物流業界の課題と言えば、ドライバー不足に代表される2024年問題が象徴的だろう。しかし、それだけではない。Eコマースの隆盛に伴う、輸送時のCO2排出や梱包ごみの増加――。こうした課題を解決してサステナブルな物流革命を進めようとしているのが、「美しい物流をつくる」をミッションに掲げる株式会社comvey(コンベイ)だ。このほどECアパレルブランド向けに国産リユース梱包材「シェアバッグ」をリリースした代表取締役の梶田伸吾さんに、リユース梱包材を起点に作り上げようとしている「美しい物流」とはどのような世界観なのか聞いてみた。

売り手よし、買い手よし、運び手よし 「三方良し」の物流とは?

シェアバッグは、国産ポリエチレン製で繰り返し使える梱包材だ。2023年5月のサービスローンチ時点で、サステナビリティ志向のファッションブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」と、サーフィン動画メディア発のアパレル・サーフギアブランド「NobodySurf Shop」の2つのECサイトで採用されている。シェアバッグを導入したECカートでは、購入者は梱包材を通常の段ボールなどにするか、プラス250円でシェアバッグにするか選択できる。配達されたシェアバッグは郵便ポストに投函するだけで返却でき、返却が確認されると消費者は購入ショップで使える500円の割引クーポンを獲得できる。返却されたバッグはコンベイを通じてクリーニング・修繕された後、再びEC事業者へ提供される。

SDGsや気候危機などがクローズアップされるようになった中にあっては、物流梱包材の変革は必然の流れかもしれない。とはいえなぜ、リユース梱包材に着目してサービスを立ち上げたのか。それは、梶田さんが起業前に携わっていたBtoB物流での経験から得た着想がきっかけだった。

梶田さんは、大学生の頃から国際協力に関わり、当時から社会起業家志向があったそうだ。商売の基本を勉強して起業することを目指して、伊藤忠商事に入社。配属面談をしてもらった憧れの先輩が所属していた物流部門に配属された。物流子会社に所属していた時には港で作業員とともに荷物をチェックしたり、輸送船をチャーターして風力発電のタワーを運搬したりするなど、幅広い物流業務の現場を経験することができたという。

「BtoB向けの物流では、何度も使えるリターナブルボックスは当たり前に使われています。でも、BtoCでは梱包ごみが捨てられている。どうしてだろう?と思いました。海外の物流トレンドを調べていると、フィンランドのRePackなど欧米ではリユースバッグが普及し始めていました」

だから日本でも――というのは、少し短絡的なようだ。梶田さんは、こう続ける。

「もう少し抽象的な話をすると、物流は基本的に売り手と買い手と運び手という三者で成り立っていますが、現状ではこの三者間の協力が不十分な状況です。その結果、サステナブルな物流が実現できない未来が近づきつつあります。最近は物流×ITで効率化しましょうとよく言われますが、それだけではなく三者を巻き込んで協力し合える仕組みを作る必要があると思っています」

シェアバッグの最終仕様が固まり、完成品を持って製造元を訪れた梶田さん

売り手と買い手と運び手が協力し合える仕組みづくりを目指して始まったシェアバッグ。サービスローンチから約2カ月経ち、各ブランドのECサイトを使った購入者の30%がシェアバッグを選ぶようになった。顧客に受け入れられるようになってきた要因を、梶田さんはこう捉える。

「現状はいったん250円負担していただいて、シェアバッグを返却する時に500円オフのクーポンがもらえる仕組みなので、実質的にお得です。あとは、ハサミやカッターが不要で、梱包ゴミを捨てるストレスがないこと。そして、簡単にSDGsに貢献できることですね」

「シェアバッグは付属の二次元コードを読み取って登録して、バッグを折りたたんで郵便ポストに返却しなければなりません。ちょっとひと手間かかるのですが、実際に使ってくれた人に聞いてみたところ『環境にいいことをしていると感じられて気持ちが良かった』と言ってもらえました。環境のために何かしたいと考えていた方々が、気軽に選択するだけでエコアクションとして貢献できるので選んでくれています」

商品を入れる閉じ口は面ファスナーになっていて、開くとクーポンを取得できる二次元コードや、郵便ポストに返却するまでの手順が記されている(以下すべてcomvey提供)
comveyのシェアバッグを採用したオンラインストア

郵便局にアポなし訪問、国産であることにもこだわり

起業して1年余。サービスローンチまでには、梶田さんをはじめとするコンベイのチームメンバーや関係者による数多くの試行錯誤があった。

「普通に郵便局の窓口に行って、シェアバッグのプロトタイプを見せながら『こういうことをやりたいんです』と伝えたところ、日本橋郵便局を紹介してもらいました。日本橋郵便局は全国の郵便局のハブ的な拠点で、担当者の方とは20回ぐらい打ち合わせしました」

