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インタビュー

新ELV規則で変わる大型車の循環経済。ボルボトラックに聞く循環戦略とバッテリーパスポートへの対応

EUでは、法案の発表から約3年に及ぶ審議を経て、2026年8月に使用済み自動車規則(ELV規則)が発効した。旧使用済み自動車指令を抜本的に見直した新規則は、自動車の設計・製造から使用済み段階に至るまで、バリューチェーン全体を対象とする要件を導入し、自動車産業における循環性の向上を目指すものである。

新規則で大きく改正された要件の一つが、適用範囲の拡大である。従来の乗用車や小型商用車に加え、二輪車やトラック、バスなどの大型車も新たに対象に含まれることとなった(ただし一適用される条件は車両カテゴリーによって異なる)。また、EUでは大型車の電動化も進められており、2027年2月からはEU電池規則に基づくバッテリーパスポート義務が適用となる。電動トラックや電動バスに搭載される駆動用電池もその対象となるため、大型車メーカーには新たな規制への対応が求められる。

一方、大型車は乗用車と比較して製品寿命が長いことから、部品のリユースやリファービッシュ、リマニュファクチャリングが従来から広く行われてきた。また、用途や顧客のニーズに応じて個別に仕様が設定されることも多く、解体・リサイクル工程においても乗用車とは異なる大型車特有の課題が存在する。新ELV規則の下、大型車分野では循環経済への移行がどのように進められるのか。また、電動トラックに求められるバッテリーパスポートへの対応は、どこまで進んでいるのか。

今回、スウェーデンのヨーテボリに本拠を置く大手商用車メーカー、ボルボトラック(Volvo Trucks)を取材、同社の環境・イノベーション部長であるLars Mårtensson氏に、大型車分野における循環経済の取り組みや新たなEU規制への対応、今後の課題について話を聞いた。

既存の循環型ビジネスモデルと新ELV規則の課題

Q: EUが2026年7月に採択した新ELV規則(使用済み自動車規則)では、トラックやバスの車両カテゴリーも対象範囲に追加されました。そのなかで適用範囲にある自動車には循環性を推進する数々の要件が義務付けられます。新規則を踏まえたボルボ・トラックの循環戦略についてお聞かせください。

A: ここ欧州のみならず、世界的にも、循環性推進への注力が見られることは、非常に歓迎すべき動きだと捉えています。EU の規制レベルでも、トラックやバスなどの大型車が循環性を推進することを焦点とする規制(ELV規則)の適用範囲となったことに関しても、当社として大きな前進だと受け止めています。一方で、大型車両における循環性の推進は、決して新しいものではなく、すでに100年の歴史があります。これまでの規制枠外での業界の取り組みをEUの政策策定者が認識し、規制化したことも大きな一歩です。ただ、業界の長期にわたる取り組みにより、当社に限らず一般的に大型車における使用済車両や中古部品の活用、リマニュファクチャリングなどのバリューチェーンがすでに構築され、上手く機能している仕組みが存在します。そのため、これが新規則により損なわれないことが重要だと思っています。

当社の循環戦略では、何よりもトラックを長寿命にすることを重視しています。修理の際には再製造部品を活用します。さらに、中古部品を取り出しやすくし、価値のある材料をリサイクルするための解体も容易にします。当社のこれまでの循環性への取り組みは、新規制が目指すものと同じ方向性です。

