デ・グロース(脱成長)とは
経済的成長を目指すグローバルな資本主義が人的搾取や環境破壊を生むとして、それを批判する考え。経済成長を強く信仰する現代消費社会の価値規範そのものを問い直し、資本主義の世界の中で疎外されてきた、経済以外のものに価値を置いた生活を再評価・模索すること。
21世紀の初頭から南ヨーロッパを中心に広がった新たな思想運動でもあり、フランスの思想家、セルジュ・ラトゥーシュらによって消費社会のグローバル化による生活の質の悪化を是正するための、様々な理論や実践が提唱された。
大胆な再分配やグローバル経済における物質の削減、ケアや連帯、自治を共通の価値とすることで、これまでの大量生産・大量消費の様式から、生態系のウェルビーイング(幸福)を優先させた、よりサステナブルでローカルな経済・政治活動への移行を目指す。エコロジカル・フットプリントなどの環境負荷の削減、不平等や排除などの社会的不公正の是正が提案される。
「持続可能な脱成長」が実現された社会においては、物質的なモノの蓄積は人々の中での主要な価値とみなされず、効率性よりも充実性、テクノロジーの革新だけでなく、人々が生き生きと、シンプルに生きるための技術や社会的革新が追求される。
脱成長の「8つの再生プログラム」
脱成長において重要視される「ローカリゼーションへの移行」に必要なプロセスを8つの段階にしたものが、ラトゥーシュによって提案された以下の「8つの再生プログラム」だ。
- 再評価:これまでと異なる価値観を再評価すること。例えば、競争よりも協力、消費よりも社会生活、合理性よりも思慮深さを優先させる新たな考え方を認めること。また、自然と人間の調和を目指すこと
- 概念の再構築:価値観を変革し、新たな概念で未来を構想すること。大量消費を賞賛するような考え方から、自然がリジェネレーションする速度以下の消費速度に抑えるべきとする価値観への転換などを意味する
- 社会構造の再転換:新たに構想された社会の価値に基づき、社会構造や社会関係を調整すること
- 再分配:公正な社会実現のため、社会関係の再構造化を通じて,再分配を行うこと。 階級間、世代間などのの各社会の内部に加え、富及び自然資源へのアクセスの分配も含む
- 再ローカリゼーション:経済活動だけでなく政治的、文化的な決断を地域規模で実行、地域のガバナンス能力を高めること。商品と資本の移動を必要最低限の範囲に制限し、資源の消費を抑制することで地域が潤うことが前提にある
- 削減:自然環境や社会関係に対する負荷を削減すること。資源の浪費を可能な限り減らす他、エコロジカル・フットプリントや不平等などをなくすこと、保健衛生上のリスク削減や労働時間の削減なども目的とされる
- 再利用:周期的な破棄を止め、地域の人材や資源を再利用すること
- リサイクル:再利用不可能な廃棄物をリサイクルし、次世代に持続可能な生存基盤を残していくことを目的とする
人や自然との「関係性の再構築」
新型コロナウイルスのような感染症や自然災害など、緊急時になくてはならないのが「人とのつながり」。困っているときに助け合うことができる関係性が構築されていなければ、緊急時に孤立してしまう。そんな時、持っているお金やモノは役に立たない。
デ・グロース(脱成長)において大事だとされるのが、人間や自然との共生の大切さを認識し関わり、人としての感性を「取り戻す」こと。この考え方は、経済や立場などの成長を追求するあまりなおざりにされてきた「人との関係性の再構築」、またこれまで経済活動のために身勝手に破壊してきた「自然との関係性の再構築」のためのヒントとなるかもしれない。
【参照サイト】What is degrowth?
【参照サイト】Research and Degrowth
【参照サイト】セルジュ・ラトゥーシュの「脱成長」理論について
【参考文献】中野佳裕(2017)『カタツムリの知恵と脱成長』コモンズ
(※こちらの記事は、IDEAS FOR GOODの用語集「デ・グロース(脱成長)」を転載しております。)