シェアバッグは返送時に料金後納郵便として取り扱われるため、郵便規格に沿った構造が求められる。耐久性、耐水性、軽さ、リサイクル可能、国産であること――。コンベイのプロダクトデザイナーが、こうした規格に合うように作り上げていく。

「シェアバッグのLサイズの底部分は、畳むと隙間が結構大きくなってしまうので、他の郵便物が入り込まないように面ファスナーをつけてほしいなど、郵便局の方からは色々とアドバイスをもらい、最終的にOKをいただくことができました」

シェアバッグの素材は、リサイクル可能なポリエチレンだ。その多くがアジア地域など海外産となっている中で、梶田さんは国産・国内製造しているメーカーを探し続け、建設用ブルーシートなどを製造する萩原工業(岡山県倉敷市)と出会った。同社が生産した生地でシェアバッグを作ってもらい、使い終えたバッグは同社に戻してペレットに加工。再生ペレットの一部をシェアバッグに混ぜて再製造する仕組みを構築している。

「国産であるということはトレーサビリティの観点から大事にしたかったですし、やはり倫理的な調達をしたかったのです。萩原工業の窓口の方には、だいぶ助けられました。熱心に話を聞いてくれて、将来性があるとも言っていただき、生地まで提案してくれました」

コンベイはシェアバッグを50〜100回使うことを目標としており、現在検証中だ。シェアバッグが何回リユースされたかについては、アプリで確認できるようになっている。

商品の大きさに応じて、3つのサイズが用意されている

売り手から買い手へ、運び手を通じて思いを伝える「美しい物流」を

アパレルEC事業者との連携でシェアバッグを始めたのは、近年クローズアップされてきたアパレルの環境負荷を少しでも減らすことに貢献できればという思いがあったからだという梶田さん。今後は、シェアバッグの耐衝撃性をさらに高めるよう改良しながら、アパレルだけでなく雑貨やコスメにも対応できるようにしたいという。

「日本のEC市場は、アパレルと雑貨とコスメだけで約40%を占めます。これをリユース梱包材にリプレイスするだけでも、大きなインパクトがあると思います」

コンベイは今後、EC社会に適した新しい物流の仕組みを作り上げるために3つのことに取り組みたいと考えている。

「まずは、今やっている梱包ごみの削減です。次に、返品物の再販です。日本のECサイトの返品率は10〜15%、北米では30〜40%にのぼります。一番困るのは売り手であるEC事業者で、今後さらに顕著になってくることが予想されます。シェアバッグを使って、例えばEC事業者の返品作業を代行して、そこで回収した商品を再販することも狙っていきたいです。もう一つは、配達員不足への対応です。自宅に一軒一軒配達するのではなく、購入者が直接来て持って帰ってもらえるような第3の場所を配送会社と連携して作ったりできないか考えています」

さらにその先に目指すのが、コンベイが企業ミッションに掲げる「美しい物流をつくる」ことだ。

「『美しい』というのは、ビューティフルというよりも、人と人との思いが通じ合っている状態のことです。街の中で人が誰かに親切にしている様子って、見ると美しいなあと思うんですよね。僕自身はやはり、どれだけ機械化が進んでもそういう人間らしい思いが通じ合う社会を作りたい。物流にはそれができると思っています」

会社名のモチーフとしたconvey(コンベイ)という言葉には、「ものを運ぶ」という意味だけでなく、「想いを伝える」という意味がある。今はサービスを受け渡す関係性でしかないかもしれない売り手、買い手、運び手の三者が通じ合い、協力し合うサステナブルな物流を作り上げるのが、同社の究極のミッションだ。

「今はダンボールしか選択肢がありませんが、5年後、10年後には段ボールが必要なもの以外はリユース梱包材に置き換わっていくことを目指したいですね。リユース梱包材が当たり前になる文化を作っていくには時間がかかるかもしれませんが、サステナブルだからこのサービスを使ってよという押しつけは、全く意味がないと思っています。このバッグはカッコいい、こういうアクションに参加してみたい、とお客様の心を動かしていって、結果的にサステナブルになることを目指したいですね」

編集後記

シェアバッグの実物を見せていただきながら梶田さんとお話し、ふと浮かんだことがあった。

「これは21世紀の風呂敷みたい」

風呂敷を使う機会はめっきり減ってしまったが、大切な方にお礼の品を直接手渡す時などは、今でもやはり風呂敷を使う。シェアバッグも、単なる包装材という“機能”として提供されているのではなく、売り手、買い手、運び手の気持ちのよい思いが巡る“触媒”になろうとしているように感じられたからだ。

コンベイは今後、EC全盛時代の社会に適した物流の新しい循環的なあり方をどのように提示していくのだろうか。楽しみでならない。

【参考サイト】comvey公式サイト
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