Q: 新規則のもとで、具体的にどのような障壁を予想されていますか。

A: 障壁については、 主に二つが挙げられます。一つ目は、技術が急速に発展していることです。コネクティビティ、デジタル化、電動化という点で、まさに大きな変革期にあります。現在生産しているトラックは、数年後には異なる姿になっているでしょう。これは当然、循環性の観点からの管理方法にも影響します。二つ目は、トラックは単に大きな乗用車ではないということです。顧客や用途ごとに仕様が異なります。使用期間中に改造されることもあります。例えば、ごみ収集車用の圧縮装置やコンクリートミキサーなど、さまざまな架装が施されますが、これは私たちメーカーの管理下にはありません。そのため、車両全体を使用済み段階で管理する際に課題が生じる可能性があります。例えば解体についても、オートメーションシステムなど乗用車と同様の方法を採るのは難しい面があります。ただし、程度の差はあっても、さまざまな方法が存在します。そのなかで、循環性を高めるために必要な作業を、より良い工具や一部工程の自動化によってどう支援できるかを検討することが重要となります。今後、部品や材料をどう扱うかを考える上で、人件費は重要な要素だからです。生産者も立法者もこれらの問題を認識していると思いますので、今後何らかの進展があると期待しています。

大型車メーカーとしての電池戦略

Q: 大型商用車の電動化が進む中、ボルボ・トラックは電池の循環性を戦略全体にどのように組み込んでいますか。電池リサイクルに関する具体的な方向性については?

A: 基本的にはトラック全体と同じ考え方です。まず重要なのは、電池の一次使用期間をできるだけ長くすることです。そのためには、電池の使用状況を監視し、寿命が最適化されるように管理する必要があります。その後、電池の健全性(SoH)が車両での使用に適さない状態になった場合には、電池をリファービッシュし、再び車両で使用できるようにする方法を開発しています。具体的には、一部の部品を交換するというような方法です。さらにその使用期間を終えた後には、電池を別用途に転用するリパーパスの方法も開発しました。例えば、定置用蓄電システム(BESS)として利用します。こうしたシステムは、ボルボとして提供しています。最後にリサイクルがあります。当社は、電気自動車を販売している世界各地域で、段階的にリサイクルの仕組みを整備してきました。このように循環型のアプローチを採り、今申し上げたすべての段階に対応するソリューションを開発しています。

Q: これらのソリューションは主に自社内で開発されたのでしょうか?

A: 分野によって異なります。電池のリファービッシュについては自社で技術を開発し、実際に対応する生産・事業体制も整えました。蓄電システムも自社で開発し、顧客に提供しています。一方、リサイクルについては優れたパートナーが必要だと考えています。電池を適切に処理するだけでなく、立法者が求めているように、材料を回収して再利用できるようにすることが重要となり、それには高い専門技術が必要ですから。当社では、世界の各地域で異なるパートナーと協力しています。

Q: 新ELV規則下の使用済み自動車における管理について、破砕前の特定の部品の取り外し義務や、大型車への拡大生産者責任(EPR)制度の導入がもたらす影響をどう評価されていますか?

A: メーカーはこれまで、完成車両の回収、解体、リサイクルには限定的にしか関与してきませんでした。そのため、これは当社にとっても新しい分野です。最善の方法を検討する必要があります。ただし、こうした事業をすでに行っている業界は存在し機能しています。今後、それをどう発展させるかが問題だと考えています。

次に部品の取り外しについてですが、既存のトラック解体業者は、主に中古部品の販売で収益を得ており、加えてスクラップの販売収入もあります。価値のある部品を取り外して販売する市場は、すでに機能しています。その観点から、特定部品の取り外しを義務化することには懸念があります。部品を取り出して供給できるからといって、買い手がいるとは限らないからです。実際の価値を生まない不必要な作業を増やすべきではありません。立法者も状況を監視し、制度がどう機能するかを見ていくと思います。ただ、価値ある部品を取り外してリユースするという基本的な考え方には賛成です。そのためには市場が必要であり、立法者がさまざまなインセンティブによって市場を刺激する方法を考案すべきです。

欧州における大型車の電化の現状は?

