Sponsored by Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot

2025年、アジア太平洋地域のサーキュラーエコノミーを牽引する一大イベント「Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot(以下、APCER)」が、台湾・台北で開催された。世界中から専門家、企業、政府関係者が集結し、持続可能な未来に向けた活発な議論が交わされた。

その中でも具体的な「実践」を求める流れは強かった。コンセプトや理想論を語る段階は終わり、いかにしてビジネスとして成立させ、社会システムを変革していくか──先駆けてアジア太平洋でサーキュラーエコノミーを実践してきたアクターたちは、その背中を見せると同時に、同じ道を進む企業が未だ少ないことへの危機感も示した。

本レポートでは「Design for Circularity(循環のためのデザイン)」と「プラスチックと包装」のセッションに焦点を当てる。RHINOSHIELD(ライノシールド)、Miniwiz(ミニワイズ)、そして茶籽堂(cha tzu tang:チャ・ツゥ・タン)という台湾を代表する3社の取り組みから、サーキュラーエコノミー移行のリアルな挑戦と失敗、日本が学ぶべき視座を読み解いていく。

まず登壇したのは、RHINOSHIELDの共同創業者エリック・ワン氏と、Miniwizの創業者兼CEOであるアーサー・ファン氏、そしてハーチ株式会社代表の加藤佑。彼らの言葉から浮かび上がってきたサーキュラーエコノミー移行のカギは、循環を前提としたサプライチェーンの構築と、現状に対する健全な危機感であった。

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RHINOSHIELD:スマホケースの完全循環へ。「単一素材」から築くエコシステム

スマートフォンアクセサリー市場で、特にその高い耐久性で世界的に知られる台湾のブランド「RHINOSHIELD」。共同創業者のエリック氏は、同社が挑む「完全循環型スマートフォンケース」の構想を語った。単なるリサイクル素材の利用に留まらず、製品の設計思想から回収、再生に至るまで、一貫したエコシステムの構築を目指す壮大なプロジェクトだ。

その核となるのが、循環を前提とした「単一素材」の重視。エリック氏が例に挙げたのは、PETボトルのリサイクルシステムだ。PETボトルは、製造から使用に続いて、回収から再生までのインフラが確立され高いリサイクル率を誇る。これはPETという単一の素材が基準となったからこそ実現していると言えるだろう。

同氏は、このような循環システムを、スマートフォンケースでも構築したいと語る。そのためには、まずリサイクルの障壁となる「複合素材」から脱却する必要があった。そこで、従来のスマートフォンケースは衝撃吸収性を高めるために異素材を組み合わせることが一般的だったものの、RHINOSHIELDは素材科学の知見を活かし、単一素材でありながら高い保護性能を維持する製品開発に成功した。

この姿勢と技術を体現したのが、2024年販売の製品「CircularNext」だ。これは100%リサイクルされたスマホケースの単一素材から作られており、使用後も再び回収され、新たな製品へと生まれ変わることができる。エリック氏は次のように強調した。

「スマホケースのように単純で、標準化しやすい製品ですら真の循環を実現できないなら、建設や自動車といった複雑なセクターでそれが達成できると考えるべきではありません」

一方で、一企業の努力だけでは限界がある。エリック氏は最後に、サーキュラーエコノミーの実現に向けたシステムの変化の必要性を強く訴えた。リサイクル性や修理のしやすさを明示する指標とラベル化、政府や大企業による循環型製品の優先調達のインセンティブ、回収物流への補助金と支援、そしてグリーンウォッシングへの厳しい監視だ。

B2Cにおける循環型デザインは、単なるデザイン上の課題ではなく、システムの課題でもあると指摘して、同氏は締め括った。

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Miniwiz:「資源の安全保障」を問うサーキュラーエコノミーの実装

「No more greenwashing, no more diagrams.(グリーンウォッシングも、概念図を描くのも、もう終わりだ)」。Miniwizの創業者兼CEO・アーサー氏は、セッションの事前打ち合わせでこう語った。同社は、廃棄される金属やプラスチックから機能性の建材や内装材、さらには建築物そのものを生み出す、台湾サーキュラーエコノミーの先駆け的存在だ。同氏の語り口には、コンセプト論に終始せず、具体的な社会実装を求める強い意志が滲み出ていた。

Miniwizの代名詞とも言えるのが、移動式リサイクルマシン「TRASHPRESSO」だ。これは、プラスチックの廃棄物をその場で選別、洗浄、リサイクルし、タイルなどの建材を製造できるコンテナ型のソリューションである。アフリカの遠隔地など、大規模な静脈インフラを持たない地域でも、廃棄物を価値ある資源に変えることを可能にする。

