2026年6月30日、2024年度の食品ロス量の推計値が新たに発表された。全体で461万トン(前年度 464万トン)、うち事業系食品ロス量は237万トン(同231万トン)、家庭系食品ロス量は224万トン(同233万トン)だった。日本では、2030年度までに食品ロス量を半減させる目標(2000年度比)に対し、事業系については2022年度に達成、新たな60%削減という目標を設定している。行政施策、1/3ルールの見直し、消費者の意識変容、様々な要因が継続的な減少に寄与し成果を上げてきた。しかし、環境負荷や処理費用削減、食品自給率向上、国内外の食料不均衡への配慮などの観点からも、さらなる削減が求められる。

直近では、様々な事業者が課題解決に向けこの分野に参入する。食品ロス削減アプリもその1つだ。

その先駆けであるToo Good To Go(以下、TGTG)は、小売や外食・ホテルなどで余った、あるいは余りそうな商品を半額以下で販売することができるプラットフォームだ。世界21カ国で展開し、累計6億食以上のフードロス*を削減してきた。そのTGTGは2025年、アジア初展開国としてToo Good To Go Japan株式会社(以下、TGTG Japan)として日本に進出し、翌年1月にサービスを正式ローンチ。すでに国内でも登録ユーザー数が50万人を突破し、一時はアプリダウンロードランキングで1位を獲得するなど、想像を超えるスピードで国内に浸透し始めている。

なぜ今、同社は日本市場を選んだのか。サービスを通じて、どのように日本の食料システムに変革をもたらそうとしているのか。Too Good To Go Japan株式会社マーケティング統括 篠原 佳名子さんに話を聞いた。

話者プロフィール:Too Good To Go Japan株式会社 マーケティング統括 篠原 佳名子 さん
Too Good To Go 日本立ち上げの第一号社員として参画し、プロダクト体験設計からブランド・PR・CRM・グロースまで、コンシューマー向け領域全体を統括し、日本市場の立ち上げを牽引。これまでに、無印良品では食品のマーチャンダイジングプロセス変革、OMO推進、ファンマーケティング推進の三本柱を軸に、良品計画での第二創業におけるデジタルとリアルを横断したCX改革をリード。トリドールホールディングスでは海外ブランドの日本上陸支援や、国内外のマーケティングガバナンス強化を推進し、ブランド成長基盤の整備を担った。ライフスタイル領域にて、マーケティング戦略立案から組織・プロセス設計、実行までを一気通貫で推進する、次世代のマーケティングリーダー。

*本記事では、国連食糧農業機関(FAO)や国内公的機関の「食品ロス」のデータや定義を踏まえ、食料システム全体における可食部の廃棄を「食品ロス」、そのうち同アプリが主にアプローチする小売・外食以降の段階における廃棄をTGTGが使用する表現に合わせて「フードロス」として、表現を使い分けて記載しています。

なぜ今、日本に進出するのか

デンマークで誕生したTGTG。ホテルのビュッフェ形式レストランで目の当たりにした食品廃棄物を何とかできないかという若手起業家の問いからスタートした。”WE DREAM OF A PLANET WITH NO FOOD WASTE”というビジョンのもと、さまざまな形で食品ロス削減に向けた事業活動を展開する。

その後、欧州各地、北米、オセアニアへとサービス展開を続けてきた。そして今回の日本。なぜ今なのか。その理由を篠原さんは3つ挙げる。

まず1つ目は、企業の成長プロセスにおいて自然な流れであり、同時に「真の意味でのグローバルカンパニー」になるための必然の選択だった点だ。 「過去10年間で培ったノウハウと実績により、日本のような異なる文化圏でもフードロスを削減できるという自信がつきました」と篠原さんは話す。

2つ目は、日本の「もったいない」精神との相性だ。「『もったいない』は、英語の “What a Waste” とは少し違うニュアンスを持っていますよね。モノを大切に思い、無駄にすることを痛ましいと感じる精神性は、私たちのビジョンそのものなのです」

最後は、食品ロス削減に向けた産官学のアクションが加速していることだ。行政と民間が一体となって動くこのタイミングだからこそ、日本での展開が可能であると確信したという。すでに渋谷区との提携を発表するなど、地域や行政と連携することによる信頼性の獲得と、個人商店を含めた加盟店開拓の強化を急ピッチで進めている。

