2019年1月、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で循環型リユース容器プラットフォーム「Loop」が発表された。同フォーラムで、Loopを提供する米テラサイクルの創業者でありCEOのトム・ザッキー氏は、P&Gやペプシなどグローバル消費財ブランドのCEOと登壇し、サービスローンチを発表した。CNN、ナショナルジオグラフィック、ウォール・ストリート・ジャーナル、Fast Companyなどの大手紙で取り上げられ、その年のサステナブル分野において最も注目された取り組みとなった。
Loopの仕組みは、テラサイクルがブランドと新たに共同開発したリユース容器を使い、各ブランドが中身を充填して、Loopのプラットフォームを使って提供するというものだ。利用者は容器に対してデポジットを支払い、使用済み容器はデポジットと引き換えに返却する。返送された容器はLoop専用施設で洗浄、ブランドにより充填され、再び消費者の手元へとわたる。テラサイクルが掲げる「捨てるという概念を捨てよう」を実現する最も有効な手段として力を入れてきた。
ローンチ後、テラサイクルの本拠地である米国やカナダ、英国、フランスでオンライン実証実験がスタートし、200以上の主要ブランドを巻き込んだ。米国などでは一時は取り扱う品目数が拡大していた。
そして、日本での展開へ。味の素やロッテなど大手と協業し、拡大への道筋をつけた。当時「現代版の牛乳配達」「廃棄物が出ないリユースシステム」として界隈内外で話題を呼び、リユース文化を持つ日本市場でも馴染むのではと期待された。実証実験では高い関心を集め、実店舗での展開も開始。日本では小売1社・19の実店舗で試験販売が実施され、のちに小売2社・110店舗まで拡大した。
しかし、スケールアップするかに見えた事業は、各国で撤退を余儀なくされた。日本では2025年5月に商品販売終了、同年6月に容器回収が終了し、各国でも事業が停止した。
一方、フランスだけは事業が継続し拡大している。同国では、カルフール等の大手小売と連携し、500以上の店舗で400ほどの品目数を取り扱うまでに成長。
トム・ザッキー氏によると、Loopを構築するために約5,000万ドル(約80億円)を投資したという。フランスではなぜ規模が拡大し、なぜその他の国では事業が停止したのか。今回の経験から何を学び、次に活かしていくのか。ザッキー氏は「5,000万ドルのレッスンと今後の展望」として、来日時の会合で語った。そのレッスンは、リユース容器システムだけの話に限定されない。革新的な循環型モデルをいかに事業的成功へつなげるかという難しさを示すとともに、我々に貴重なヒントを与えてくれる。
容器包装の価値に再着目したことが原点

そもそもLoopは、「容器包装の価値とは何か」を突き詰めた末の解である。「1950年以前、容器はブランドにとって価値ある資産で、耐久性を高めるインセンティブがありました。それ以降、容器は使い捨てになり、結果としてブランドにとってコストになったのです」とザッキー氏は話す。
「容器包装は従来、価値のある資産だった」――その原点に立ち、再び容器包装の価値を最大化することを目指してLoopが各国で開始された。
では、なぜフランス以外の国で事業が停止に追い込まれたのか。ザッキー氏はその障害について赤裸々に話す。
「ブランド側は容器のデザインをリユース用にアップグレードする必要がありました。そうすると、オペレーションを変え、新しい工場を建てないといけない。さらに、使い捨て容器製品と比較して競合優位にもっていかなければなりません」
つまり、ブランドにとって、新たな容器包装開発や設備投資等が必要となることが最大の障害となっていった。その障害を乗り越えたとしても、従来の市場環境のもとでリユース容器を優位に立たせる必要がある。スケールさせるには極めて難易度の高い作業だった。
なぜ、フランスでは成功しているのか
一方のフランスではなぜ成功しているのか。トム・ザッキー氏は、規制と助成金の存在を外部要因として挙げている。
フランスでは「2027年までに市場に流通する容器包装の10%をリユース可能なものにする」という法的義務が課される予定だ。施行に向け、メーカー・小売・包装業界が急ピッチで対応している。さらに、EPR(拡大生産者責任)とリユースが連動しており、リユースに移行するための助成金制度も整っている。規制という強力なドライバーが、フランスでの成功要因となっている。
カルフールなど強力な小売パートナーの存在も大きい。同社は、店内での視認性確保に努め、消費者の認知度が向上。加えて、消費者にとっても「特別な容器の必要がなく、どの参加店舗でも返却できる」という利便性が保たれたことで、普及が後押しされたと同社は分析している。結果、商品数が拡大するとスケールに向けた道筋もつく。1店舗あたり5商品しか扱っていなかった頃は売上も回収率も低い状態だったが、50商品ほどを提供するようになると、売上は急増し、回収率も15%から80%へと大幅に跳ね上がったという。
「消費者の需要だけでなく、あらゆる関係者にとっての規制、資金調達、そしてサプライチェーンの利便性が一致したからです。システムが国レベルで機能しています。使い捨て容器・包装からの脱却を求める圧力が他の国々で高まるなか、教訓は明確です。条件さえ整えば、リユースは一部の特別な解決策ではなく、主流のビジネス手法となり得るのです」とザッキー氏は見解を述べている。
法規制や金銭的支援、利便性、スケールによる規模の経済が、適切なタイミングで噛み合ったといえる。
5,000万ドルの投資から得た3つの原則
しかし、すべての「ボタン」が揃うまで待つことができないのは、どの分野のサステナビリティトランジションでも同じだ。フランスのような外部環境が整っていない国で成功するには、フロントランナーが創意工夫のもと内部ケイパビリティを適用させ市場を立ち上げる必要がある。そこで同社は、初期のLoopの経験から3つの原則を導き出した。
- オペレーションのシンプルさ:バリューチェーン全体において、ブランド・小売業者・消費者にとって、使い捨て製品と同等レベルまで業務プロセスをシンプルに保つ
- 商業的成功:すべてのステークホルダーにとって使い捨て包装と同等以上の販売実績(売上)とコスト効率(採算性)を実現する
- 自由市場のダイナミクス:オペレーションのシンプルさと商業的成功を損なう可能性のある追加的な制約をシステムや関係者に課さない
これらの原則をもとに、同社はすでに耐久性がありリユースに耐えうる「既存の容器包装を活用する戦略」を描いている。ワインボトルやインスタントコーヒーのガラス容器など、シングルユースとしては過剰に設計されているものが対象となる。同社によると、こうした容器は全製品の3分の1に当たるという。これらを活用することがスケールの鍵となる。

