2016年末に設立されたオーストリアにおけるサーキュラーエコノミー推進組織Circular Futuresは、政策・規制分野でのサーキュラーエコノミーを推進する統括組織の提携によって構成される団体である。提携パートナーには、国内の環境・自然保護推進組織(Umweltdachverband)、ベルギーに拠点を置く欧州環境局(The European Environmental Bureau:以下EEB)、オーストリアの再利用・修理ネットワーク(RepaNet)および廃棄物コンサルタント協会(VABÖ)を持つ。

Circular Futuresは、市民・企業・研究機関などのサーキュラーエコノミーに関連するステークホルダープラットフォームとして機能すると同時に、オーストリアおよび欧州のサーキュラーエコノミーへの移行を加速させるプロジェクトやイニシアティブを推進する役割も担う。

活動の焦点

Circular Futuresは、サーキュラーエコノミー促進活動の一環として、ラウンドテーブルやワークショップ・イベント・報告書や資料の作成も行っているが、サーキュラーエコノミーへの移行に必要な政策・規制枠組みに焦点を当てた該当機関へのロビー活動が組織活動の中核を成している。特に、欧州環境NGOネットワーク であるEEBとはCircular Futuresの設立時から密接な関係を保つ。EEB はEUレベルでのロビー活動を行う一方で、Circular Futuresはオーストリア国内のロビー活動に従事するという二段階レベルでの活動を可能にしている。

Circular Futures主催ワークショップの様子(写真:Circular Futures 提供)

また、同組織はオーストリア国内において、サーキュラーエコノミーへの理解を広めることにも尽力し、サーキュラーエコノミーを社会における「変革過程」として推進。そのために必要な経済・社会的な移行に取り組んでいる。

Circular Futuresの活動は、欧州域内の幅広いネットワークと一体化している。これまでに、蘭Circle Economy・フィンランドの Sitra・英Zero Waste Scotland ・スロベニアのCircular Change・英エレン・マッカーサー財団など多数のサーキュラーエコノミー推進組織との協力を行っている。

今回、ウィーン市内に事務所を置くCircular FuturesのJulika Dittrich氏とSophia Kratz氏へ向かい、オーストリアにおける同組織の具体的なプロジェクトおよびサーキュラーエコノミーの現状について話を伺った。

オーストリア国内における現状

サーキュラーエコノミー推進への背景

Circular Futuresは、EUが2015年に採択した第一回循環型経済行動計画を受けて発足した。欧州委員会は、この計画でEU域内における循環型経済の推進と製品のバリューチェーン全体に焦点を当てた取り組みを発表した。続いて、昨年3月に発表された新循環型経済行動計画では、より具体的にバリューチェーンの上流部門である生産政策に焦点を当て、製品設計や製造過程、製品の利用形態における改善を打ち出した。

Julika Dittrich氏 ©️Julika DITTRICH

「サーキュラーエコノミー」の定義とは?:廃棄物管理の優等生であったオーストリアの葛藤

これを受けてオーストリア国内では、EUレベルにおける循環型経済行動計画を国内でどのように解釈し策定するか、大きな議論の的となった。その背景には、オーストリアには、隣国ドイツと並び廃棄物管理やリサイクルの推進では先駆者だという自負があったのだ。国内では、欧州各国に先駆けて、1980年代に廃棄物の分別回収とリサイクルシステムを導入している。そのため、オーストリア国民にとっては、廃棄物管理とリサイクルがいわゆる「サーキュラーエコノミー」であるとの解釈があった。しかし、EUの打ち出したサーキュラーエコノミーは、廃棄物管理とリサイクルにとどまらず、資源削減、製品設計の変更、再利用などより広範囲な部門での取り組みを提唱している。

この「定義の変更」に、国内ですでに構築された廃棄物管理に関わるステークホルダーや政治家、行政部門は戸惑い、新しい概念を理解するにあたり積極的な姿勢を示さなかった。また、新しい定義に沿うには、概念的な変更だけではなく、これまでに国内で構築されたインフラを変更する必要があり、それには投資も必須となる。今後の対応について、現在も多分野にわたるステークホルダー間で白熱した議論が交わされているという。

国内の実態:

Sophia Kratz氏 ©️Sophia KRATZ

Q. Circular Futuresの現在および今後のプロジェクトについて教えてください。

現在当組織では、繊維廃棄物と農業部門のプラスチックの2分野におけるプロジェクトを進めています。私(Sophia Kratz)は、2つの繊維廃棄物プロジェクトに関わっています。一つは、欧州廃棄物枠組み指令に関わる繊維の廃棄を防止するというものです。もう一つは、繊維の回収とその資金調達です。現在、回収は誰が行うのかについて検討が行われています。というのも、オーストリアには以前からチャリティ組織が多数存在し、古着などの繊維の回収を行っています。しかし、今後規制によって回収システムが変わる場合、回収と回収された繊維の所有権が変わる可能性があり、結果的に既存のシステムが壊れてしまう可能性もあります。そこで、それにどう対処するかという問題です。現在、小規模事業者や関連組織など多数のステークホルダーを対象に取材を行い、実情を調査しているところです。