「自分でおいしい食事を買う選択をしている」というポジティブな体験を

日本におけるマーケティングにおいて、同社が大切にしているコミュニケーションスタイルがある。それは、本国で使われている「You are a hero! (あなたはヒーローです!)」「Fight for food waste(フードロス削減のために戦おう)」「Save food from going waste(食品を救おう、ゴミにならないために)」といった言葉を、日本ではあえて使っていないという点だ。

「食事とは本来、おいしくて楽しいものであるべきだからです。Save などはどうしても『助けてあげる』『してやっている』という感覚になってしまう。日本の文化や状況を考えると、『私はTGTGというおいしい食事を買う選択をしている』という感覚や、それが自分にとってポジティブで地球にもお店にもいいことができたという、ちょっと誇らしい気持ちになってほしいという願いを込めています。だから、Save という言葉は使わず、ポジティブに気軽に取り組める活動であることをメッセージとして打ち出しました」

サステナビリティと食は、本来別のものではなく表裏一体だ。サステナビリティのために食事をしているわけではない。両者が別のものと捉えられると、食が本来持っている豊かさを最大限享受できず、結果として食とサステナビリティが離れていく。篠原さんのこの言葉は、本来の食のあり方や捉え方を代弁しているようだ。

篠原さんは続ける。

「ここで言う『おいしい』には、Delicious(味が良い)、Delightful(楽しい)、Beneficial(有益・お得である)という3つの意味が含まれています。私たちの目的はより多くの人にフードロス削減に参加してもらうことですので、『意識高い系だ』といった硬苦しいイメージをなくして、心理的なハードルを下げて参加できるようなコミュニケーションを意識しています」

利用ハードルを下げるという意味では、TGTG Japanは積極的に「世界No.1 北欧発フードロス削減アプリ」という表現を使う。海外発のブランドに対して慎重な日本の消費者に対し、「みんなが使っている」という安心感を持ってもらうことを意識してのことだという。

TGTGの3つの強みとは?

国内ではすでに多方面からの食品ロスの取り組みやサービスがある。TGTGの強みは何なのか?改めて聞いた。

篠原さんは「私たちの競合はごみ箱」としたうえで、以下の3点を挙げる。

1つ目は、世界中でスターバックスやセブン-イレブンといったグローバル・大手企業との提携実績があり、累計6億食削減というスケール感があること。こうした信頼感を日本市場の事業者との提携にもダイレクトに活かしている。

2つ目は、直感的なUI。10年間の試行錯誤を経てシンプル化された。「TGTGの説明にいろいろと資料をご用意するのですが、触っていただくのが一番早いですね」と篠原さんは言い切る。実際、筆者もTGTGのアプリをダウンロード・利用し始めてみたが、初期登録と実際の利用を含め数ステップで済む。位置情報から店舗を知らせてくれたり、「駅名検索」で店舗を検索できたり、アプリ使用に慣れている方なら難なく使用できそうだ。

3つ目は、「サプライズバッグ」というアイデア。「中身はお楽しみの福袋」とも言い換えられる。これは店舗側への負担軽減の意味合いもある。「おにぎり4個」「パンの詰め合わせ」といった大枠の括りで、その日の余剰を半額以下で出品できる仕組みにした。「鮭のおにぎり1個」「おかか1個」と個別に登録する必要がない。

入口(入荷・製造)の適正化を促し、新たな「出会い」を創出するプラットフォーム

アプリがそもそもの食品製造量や入荷量といったいわゆる「入口」側にどの程度影響するのか。今回筆者が関心を持った点の1つだ。出口で再資源化等の選択肢が強力になることで入口側での適正量が促せないという点は、食分野に限らず今サーキュラーエコノミーが抱えている問題の1つでもある。

篠原さんによると、2つの側面があるという。

1つは、アプリを通じて毎日「サプライズバッグが何個出ているか」がデータとして可視化されることで、店舗側が「どのくらい余剰が発生しているか」を正しく把握できるようになる側面だ。これにより、適切な発注量や製造量へと向かうインサイトが得られるのだという。これは、店舗側の入荷量や製造量を適正化し、食品ロスの発生そのものを入口側で絞り込める可能性を示している。

実際に、TGTG導入店舗であるAubrey Houseプロデューサーの笹岡 恵利子さんは、「日々の余剰状況を可視化しながら販売できるため、廃棄削減だけでなく、製造量や仕入れ量の見直しにも役立ち、より効率的な店舗運営につながっている」と振り返る。

もう1つは、これまで雨など天候によるロス発生リスクを恐れて製造や出品を控えていた店舗が、TGTGという確実な受け皿があることで、リスクを恐れずに製造や入荷できるようになるという点だ。食品ロスを最小化する最適化ツールとしての側面と、適切な事業成長を後押しする側面が、データを通じて両立しているとも見て取れる。ただし、発生抑止への具体的な寄与度については、今後さらなるデータの蓄積と検証が待たれるところだ。

