循環経済への移行が加速するなか、製品の設計・製造を担う上流(動脈)と、回収・リサイクルを担う下流(静脈)との連携は、これまで以上に重要性を増している。とりわけ、再生材の「量」だけでなく「質」とトレーサビリティの確保が求められる現在、従来の資源循環モデルは大きな転換点を迎えている。こうした背景のもと、自動認識技術を強みとするサトーと、リサイクル事業を展開するナカダイが出会った。

サトーとナカダイのストーリー

サトーは、バーコードやICタグなどの自動認識技術を活用し、多様な業界にラベルやプリンターをはじめとするソリューションを提供するメーカーで、欧州にも複数の拠点を持つ。同社は、生産者として拡大生産者責任(EPR)の観点から使用済み製品の回収とリサイクルを推進しており、自社製品(BtoB)の資源循環の在り方を模索していた。そんな時、電気・電子機器をはじめ幅広い材料を扱うリサイクル企業ナカダイと出会い、議論を重ねる中で、両社が質の高い資源循環という同じビジョンを共有していると認識することになる。ナカダイは、約90年にわたり廃棄物の中間処理、特にリサイクルに特化する老舗企業である。近年は単なるリサイクルから、より高度な「資源循環業」へと事業を定義し、廃棄物を新たな「素材」として捉え、その安定供給に注力している。

そこで両社は、ナカダイが得意とする精緻解体と、その方法およびトレーサビリティを担保するDPP(デジタルプロダクトパスポート)のPoC(概念実証)を実施した。その成果をもとに海外ビジネス立ち上げをミッションとし、その視野には、ESPR下(エコデザイン規則)で多数の製品にDPPが義務付けられる欧州市場がある。現在両社は欧州を目指し調査に乗り出しており、その一環として、5月にミュンヘンで開催された世界最大級の環境技術をテーマとする展示会IFATを視察した。

※ナカダイにおける「精緻解体」の定義:本稿でいう精緻解体とは、電気・電子廃棄物リサイクルにおける事前選別・事前解体によって、資源価値の高い部品や素材を取り出す工程を指します。他業界で用いられる精緻解体の定義とは必ずしも一致しない点に留意。

循環経済への移行は、単一セクター、単一企業で達成することは困難だ。循環性の推進にはパートナーシップや協業が不可欠であることは、ここ欧州でも多数の業界が認識している。なぜなら、循環経済では、リニア型モデルの経済活動ではほとんど交わることのなかった製品の上流と下流部門や異なる産業セクターが連携することが求められ、それぞれの協力が不可欠だからだ。技術的にも高い専門性が問われる循環経済への移行は、それぞれのバリューチェーン上に位置する企業が自社の持つ技能を持ち寄った協業により、すでに確立された技術を共有・改善することで、循環経済型事業の新市場へ参入するというビジネスモデルが確立されつつある。

EUでは循環経済政策の一環として拡大生産者責任が強化されるなか、自社製品が下流部門で使用済みとなる際の生産者責任はますます重くなっている。これまでは回収義務が主流であった拡大生産者責任制度は、資源の循環性に焦点が当てられることで対象範囲が拡張された。そのため生産者は、自社で生産した製品についてライフサイクルを通じて責任を持つ必要性が問われるのである。サトーはプリンター及びラベル生産者としてこの取り組みに乗り出そうとしており、それには循環経済において必要となる質の高い再生材を目指すリサイクラーの知識や専門性が不可欠である。

循環経済に取り組もうとする製品上流部門と下流部門の企業が、どのような経緯により同地点で出会うのか。こうした興味からCircular Economy Hub 編集部では今回、サトーの平田氏とナカダイの中台氏の欧州視察へ同行取材し、IFAT会場にて二人から話を聞いた。

Q: まずナカダイとサトーが循環経済推進の文脈でコラボレーションに至った背景をお聞かせください。

平田氏:ナカダイと弊社の協業の始まりは2023年に遡ります。当社は自社で製品の企画・設計・製造を行っています。製造業者が自社の製品の資源循環ということを考えていく中で、リサイクルが当然必要となります。しかしながら、当社では対応できないことから、リサイクラーを探していました。そこで偶然中台さんにお会いしたというのが経緯です。当初は、自社の製品の資源循環についてのご相談から始まりました。いろいろナカダイの事業について伺うと、課題が非常にたくさんあることが分かり、もしかすると当社の自動認識技術を活用したソリューションで解決できることがあるのではないかと、お話を持ちかけたのが始まりです。中台さんに賛同いただいたことから、具体的な取り組みを始めることになりました。例えば、廃棄物保管庫の廃棄物保管量をAIを活用して可視化するPoCを実施しました。昨年は当社のプリンターにDPPを付随させ、それによって動静脈連携を推進するPoCも行いました。それ以降、多方面にわたって協議を継続しています。