アーサー氏は近年、特に重要視しているのが「マテリアル・セキュリティ(資源安全保障)」という概念だという。彼は、政府や大企業を本気で動かすためには、環境保護の観点だけでは不十分であり、資源を海外からの輸入に頼ることのリスクを突きつける必要があると説く。

「台湾のような島国にとって、原材料を完全に輸入に頼ることは国家的なリスクとなります。そのため、私たちは廃棄物を問題として見るのではなく、地域の資源基盤として扱っています。実践的な観点で言えば、都市部に『マイクロ・サーキュラー・ファクトリー(小型循環工場)』を建設することが必要なのです」

実際にMiniwizは、資源の安定確保に強い危機感を持つUAEやシンガポールといった国々と連携し、大規模なリサイクリングセンターの建設などを手掛けている。アーサー氏の指摘は、この危機感こそが、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させる最も強力なドライバーであることを示していた。

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茶籽堂:素材を起点に再設計する、循環のためのモノづくり

プラスチックと包装のセッションに登壇したのが、台湾原産のチャノキの種(茶籽)などを原料に、農業から製品開発までを一貫して手掛けるコスメブランド、茶籽堂だ。

彼らが展開する循環型パッケージ戦略、自宅にあるボトル用の詰め替えパックを売るのではなく、使用済みボトルを回収し、洗浄・再充填して再び顧客に届ける「リプレースメント」モデルへの挑戦。この背景には、詰め替え時の雑菌繁殖といった衛生面のリスクを低減し、ブランドが品質に最後まで責任を持つという意志があった。

このモデルを実現するため、茶籽堂は容器の設計を根本から見直した。キャップからボトル本体まで、すべてをリサイクル可能な単一素材で開発。リサイクルの純度を高めると同時に、洗浄・再利用のプロセスを効率化できたとのこと。素材の評価にあたっては「マテリアルサーキュラリティ指標」という評価基準を策定した。将来的な使用禁止リスク、カーボンフットプリント、リサイクル率、そして再生材の買い戻し価格という4つの客観的な指標に基づき、最適な素材を決定している。

同社のCEO・趙文豪(ウェン・ハオ・チャオ)氏は、自社の「失敗から学んだこと」として三点を挙げた。一つ目は、リサイクル素材を成形するためには、既存の金型が使えず、ゼロから設計し直す必要があったこと。これは、サーキュラーエコノミーへの移行が製造プロセス全体の変革を要することを示す好例だ。

二つ目は、サプライチェーンマネジメントの重要性。同社は、容器のキャップを製造する際、サプライヤーの工場で発生する産業廃棄物を原料として活用する仕組みを構築した。これにより、自社の循環性を高めるだけでなく、サプライヤーの廃棄物削減にも貢献している。

そして三つ目は、こうした新しい取り組みを消費者に受け入れてもらうための「証明と信用」の重要性だ。環境に良い仕組みでも、その価値が伝わらなければビジネスとして成立しない。第三者認証の取得など、信頼を可視化する努力が不可欠だと語った。

茶籽堂が経験した課題は、サーキュラーエコノミーへの移行にあたって多くの企業が乗り越えなくてはならない現実だろう。それを克服するには、表層的な“サステナビリティ”を謳うのではなく、同社に倣い実直にサプライチェーンを見直すことがカギを握るはずだ。

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台湾の気勢から、何を学べるか

APCERで目の当たりにした台湾企業のサーキュラーデザインに向けた取り組みは、いずれも地に足のついた「実装」への強い意志に貫かれていた。それを実現する技術力やサプライチェーンとの近接性が、アジア太平洋にはある。だからこそ、各社が「このままでは未来はない」という健全な危機感を持って変革を進めることが求められている。

サーキュラーデザインのセッションでは、同じく技術力やブランド力を持つ日本企業への強い期待も語られた。日本企業に寄せられる技術や品質への信頼は、アジア太平洋のサーキュラーエコノミーを大きく後押しする可能性を秘めているのだろう。

こうして「素材」の切り口に立つと、サーキュラーエコノミーが環境問題という枠組みを超え、国家の産業競争力や経済安全保障を左右する経営アジェンダへと統合しつつあると感じられる。コンセプトの議論から一歩踏み出し、具体的な実装へと舵を切る時が来ているのだ。