へ拡大していくことが重要とされている。
最後に杉田氏は、バンコクが気候変動マスタープランを単なる飾りにせず、2035年を見据えた「生きた文書(リビング・ドキュメント)」として日々の実践に落とし込んでいる姿勢を評価。また、セブ市をはじめとする都市と横浜市・JICAがともに構築してきたマスタープラン策定から廃棄物・水資源管理へと続く協力の歴史が、今日のサーキュラーエコノミー推進を支える強固な基盤になっているとして締め括った。

パネルディスカッション:学びから共創、そして実践へ
パネルディスカッションでは、3都市の代表とモデレーターの間で、都市間連携を次のステップへ進めるための具体的なアプローチと課題について議論された。
セブ市のアーチバル氏は、プロジェクトの継続性における最大の課題として「政治リーダーの任期交代に伴う持続可能性の欠如」を挙げた。
アーチバル氏「市長としての任期が終わった後も、プロジェクトを継続させるのは非常に困難です。だからこそ、このプロジェクトの継続を義務付ける条例や法整備を行い、次世代へ確実に引き継ぐ仕組みが不可欠なのです」
マカッサル市のディアンタ氏も、政治リーダーが代わることによる影響を指摘。協力の中核となる部署を常設化してプロジェクトの制度化を図るとともに、地元の大学をパートナーとして組み込むことで、ドナーや国際機関による支援が終了した後も自立的に継続できる体制を作っていると補足した。
また、ごみの分別や環境配慮行動をいかに定着させるかという点について、アーチバル氏は「ごみに価値を与え、インセンティブを付与すること」の重要性を強調。同市では分別されたごみを回収するトラックの運転手や作業員にお米などのインセンティブを支給しており、未分別のごみの回収を拒否する徹底した現場運用を行うことで、住民の協力を引き出しているとのこと。
さらに、他都市が実践したベストプラクティスを再現・横展開するためには、取り組みの成果を「検証可能なデータ」として共有し合うことが不可欠であることが指摘された。また、モデレーターの加藤氏は、日本とフィリピン・タイ間で導入されているパリ協定第6条2項に基づく二国間クレジット制度(JCM)の活用の余地を提示。カーボンクレジットによる収益を、環境保護に取り組む人々へ還元する仕組みづくりが、循環経済の推進に向けたインセンティブになり得ることが示された。
アジア太平洋のサーキュラーエコノミーをスケールさせるために
本セッションは、アジア太平洋地域の都市が直面する環境・気候変動課題に対し、都市間連携が実践的なソリューションとなる可能性を示した。議論の総括として浮かび上がったのは、次の4つの示唆と言えるだろう。
- 単なる模倣から「現実に即した対等な共創」へ: 他都市のモデルをそのままコピーするのではなく、各都市の地域的文脈(海洋都市、気候リスク、財政規模など)に合わせ、パイロットプロジェクトを通じて解決策を共に創り出すアプローチが不可欠である。
- ガバナンスと制度化(持続可能性の担保): 政治リーダーの交代に左右されないよう、マスタープランの「生きた文書化」や、プロジェクト継続を義務付ける条例の制定など、制度的枠組みへの組み込みが長期的な成功の鍵を握る。
- インセンティブ設計と多様なステークホルダーの巻き込み: 住民の行動変容を促すための経済的・物質的インセンティブ(ごみに価値を与える仕組みなど)の導入と、大学・民間企業・国際機関を巻き込んだ重層的なパートナーシップの構築。
- データに基づく知見の共有と資金の多様化: 成功・失敗のデータを蓄積・共有するナレッジプラットフォームの活用と、公的予算に依存しない民間ファイナンスやJCM(二国間クレジット制度)等の活用による資金調達の多層化。
バンコク、マカッサル、セブといった都市が、横浜市や国際機関と共に積み重ねてきた実践は、アジア太平洋地域全体におけるサーキュラーエコノミーと持続可能な都市づくりの未来を照らす確かな道標となっている。
その先で、一方向ではない「対等な」パートナーシップを基盤に、それぞれの知見とファイナンス基盤、そして現場で汗をかく実践者や住民が一体となること。それこそが、アジアの都市がサーキュラーエコノミーを単なる理想論から「実装可能な現実」へと昇華させるためのメカニズムとなるのだろう。
【参照サイト】アジア太平洋循環型都市フォーラム2026(Asia-Pacific Circular Cities Forum 2026)
