Circular Economy Hubを運営するハーチ株式会社は、東京都の多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の令和5年度採択事業者として展開する、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム 「CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラー・スタートアップ東京)」を運営。本特集では、プログラム参加者の取り組みをご紹介します。

家事代行のマッチングサービスを開発する株式会社Bluebird。サービス内容は掃除や料理などに限定せず、働きたい人がやってみたいメニューという視点でのサービス提供を検討している。家事サービスを提供するスタッフは、吃音症の当事者であるという特徴を持つ。吃音症を持つ人達が、楽しみながら働く機会を創ることを第一の目標として掲げる同社の取締役 須藤簡子氏に、家事代行マッチングサービスを通じて吃音症当事者の生きづらさを解消することを目指す会社のビジョン、立ち上げの背景などについてお話を伺った。

須藤氏はCircular Startup Tokyoに参加し、当初は資源循環を意識した家事代行サービス構築に勤しんでいた。しかし、メンタリングの中で、自分が本当にやりたいことは何なのかを問われる。結果、吃音症に特化したサービスを展開することを決意。狭い意味での資源循環サービスからは離れたが、ケアの循環をデザインするという意味で、循環型社会に貢献していくという。

2025年3月に開催されたCircular Startup Tokyo 第2期の最終デモでは、キックオフ、中間デモからの事業計画の進化が評価され、三井住友信託銀行賞を受賞している。

須藤簡子氏 株式会社Bluebird 取締役 

宮城高専専攻科卒業、半導体メーカーに研究職として就職、同時期に夫が吃音症を苦に退社、医学部を目指す夫の時々出なくなる声の代わりになろうと看護師免許を取得。病院勤務のかたわら、夫を支えるため吃音症の自助グループを立ち上げる。2022年11月に整理収納アドバイザー取得を期に、家事代行業へと転職、2025年3月吃音症の就労支援を目的としたBluebird株式会社(家事代行業、清掃業)を創業する。

吃音症当事者が抱える生きにくさを知ったことが、彼らの就労を支援する事業立ち上げのきっかけに

須藤氏:私の夫が吃音症の当事者で、生きにくさを抱えていたことがきっかけとなり、吃音症当事者の自助グループを立ち上げました。自助グループを立ち上げて運営をしていて感じたのは、突き詰めて考えていくと吃音症の大きな困り事とは、就労にあることに気づきました。それからは、何か就労の支援ができないかという考えが常に浮かぶようになりました。

その後、吃音症で仕事に困っている方の就労場所を確保できないかと、当時、資格取得したばかりの整理収納アドバイザーとして事業を立ち上げました。ある時、不動産会社より物件の内覧前の片づけ業務を受注した経験から、家事代行にまで業務を広げるようになりました。家事代行サービスでは、外国人のお客様と翻訳アプリでやり取りする機会があり、この経験から発話に困難がある吃音症当事者の就労機会につながるのでは、というアイデアにつながっていきました。

自助グループの運営で吃音症に対する理解・知識を持つようになりましたので、サービス提供者として吃音症当事者の方々と連携をとっていきたいと考えております。生きにくさを抱えているのはもちろん吃音症当事者に限りません。私自身も当事者家族として生きづらさを抱えて生きていたひとりです。これは吃音症に関わらずだと思うのですが、家族として、心から思うその人の苦しみと向き合うことはとても恐ろしかったです。代わってあげたいという思いが湧いても代わることができない苦しみ、家族には家族の苦しみがあるのだと感じています。だからこそ、私は当事者だけでなく非当事者すべてを包括する、社会で生きる一人ひとりの方にインクルーシブ社会実現に向けての当事者意識を持っていただきたく、小さな一歩を踏み出せたらと考えています。

就労体験をさせてもらうかわりに、サービスの料金を抑えた設定に

須藤氏:吃音症当事者が、特別に家事遂行スキルが高いという特徴を持っているわけではありません。スタッフが就労体験をさせてもらう代わりに、価格は他の家事代行サービスと比較して抑えられるという点が、サービスをご利用いただくお客様にとっての大きなメリットになると考えています。一般的に家事代行サービスは2時間以上のメニューが多いのですが、当社では30分という短い単位で発注できるという特徴があります。アイロンがけなど、30分かからないようなメニューを複数組み合わせてご利用頂くことも可能です。価格は30分で2,000円の予定です。

この価格設定では業務を提供するスタッフにとってはあまりタイムパフォーマンスが高いとは言えないのですが、そもそも困りごとを抱えている方々にとっては就労に対するハードルが高く、低いハードルで就労の経験機会を創ることが大切だと考えています。サービス提供者(スタッフ)に対しては、収益を上げることよりも仕事をする体験(成功体験)を提供したいと考えています。現時点では、社会人2-3年目の若年層など就労をよりリアルに感じている世代の方々を対象に始められたらと考えております。

サービス開始に向け、5月中旬にスタッフが利用者宅を訪問し実証実験が行われた

吃音症の特徴として、発話のタイミング障害があります。大勢の人がいる環境で発話が困難になりやすい方でも、個々のお客様に寄り添うタイプの就労は発話のタイミングがとりやすく、接客に対するハードルが下がるのではないかと考えています。サービス提供者(スタッフ)と利用者(お客様)とのマッチングの際は、合理的配慮に理解のある利用者を選び、また提供者の得意とするスキルと利用者のニーズを考慮してマッチングを行いたいと考えています。

2025年3月に行われた Circular Startup Tokyo 第2期の最終デモでは、三井住友信託銀行賞を受賞

他者の生きにくさを理解し、受け取ることのできる社会に

須藤氏:吃音症という発話障害は目で見ることができません。それ故に、症状が出ていても無音なだけで、周囲は「言いたくても言えない」という状況に気づくことができません。そのため、吃音症とは周囲に理解が得にくく、無理解や誤解の積み重ねが、当事者にとっては大きなストレスになっているケースが多くあります。吃音当事者の方は、人口の約1%いると言われています。日本の人口から考えると、120万人いると推定されています。吃音は見えないだけで、もしかしたら身近な方にもいるかもしれません。このサービスを利用していただくことで、結果的に吃音症自体の認知・理解の促進を深めることになると考えています。

周囲から見たらちょっとした発話の難しさのように感じられても、当事者が苦しいと感じているのであれば、それはただ可視化されていないだけで、自分が体感してみないとわからない「実在する苦しみ」として受け取られる社会であるとよいと思っています。人が抱えるストレスの根源は対人関係と言われております。1対1の関係の改善、家族や仕事、友人の関係、相手の背景を理解することが、個人にとっての本来の心のゆとりにつながります。サービスをご利用いただくなかで、相互理解の過程を体感していただき、その積み重ねがインクルーシブ社会実現へとつながっていくと考えています。当たり前すぎて気づかれていないことですが、個人の決断の積み重ねが、「社会」を生み出しているのは紛れもない事実です。ゆとりある個人の決断が、循環型社会への配慮へとつながっていくということ、つまりは、個人の心のゆとりなしには、循環型社会はつくれないのではと考えております。

取材後記

「循環型社会」においては、物質的な意味での資源を効率的に利用し続けられる社会を意味する場合が多いが、解釈を広げると人の気持ちやケアの循環が基盤となる。

人材・人財という、より大切な存在も”資源“と考えると、人が持つ特性や能力などを循環させることの重要性が際立ってくる。ある能力やスキルを持っている人と持っていない人、時間や体力が潤沢にある人とそうでない人、補い合うことができれば、人と人とのつながりがよりよい循環を生み、豊かな社会につながっていくだろうという可能性を考えた。

【公式サイト】Bluebird

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