デジタル・情報技術は、サーキュラーエコノミーを単なる資源循環にとどめず、循環価値創出と価値共有の仕組みを変革することに貢献する。NTT DATAはデジタルが果たすこの役割を認識し、ステークホルダーをつなぐことに励む。社会にとって欠かせないインフラをつくり支えてきた国内最大手のIT企業であり、グローバルにおいても業界トップレイヤーで活躍する同グループ。サーキュラーエコノミー分野でもオープンな共創に励みながら、さらなる高みを目指している。

NTT DATAならではのサーキュラーエコノミー移行への取り組みとは。同社のサステナビリティやオープンイノベーション部門に加え、地産地消型SAF(持続可能な航空燃料)や社会貢献型のプラットフォームを展開する事業部門に話を聞いた。

前編では、NTT DATAのサーキュラーエコノミー戦略と、具体活動事例としての「地産地消型SAFサプライチェーン構想」を見ていく。

NTT DATAが捉えるサーキュラーエコノミーとは?

山根知樹さん(株式会社NTTデータグループ グリーンイノベーション推進室 室長)

「IT業界に身を置く我々にとって、サーキュラーエコノミーを実現するうえでのキーワードは、『つなぐ』です」と話すのは、株式会社NTTデータグループのグリーンイノベーション推進室 室長の山根知樹さん。サーキュラーエコノミー実現に向け、データの可視化に加えモノと情報の一体化が極めて重要と言われるが、その肝はステークホルダーや業界、サプライチェーンをつないでいくことにある。

進行中の2022年〜2025年までの中期経営計画では、「Realizing a Sustainable Future」というスローガンを掲げ、顧客とともにサステナブルな社会の実現を目指す。グループ全体として「Regenerating Ecosystems」「Clients Growth」「Inclusive Society」の3つの軸においてそれぞれ3つのマテリアリティを定める(下図参照)。サーキュラーエコノミーはCarbon NeutralityやNature ConservationとともにRegenerating Ecosystems 内に位置づけられる。それぞれが独立して動いているわけではなく、たとえば、Clients Growth内のSmart X Co Innovationで、サーキュラーエコノミーを含め各事業領域のマテリアリティに関連するサービス提供数(オファリング数)をKPIに定めるなど、各軸・各マテリアリティを相互に連動させていくことをねらう。

NTTデータグループ、9つのマテリアリティ(提供:株式会社NTTデータグループ)

こうしたマテリアリティ・戦略の背景には、同社が考える将来像がある。

下図のリスクシナリオでは、気候変動と不平等の二軸でそれぞれ「抑制(是正)」と「悪化」で分けた四象限に整理。NTT DATAとしては、気候変動が抑制され不平等が是正された「分配社会」への貢献を志向するという。

NTT DATAの考える未来のシナリオ(提供:株式会社NTTデータグループ)

「分断によって囲い込みが起きます。だから、まずはつながる。直線的ではなく循環するつながりを生み出したい。こういった絵姿を我々は目指していきたいと考えています」と、山根さんは分配社会に向けたサーキュラーエコノミーの役割を位置づける。

こうした大局観とでもいうべき未来像をもとに、社内の具体的なグリーンイノベーション活動を「OF IT」と「BY IT」とに分ける。サーキュラーエコノミー分野におけるOF ITは、廃棄物削減などの自社におけるサーキュラリティの向上。BY ITは、ITを活用したサーキュラーエコノミーに対する新規ビジネスの創出だ。

特にBY ITでは、NTT DATAの独自性が前面に出せる。以下で紹介する地産地消型SAFと社会貢献プラットフォームに加え、データプラットフォームであるウラノスエコシステムの最初のユースケースとなるバッテリープラットフォームの構築、ファッション業界のサプライチェーンの効率化を支援するFEDIエコシステムなどが該当する。グリーンイノベーション室主導で社内横断型サーキュラーエコノミータスクフォースを立ち上げ、選択・戦略的に事業を加速させる。

グリーンイノベーション室に焦点を当てると、同室は「守り」の側面が強いOF ITのみならず、「攻め」の要素が強いBY ITの事業を生み出すファシリテーターのような役割も果たすのかもしれない。こうした役割はサーキュラーエコノミーを加速させるには重要な要素だ。

国産SAF拡大をデジタルプラットフォームで支援:地産地消型SAFサプライチェーン構想

BY ITの一つとして進捗しているのが、地産地消型SAFサプライチェーン構想。同社では、国産かつ地産地消型SAFの拡大に向けて、原料調達から使用までのSAF品質を担保するため、情報を共有するプラットフォームの構築を進める。

「国産SAF拡大を支える」

同事業の背景にあるのが、航空分野におけるCO2排出ネットゼロ達成に向けて立ち上がり始めたSAF市場だ。国内でも2030年時点に「国内エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という目標のもと、SAFの商用化に向けて事業開発が急ピッチで進められている。

同事業の責任者である自動車事業部部長の松枝進介さんによると、現状国産SAFには3つの課題がある。

松枝進介さん(株式会社NTTデータ 自動車事業部 部長)