予期せぬ出会いを創出する

TGTGは店舗と消費者の双方に予期せぬ「出会い」を創出するプラットフォームとしての顔も併せ持っている。消費者にとっては、これまで知らなかった店舗との出会いが生まれ、食生活を豊かにしてくれるという。

店舗側にとっても、「普段は来ない学生や若年層が買いに来てくれる」「一度離れてしまった顧客が戻ってきた」といった声が多く寄せられているという。時間と場所の制約を超えるデジタルならではの集客プラットフォームとして機能していると言えそうだ。

同じく導入店舗であるクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社 マーケティング部 佐々木彩花さんは、「TGTGがきっかけで初来店される方が約4割と、新たな顧客層との接点にもつながっています。TGTGで購入して美味しかったから再度来店したというお客様も多くいらっしゃいます」と話す。

実際、筆者も、普段であれば通り過ぎていた店がサプライズバッグを提供しているのを知り赴いたところ、至極の味を堪能できた。以来、サプライズバッグの有無にかかわらずその店舗へ足を運ぶようになった。大げさに言えば、この新たな出会いは確かに筆者の食生活をより豊かにしてくれた。

アプリを入口に真の行動変容を

TGTGはアプリを入口の接点として、消費者が自身の食品ロスに対する理解を深め、責任ある消費行動へと変容を促すことを目指している。

「アプリでは環境削減効果を可視化できます。ですが、最初は『お得』というところから関心を持ってもらい、使い続けると『なんかよいことをしているのではないか』という誇らしいハッピーな気持ちになり、自分の生活や身の回りのことを見直すきっかけになってくれればと思います」

グローバルでは「Look(見て), Smell(臭いを嗅いで), Taste(味わって)」というタグを入れてもらう取り組みを行っている。今後日本に合う形態で同様の展開を目指している。

「多くの人が、賞味期限と消費期限の違いを曖昧にしたまま、賞味期限が切れたら捨てなければならないと思い込んでいます。身の回りにある食品の状態を自分の五感で確かめながら消費すること、買い物時に値引き商品やToo Good To Goの商品を日常的に選ぶこと。それこそが、私たちが目指す真の意味での行動変容です」

「売るか、捨てるか」の二択ではなく「再分配」という第三の選択肢へ

少しずつ食品ロスへの意識は高まる日本だが、これまでは主に「売るか」「捨てるか」の二択だった。ここに、「再分配(シェアリング)」という第三の選択肢を確立することがTGTG Japanの使命だという。

「今、小売や外食では売るか捨てるかがメインの選択肢になっています。そこにフードシェアリングという良い言葉があります。再分配するということですね。日本には、まだまだ美味しいものをおすそ分けしようという文化もあります。そこで、「今日ちょっとこんな商品が余ってしまって、みんなに試してもらいたい、おすそ分けしたいからTGTGを使う、という選択をしていただければ嬉しく思います」

意識を行動に移しやすい仕組みとして、デジタルを介したプラットフォームがメインの選択肢として浮上するーーそんな絵姿を描いているということだろう。

「目の前のお客様に売るか捨てるかではなく、デジタルを通じて再分配することで日本の流通のあり方が変わるのではないでしょうか。リアル店舗はその地域の商圏で商売しているが、デジタルが時間と場所を超えることができる。こんな食品があったらどうだろうかというオファーができることで、お客様も豊かになり、店舗にとっても販売する相手が変わってくる。再分配するという第三の選択肢が商品に与えられることで食料システムが変わるといいなと思っています」と篠原さんは結ぶ。

TGTGは一義的にはフードシェアリングを身近にするいわゆる食の下流側に位置するサービスでありながらも、食料システム全体の循環化にも寄与できるポテンシャルを秘めている。製造や入荷といった「入口側」への働きかけ、持ち帰り時の容器包装をめぐる循環のあり方、そして消費者への意識変容の促しなど、同サービスがこの分野にもたらす可能性のあるインパクトは多岐にわたる。国内の食品ロス削減が新たなフェーズに向かう今、TGTGは国内の食流通と消費行動を繋ぐ第三の選択肢として1つの社会インフラとなるか、その真価が問われることになる。

※本文中のすべての画像:Too Good To Go Japan 株式会社提供

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【参考】事業系食品ロス量(2024年度推計値)を公表 農林水産省