*本コラムは、アミタが運営するオウンドメディア「未来をおしえて!アミタさん」とのサーキュラーデザインに関するリレーコラムとしてお届けします。
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サーキュラーエコノミーの「主役」はコミュニティへ
―サーキュラーエコノミーの社会的価値やウェルビーイングとの関係性を考えるうえで最も良いテーマは、やはりまちづくりではないかと思っています。アミタさんは様々な自治体と取り組みをされていますが、改めてサーキュラーエコノミーとまちづくりという2つの掛け合わせにどのような可能性を見出していますか?
宮原:一極集中型ではなく自立分散型という考え方は、サーキュラーエコノミーととても相性がいいですよね。特に日本のように災害が多く、グローバルでも気候変動の影響がどんどん酷くなってきていることを考えると、レジリエンスを高めていく意味でも自立分散型のローカルで物事を回していくことが重要だと思います。
それを支えるひとつの考え方として、域内経済循環があります。一つの都市の中でいかに経済を回していけるかという意味で、イギリスのNew Economics Foundationが提唱している「漏れバケツ理論」の地域内乗数効果という考え方も同じです。例えば、ある都市ではエネルギーにかかるお金がほとんど外部に流れているため、市内でお金が循環していません。エネルギーを域外企業から買っているからなのですが、もしこれらを市民の皆さんが調達から製造、販売、利用まで市内でやっていければ、その分経済効果が上がるのです。
外から調達しないという点で考えると、域内経済循環は自立分散型ローカル、さらにはサーキューラーエコノミーとつながると思っています。
―まさに地産地消は経済の観点からも本当に大事ですよね。システムとして分散型であるということは、短期的には効率が落ちているように見えるかもしれませんが、災害時などにレジリエンスを発揮するというのはまさにそうだなと思います。全体を見た上で、各地域がある程度は自立分散で、開放と閉鎖のバランスを取りながら有機的に機能している状態というのが一番理想的だと思います。
宮原:本当におっしゃる通りで、今の豊かになった暮らしの中で、自社や自分たちの地域でできることは限られています。例えば、歯磨き粉一つとっても地域で作られているわけではありません。昔のように葉っぱから作るわけではない限り、どこかで調達しなければならない。逆に、自分たちが豊富に持っている資源や強みは、他者や他の地域に供給できるということをきちんと可視化し、お互いにつながっておくことが大事だと思うのです。どこに何があって、強みと弱みは何かが分かっていれば、有事の際にも互いの地域で補い合えると判断できます。エネルギーや資源のように、少なくとも生きていくうえで必要なものに関しては補い合える関係性を作っておくことが重要ではないでしょうか。
―地域をどの程度のスケールで捉えるかという問いはありますし、一定のバウンダリーは必要で、それが基礎自治体なのか県なのか、あるいは大きな自治体であれば区ごとに考えるなど絶対的な答えはないと思います。しかし、様々なレイヤーとバウンダリーを行き来しながら相互の関係性や依存性を見ていくことが、地域の循環を考える上ではとても大事なのだろうと思います。
宮原:ローカルで資源を調達して製造したものをグローバルに売っていきましょう、という考え方がありますよね。これに対して、ローカルで調達し、再生後にローカルで製造、販売するというやり方は、そこに人の想いも含めたストーリーが生まれます。私たちはいま、神戸市とともに資源を回収し、再生品を市内で活用していただくようなプロジェクトを進めています。人の意識や行動を変容させるナラティブを付与できるのは、ローカルだからこそだと思うのです。


―面白いですね。リニア型の経済システムでは、一箇所で資源を一気に採掘し、同じ製造ラインで大量に作ったほうが効率的ですけども、ひとたび製品が市場に出たら、エントロピーの法則でどんどんと資源の形も質も場所も分散していくわけですよね。
いま、自治体によっては広域連携などを通じ、分散された廃棄物処理システムを集約化することでコストを下げようとしています。人口減少などを考えれば、静脈に近い部分は政策や技術の介入による集約で効率を高めることで経済性を生み出し、逆に動脈に近い部分はより消費地や利用地に近い場所へと分散させることで顧客との距離を縮め、サービス化による提供価値の解像度を高めていく。このバランスをうまく整えられるような循環型インフラへの移行が大事だと思っています。