1つ目は、十分な原料が確保できるかどうかという課題だ。今商用化ベースとなっているのは、廃食油や非可食植物油などの脂肪酸エステルを水素化処理して製造するHEFA(水素化処理エステル・脂肪酸)。廃食油にしても非可食植物油にしても、原産地は点在している。これらを環境負荷の低い形で効率的に収集することが量産化に向けてのポイントとなる。

「これまでは、限られた輸入先からタンカーで大量の原油を運び国内で製油する、というシンプルなサプライチェーンでしたが、SAFではその世界が大きく変わるのです」と松枝さんは強調。潜在的な調達先は、約12万軒の農家・約44万件の外食産業・約5400万世帯の一般家庭だ。これらすべてから供給されるわけではないにしても、効率的な物流が鍵になることがわかる。

2つ目は、連産品の販売先確保と製造コストの低減。SAF製造工程で発生するバイオディーゼルやナフサといった連産品の販売先を確保する必要がある。同時に、連産品製造を含む強固なサプライチェーンをつくり、製造コストの低減を確実なものにしなければならない。現状のSAFのコストは、200~1,600円/Lと従来のジェット燃料:100円/L(経済産業省調べ、2022年)と比べて格段に割高だ。普及に向けては、現状の1/2から1/50へ価格を下げていくことが求められる。

3つ目は認証取得体制の整備である。SAFによる温室効果ガス(GHG)削減効果を主張するには、国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)適格燃料(CEF)としてGHG削減効果率の認証取得が必要だ。標準化団体ASTM Internationalが定める燃料の安全・品質規格ASTM D7566も取得することが望まれる。こうした第三者認証の取得が容易となる情報共有や検査体制の担保が不可欠だ。

ただ、最近では認証の不適合事例が見られるという。「その原因の一つに、サプライチェーンが複雑化し情報管理が難しくなっていることがあります」と松枝さんは話す。こうした現状を打破するには、原料の入口から出口までの情報を管理するプラットフォームが必要だとする。

地産地消型SAFサプライチェーン構想プラットフォームのイメージ(出典:NTTデータ プレスリリース

燃料価値は地産地消、環境価値はグローバルで消費へ

SAFに対する航空会社の需要は高まっているが、現時点では供給地は地理的に限定されている。そのため、燃料の環境価値と燃料自体の価値が分離しマスバランスを取る形で、環境価値は他に転用できるいわゆる「ブックアンドクレーム方式」が短・中期的には重要となると同社は見る。

ブックアンドクレーム方式は、SAF普及の移行期において、SAFの地産地消にも貢献する。燃料価値と環境価値を一体化させたままでは、実物のSAFを遠い需要地へ運ぶ必要があり、コスト・環境面での負荷が高くなってしまう。そこで、同方式を活用して地産地消型を大規模に実現していくことが一つの道筋となりうる。

ただし、この方式を成り立たせるためには、対象燃料が環境価値を剥がして転用されたものか否かを見分ける情報管理が、環境価値を二重カウントをしないために不可欠だという。実証レベルの小規模では可能なExcelによる帳簿管理は、商用規模となれば難しくなる。

「地産地消型で生産・利用することによって、輸送距離が短くなり効率的に収集できます。スモールサプライチェーンを構築し、使ったSAFの環境価値をグローバルで取引していく。そんな姿を実現するためにこのプラットフォームが存在するのです」

SAF市場では、先述のCORSIA適格燃料やASTMなどすでにルールメイキングができており、今後市場拡大が見込める。加えて、実際すでに欧州でSAFが流通しているなど、プラットフォームが機能しうる種々の条件が整っているという。つまり、プラットフォームは整備されつつある環境下において、市場の導入期から成長期へ移行するための推進役ともなる。

地産地消型サプライチェーン構想における収集イメージ図(提供:株式会社NTTデータ)

製造者・小売・金融機関と共に、国内SAFを拡大していきたい

すでに実証実験にも着手した。愛知県が進める地産地消SAFサプライチェーン構築プロジェクトだ。同社は、愛知県が公募する「カーボンニュートラルの実現に資する具体的なプロジェクト案」として株式会社レボインターナショナルとともに提案し、採択された。レボインターナショナルが田原市に建設するSAF製造の実証プラントを拠点に、トレーサビリティやCO2排出量削減効果検証など、デジタルプラットフォームの有効性を実証する。

こうした拠点を持つことは、国産SAFを拡大するサプライチェーンのパートナー探しにもなる。国産SAFには原料から使用、ブックアンドクレーム化までさまざまなパートナーが関与する。この分野でも例外なく協業が大切になる。すでにSAFの収集業者・製造者・金融機関と話を進めているというが、松枝さんは国産・地産地消型SAF拡大に共感してくれる各サプライチェーンのパートナーに対話を呼びかける。

「廃食油の回収に興味がある小売業界や、環境価値取引に対してモチベーションがある金融業界と一緒に市場拡大に貢献したいと考えています。実物がある実証の場を使って協業できる企業様はぜひお声かけください」

後編につづく

【参考】