カーボンオフセットとは・意味
カーボンオフセットとは、日常の経済活動において排出されるCO2の削減に取り組み、それでもなお削減しきれないCO2について、別の場所で削減・吸収に取り組んだり、それらの活動に投資したりと違った方法で埋め合わせる考え方のこと。
カーボンオフセットの取り組みには、再生可能エネルギーの開発・使用などでCO2の排出量そのものを削減する「排出削減系」の活動と、植林活動や森林保護を通して大気中のCO2の吸収を促す「森林吸収系」の活動がある。そして、活動によって削減・吸収できたCO2の量をルールに従って数値化し市場で取引できる形にした「クレジット」を売買する方法が一般的である。
日本国内での代表的なカーボンオフセット認証制度にはJ-クレジット制度がある。J-クレジット制度は、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するもので、2023年3月末時点で975件のプロジェクト(旧制度からの移行含む)が登録され、889.0万t-CO2(※t-CO2とは、温室効果ガスの排出量を表す単位)のCO2削減が認証されている。
企業によるカーボンオフセットの取り組み
カーボンオフセットに取り組む国内企業の例を紹介する。
日本航空株式会社(以下、JAL)
JALグループでは、省燃費機材への更新やSAFの開発促進と活用、カーボンクレジットの購入などにより、CO2排出量削減を行っている。
そのうえで、フライトに係るCO2排出量を埋め合わせるオプションとして、個人顧客に向けた「JALカーボンオフセット」という仕組みを2009年から導入している。これは、搭乗した区間、人数、座席のクラスをウェブサイトで入力すると、それに応じたCO2排出量と換算した支払い金額が表示され、PCやスマートフォンから簡単に支払うことができるというもので、オフセット額はノルウェーのCHOOOSE社を通して世界各国で実施される環境保全プロジェクトに寄付される。
また、企業が出張時のオフセットやその計測を行うことができる「法人様向けJALカーボンオフセットプログラム」を2022年から開始した。
佐川急便
短距離運送の際には電動アシスト自転車の使用、長距離輸送の場合はトラックの代わりに列車や船による運送を活用するモーダルシフトを推進することでCO2の排出量削減に取り組んでいる。また、2017年には車両を使用しない集配と森林保全活動により創出されたクレジットを組み合わせた「カーボンニュートラル宅配便」の取組みが評価され、「第7回 カーボン・オフセット大賞」環境大臣賞を受賞した。
また2024年には、2023年から株式会社ユーグレナと共に始めた「サステナブル配送プロジェクト」により、杉の木約5,500本相当、4.11トンのCO2排出量削減を達成したと発表した。
住友林業
戸建住宅建築に伴うCO2排出量を、同合板等の⽊質パネル製造、製品加⼯を⾏っている同社グループ企業3社があるインドネシア共和国内の荒廃地に植林することによりオフセットしている。また、2022年には9,738ヘクタールのマングローブの森林を保有管理するインドネシアのビナ・オビビパリ・スメスタ社を子会社化し、世界的に貴重なマングローブ林を保全する事業をスタート。荒れた部分に植林したうえで保護林として保全し、そこからブルーカーボンクレジットを創出することを目指している。
LINE ヤフー
LINEヤフーは、2017年から「国立公園・世界自然遺産カーボン・オフセットキャンペーン」への支援を行っている。キャンペーンでは、国立公園周辺で使用されるエネルギーや排出されるCO2を、省エネ・再エネ設備導入や森林管理によってカーボン・オフセットし、取り組みを伝えている。また2024年2月には、田島山業が保有する森林由来のJ-クレジットを10年間売買する契約を同社と締結。本クレジットを購入することにより、「2025カーボンニュートラル宣言」の達成に向け、電力使用由来のCO2排出を除くスコープ1、2のCO2排出量をオフセットする予定だという。
個人でできるカーボンオフセットの取り組み
カーボンオフセットは、自治体や企業だけが取り組むべき活動ではない。個人単位でも普段の生活から自動車ではなく自転車や徒歩で移動したり、冷暖房機器の使用を控えたりすることでCO2の排出量削減に取り組むことができる。その上でやむなく排出されてしまうCO2に対しては、例えば下記に紹介する「Wren」のようなサービスを利用して相殺することができる。
「Project Wren」は、個人のCO2排出量を計算してその量に応じたオフセットができる投資プロジェクトだ。まずWrenのサイト上でいくつかの質問に答えて、自分が日常生活で排出しているCO2の量を計算する。その後、排出量に合わせてどの程度オフセットするかを選択すると、投資する選択肢として世界中の植林や森林保護の活動からいくつかのおすすめを表示してくれる。Wrenは日本円も含む様々な通貨に対応しており、世界各国様々な場所からカーボンオフセットに参加することが可能だ。
また、排出したCO2をカーボンオフセットできる配車アプリや旅行に伴うオフセットの選択肢がついた旅行プログラムなど、個人でオフセットをできる機会も広がっている。
カーボンオフセットの問題点と課題
カーボンオフセットの問題点の一つに、投資する企業や個人が実際にCO2を削減するアクションをとらずとも環境貢献していると認められてしまうのではないかという懸念がある。カーボンオフセットの考え方の根底には、自らがCO2排出量削減のための努力を最大限行った上でどうしても排出を防ぐことができない分を埋め合わせるという前提があるが、オフセットの制度を利用すると出資するだけでCO2削減に間接的に関与できるため、CO2削減に向けたこれ以上の努力を妨げる恐れがある。
実際にサステナビリティに対する取り組みを牽引するIKEAやパタゴニアといった企業は、カーボンオフセットに頼らずに排出量削減目標を達成しようとしていることをウェブサイトで公言している。また2009年以降カーボンオフセットによりカーボンニュートラルを達成していると主張してきたGoogleは、2024年7月にクレジットの大量購入を終了を発表した。これは、これまでクレジット購入に充てていた金額をより絶対的な排出削減に向けた炭素除去プロジェクトへ投資するためであるという。
その他の課題として、一つのクレジットが異なる複数の排出活動に利用されてしまう「ダブルカウント」や、投資されたプロジェクトの持続可能性についても議論されている。例えば、イギリスのガーディアン紙は2023年、国際的なカーボンオフセット基準管理団体である米Verraのメソッドによる熱帯雨林クレジットの90%以上が無価値であるとの調査結果を発表した。それに対しVerraが猛反論、関係企業がオープンレターを公開するなど、大きな議論を呼んだ。
このように、カーボンオフセットの考え方はCO2削減に向けた手段の一つであり解決策ではないこと、投資するだけではなく自らが具体的なアクションをとり、持続的に行動することが企業には求められている。個人としても、カーボンオフセットを通じて排出量を相殺するからという理由で日常の小さな工夫を怠るのではなく、地球全体のCO2排出量削減に向けて個人でできる取り組みを着実に継続していくことが最も重要である。
(※こちらの記事は、IDEAS FOR GOODの用語集「カーボンオフセット」を転載しております。)
【参照サイト】カーボン・オフセット フォーラム
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【参照記事】環境省 カーボン・オフセット
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