ヨーロッパ有数の緑の首都ヘルシンキ。交通機関へのバイオ燃料の活用や、多様なビーガンカフェの登場など、サステナビリティへの取り組みが進むヘルシンキで最近ひそかに注目を集めているのが、トリップアドバイザーで4.5の高評価を受けるレストラン「Nolla(ノッラ)」だ。

Nolla店内

フィンランド語で「ゼロ」を意味するNollaの店内やキッチンには、ゴミ箱がない。ゲストフロアの端にコンポスト一つが置いてあるだけだ。ここは、食に関するあらゆる廃棄物が出ないレストランなのである。彼らは、どのようにして廃棄物ゼロを実現しているのだろうか。それは私たちのビジネスや日々の生活に取り入れられることなのだろうか。

2019年にヘルシンキ中央駅近くに移転したNollaを訪ねると、共同創業者アルバートが迎えてくれた。友人のルカ、カルロスと共に店を立ち上げたアルバートに、廃棄物ゼロ運営の秘訣を聞く。

あらゆる廃棄物が「ゼロ」なレストラン

Nollaチーム
Nollaのアイデアは、クリエイティブで美味しい料理と飲食業界の持続可能性の両立を実現したいという創業者3人の願いから生まれた。スペイン出身のシェフであるアルバートは、ヘルシンキの2つ星レストラン「Olo」で働いていたルカ、カルロスと出会う。

同じシェフという立場で関心も近かった3人は意気投合し、新たなレストランを立ち上げようと話し合った。そのときに重視したのが、運営で出るゴミを限りなくゼロに近づけることだ。ゲストの食べ残しだけでなく、調理中に捨てられる野菜の皮や卵の殻などの大量のロスや、包装のゴミなどをシェフとして身近に見ていた3人だからこそのアイデアであったという。

Q. 廃棄物完全ゼロのレストランなんて、面白いコンセプトだと思いました。もともと環境問題に関心があったのですか?

そうだね。僕はスペインの鉱業の町で育ち、有害ガスや水の汚染などを目にしてきた。カルロスが育ったポルトガルや、ルカが育ったマケドニアでもそれぞれの環境問題があった。みんな何かしら環境問題に関心を持つ背景があって、新しいレストランを立ち上げるのなら、その負荷をできるだけ少なくしたいと思ったんだよ。

特に僕たちが仕事で関わってきた「食」は、人々の日常に近いし、業界も多くの無駄を出している。そんな現状に対して、何か行動したいと思って始めたのがNollaだ。

Q. 新たなレストランの立ち上げにあたって、参考にしたお店はありましたか?

僕たちは2016年にNollaの最初のコンセプトを考えたんだけど、正直にいうと当時はあまりゼロウェイストに関する情報がなかったんだ。強いていえばイギリスのSilo(サイロ)くらいかな。当時ゼロウェイストを実践するレストランは少なかったから、僕たちは図らずも先駆者になってしまった。

最近は、世界中で「ゼロウェイスト」がコンセプトのカフェやレストランが増えてきている。ただ、その実態は食品ロスだけに焦点を当てているところも多いんだ。ゼロウェイストを謳いながら、持ち帰り用に使い捨てプラスチック容器が使われていたりね。

Q. Nollaのいう「ゼロウェイスト」は、本当にすべてのゴミをゼロにすることなんですね。

うん。Nollaでは食べ残しや調理中に出る食品ロスだけじゃなく、食材の包装や持ち帰り容器、エネルギーの無駄、水の無駄もすべてゼロにするよう取り組んでる。

ゴミは出るけどちゃんとリサイクルするよ、という事業者もいるけど、それはゼロウェイストじゃないと僕は思う。SDGsもそうだけど、言葉が急激に広まってトレンドになると、いろいろな解釈が生まれる。それでも何か新しい事業をはじめるとき、何が本当にゼロウェイストなのかを考えたほうがいい。

廃棄物ゼロの秘訣とは?

Nollaのゼロウェイスト
Photo by Nikola Tomevski
Q. なぜNollaはゼロウェイストを実現することができたのですか?

できるだけ地元の食材を使い、食べ物から容器まで使い捨てしないように、使える部分はすべて使う。

たとえばニンジン一つ使うのでも、まず遠いところから輸入されたものは購入しないし、皮をむいたり根やヘタの部分を切り落としたりもしない。どうしても余ってしまったら、コンポストする。そして土に栄養を与え、農家に還元することで新たな野菜を作るのにつかってもらう。ゴミじゃなく、価値あるものにするんだ。

Nollaは25以上のローカルな生産者と提携して、ゲストに出す食事のほとんどを地元食材でまかなっている。ローカルで調達できないのはコーヒー、塩、茶葉、オリーブオイルの4つくらいだね。オリーブオイルは、カルロスのお母さんが作って送ってくれているよ(笑)

Q. ローカルでの調達は大事ですね。メイドイン・フィンランドを大事にしているのでしょうか。

いや、実は国境は重要じゃない。ヘルシンキの位置を考えたら、エストニアのタリンで生産され運び込まれたものの方が、フィンランド北部のラップランドで生産されるものよりも新鮮で環境負荷が低かったりする。国や地域で区切ってしまうより、実際の距離と、どのように輸送されたかの方が大事だ。

