Circular Economy Hubを運営するハーチ株式会社は、三井住友信託銀行株式会社と連携し、花王株式会社が宮城県石巻市において10年間取り組んできた「石巻リサイクリエーション」の成果の可視化に取り組み、その結果を「インパクトビジョン」としてまとめて発表した。
製品パッケージ等の資源循環を実現するうえで、地域コミュニティの巻き込みは欠かせない要素となっている。その先進的なモデルケースとも言える石巻での取り組みは、地域にどのような変化をもたらしたのか。
本記事では、1月29日に石巻市で開催された「いしのまきSDGsシンポジウム」での発表内容をもとに、単なる「ごみの回収量」にとどまらない、資源循環活動が地域にもたらした社会的インパクトの全容をレポートする。
なお、このインパクト可視化プロジェクトは、環境省「令和7年度地域の資源循環促進支援事業」の一環として花王および石巻市が採択者となり、サステナブルデザイン工房、三井住友信託銀行、ハーチ株式会社が連携して実施したものである。

「リサイクリエーション」10年の軌跡と可視化の背景
「リサイクリエーション」とは、「リサイクル(再生)」と「クリエーション(創造)」を組み合わせた花王による造語である。使用済みつめかえパックを回収し、再生利用することで新しい価値を生み出す取り組みとして、同社が全国の自治体やNPOと連携して進めている。
石巻市では、一般社団法人サステナブルデザイン工房との連携のもと2017年に活動が本格始動した。2025年末時点での回収総量は約9,600kgに達し、年間推計6,500~7,000人が参加する地域に根差したプロジェクトへと成長している。
シンポジウムに登壇した花王株式会社の高村玲那氏は、「10年間積み重ねてきた活動の成果を、きちんと言語化して皆さんに伝えたいと思った」と、今回のインパクト可視化プロジェクトの背景を語った。

可視化にあたっては、昨年10月に地域で活動する20名以上の関係者を集めたワークショップを実施し、11月には110名を対象としたアンケート調査を行った。定性・定量両面から情報を収集し、専門家の知見を交えて「インパクトロジックモデル」として整理。さらに現地のデザイナー・近江優花氏の協力を得て、10年の軌跡をまとめた「インパクトビジョン」へと落とし込んだ。

市民主体で広がる循環の輪と、波及する社会効果
シンポジウムでは、地域に生まれた具体的な変化について関係者から報告が行われた。
現地で長年活動を推進してきたサステナブルデザイン工房の押切珠喜氏は、活動の広がりについて「子どもが環境のことに積極的に取り組むと、保護者や家族も自然と協力してくれ、そこから地域全体の動きにつながっていった」と振り返る。学校での回収ボックス設置から始まった活動は、年間約30回の環境授業へと発展。さらに大学や自治会との連携、地域団体「巻con.」の設立、そして環境省グッドライフアワードの受賞など、多方面への波及効果を生んでいる。
石巻市 市民生活部 廃棄物対策課の佐々木拓弥氏は、「市としては回収拠点の設置などを支援してきたが、主体的に動いてきたのは市民の皆さんだった」と強調する。約9,600kgという回収総量は、市の処理費削減効果として約37万円相当と試算されており、行政主導ではなく市民主体で拡大したことが「石巻モデル」の特徴の一つといえる。
「環境と経済」の間にある「社会」の価値を評価する
プロジェクトにおけるもう一つの重要な視点が、社会的価値を数値やロジックで示す「インパクト評価」をベースとした考え方である。
三井住友信託銀行 サステナビリティ推進部の小中洋輔氏は、「“いい活動だったね”で終わらせないために、数字にこだわった」と語る。現在の参加率は人口比で約5%程度であり、「まだ広がる余地がある」という客観的な示唆が得られた。同時に、「地域課題とつながっていると実感した」「住む人の元気や自信につながっている」といった参加者の生の声も紹介され、数値と声の両面から立体的な評価を試みている。
ハーチ株式会社 代表の加藤佑氏は、今回の取り組みの核心を次のように分析した。
「サーキュラーエコノミーにおいては環境と経済の両立が難しいとよく言われるが、その間にある“社会”の価値を可視化することが鍵となる。つめかえパックの回収という『環境』の取り組みが、教育、世代間交流、地域ネットワークの形成といった『社会』の価値を生み出し、それが結果的に回収量の安定や資源価値の向上という『経済性』につながっている。社会を媒介にして経済性が生まれるというモデルを、石巻は示している」
「石巻モデル」を次の10年、そして全国へ
シンポジウムの翌日には、市内の小学校や公共施設など4か所の回収拠点へ、完成したインパクトビジョンのポスターとパンフレットを直接届けた。活動の成果を地域に還元し、さらなる参加を促す狙いがある。

花王の齋藤明良氏は、「一企業だけでは達成できず、地域の皆さんと未来を創りたいという思いがあったからこそここまで来られた。水平リサイクル技術の進化や製品化も、地域の協力なしには実現できない」と述べ、「この価値を共通言語にして、他地域にも展開していきたい」と今後の展望を語った。
単なる「資源循環」の仕組み構築から始まり、地域住民のシビックプライドやネットワークを育む「地域循環」へと昇華した石巻リサイクリエーション。今回のインパクト可視化は、10年の集大成であると同時に、他の自治体や企業がサーキュラーエコノミーを地域社会へ実装し、次の10年へと向かうための重要な道標となるだろう。
【参照サイト】石巻市でのリサイクリエーションのインパクトを可視化し「クロマツビジョン」として発信(花王株式会社)
【参照サイト】花王株式会社「リサイクリエーションの取り組み」
【参照サイト】環境省 令和7年度 地域の資源循環促進支援事業「循環型ビジネスモデル実証事業」





