前回のコラムでは、弊社が主催した欧州サーキュラーエコノミー視察ツアー「Beyond Circulatiy 2023」で訪問したロンドン・パリ・アムステルダムの3都市における循環経済の実践について、Re・De・Proという3つの視点から考察してきた。最終回となる本稿では、欧州視察により得られたインサイトを基に、日本らしい循環経済のあり方を模索・考察してみたい。

日本らしい循環経済とは?

前回のコラムでも日本の循環経済の未来は過去の延長線上にあると書いた通り、日本らしい循環経済の在り方を考えるにあたり、過去の掘り下げは欠かせない。経済産業省は、2020年5月に公表した「循環経済ビジョン2020」において下記のように述べている。

日本は、江戸時代から、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の経営理念が浸透する等、私益と公益が密接につながることを意識しつつ、循環性・信義則に基づくパートナーシップを重視した企業活動を展開してきた。循環経済の達成には、事業者、消費者、行政が、それぞれ責任を持って役割を果たすととともに、国内のみならず国際的にも連携して取り組むことが必要である。「三方よし」を、「企業よし、消費者よし、環境よし」と読み替え、関係者が連携して循環経済を進めることが、日本らしい循環経済の在り方なのではないか。(出典:経済産業省「循環経済ビジョン2020」P.4)

鎖国政策により国内で資源自給を実現せざるを得なかった江戸時代の循環型社会モデルや、それ以前より脈々と受け継がれてきた自然と共生する日本の伝統的な暮らしや文化の中には、循環経済の未来を考える上でのヒントが数多く存在する。

人間が自然に介入しながら生態系の一部としてバランスを保ち、持続可能な暮らしを営み続けてきた日本の里山・里海文化はリジェネラティブ(再生的)な経済・社会システムそのものだと言えるし、器の金継ぎ、和傘、鍋物などの修理(リペア)文化、一反の布を無駄なく直線裁ちするため廃棄が出ないサーキュラーファッションの代表とも言える着物、人間の下肥を活用した循環型農業、製鉄から農業、美しいランドスケープ形成までが融合した出雲のたたら製鉄にいたるまで、江戸時代における優れた循環経済の実践例は枚挙にいとまがない。また、日本が開国後に初代駐日大使として米国からやってきたタウンゼント・ハリス氏は、当時の日本の様子を日記に下記のように記している。

「彼らは皆よく肥え、身なりもよく、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もない。—-これが恐らく人民の本当の姿というものだろう。私は時として、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たしてこの人々の普遍的な幸福を増進する所以であるかどうか、疑わしくなる。」出典:外国人がみた日本史 – 2015/3/7 河合 敦(著)

誰も当時の日本人の暮らしぶりを正確に知ることはできないが、少なくともハリスの目には江戸時代の日本人が幸福そうに見えたのだ。当時の日本人は島国の限られた資源の中で循環型の生活を送りながら、決して贅沢な暮らしは送らずともウェルビーイングを実現していたと考えられる。

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さらに、日本は世界で最も持続可能な企業が多い国でもある。世界に14社ある1,000年企業のうち日本企業は8社を占めており、100年企業は33,000社以上、200年企業も3,000社以上存在している。

こうした歴史的背景を踏まえると、日本にはつい数百年前まで循環経済を実践してきた文化的素養があり、大事なのはむしろ西洋化・近代化・経済成長の中で浸透した大量生産・消費・廃棄を伴う直線型のライフスタイルを「アンラーニング」することだとも言える。もちろん、江戸時代の日本人口は3,000万人程度であり、現在よりも遥かに少ない人口規模だからこそ実現できた経済・社会システムだとも言えるし、当時とはあらゆる状況が遥かに異なる現代において、ただ懐古主義的に時計の針を戻すことは現実的でもない。重要なのは、古来より続く日本らしい文化的側面を大切にしつつ、そのエッセンスをうまく抜き出して現代社会に適用することだ。

その上で、私が今回の欧州視察を経て感じたことは、資源の限られる島国であるだけではなく国土の多くを森林に囲まれ、さらに台風や地震といった自然の脅威にもさらされる中で日本人が培ってきた、村八分のような「ムラ社会」特有の文化や同調性、集団としての規律や調和を重んじ、ルールを守る力、人類学者のルース・ベネディクトが指摘した「恥の文化」(他者からどう見られるかを重視する)といった特性を、ネガティブな文脈ではなくむしろ日本ならではの強みとして再発見し、循環経済の推進に生かせないか、ということだ。内閣府の最新調査でも、日本人は個人志向(39.9%)よりも社会志向(58.4%)であることが分かっており、個人よりも全体としての調和と幸福を願う傾向が見られる。この特性を循環経済推進のドライバーとして活用することで、日本らしい循環経済の輪郭を模索してみたい。

なお、日本人の集団主義性の真偽や「恥の文化」をめぐっては賛否も含めて様々な研究が存在するため、ここでは詳細について掘り下げることはせず、あくまで著者が海外に滞在したときに個人の主観として感じる文化的な差異をベースに考察を進めていく。

「私」ではなく「公」において発揮される価値

ロンドン、パリ、アムステルダム。どのまちを歩いても、日本よりもたくさんのゴミが落ちている。アムステルダムの運河でプラスチックを釣る(Plastic Fishing)というPlastic Whale社の人気のツアーも、それだけ大量のゴミが川に捨てられ、流れ込むからこそ実現できるツアーだ。また、こちらの記事でも紹介したが、アムステルダムでは日本とは分別ルールが異なり、PMD(プラスチック・缶類・紙パック)が一つのカテゴリになっているなど、ゴミを捨てる際に日本ほど細かい分別は求められない。また、最終的に同市の廃棄物処理会社・AEBの焼却炉で焼却時にプラスチックなどを分別し、焼却灰から金属スクラップを取り除くというスタイルとなっている。

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