帝人は2026年7月21日、加熱による自己修復機能と高いリサイクル性を兼ね備えた新たな熱硬化性炭素繊維複合材料(CFRP)を開発したと発表した。従来のCFRPと同等の機械的特性を維持しながら、損傷部位の修復と資源循環の両立を図る。
炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたCFRPは強くて軽いという特長から、航空機や自動車、スポーツ用品など幅広い用途で使われている。一方、従来の熱硬化性CFRPは溶融や再成形ができず、使用後に生じる廃棄物の多くが焼却や埋め立てで処理されてきた。地球温暖化を背景に製品ライフサイクル全体でのGHG排出量削減が求められる中、環境負荷の低い新材料の開発が課題となっていた。
帝人はこれまで、環境配慮型の炭素繊維ブランド「Tenax Next」の展開などを通じてGHG排出量や廃棄物の削減に取り組んできた。今回、長年培ってきた高分子材料の設計技術を活用し、再成形や樹脂分解によるリサイクルが可能で、加熱による自己修復機能も備えた新たな樹脂を開発。これをCFRPに採用することで、環境負荷の低減に貢献する循環型の熱硬化性CFRPとした。

開発品の特長は次の3点。
第一に、加熱による自己修復機能を持つ。所定の温度で短時間加熱することで損傷した樹脂層が修復されるため、使用過程で劣化したCFRPを廃棄せず継続使用でき、製品の長寿命化につながる。
第二に、CFRPを再成形してリサイクルできる。従来の熱硬化性CFRPは一度成形すると加熱しても樹脂が溶融・流動しないため再成形ができなかったが、開発品は成形後も所定の温度域で流動性を示すため、圧縮成形などによるリサイクルが可能となった。
第三に、炭素繊維と樹脂を分離しやすい。従来、使用済みCFRPから炭素繊維を分離するには400度を超える高温炉で長時間樹脂を燃焼分解する必要があり、環境負荷が大きかった。開発品は特定の薬液に浸すことで樹脂を分解できるため、炭素繊維を容易に分離でき、環境負荷が低く生産性にも優れたリサイクルを実現するという。
帝人は2028年度のサンプル提供開始を目指し、大学や研究機関と連携しながら研究開発を進める。軽量化と耐久性向上、環境負荷低減へのニーズが高い航空機、自動車、産業機械などを中心に用途展開を図る方針。将来的な量産化と社会実装を見据え、材料設計から部材設計、リサイクルプロセスまでを一体的に最適化する開発を進めるとともに、パートナー企業との連携による用途開発とサプライチェーン構築を進めるとしている。
※本開発の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」(研究推進法人:環境再生保全機構)の支援を受けたもの。
熱硬化性CFRPの循環利用をめぐっては、帝人以外にも国内で開発が進んでいる。
東レは、2025年10月末に熱硬化性樹脂を用いた多様なCFRPから炭素繊維の強度や表面品位を維持したままリサイクルする新技術を発表した。新規の分解剤により従来より低い温度でCFRPを分解し、得られたリサイクル炭素繊維はバージン品と比べて95%以上の強度を保持するという。この技術で得たリサイクル炭素繊維を用いた炭素繊維不織布も創出し、自動車内外装や建築、電気電子分野などへのサンプル提供を開始している。
三菱ケミカルグループは、炭素繊維複合材料のリサイクルから再加工までを一貫して手がける事業を展開し、循環型のビジネスモデル構築を進めている。子会社の三菱ケミカルアドバンストマテリアルズは、リサイクル炭素繊維の中間体・半製品ブランド「CarboNXT」を通じて、スクラップの回収から高純度ファイバーの再生までをカスタマイズ可能な形で提供している。
帝人自身も、リサイクル性に優れた熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)「Sereebo」を以前から展開しており、米GMのピックアップトラック荷台部材などに採用されている。今回発表した自己修復・リサイクル可能な熱硬化性CFRPは、この流れに連なる新たな選択肢と位置づけられる。
国のプロジェクトも動いている。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2026年5月20日、退役航空機から回収したCFRPを再び航空機部材として活用するサプライチェーン構築を目指す「次世代航空機向け静脈産業構築事業」に着手した。2026〜2030年度の5年間で、東海国立大学機構やSUBARU、JAXAなど5機関が参画し、大型CFRP廃材の切断技術やリサイクルCF基材の連続製造技術などを開発する。2040年時点で航空業界全体で年間約11,700t-CO2の削減を目標に掲げている。帝人が用途展開先の一つに挙げる航空機分野でのCFRPリサイクルは、こうした国家プロジェクトが並行して進んでいる。
【プレスリリース】自己修復機能と高いリサイクル性を両立した新たな熱硬化性炭素繊維複合材料を開発
【参照記事】次世代エンジニアリングのためのカーボンファイバー複合材料(三菱ケミカルアドバンストマテリアルズ)
【参照記事】素材売りビジネスからTier1サプライヤーへ(帝人)
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※文中の画像はプレスリリースより引用