「ブランドにとっては、リユース容器バージョンを導入するだけで、数多くの商品をリユース容器へとシフトさせることができます。日本でも香水、スキンケア、酒などリユース向きの容器があり、大きなシフトを狙えます。大きなデザイン変更をしないことで、Plug and Play(筆者注:「繋げばすぐに動く」というニュアンス)が可能です。サプライチェーンの変更や新たな投資の必要がなく、横展開ができるのです。とても手痛かったのですが、これが5,000万ドルかけて学んだことです」
「Plug and Play」と「残存価値の最大化」
筆者も日本での実証実験時に、一利用者として加わってみた。当時、購入点数が少ない場合の商品価格に占める配送料や手数料は気になったものの、手間がかからず、品目数が増えて地域等の条件が合致すればスケールアップできるのではないかという印象を持ったのを覚えている。加えて、B to Bや実店舗など他形態での広がりの可能性も感じた。実際、「リユースでも、感覚としては使い捨て消費と変わらない体験が必要だと思っている」というザッキー氏の思想がLoopに組み込まれていることを実感した。
当初Loopの「売り」の一つであった「ボトルの高級感や機能性」も体感した。新たに開発されたガラスのリユース容器は、部屋に高級感を醸し出させることに成功していた。その高級感や機能性により、容器を価値あるものとして何度も利用させることで、一定期間における容器包装原価を下げようという狙いがうかがえる。
しかし、こうした生活者の感覚とは裏腹に、ブランド側にとっては新たな開発・運用コストとしてのしかかっていた。したがって、Plug and Playの重要性は、外部環境が整っていない条件下でサーキュラーエコノミーに移行する際の一つの突破口となる。
既存のサプライチェーンや設備を変更せずに新しいモデルを稼働させる手法は、リユースに限らず素材や副産物の活用など、サーキュラーエコノミーの多くの場面で見られる。シングルユースやバージン材など安価な既存物と競合しなければならないサーキュラーエコノミーへの移行においては、適正でかつ柔軟な設備投資は特に重要だ。
テラサイクルがこれから採用する新たなアプローチは、サーキュラーエコノミーにおいても重要な「残存価値の最大化」を図るものであるという点も付け加えたい。初期のアプローチでは、コストをかけて新たに開発した容器包装ボトルを何度も活用することであったが、今後はすでにある容器包装が使い切れなかった価値を余すところなく使い切る方向へと舵を切る。

既存物の使い切れなかった価値を抽出し切るメリットは何重にも見いだせるはずだ。 同時にそのメリットは2回目の利用以降すぐに享受できる。環境観点からも、ザッキー氏は「新たに開発された専用容器よりも既存容器を活用するほうが、2回目の利用から即座に効果を発揮するため、環境負荷の分岐点が低くなる」と話している。
「英国で再チャレンジ。願わくば日本に戻ってきたい」
ザッキー氏は会合を通して、「失敗」という言葉は一切使わず、代わりに「レッスン」と表現した。そこには、学生時代にミミズ堆肥をきっかけにテラサイクルを創業したザッキー氏の開拓者精神が現れている気がする。
今後、まず英国で既存の容器包装を活かしたリユースシステムで再チャレンジし、そこで得た知見をもとにまた日本市場に戻りたいとザッキー氏は話す。既存容器包装のリユースをしていくにしても、規制面等の壁が存在するだろう。しかしこれらをクリアできれば、ブランド側にとっては導入ハードルが下がり、循環を重ねるごとにコストが低減して消費者に還元できる可能性も秘めている。
もともとLoopは、既存の使い捨て包装文化を革新すべく立ち上がった挑戦だ。ザッキー氏が語った「リユースの問題は消費者に起因しない。いかに企業を動かすかだ」という言葉通り、企業の参入障壁を下げようとするアップグレード版Loopが、どんな姿で日本に戻ってくるのか。その再挑戦の行方を注視したい。
冒頭の写真:トム・ザッキー氏(筆者撮影)
【参照】Loop with Carrefour, along with a Coalition of Brands and Retailers, has Reached Commercial Scale in France, Demonstrating That Reuse Can Work Across All Packaged Goods Categories (テラサイクル)
【参照】In France, you can get your groceries in returnable packaging. Here’s why the Canadian pilot failed (CBC Radio-Canada)
