NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は5月20日、航空機に使用される先端素材である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル技術開発を目的とした「次世代航空機向け静脈産業構築事業」に着手した。退役航空機から大量発生が見込まれるCFRPを回収し、再び航空機に活用するまでの一連のサプライチェーンの構築を目指す。
同事業の2026年度予算は5.4億円で、期間は2026年度から2030年度までの5年間を予定している。実施予定先には、国立大学法人東海国立大学機構、一般財団法人ファインセラミックスセンター、株式会社SUBARU、株式会社ジャムコ、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の5機関が採択された。
民間単独では困難なハイリスク研究開発への着手
航空機への適用に係る技術開発は高い安全性が要求され、計画段階から実用化まで長期間かつ膨大な投資が必要であり、民間単独では実施困難なハイリスクな研究開発・実証研究である。そのため、NEDO先導研究プログラム「リサイクル炭素繊維の連続化技術および航空機適用技術の研究」(2023〜2025年度)では、航空機適用を見据えたリサイクルCFの回収・基材化・成形加工の要素技術を開発してきた。
今回のプロジェクトは、これまでの成果を踏まえ、退役航空機からのCFRP廃材の解体・切断から航空機への適用に至るリサイクルサプライチェーンの成立条件と課題を明確化し、事業の採算性を最適化したサプライチェーン基盤を構築するものである。
航空業界では2050年のカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが加速している。航空機には軽量で高強度なCFRPが広く使用され、燃費向上やCO2排出削減に寄与しているが、航空機には運用寿命がある。今後2030年から2045年頃にかけて、2000年代以降に導入が進んだ複合材多用機が運用を終え、多くの機体が退役すると見込まれている。これにより、大量のCFRP廃材が発生する見通しであり、その効率的な回収や再利用の必要性が高まっている。炭素繊維のリサイクル材は、新品のバージン材と比較して製造時のCO2排出量を大幅に低減できることが近年明らかになっているが、これまで商業規模での効率的な回収や再生の技術確立が課題となっていた。
4つの研究開発項目と委託・補助の実施スキーム
同事業では、まずリサイクルサプライチェーンの成立条件と課題を明確化し、事業として成立する最適なモデルを検討する。その上で、具体的に以下の4つの研究開発項目を推進する。
研究開発項目① CFRP リサイクルサプライチェーン基盤技術の開発
退役機や工程内CFRP廃材の産出量調査・将来予測を基に需給変動に対応する「安定調達モデル」を作成し、事業の成立条件と課題を明確化する。さらに、材料・加工等のパラメータを付与したSCMシステムや、部品製造時から運航期間までを包含する「LCA算定モデル」を開発し、定量的な評価を行う。
研究開発項目② 大型CFRP廃材の高効率切断技術の開発
退役機の大型CFRP廃材から効率よくCF(炭素繊維)を回収するため、大出力レーザー等を用いた高パワー切断設備を構築する。材料構成や機体履歴、異種材の識別等を考慮した高効率な切断条件の確立や、工程における環境・安全対策の検討を進める。
研究開発項目③:リサイクルCF連続化基材の開発
従来プロセスに比べ消費エネルギーを大幅に低減可能なCF回収設備を構築する。リサイクル一方向CFを用いたプリプレグ基材や、紡績糸を用いた織物基材の連続製造技術をプロトタイプ設備で検証・実証するほか、基材特性の認証取得要件の確定や、損傷・強度予測モデルの開発を行う。
研究開発項目④:リサイクルCF適用技術の開発
リサイクルCF連続化基材を用いた二次構造部品(フェアリング、ノーズレドーム、主翼前縁・後縁フラップ、着陸装置格納扉等)や内装部品の設計技術・製造プロセスを開発する。開発した実機部品はテスト機に搭載し、飛行試験を通じて性能と信頼性を実証する。
なお、各項目とも2026年度から2027年度までは、産学官の複数事業者が協調して成果を共有する「委託事業」として実施される。2028年度から2030年度までは、企業の主体的関与のもとで実用化に向けた「補助事業」へと移行する計画だ。補助事業におけるNEDOの負担率は、大企業が1/2(事業者負担1/2)、中堅・中小・ベンチャー企業が2/3(事業者負担1/3)となっている。
2040年を見据えた具体的なアウトカム目標
同プロジェクトは、開発成果の実用化を事業終了後5年、事業化を10年以内に達成することを目指している。具体的には、2040年において年間1,200機(単通路機)の生産が行われる市場環境を前提とし、航空機へリサイクルCFRPを適用することによって、航空業界全体で年間約11,700tのCO2排出量を削減する目標を掲げる。この削減目標は、以下の2つの側面から試算されている。
- 部品製造段階でのCO2削減(年間約4,320t-CO2削減):1機当たり500kgのリサイクルCFRPを適用(総CFRP重量10t/機の5%を置換)すると想定。バージンCFRPからリサイクルCFRPへの置換効果(1kg当たり7.2kg-CO2)により、1機当たり3,600kg-CO2が削減され、年間1,200機の生産で約4,320tの削減となる。
- 機体軽量化による運航段階でのCO2削減(年間約7,370t-CO2削減): 一次構造部品由来のリサイクルCFRPを二次構造部品や内装部品へ適用することで、1機あたり5%(500kgのうち25kg)の軽量化を達成できると仮定。CO2排出量が機体重量に比例すると仮定した場合、年間運航機数1,200機で約7,370tの削減となる。
これらの実現により、新たに開発される航空機向けCFRPリサイクル技術とリサイクルサプライチェーン基盤は、航空業界における2050年カーボンニュートラルの達成に大きく貢献することが期待されている。
国際動向との比較と社会実装への課題
欧米では航空機メーカーや素材大手が主導するリサイクルプロジェクトが先行しているが、今回のNEDO事業は、日本の強みである炭素繊維の素材開発力と、SUBARUやジャムコといった動脈産業のトップランナーの製造知見を初期段階から垂直統合する国家プロジェクトである点が特徴だ。
しかし、実用化に向けては、リサイクル過程における炭素繊維の強度低下をいかに抑制するかという技術的トレードオフが存在する。特に航空機に使用されるCFRPの多くは熱硬化性樹脂であり、分解時に繊維長が短くなりやすい。さらに、人命を預かる航空機の二次構造部品や内装品として再利用するためには、航空宇宙分野の極めて厳格な安全基準や品質認証をクリアしなければならず、これが実装における大きな壁となる。経済性を担保しつつ、品質と安全性を調和させることが、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた実用化の難所だ。
【プレスリリース】退役航空機から回収する炭素繊維強化プラスチックのリサイクル活用事業を開始します
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