Q: EU法制は道路輸送の電動化への移行にも注力しています。ボルボ・トラックの現在の電動化への取り組み状況は?また、御社としては欧州の電動トラック市場の現状をどのように見ていますか。

A: 電動化の状況ですが、欧州全体では、進展が遅すぎます。これは、電動化を可能にする条件が整っていないことが原因です。例えば、電動トラックの総運用コストが従来のディーゼルトラックと比べて十分に競争力を持たないケースがあります。当社はすでにEVトラック(BEV)における豊富な経験があります。8種類の電動トラックを扱っており、これまで世界50か国以上で7,000台を超えるEVトラックを販売してきました。障壁はやはり導入条件でしょう。欧州では、道路通行料金制度があるスイスやドイツ、道路料金と支援制度があるオランダ、インセンティブを設けているスウェーデンなどでは、顧客にとって電動トラックを購入する経済的インセンティブが存在します。そのため、特にスイスではEVトラックの販売台数が大きく伸び、販売に占める割合も高くなっています。実際に普及が進んでいる国もありますが、支援がまだ不十分な国も多く、さらに多くの取り組みが必要です。

Q: 欧州全体の急速充電ステーションの現状はいかがでしょうか。特にトラックのような大型車の電動化に対して、充電設備の整備がまったく追いついていないという業界の声を聞いたことがあります。

A: この問題には、二つの側面があります。これまで販売した約7,000台の電動トラックは、主に事業所の車庫・デポで夜間に充電されており、自社拠点での充電なら費用も安くなります。しかし、今後普及を拡大するには、特に航続距離が最大700キロメートルに達するEVトラックも登場しているため、欧州の主要道路沿いにより多くの急速充電器、将来的にはメガワット級の充電設備が必要です。現在欧州域内の充電整備の速度は十分ではありません。ここには、いわゆる「鶏と卵」の問題があります。トラックがなければ充電インフラへの投資が難しく、充電インフラがなければトラックも普及しません。そこで、こうした現状を改善しようと、当社の最大の競合企業2社と共同で「Milence」を設立しました。この会社を通じて、欧州の主要道路沿いに充電ステーションを整備しています。普及を支えるためには、まだまだ多くの取り組みが必要です。

間近に迫ったバッテリーパスポートの準備状況は?

Q: 2027年2月から適用されるEU電池規則のバッテリーパスポートについて、御社の準備状況を教えてください。

A: 当社ではまず、今後導入される規制を把握した上で、その実施方法を検討するプロジェクトを立ち上げます。今回の場合、どのようなデータが必要か、それをどう利用可能にするか、さらに関連するさまざまな事項を理解することが必要でした。かなり早い段階から取り組みを始めました。来年、法的義務となる時点には対応できる状態になると考えています。私たちはさまざまな理由から、法的な期限より先行して準備することを基本戦略としています。

Q: トラックメーカーの視点から、バッテリーパスポートの開発・実装における主な課題は何でしょうか?例えば、一般的に困難だと言われているサプライチェーン全体におけるデータ取得、管理などについては?

A: 当社がデジタル製品パスポートに取り組むのは初めてのことで、新しい経験でした。ただ我々は早い段階から自発的に準備していたため、一定の優位性があることがわかりました。特にサプライヤーとの協力体制と、IMDS※というシステムを使っていることが役立ちました。IMDSは自動車業界でも利用されており、サプライヤーと協力することで、一定のデータへのアクセスは非常に容易でした。ただし、大きな課題の一つは、当社が大手であることから組織も複雑であるため、設計、調達、生産などの部門を横断して連携し、社内にあるさまざまなシステムを活用する必要があったことです。必要なデータを収集し、その品質を確保できる仕組みを構築しなければなりませんでした。要するに、まず自社がどのデータを持っているか把握することが出発点でした。その上で、部門横断でどう協力し、既存のデータシステムをどう活用するかを検討したのです。

※ IMDS(International Material Data System:国際材料データシステム)は、自動車の製造に使用される部品や材料に含まれる化学物質の情報を収集・管理・共有するための国際的なデータベースシステム。

Q: では、IMDSなどの既存のデータ管理システムが、バッテリーパスポートに必要なサプライチェーン情報の収集に一定の役割を果たしたという理解でよろしいでしょうか?