当社の事業は動脈産業ですが、静脈の領域でもビジネスを展開できるのではないかという考えがありました。ただ我々は静脈産業には精通しておりませんので、そこに存在する課題などについてもナカダイから教えていただきました。

中台氏:我々リサイクラーは廃棄物を処理するだけではなく、素材として販売できるような選別や解体を行います。言い換えれば、廃棄物から素材を生産して顧客に売っているのです。素材を生産するという観点から見ると、廃棄物という素材源がどこの会社からどの程度入ってくるか、選別・解体をするとどのような素材が取り出せるのかを管理しておく必要があります。我々にとって廃棄物は、「ゴミが溜まったら回収する」という感覚ではなく、新しい素材を生み出す原料です。この部分の管理やトレースができるのではないかと、サトーのお話を聞いて考えました。同社からは「もちろんできます」というお返事をいただきました。PoCを実施した延長で、今度は資源循環の文脈として、DPPに紐づけられるのではないかという考えが生まれました。これにはもちろん、今後EUが多数の製品への導入を予定しているDPPが念頭にありました。

EUにおける循環経済政策とそのツールである規制の数々を見ても、廃棄物を処理して新しい素材に作り替えるという流れは、今後はサトーのプリンターにも要求されるのではないか、そして自社の製品がその後どのようになっていくのか、すべてトレースすることが求められる時代に入るのではないかと考えました。そこで、サトーの製品を使用して何ができるのか、あまりコストをかけずに試してみましょうということになったのです。

Q: 今後の展開についてはどのようにお考えですか?

平田氏:DPPを当社の製品に付随させるということが一つあります。ただこれがゴールというわけではなく、我々はDPPを使った具体的なユースケースを開発したかったのです。我々が体感することにより、そのノウハウを外部に提供する。そしてこのビジネスを拡大させていくという方向も見ています。ただ、プロジェクトで一時的にDPPを付けるのと、定常的に付けていくのとではインパクトが大きく異なります。そのため本格的な実装については、さまざまな解決課題もあり、まだこれからです。

DPPのノウハウを外部に提供することで事業拡大する計画については、今後中台さんと一緒に進めることになっています。このことは、今回IFATに来た目的にもつながっています。欧州ではリサイクルにおいて精緻解体が進んでいないという話を聞き、中台さんの精緻解体技術を知ってもらいたいという思いがありました。そこで、実際に世界最大級の環境技術展といわれるIFATに参加し、地元欧州の事情を観察し、関連業者に我々の取り組みを紹介し、フィードバックを得たかったのです。

中台氏:欧州では規制の強化により、回収材料の質を引き上げるために精緻解体が必要となり、解体のノウハウなどのデータを搭載するDPPの実装が不可欠になるはずだと考えていました。そこで、このIFATに来ればこうした動きが見られるのではないかと思ったのです。

Q: 実際にIFAT展をご覧になった後の率直なご意見は?

平田氏:日本とかなり違うというのが率直な感想です。巨大な装置や機械が目立ちます。輸送系のツールや破砕機、回収ボックスなどです。大量処理が前提となることから、「入り口」の部分をまとめてスムーズに処理できるソリューション製品が非常に多いと思いました。

中台氏:欧州で主流である(廃棄物の)量をまず集めてそこから質を整えるというやり方は、私はいま議論されている資源循環という文脈では少し違うと思っています。実際に再生資源を使う生産者は、質を整えた上で(回収材料の)量のスケールを上げていきます。だからまず質が大事になるのだと思います。まず量を集めて、そこからいろいろな機械にかけて最終的に質を整えるやり方をしようとすればするほど、「入り口」は楽になります。しかし、その後のプロセスは複雑になり、多くの設備が必要になるため、コストは増大していきます。

「完全にAという素材」ではなく、「例えば95%程度のものができればよい」というバッファがある状態は、いわゆる従来のリサイクルの世界のロジックです。しかし、これでは品質をしっかり維持するメーカーが使うレベルの素材には適合しないと思います。メーカーは100%に近いAという再生材を求めています。このような顧客に対して、まず量を集めるというロジックは当てはまらないのではないかと感じます。

今回IFAT会場で見た光景は、大量の廃棄物をまず回収し、そこから高精度のベルトコンベアや選別機で回収材料の質を上げていくというものです。もちろんリサイクルとしては悪くありませんが、本当にこれが資源循環の文脈における設備投資なのかという疑問を持ちました。「量」に最も重点を置くリサイクルのやり方を前提とする考え方の人々とパートナーシップを組むことは難しいのではないかという疑問も浮かびました。

精緻解体はコストが合わないとよく言われます。確かに、まず質を追い求めると量が不足してコスト倒れになってしまうという高い壁があります。質にこだわれば一社が供給できる量は少ないかもしれません。しかし、その一社が何十社も集まり、何百社も集まるという連携こそが、資源循環のサプライチェーンの本質ではないかと私は思います。