今後の取り組みにおける主要項目の一つは、繊維廃棄物に関するEUのサーキュラーエコノミーに関する規制をどのように国内に導入していくかということです。さらに、サーキュラーエコノミーは国内のみにとどまらず他国にも関連しているため、他国との協調関係の構築も必要です。サーキュラーエコノミーの観点から再利用にも注力する必要がありますので、再利用推進団体とも提携、この分野も焦点に入れています。ただし、再利用と同時に繊維のリサイクル技術の開発も必要になってきます。

もう一つの大きな課題は、土壌に含まれるマイクロプラスチックです。特に、農業に使用される土は、マイクロプラスチック汚染に対して脆弱です。これまで、マイクロプラスチック汚染問題は、水や海洋が中心でした。現在、やっと土壌におけるマイクロプラスチック汚染の研究が始まり、プロジェクトも増えてきたという状況です。オーストリア国内の関連ステークホルダーとの協力により、当組織は現状調査を行い、サーキュラーエコノミーによる方法を用いて、マイクロプラスチック汚染を削減する提案を検討中です。同様にこの問題に対して、農業分野のステークホルダーや政策担当者の注意を喚起することも検討しています。

Q. サーキュラーエコノミーへの移行について、概念の一般認識、取り組みへの興味、参加など、オーストリア国内における現状については?

サーキュラーエコノミーへの取り組みは、大きく分けて二つのレベルで進行しています(Julika Dittrich氏)。Sophiaが取材調査を行っている企業レベル、もう一つは政策レベルです。最初に述べたように、過去5〜6年の間、オーストリアはリサイクルや廃棄物管理におけるサーキュラーエコノミーに焦点を当てており、EUレベルでのサーキュラーエコノミー新定義である「バリューチェーン全体を見直す」という動きには積極的ではありませんでした。

2015年の最初の循環型経済行動計画に伴い、2018年に改訂された廃棄物枠組み指令は、2020年までに「廃棄物管理法」として国内法への設置が行われる予定でしたが、かなりの遅れが出ました。政策担当者の間で、どのように具体策を実行するか合意に時間を要したからです。新しいサーキュラーエコノミーの概念に沿うためには、これまでに構築されていた廃棄物管理のインフラを変更する必要があり、それによって事業者は市場の一部を失うことになります。どのようにサーキュラーエコノミーへの移行を進めていくのかについて、政治家側からの明確なメッセージも欠いており、事業者側にも大きな懸念がありました。

このような背景から、オランダ、フランス、フィンランドなど、サーキュラーエコノミー戦略をいち早く国内で採択した国々と比較して、オーストリアは遅れをとっています。現在、ようやくサーキュラーエコノミー戦略が打ち立てられていますが、発行は今年の終わりになる予定です。戦略に加え、今後ステークホルダーの明確な指針となる規制枠組みが必要となります。規制なしでは誰も動きません。

改定が行われた国内の廃棄物管理法は、サーキュラーエコノミーのより明確な解釈に基づいており、またEUの目標とも一致するものです。EUレベルでの促進が行われるようになってからようやく行政や政治家たちは、サーキュラーエコノミーの概念を理解し始めたように感じます。ただ、これまで彼らが新しい動きに積極的でなかったのは、意図的なものではなく解釈の問題だったと思います。過去に打ち立ててきた廃棄物管理に対する取り組みが、欧州委員会のそれと異なることについて、理解するのに時間がかかったのです。

Q. 欧州の国々との比較で、サーキュラーエコノミー推進におけるオーストリアの位置付けは?

最も革新的な考えを持ち敏速に実行に移している国の一つは、オランダだと思います。サーキュラーエコノミーの概念も幅広い。フィンランドもそうです。2016年にはこの国はすでにサーキュラーエコノミーの「ロードマップ」を打ち出している。現在は、初回のロードマップの経験に基づき、第二のロードマップを発表しています。木材などの豊富な天然資源のおかげで、フィンランドのロードマップはサーキュラーエコノミーにおけるバイオ経済(バイオロジカル・サイクル)に特に注力しています。

エレン・マッカーサー財団が提唱しているバタフライダイアグラムには、技術的な側面と生物的な側面があります。左の羽は生物サイクルつまりバイオ経済を示し、右は技術サイクル、つまりサーキュラーエコノミーを指します。例えば、フィンランドは、サーキュラーエコノミーの推進において、早くからこの二つのサイクルを共に考慮する必要があることを提唱していました。バイオ経済の概念はサーキュラーエコノミーのそれに伴うことが必要です。

オーストリアは、この理論には興味を示さず、バイオ経済をサーキュラーエコノミーとは切り離して考えていました。それは、林業部門のロビー活動が非常に大きな影響力を持っていたからです。オーストリアは、バタフライダイアグラムのような理論を採用し、既存の構造を超えて新しいものを受け入れ構築していくことを必要としているように思います。

Q.オーストリアで、サーキュラーエコノミーを積極的に推進している、あるいは取り組みが進んでいる分野はありますか?