サーキュラーエコノミーが進行し、価値の発生源が製造時から利用時へと移行していくことで、主導権はぐっと地域側に寄っていくことになるだろうと予想しています。こうした大きなパラダイムシフトを考えると、企業が地域に関わる意味はどんどん増えるだろうなと思っています。
宮原:あるメーカーの方との会話で挙がった話ですが、B to CからB with Cといわれているけれども、これからのCはコミュニティのCですね、と。今まではどうしてもマスでやってきたけれども、これからは地域コミュニティにカスタマイズしながら、自分たちの存在価値を含めて話をしていかないと生き残っていけないのではないかと思っています。
MEGURU STATION®では、「企業としてこう活用したい、だからこの資源のこれを回収しています」と生活者に対して協力を求めています。同時に、分別して持ってきたけれども、この分け方はちょっとやりづらいからもっとパッケージを変えてくれないか、といったことを生活者が企業に対してフィードバックできる環境も作っているんです。それをきちんと企業側も受け止めて、分別の表記を分かりやすくしたり、分けやすい容器に変えたり、中身だけを提供できるようにしたりなど、企業と生活者の距離を近づけたいのです。生活者も、これまでの「消費者」ではなく「資源供給者」になります。
先ほど加藤さんが言っていたように、生活者はそこまでの品質を求めていないけれども、企業としては変なクレームが入ったら嫌だなと疑心暗鬼になって踏み出せなかったりする。そこをお互いが歩み寄れば、もっと進むのではないかと思いますね。
循環型の価値創造は「品質」の再定義からはじまる
―循環型の価値創造は、やはり「品質」を再定義するところからスタートするのではないかと思っています。
宮原:品質に関しては、企業も研究機関もやはりどうしても今のリニア経済システムの延長線上で考えているなと思う節もあります。例えば、ペットボトルキャップでプランターを作りましょう、と。 そのプランターでミニトマトを栽培してみんなに食べてもらおうと思った際に、キャップは本当に安全なのかという議論ってありますよね。プランターから何か変な化学物質が溶出して、それを根が吸収したミニトマトを人が食べてしまったらどうするのか、誰が責任を取るのかといった話になるのです。
市中からPCR材をガサッと回収する場合は色々なものが混ざっている可能性があり、そこを特定できないなら、特に食品に関わるようなモノに再生するのは避けたほうがよいのでは、となるのです。
―循環におけるコンタミネーションのような問題は確かにありますけれども、難しいですね。
宮原:そうなんですよ。これはインパクトの定量化の話と全く同じで、あえて極端な言い方をすれば 、このコミュニティの中だったらいいんじゃない、と言える信頼関係の中であれば、やればいいと思うのです。そこを外側から見たときに、それって数字的にどうなのといった話が持ち出されるので、窮屈な世の中になっているなあ、と。
―まさにそうですね。品質に対する許容度は、生産者と消費者との距離の遠さを反映していますよね。遠いと不安じゃないですか、お互いに顔が見えませんし、どう作られているかも分からない。近ければ、ある程度は信頼し、許容できる。自分で作ればなおさらのことです。そこをデザインし直すことが重要かもしれないですね。
宮原:不特定多数の方々に大量にモノを売っていき、高度経済成長を実現するにあたっては必要なプロセスだったのかもしれませんが、今は定常経済になり、日本の場合は人口も減っていくなかで、工業化を経て今の時代に合った新たな「商業」を作っていくべきときが来ているのではないでしょうか。関係性の中で地域で作られたものを地域の中で消費していけば、誰が作っているか顔が分かっているから、安全性のことばかり言わなくてもいいという話ができるのではないかと思います。現在のグローバル企業がどこまでできるかは分かりませんが。

―すごく共感します。循環型「産業」ももちろんですが、同時に循環型「商業」のような視点が大事になりそうですね。ここからは、まちづくりについてもう少し具体的なことを伺いますけれども、住民の巻き込み方、企業の巻き込み方について、どのような手法を効果的だと感じていますか?