A: はい、IMDSのおかげで、来年から必要になるデータについては、かなり準備ができていました。ただし、サプライチェーンにおけるデューディリジェンスや、カーボンフットプリント算定のためのデータ取得の難易度を過小評価するべきではありません。この二つは、今後私たちとサプライチェーン全体に多くの作業を求める分野です。特にトレーサビリティや高いデータ品質を確保する必要があります。簡単な部分については準備は終えたものの、難しい課題はまだ多く残っているとも言えます。

カーボンフットプリント要件への対応も複雑ですが、特にデューディリジェンスへの対応は容易ではありません。 電気自動車用電池のサプライチェーンは非常に長く、深い階層まで広がっています。これは自動車業界全体に共通する課題です。当社では、乗用車部門や他のメーカーとも協力し、鉱山に至るまでのサプライチェーン全体のトレーサビリティをどう改善するか検討しています。今後も多数の取り組みが必要です。

Q: Euro 7規則※で義務付けられている環境車両パスポートについての準備状況はいかかでしょうか?バッテリーパスポート開発・実装における経験はどの程度応用できるものでしょうか。

A: 我々の見方では、環境車両パスポートは厳密な意味でのデジタル製品パスポートとは考えていません。少なくとも初期段階では、適合証明書をQRコード経由で電子的に閲覧できるようにすることが中心であり、バッテリーパスポートとの比較でははるかに単純な仕組みです。したがって、特にバッテリーパスポートと車両パスポートの間に大きな相乗効果はありません。

車両については、排出ガス要件などへの適合を示す法定書類を作成する必要があります。その種の書類を、車両パスポートのQRコードを通じて閲覧できるようにするのです。一方で、生産やサプライチェーンなどから新たにデータを収集する必要があるわけではありません。何十年も前から申告してきた情報を、新しい方法で提供するだけです。ただ、EUは将来的に、完成車両全体を一つの車両パスポートで扱うことを検討しているようです。確かに、複数の部分的なパスポートを設けるより望ましいと思います。我々は今後の動きを見守っています。

※ユーロ7規則は、自動車メーカーに対し、車両のCO₂排出量、燃料・電力消費量、電動航続距離、駆動用電池の耐久性などの環境性能情報を記録した環境車両パスポート(EVP)の発行を義務付けている。

編集後記

今回のインタビューの最後に、Mårtensson氏が付け加えたコメントが印象的であった。デジタル化が進む中、重要なのはデータの収集そのものではなく、それをいかに活用し、価値を生み出すかという指摘である。また、地政学的な不確実性が高まる今日、循環経済への移行は、環境負荷の低減のみならず、サプライチェーンの強靱性(レジリエンス)を高める上でも重要性を増しているという。同氏は、こうした移行を支える解体・リサイクル事業者の役割が今後ますます重要になるとし、自動車メーカーが知識や技術、情報の提供を通じて積極的に支援する必要性を強調した。

これらの指摘は、循環経済の実現に向けて、規制への対応にとどまらず、データの有効活用と産業間の連携を通じた新たな価値の創出が重要であることを示唆している。国際標準化の推進も視野に入れながら、従来の産業構造や関係者間の役割を見直し、バリューチェーン全体で協力関係を一層深めていくことが求められるのではないか。

Volvo Trucks 概要

Volvo Trucksは、スウェーデンのヨーテボリに本社を置く世界有数のトラックメーカーである。1927年創業のボルボ・グループ(Volvo Group)の一部門として、中・大型トラックの開発・製造・販売を手がける。世界約130カ国で事業を展開し、2025年のトラック納入台数は約12万台に上る。近年は輸送部門の脱炭素化に向け、電動トラックの開発・普及にも積極的に取り組んでいる。

取材協力:Mr. Lars Martensson, Environmental and Innovation Director, Volvo Trucks 

藤原 ゆかり

藤原 ゆかり

欧州在住フリーライター/リサーチャー。EUの政策・規制、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および調査に携わっている。専門分野:EU環境政策・規制。イギリスの大学院で戦争学、国際関係学を学ぶ。趣味は旅行と油絵。

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