カーボンロックインとは?
カーボンロックインとは、経済や社会が化石燃料を中心としたエネルギーやインフラに依存し、それが将来的な脱炭素化を妨げる状況を指す。この状態が続くと、再生可能エネルギーや低炭素技術の導入が遅れ、気候変動対策の実現が困難になる。
背景には、長年にわたって築かれた化石燃料を基盤としたエネルギーシステムの広がりがある。インフラや設備は一度設置されると長期間使われるため、これが温室効果ガス(GHG)排出の固定化を招き、持続可能な社会への移行を遅らせる要因となる。技術的、経済的、制度的要因の組み合わせによって生まれる現象であり、カーボンニュートラルの達成を妨げる。
このカーボンロックインという概念と言葉は、1999年に米タフツ大学のフレッチャースクールで国際環境および技術管理を研究していたグレゴリーC.ウンルー氏が生み出した。ウンルー氏は自身の博士論文「エスケープカーボンロックイン」で、産業経済が化石燃料技術に固定されており、カーボンロックインが持続的な市場と政策の失敗を引き起こしうること、また環境および経済的な利点がある炭素節約技術の普及を阻害する可能性があると主張した。
カーボンロックインが起きる仕組み
技術的な要因(インフラと設備)
エネルギー生産や輸送、利用のために構築されたインフラは、基本的に化石燃料を基盤としている。発電所、ガス管、石炭採掘施設といった設備は、莫大なコストと時間をかけて設置されたため、これらを簡単に置き換えることが難しい。また、新技術を採用するためのインフラが整っていないことも、移行を阻む要因となる。
経済的な要因(コストと投資の回収)
化石燃料を利用する施設や設備に巨額の投資が行われてきたため、それを回収しようとする動きがカーボンロックインを引き起こす。企業は既存設備を使い続ける方がコスト的に有利であるため、新たな低炭素技術への投資を躊躇する。また、安価な化石燃料は短期的な利益を優先する企業や国の政策にも影響を与えている。
社会的な要因(習慣や政策の影響)
人々の生活習慣や企業のビジネスモデルも、化石燃料への依存を強める要因となる。たとえば、自動車やエアコンの利用、輸送手段の選択が化石燃料を前提としていることが多い。また、政策の不整備や短期的な視点に立った政治的判断が、カーボンロックインを強化する場合もある。
カーボンロックインの具体例
化石燃料に依存したエネルギーインフラ
石炭火力発電所や石油精製施設などは、典型的なカーボンロックインの例。これらの施設は建設から運用終了まで数十年単位で稼働するため、新しい再生可能エネルギー技術に置き換えるのが難しい。たとえば、新興国ではエネルギー需要の増加に対応するために、依然として石炭火力発電所が建設されている。
自動車や交通システムの事例
化石燃料を使用する内燃機関車が広く普及しており、それを支えるガソリンスタンドや整備工場といったインフラも整備されているため、電気自動車や水素自動車への移行が進みにくい。また、公共交通機関が未発達な地域では、移動手段として自動車に依存することが多く、これがカーボンロックインを助長している。
建築物と住宅のエネルギー消費
住宅や商業施設で使われる空調、暖房、照明などのエネルギー消費も、カーボンロックインの一因。既存の建物は、エネルギー効率が低く、化石燃料を利用するボイラーやヒーターに依存している場合が多い。建物の改修や再設計には多大なコストがかかるため、新技術の導入が進みにくい。
カーボンロックインがもたらす影響
まず、カーボンロックインは間違いなく温室効果ガス排出削減への障壁となってくる。カーボンロックインは、既存の化石燃料ベースのシステムが維持されることで、温室効果ガス排出削減を大幅に遅らせる原因となる。この結果、国際的な排出削減目標の達成が難しくなる。
さらに、既存のシステムに依存し続けると、将来的に技術革新が遅れ、経済全体で競争力を失うリスクがある。また、気候変動による被害が深刻化すれば、その復旧や対応コストが増大し、経済的な負担が重くなる。
また、気候変動の進行により、洪水や干ばつ、異常気象といった影響が拡大する中、カーボンロックインは必要な対策の遅れを引き起こし、被害を増幅させる要因にもなる。
カーボンロックインを防ぐために
まず必要なのは、技術革新だ。太陽光や風力などの再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、スマートグリッドといった低炭素技術を導入することで、化石燃料への依存を減らすことができる。技術革新に投資を集中させ、既存のインフラを徐々に置き換えていくことが重要である。
さらに、カーボンプライシングや規制も重要になってくるだろう。炭素税や排出量取引といったカーボンプライシングは、化石燃料に依存することのコストを明確にする手段となる。また、再生可能エネルギーの普及や低炭素技術の導入を促進する規制や補助金政策も有効だ。
最後に、消費者行動と社会の意識改革も必要とされる。個々の消費者が再生可能エネルギーを選択することや、電気自動車を購入する行動が、カーボンロックインを打破する力となる。教育や啓発活動を通じて、社会全体の意識改革を促進する必要があるのだ。
【参照サイト】Understanding carbon lock-in
【参照サイト】Carbon lock-in toolkit
【参照サイト】Gregory C. Unruh
【参照サイト】Carbon Lock-in Curves and Southeast Asia: Implications for the Paris Agreement
【参照サイト】Carbon Lock-in Curves and Southeast Asia: Implications for the Paris Agreement
【参照サイト】Assessing carbon lock-in
【参照サイト】Future CO2 emissions and climate change from existing energy infrastructure
(※こちらの記事は、IDEAS FOR GOODの用語集「カーボンロックイン」を転載しております。)
