EUにおける「使用済み自動車指令(以下ELV指令)」はEUの環境政策のもと、使用済み自動車の廃棄と適切な処理を管理することで環境負荷を削減する目的で2000年に施行された。EUのサーキュラーエコノミー政策であるサーキュラーエコノミーアクションプランの策定以降、その原則を現行のELV指令へ一体化するため、現在大幅な改正作業が進行中である。担当部署である環境総局によると、2022年末あるいは2023年初頭までには欧州委員会による提案書(改正案)が発表される予定となっている。ここでは、現行指令の改正における方向性について報告する。

ELV指令設置の背景

EU域内では70年代から使用済み自動車の廃棄問題が議論されていたが、なかでも懸念の対象となっていたのは、危険廃棄物の不法投棄と処理が困難な使用済み自動車由来プラスチックの取り扱いであった。また焼却の際に排出されるガスの処理については、当時ほとんど開発されておらず、重金属スクラップ汚染が与える環境と人体へのリスクも懸念の対象となっていた。EUが実施した研究・調査により、使用済み自動車がもたらしている環境・経済・社会問題がより明らかになり、EU初の使用済み自動車を対象とした枠組み規制であるELV指令(Directive 2000/53/EC on end-of-vehicles)の導入につながる。2000年のELV指令は主に次のような役割を担うものとしてスタートした。

  • 使用済み自動車と部品の廃棄防止
  • 再利用・リサイクル・その他の回収法の促進
  • 自動車のライフサイクル全体で事業活動を行う業者、特に使用済み自動車処理に関わる事業者の環境パフォーマンスの改善

同指令はまた、域内市場における事業活動の円滑化を図り、EU加盟国共通の規制枠組みにより各国が一貫した取り組みを実行し、域内競争における歪曲を防ぐことも目的としている。これらを実行する具体的措置として以下が設置された。

  • 自動車における鉛・カドミウム・水銀・六価クロムなどの危険物質の使用を制限し、加盟国政府に対し、自動車のリサイクル・再利用を容易にする新モデルの設計と生産を奨励
  • 回収システムの設置:各国政府は承認処理施設(authorized treatment facilities: 以下ATF)を最終所有者が使用済み自動車を持ち込める範囲の一定地域に設置し、ATFは無償で引き取ることを義務付ける。ATFについては登録システムとし、加盟国政府が定めた最低限の基準を満たすことが求められる
  • 環境に負荷のかからない使用済み自動車の処理
  • 使用済み自動車における再利用・リサイクル目標値の設定(重量の85%)
  • 使用済み自動車部品における再利用・リサイクル目標値の設定(重量の95%)
  • 再利用や原料回収を容易にするため、生産者に対し自動車に使用される原料や部品に関する情報の開示義務

サーキュラーエコノミー原則に基づく見直し作業へ

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