Q. ゼロウェイストを実現するために、Nollaの従業員が覚えておかなくてはならないことは?

一つは、自分が出すゴミに責任を持つこと。僕たちのキッチンにはゴミ箱がないから、どうしても捨てるものは野菜や魚などに分けてコンポストの機械に入れることになっている。入れるときは、スタッフの名前、コンポストするものとその量、そしてコンポストする理由を必ず記録するんだ。それで1日の終わりにミーティングして、廃棄物が多い日はどうやったら改善できるかを話し合う。

二つ目は、レストラン運営に関わってくれる事業者たちとよくコミュニケーションをすることだ。たとえばサプライヤーから届いた食材の包装にプラスチックが含まれていたら、説明して送り返す。どうしても使わなきゃいけない理由があるのなら、その事業者とは取引しない。

そもそも僕たちは日常のなかで、「捨てること」があまりにも当たり前になっている。使い捨ての容器のためにお金も失っているし、すでにいい容器はたくさん世の中にあるのにね。Nollaでも以前、コーヒーの粉末をキッチンまで運ぶのにわざわざプラスチック容器に移し替えるという無駄が発生していた。でもそれが組織の慣習になっていると、無駄だということに気付けないんだ。僕たちはこの、「ゴミが出ることが普通であるという常識(Normalization of waste)」を変えていきたい。

Q. 確かに、便利さに慣れすぎて欠けがちな観点ですね。

そうだね。あとは、お客さんもレストランの従業員ですらも、同じ野菜や果物が1年中食べられると思っているところがある。1年中デザートのトッピングとして苺を使うことに疑問を感じない人も多い。

夏のフィンランドならハーブが美味しいし、野菜もよく育つ。秋になればキノコ、冬になれば根菜や魚。また春が来て暖かくなったときにようやく苺がとれるはずなんだ。僕たちは、季節のものを使うことも常に意識しているから、月に1回メニューを変えている。

Nollaのゼロウェイスト
Photo by Nikola Tomevski
Nollaのデザートメニュー
Photo by Nikola Tomevski
Q. メニューはどのように決めているのですか?

実は、メニューを決めているのは僕たちじゃなくて生産者の人たちだといってもいい。季節で一番美味しい食材や、その収穫量を知っているのは彼らだからね。

僕たちは定期的に提携している農家の人たちと電話して、季節のベスト食材を聞く。そしてチームで相談し、最近コンポストされた食材から捨てられやすいものも特定したうえで、メニューを決めるんだ。そして調理中はなるべく食材のすべてを使い、コンポストせざるを得ないものはして、栄養たっぷりの土をまた農家の人たちにかえす。こうして循環のループを閉じ、ゼロウェイストを実現しているんだ。

楽しくゼロウェイストライフを送るために

Q. そういえば、店内にはゼロウェイストに関するメッセージが一切ないことに気づきました。

ああ、押しつけるのはよくない。僕たち自身がゼロウェイストを普通のことだと扱わなければ、いつまでたっても周りの人に根付くことはないから。だからポスターも、ロゴも、「今月はゴミをこれだけ減らしました」というメッセージも掲げない。店内にあるのはコンポストの機械だけだが、わかる人はわかるだろう。

Nollaの店内。左奥にあるのがコンポスト
Nollaの店内。左奥にあるのがコンポスト

ここに来てくれた人たちには、まず食やフレンドリーな接客を楽しんでもらいたいな。僕たちのビジネスのゴールは、わざわざ言わなくてもゼロウェイストが業界で一般的になることなんだ。「世界で唯一の素晴らしいゼロウェイストレストラン」になりたいわけじゃない。

Q. ここまでくるのに、大変だったことは?

たくさんあったよ。でも特に、料理することとは何か、初めからすべてデザイン(設計)し直さないといけなかったことが大変だった。まずキッチンを清潔に保とうにも、掃除機もないしケミカルな洗剤は使っていないからね。食材は、捨てられることを前提として作りたくはないけど、最悪コンポストできるものだけを選ぶ。この通り制限だらけだから、頭をフル回転させてクリエイティブになる必要があった。

ただ言いたいのは、ゼロウェイストは何も難しいことではないってこと。ちょっとチャレンジングなだけだ。今は、僕たちの中でも廃棄物が出ないことが当たり前になってきたよ。人は慣れる生き物だ。

Q. 最後に、廃棄物ゼロに取り組みたい読者にメッセージをお願いします!

僕がこれまで答えてきたように、ゼロウェイストのための取り組みは何も特別なことではないし、本来誰にでもやれることなんだ。

廃棄物をなるべく減らした生活や会社経営をしたいのなら、ローカルな生産者と協力し、使い捨てを減らし、今ある素材をできるだけ使い切ること。日本国内には、すでに良い生産者や素晴らしい技術を持った人々がたくさんいるはずだからね。一番大切なのは、あなたが「やりたい」と本気で望むことだ。

Nolla創業者
Nolla創業者のアルバート
Nollaの詳細
レストラン名Nolla(ノッラ)
住所Fredrikinkatu 22, 00120 Helsinki
営業時間17:00~24:00
営業日火曜~土曜(日、月 定休)
URLhttps://www.restaurantnolla.com/

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。