グリーンハッシングとは?
グリーンハッシングとは、企業が、自身の環境への取り組みについて公表することを控えること。
環境問題への社会的関心が高まる中、企業のブランドイメージを保つために、科学的根拠のないサステナビリティの目標を設定したり、取り組みを誇張したりする「グリーンウォッシング」。このようなグリーンウォッシングを行う企業に対して、近年メディア等から厳しい目が向けられるようになった。しかしその影響を受け、環境への取り組みを主張しない「グリーンハッシング」を選択する企業が増えているのだ。
加速する企業の環境問題への取り組み
企業の環境問題への取り組みは、年々加速している。ネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の目標を掲げる世界12か国の大企業約1,200社を対象に、2022年に環境コンサルティング会社サウスポール社が実施した調査によると(※1)、
- ほぼ全ての企業が科学的根拠に基づく排出量削減目標を掲げている、もしくは来年掲げる予定
- 調査対象企業の約4分の3が、ネットゼロのための予算や人員を増加している
のだ。
しかしその一方で、
- 調査対象企業の約4分の1が、ネットゼロ目標を達成するためのマイルストーンについて、社外に公表しない予定
- 日本企業の約5分の1が、科学的根拠に基づく排出削減目標を掲げているにもかかわらず、社外に公表しない予定
だという。
なぜ企業はグリーンハッシングを選ぶのか
脱炭素化に向けた取り組みが広がる中、なぜ目標やマイルストーンの公表に消極的な企業が増えているのだろうか。理由として、以下が挙げられる。
- 環境問題への取り組みに関する報告に対し、「グリーンウォッシングだ」と批判または中傷されることへの恐れ
- 環境問題に対する活動目標を達成できない場合、批判または中傷されることへの恐れ
- 環境問題に関する企業報告に対する当局等による監視や取り締まりの強化
- 報告規則や基準が流動的な中で、社外公表を行うことへの企業側のためらい
- 誤解を招く企業報告に対する訴訟の事例
訴訟の例として、米銀大手バンク・オブ・ニューヨーク・メロンの資産運用子会社は、ESG投資に関する開示が不十分であるとして、2022年に米証券取引委員会(SEC)から150万ドル(約1億9000万円)の制裁金を科されている。
グリーンハッシングの課題
環境問題に対し企業が具体的な目標やマイルストーンを設定し、行動を起こすことは重要だ。しかし、こうした企業の目標や活動内容が社外に発表されないことで、ネガティブな影響が懸念されている。一つは、投資家や消費者が十分な情報を得られず、環境問題に配慮した投資や購入の判断をすることが難しくなることだ。また、他の企業にとっても、参考となる他社事例が不足することで、環境問題への取り組みが遅れたり阻害されたりしてしまう恐れがある。
まとめ
環境問題に取り組む企業が増える中、新たな課題として生じている「社外に目標や活動を報告しない」という企業の選択。正しい情報を投資家や消費者に届けるため、虚偽の報告や過剰なブランディングを取り締まることは必要だ。その一方で、規則や基準が制定途上にある中、報告することへの企業側の負担や不安が増加しているのではないだろうか。より前向きに企業が環境問題への取り組みを社会と共有できるよう、企業の報告に関する基準の整備や、公正に評価するための仕組み作りが求められている。
※1 日本企業の5分の1が科学的根拠に基づく目標について社外に発信していない(サウスポールl)
【参照サイト】COP27の控え目な脱炭素目標、本気度の表れか(The Wall Street Journal)
【参照サイト】米SEC、BNYメロンに制裁金「ESG投資の開示不十分」(日本経済新聞)
(※こちらの記事は、IDEAS FOR GOODの用語集「グリーンハッシング」を転載しております。)