宮原:いま、MEGURU STATION®の導入に向けて自治体とその地域の企業とアミタとの間で打ち合わせしているのですが、どのように導入するかという打合せをした際に、トップダウンで市長が「やりましょう」いいよと言ってトップダウンで進めるやり方もあるが、それだとどうしても市民の皆さんの間で上からやらされてる感が生まれてしまい、実装できなくなるという話が挙がりました。いかにボトムアップでこういったことを一緒に進めてくれるやれる人たちを増やすかということは重要ですね。
そのときの巻き込み方についてですが、これは加藤さんも横浜などでやっているように、地域で活動している方々に光を当て、その方々を中心に色々と巻き込んでいくというやり方が一番近道なのではないかと感じているところです。いま地域ですでに頑張って汗をかいてやっていらっしゃる方々をどう見つけられるか、ですかね。
―まさにそうですね。地域ですでに活動されている方をまずは可視化する。そして、そのプロセスを通じて生まれたつながりが、変革に向けた大きな財産となっていると今でも感じます。企業の巻き込み方については、いかがですか。
宮原:各社でそれぞれの価値観があり、足元でやりたいことも微妙に異なります。ただし、上位にある考え方は同じだったりします。それは何かと言うと、どの企業も「持続可能な経営をしたい」ということです。どの企業にも共通していますが、例えば会社にとって大事なことは「売上を上げること」であるならば、業績が良いとお客さんからは安くしてと言われるし、仕入先からはもっと高く仕入れてくれと言われるかもしれない。従業員からはもっと給料を高くしてくれと言われますよね。少なくとも皆がハッピーである状態は、「その企業が存続してくれること」なのです。ですから、企業を巻き込んでいくためには、その上位概念でまとめることができるかがとても重要だと思っています。
― まさにそうですね。究極的には、顧客や取引先、従業員も含めて、あらゆるステークホルダーから「なくなったら困る」と思われているか、その業界や産業のエコシステムにとって必要な存在になっているかどうかという点が重要であり、その部分で共通の理解を得られていれば、自然と巻き込みができるようになりますよね。とても貴重なアドバイスをありがとうございます。また、企業ではなく自治体との関係性の作り方はまた異なってきますでしょうか?
宮原:自治体には、企業としての視点ではなく、「市民がこれを求めています」ということが言えれば基本的にお話を聞いていただけます。アミタが代表理事を務めている一般社団法人エコシステム社会機構(ESA)では、現在は地域イノベーション部会で自治体と企業などを一対一ではなくネットワークとしてつないでいくことに重きを置いています。
―最近の自治体のニーズとしては、どのようなものがありますか。
宮原:ある自治体からは、小学校から大量のプランターが出てきたのでリサイクルしたいのでどうすればいいかといったご相談がありました。あるいは生物多様性の領域で、例えば放置竹林の未利用資源を使えないかというご相談もありますね。これらはどちらかというと個別具体的な課題なので、他の自治体にも共通した課題まで落とし込んだ上で解決に導くことを心がけています。
―確かに、個別具体的な話にとどまらず、その課題が発生する根本的な原因を掘り下げていくことで、他の地域に水平展開できそうな解決策に向けたヒントが出てきますよね。
宮原:サーキュラーシティ移行ガイド は、反響はいかがでしたか。
―正直まだそれほど反響はないのですが、とある自治体の方々とはガイドを活用してディスカッションを重ねておりまして、その中での学びは非常に多いですね。自治体によってサーキュラーシティへの移行に向けた出発点や課題は異なるので、全ての地域が同じ場所からスタートし、同じ場所に向かうということはありません。そのため、個別のケースに沿った移行プロセスの設計が重要となると思うのですが、自治体の方々はやはりそれぞれの視点からの解像度をお持ちで、例えば「市民」と一言で言っても行政の立場としては一般市民といわゆるプロ市民、そして商店街・町内会の方々というのは一つのステークホルダーとして括ることは難しいなど、自治体の目線に基づいたお話をいただくことで、ガイドの改善点も見えてきています。