欧州の他国との比較では、オーストリアでは特に進んでいるものはありません。まだ取り組みは始まったばかりといった方が良いでしょう。どのような展開になるかは、数年待つ必要があります。サーキュラーエコノミーの定義についての広い認識も必要です。新しいサーキュラーエコノミー概念による取り組みの一つは、「再利用」分野におけるインフラの構築でもあり、容易い課題ではありません。

あえて一例を挙げれば、建築分野が素晴らしいプロジェクトやイニシアティブを行っています。一つは、建物に使われている建築材を全て再利用するというものです。建物を解体する際、どの部分を他の建物に再利用するかを見極めます。その際、建材が使用される建物は、解体が行われる場所から遠くないことが重要条件です。建材の輸送には炭素排出が伴うからです。多くの研究・調査を必要とするプロジェクトですが、床や窓まで全て再利用するという理想的なアイデアです。

建設プロジェクトの様子(写真:Circular Futures 提供)

ただし、安価な新建材がある中、顧客にこういった建物の建設に興味を持たせるという課題もあります。一方で、このイニシアティブでは、雇用市場において不利な立場にある人々の雇用を積極的に行っており、社会支援にも同時に携わっています。これは、サーキュラーエコノミーへの移行を社会的施策へ紐付けることを意味しています。資源の再利用のみならず、我々の経済システムと社会機能の転換を行うということなのです。サーキュラーエコノミーについて、より深く考察すれば見え始めることがあります。それは、転換に対する知覚と社会モデルに関する再考です。そして、それは社会における全ての分野に共通することです。

Q. サーキュラーエコノミーモデルへの移行には、投資が必要不可欠ですが、経済的なインセンティブが弱く、投資を引き入れるのが難しい分野もあると思います。そのため、政府レベルでの支援が必須となってきますが、オーストリアの状況はどうでしょうか。また産業部門の反応については?

ここでも、2つのレベルからお話します。政策・規制レベルでは、新しい動きがあります。一つはタクソノミー規則です。この規則では、欧州委員会が、環境への取り組み6項目を扱う委任法令を作成することになっています。その中の一つに、サーキュラーエコノミーが含まれており、非常に重要な役割を果たすことになります。

サーキュラーエコノミーについては、多くの考え方があり解釈も異なる現状があります。その中で、この委任法令により具体的な定義づけが行われれば、金融産業へ大きな影響を与えます。また、企業におけるサーキュラーエコノミーを測定する指標となることも期待されています。実際のところ、企業内で「循環性」の測定を行うのは容易ではありません。金融業界からは、サーキュラーエコノミーに取り組む上で最も大きな障壁は明確なサーキュラーエコノミーの定義を欠いていることだという声が頻繁に聞かれます。そのため、明確な定義付けが行われることは不可欠であり、結果的に投資家への活力にもなります。企業レベルについては、Sophiaがこれまで現地調査で見てきたオーストリアにおける特定のケースについてお話します。

私は(Sophia)、小規模企業の状況を調査してきました。持続可能な事業計画を持つ小規模な企業や個人の企業家は、融資を受けるのは容易ではありません。もちろん公共支援もあります。ただ、これまで私がヒアリングを行ってきた企業のほぼ全てに共通しているのが、一旦事業を開始すれば融資へのアクセスは容易になる一方、起業するための初期投資を調達することが非常に難しいことです。また、女性企業家へのヒアリングでは、起業する際に女性の方が男性より融資へのアクセスが難しいことがわかりました。

例えば、アパレル部門で「持続可能な」事業を展開するには、大量生産は非常に難しい。バリューチェーン全てにおいて、何を使用して生産するのか明確にする必要があり、通常生産も小規模です。このような事情も融資を受けることが難しい理由の一つです。また、生産規模が小さいため、起業後も事業を維持していくことが難しい現実もあります。

そのため、持続可能な事業への資金援助や投資機会については、まだまだ状況改善が必要で多くの課題を残しています。一方で、この5年間で徐々にではありますが、確実に進歩は見られているということもヒアリング調査でわかっています。それ以前は、今よりもっと難しい状況でした。

タクソノミー規則によって、金融業界も理解を示し始めています。彼らに必要なのは、明確な定義と規制枠組みです。それによって、事業における判断基準とその方向性も明確になります。

政治家も金融業界も、これまでの考えを改める時に来ています。今持続可能な事業や社会的企業の支援を行うことで、たとえ現時点での収益は低くても数年後には社会においてその効果が見えてきます。どこを、そして何を見て結果を測るのか。これは、脱成長論や我々の幸福を何で測るのかという議論に繋がるものです。現在、サーキュラーエコノミーをこの脱成長論と紐付けるという動きもあり、我々のパートナーであるEEBがこれを推し進めています。

取材協力:Circular Futures Austria, Julika Dittrich氏 Sophia Kratz氏
冒頭の写真の提供は、Circular Futures

【参照サイト】Circular Futures
【参考サイト】What is the degrowth?
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