公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は10月1日、事務局を務める「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」の有志企業8社が、日本政府(環境大臣、経済産業大臣)に対し「高度な資源循環を推進するための共同提言」を提出したと発表した。この提言は、サーキュラーエコノミーへの転換を加速させるため、高度な資源循環に取り組む企業が経済的に報われる仕組みの導入を政府に求めるものだ。

提言では、資源循環高度化法などで推進される水平リサイクルやリユースなどの「高度な資源循環」を実行し、一定の基準に達した事業者に対し、経済的なインセンティブを増やしつつ、遵守コストを軽減するための制度構築を求めている。具体的には、容器包装リサイクル法における再商品化費用の支払いにおいて、自主回収分の控除額を割り増しするといった「ボーナス・マルス」の考え方を導入することが提案された。

提言の背景と目的

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」は、企業が主導してプラスチック対策を加速させることを目的として2022年2月に発足した枠組みだ。国内12社が参加し、2025年をターゲットとしたコミットメントを通じてプラスチック問題の早期解決を目指している。

現在、日本では容器包装リサイクル法、プラスチック資源循環促進法、資源循環高度化法、資源有効利用促進法の一部改正など、様々な制度が導入されている。また、EUでは2025年2月に発効する包装材規則(PPWR)のように、海外でも高度な資源循環を求める制度が拡大する見込みだ。

しかし、日本でリユースや水平リサイクルといった高度な資源循環や再生材の利用をさらに進めるには、コスト増が避けられない。一方で、遵守のための手続き負担が増加することや、資源循環に十分に取り組まない企業が相対的に有利になる状況が懸念されている。こうした背景から、有志企業8社は、地球環境の悪化や調達リスクの増大といった社会状況を踏まえ、公益的な観点から日本政府に政策提言を行った。

参加企業からのコメント

キリンホールディングス株式会社の常務執行役員である藤川宏氏は、同社がチャレンジに参画し、プラスチック課題の解決とサーキュラーエコノミーの推進に取り組んできたことを強調した。同氏によると、国内のペットボトルにおけるリサイクル樹脂使用率は、2022年末の8.3%から2024年末には36%に向上したという。その上で、企業の環境対応には共通する構造的な課題があり、コストだけでなく消費者の行動変容や制度整備が循環促進の鍵であると指摘。今回の提言が、サーキュラーエコノミーの各プレイヤーに対し、公平に行動変容を促す法制度の整備につながることを期待していると述べた。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社の代表職務執行者ジェネラルカウンセルである松井さやか氏は、プラスチックを資源と捉え、使用量削減、資源循環、協働を通してプラスチック汚染を終わらせることを目標としていると説明した。同社は国内でもプラスチック使用量の削減、再生プラスチックへの切り替え、使用済み容器の回収などに取り組んでいるが、自社の目標や業界全体のイニシアチブだけでは限界があり、企業努力のみでプラスチックを取り巻く環境を抜本的に変えることはできないとの見解を示した。そのため、法規制やシステム、インフラのより大規模な変革が必要であるとし、今回の提言を通じて水平リサイクル等の高度な資源循環や再生材の利用がさらに進められることを期待するとコメントした。

WWFジャパン自然保護室のサーキュラーエコノミー・マネージャー兼プラスチック政策マネージャーである三沢行弘氏は、環境汚染や気候変動を食い止めるためには、新たな資源の採取を抑えつつ、素材の価値を保ち循環させ続ける必要があると述べた。しかし、プラスチック廃棄物のうち、国内でマテリアルリサイクルされているのはわずか6%に過ぎない現状を指摘。特にリユースや水平リサイクルといった高度な資源循環を推進するためには、企業の努力だけでは限界があるとし、政策を決定する政府に対し、共同提言の内容を踏まえ、環境問題を解決しようと努力する企業が報われる公正な社会の仕組みづくりを期待すると語った。

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」参加企業(五十音順)

  • Uber Eats Japan 合同会社
  • 江崎グリコ株式会社
  • キリンホールディングス株式会社
  • サントリーホールディングス株式会社
  • 株式会社資生堂
  • 日本航空株式会社
  • 日本コカ・コーラ株式会社
  • 株式会社ニッスイ
  • ネスレ日本株式会社
  • ユニ・チャーム株式会社
  • ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社
  • ライオン株式会社

提言書には、上記のうちUber Eats Japan合同会社、キリンホールディングス株式会社、サントリーホールディングス株式会社、日本航空株式会社、株式会社ニッスイ、ネスレ日本株式会社、ユニ・チャーム株式会社、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社の8社が有志企業として名を連ねている。

WWFジャパンについて

WWFは1961年にスイスで設立された環境保全団体で、100カ国以上で活動している。人と自然が調和して生きられる未来を目指し、サステナブルな社会の実現を推進。特に、失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けた活動を行っている。

【プレスリリース】高度な資源循環を推進するための共同提言[PDF]
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