あるいは、自治体としてどのような取り組みを推進していくかという際に、サーキュラーエコノミーの様々な循環ループの中でも自治体として直接的に介入しやすい領域とそうではない領域があるといった議論や、行政と企業だけではなく基礎自治体・都道府県・国との役割分担についてなど、政策実行者としての解像度の高さが、非常に参考になっています。これらの議論も踏まえながら、現在サーキュラーシティへの移行状況を定量的に把握するためのサーキュラーシティ移行指標づくりを行っていまして、完成したらまたいろいろとご一緒させていただきたいです。
宮原:私も大変興味深く拝読していまして、ぜひともステークホルダーコミュニケーションの部分はご一緒にできればいいなと思っています。

―ありがとうございます。そろそろ終わりに近づいてきましたが、アミタさんとしての今後の展望はいかがですか。
宮原:私たちは「エコシステム社会構想2030」というものを打ち出しています。2030年までにMEGURU STATION®を5万カ所に展開し、こういう世の中にしていきたい、ということを示しています。また、今年2025年は中期経営計画の中でも基盤整備期と位置づけた最後の年となります。今後しっかりと展開できる商品や仕組みを作り、2026-27年の市場展開期で今年作ったものを広げ、28-29年の市場拡大期に繋げていくことを想定しているので、いかにその状態に持っていけるかどうかだと思います。
―アミタさんはいつもビジョンや構想が明確で、使われている言葉もとても洗練されており、すごいなと思っています。
宮原:ありがとうございます。私たちはエコシステム社会と言っていますが、SDGsの次に来るものは何かと考えたとき、やはり関係性ではないかということについては一貫してぶれていません。方法論はもちろん変わることはあると思いますし、今年で言えばトランプ米大統領の就任による影響で変わる部分もあるかもしれませんが、そういう観・脈・流れをきちんと読みながらも、目指すところは変わりません。
一方で、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が今年4月で折り返し地点の3年目に入ります。今求められているのは、資源回収ステーションを展開をして、自治体から良質なプラスチックを回収して供給していくとともに、いかにビジネスとして自立できるかということなのです。さらに、一般解として横展開できるかという点も求められています。私たちはすでに神戸市や福岡県などでMEGURU STATION®を展開していますが、「そこだからできたんでしょ」と言われないようにしなけければならない重要な局面に立たされています。
今年は基盤整備期ですけれども、きちんと類型化して横展開できるようにある程度標準化してから展開する。その際には、ビジネスモデルをある程度確立しておかなければなりません。これまでいくつかの企業さんと一緒に取り組んできて、回収、再資源化が技術的にできることは分かりました。あとはビジネスとして回せるかどうかですが、特定の使用済み容器を大量に集めてリサイクルするだけという世界にはなって欲しくなくて。それは、今までのリニア経済システムと全く同じですからね。
そうではなく、お金がかかるかもしれないけれども、少量で作って付加価値を上げる、もしくは何か違う社会的な価値をのせて市場に再投入していくことが大事だと思います。ここで一皮むけるかどうかで日本の資源循環ビジネスの行方が決まると思います。
また、ペットボトルや食品トレーは回収、再資源化の仕組みができましたが、次ですよね。日用品や食品産業のものがきちんと回せるビジネスになるかどうか。この点でも私はやはり、今回の対談のテーマだった「社会的価値の可視化」がカギになるだろうと思っています。
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