EUにおけるDPPという制度を考えると、適用は目前に迫っていますが、IFATで出展されている機械が担う回収の仕組みで集められたリサイクル材料にDPPを付与しても、十分に機能しないのではないかとも感じました。その意味では、IFATで大々的に展示されている機械は、EU規制で強化される要件に対して逆方向に進んでいるのではないかという印象さえ持ちました。ただし、この展示会がすべてではないため、別のフィールドでDPPという情報をもとに循環性を達成しようとしている人々とのディスカッションや連携について、まだまだ学ぶ必要があるとも感じました。

Q: 今回の印象では、業界自体がここで考え方を変えなければ循環経済は実現しないということでしょうか?

中台氏:会場でパネルディスカッションを聞いていると、循環経済関連で2030年までにEUで実施される規制が多数あり、業界が取り組まなければならないことが多数あるという話がありました。しかし、この展示会で販売されている設備を2026年に導入した場合、少なくとも2033年までは使用することになります。逆に言えば、少なくとも2033年までは大きく変わらないのではないかと感じました。業界の考え方を変える必要があるのは確かですが、一方で業界自体も変わる理由をまだ十分に感じていないのではないかと思います。これは言い換えれば、メーカーからの圧力もまだ強くないということだと思います。

Q: 今回のお二人の「持ち帰り」は何でしょうか?

中台氏:難しいところですが、これも一つの現実として受け止めています。我々がサトー社と一緒にプロジェクトとして行ったような、丁寧な解体作業によって高品質な素材を回収する事業者を見たかったのですが、残念ながらIFATでは出会えませんでした。しかし、規制の動きに伴い、今後はこうした精緻解体を採用する必要が必ず出てくるはずです。その意味では、我々の技術を欧州に持ち込める機会があるのではないかという希望は持っています。

平田氏:私も一つの現実を把握できたことは非常に意味があったと思います。今回学んだことを踏まえて、次にどのようなアクションを取るのかが重要です。日本は、家電、自動車、容器包装などのリサイクルにおいて20年以上の歴史があり、これは一種の文化とも言えるのではないでしょうか。その中でリサイクル技術は育まれてきました。さらに中台さんはそれを発展させ、精緻解体によって再生材の質を高める取り組みを実践されています。この点をアピールしている出展者は今回のIFATでは見られなかったという意味では、私も中台さんと同じ意見です。そのため、逆に言えば、これは一つの競争力になり得るとも感じました。やはりこの点、すなわち高品質な再生材回収を目的とした精緻解体には、もう少しこだわりたいと思っています。

協業先を探すにあたり、ドイツが本当に適しているのかという点については、今回やや疑問も感じました。国ごとの産業構造や適合性をもう少し詳細に見ていく必要があります。今後はアプローチを調整しながら継続していきたいと考えています。

編集後記

「量より質」。言葉にすれば単純だが、リサイクル産業においてこの転換がいかに根深い構造的課題を伴うか、今回の取材を通じて改めて実感した。

ミュンヘンのIFAT会場に広がる巨大な破砕機や高精度選別ラインは、欧州リサイクル産業の現状を象徴していた。回収量のスケールを追い求めてきた業界の論理は、それ自体として一定の合理性を持つ。しかし中台氏が指摘するように、設備の耐用年数が少なくとも7年を超える中で、2030年前後に集中するEU規制の要求水準に現在の主流モデルが対応できるのかという問いは重い。

一方で、再生材の質向上を目的として精緻な選別・解体を志向するリサイクラー、あるいはその考え方を持つ事業者は欧州にも存在する。むしろその必要性は規制レベルをはじめ業界でも認識されており、様々なプロジェクトも行われている。しかし、需要とコストの壁により主流には至っておらず、特に大型展示会ではその存在が見えにくいのが現状である。また、現行規制では廃電気・電子機器の手解体義務や破砕前選別は主に有害物質の除去を目的としており、高品質な再生材の生産に直接結びついていないことも一因と考えられる。

最大の課題は需要の不在であると現地のリサイクラーは指摘する。また、ある北欧の大手リサイクラーは「業界全体が考え方を変える必要がある」と述べる。単なる循環性ではなく、クローズドループを前提とした高品質再生材という「製品基準」を市場に定着させることができれば、それは主流となり得る。これは、「質にこだわれば一社が供給できる量は少ないかもしれないが、その一社が何十社も集まり、何百社も集まるという連携こそが、資源循環のサプライチェーンの本質ではないか」という中台氏の言葉にも通じる。その実現には規制、市場、顧客といった複数の側面からの強い牽引が不可欠であると思われる。

取材協力:

株式会社サトー海外事業本部キーアカウント推進部タギングエコシステム企画担当部長:平田和也氏

株式会社ナカダイホールディングス代表取締役:中台澄之氏