2025年11月25日、パシフィコ横浜ノースで開催されたアジア・スマートシティ会議2025(Asia Smart City Conference / 以下、ASCC)において、アジア開発銀行(ADB)およびアジア開発銀行研究所(ADBI)によるセッション「持続可能な未来に向けたサーキュラー都市」が行われた。

ADBは現在、開発途上国における効率的な資源管理やゼロウェイストソリューションを支援することで、サーキュラーエコノミーの主流化を加速させている。また、都市間連携プログラム「City-to-City Partnership(C2CP)」を通じ、メンター都市とメンティー都市の間で住宅、観光、自治体財政などの知見を共有する能力強化支援も展開している。

本記事では、地方自治体の担当者、政策立案者、専門家、イノベーターが一堂に会した本セッションの内容をもとに、アジアにおけるサーキュラーエコノミー実践の最前線と、各都市が抱える課題解決への道筋をレポートする。

集合写真

都市は持続可能な未来をつくる「鍵」となる場所

世界全体が気候変動や資源の枯渇という未曾有の危機に直面する中、その解決の鍵を握るのは「都市」にほかならない。セッションの冒頭、アジア開発銀行研究所Dean and CEOのBambang Brodjonegoro氏は、サーキュラー都市への移行を成功させるための指針として、次の3つの重要なメッセージを掲げた。

第一に、サーキュラーエコノミーは持続可能で包括的な社会変革の原動力となること。第二に、テクノロジーの革新と一貫性のある政策の融合が不可欠であること。第三に、パートナーシップと知識共有こそがすべての進歩の基盤であることだ。

同氏は、都市計画に循環型原則を組み込むことで、資源の過剰使用による悪影響を抑え、新たな雇用や社会的包摂の機会を生む「環境と都市再生の好循環」を強調。デジタルプラットフォームによる資源フローの最適化についても、地域コミュニティの参加や適切な規制、インセンティブに裏打ちされてこそ、その効果が初めて最大化されると述べた。

「私たちは資源が循環し、成長が地球環境を支える力となるような都市生活の新しいビジョンを描く必要があります。そして『進歩』の定義を、単なる経済指標だけでなく、レジリエンス、包摂性、ウェルビーイングという観点から問い直さなければなりません」

アジア開発銀行研究所Dean and CEO Bambang Brodjonegoro氏
アジア開発銀行研究所Dean and CEO Bambang Brodjonegoro氏

続いて、ADBの上級都市開発スペシャリストであるFrancois Jenny氏がパネルディスカッションのモデレーターとして登壇。アジア・太平洋地域が直面している資源危機の現状と、それに対しADBがエネルギー、運輸、農業、デジタルなどを統合したシステムレベルのアプローチで挑んでいることを紹介した。

同氏は「共に取り組むことでサーキュラーシティを築くことができます」と述べ、イノベーションを起こすパートナーシップを築くことの重要性を強く呼びかけた。

アジア開発銀行(ADB)上級都市開発スペシャリスト(廃棄物管理) Francois Jenny氏
アジア開発銀行(ADB)上級都市開発スペシャリスト(廃棄物管理) Francois Jenny氏

オランダに学ぶ、行政が導く経済と都市の転換

パネルディスカッションのトップバッターとなったのは、オランダ・ライデン大学で産業エコロジーについて研究するArnold Tukker教授。同氏は、世界で消費される資源の約90%が都市に集中しているというデータを提示し、経済システム内に蓄積されているマテリアル・ストックの95%以上が建物やインフラによって占められていると指摘した。

「単に循環の課題を追うのではなく、人々のウェルビーイングのために都市を築くことが重要です。スマートで住みやすい『15分都市』こそが、人々の繁栄を支えます。そのためには、長期的視点に立った建設が不可欠です。柔軟性や適応性、リノベーションのしやすさを考慮し、既存の建物を壊さず、機能をアップデートしていく事例を積み上げていくべきです」

ライデン大学 環境科学研究所(CML)産業エコロジー教授 Arnold Tukker氏
ライデン大学 環境科学研究所(CML)産業エコロジー教授 Arnold Tukker氏

さらに、かつてごみの「埋め立て大国」であったオランダが、埋め立てへの重税や特定材料の禁止といった大胆な規制によってリサイクルをビジネスとして成立させ、サーキュラー都市へと転換を遂げた実例を紹介。自治体が持つ権限の大きさと責任を強調した。

「皆さんは許認可の権限を持ち、それを通じて『どのような建物を建てるべきか』という基準を定めることができます。都市の空間がどうあるべきか、その未来に対して皆さんは大きな責任と影響力を持っているのです。どうか大胆に行動してください」

アジア新興都市の挑戦:ゼロから描く、サーキュラーな都市像

急速な都市化と人口増加に直面するアジア諸国では、サーキュラーエコノミーへの転換が都市の持続可能性を左右する重要なテーマとなっている。リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへと転換したオランダとは対照的に、理想の都市像を形づくる「ゼロからの都市づくり」に挑む、二つのアプローチが紹介された。

インド南部で新州都アマラヴァティの建設を進めるA. Bhargav Teja氏は、既存都市の改修ではなく、何もない状態から理想を形にする「グリーンフィールド開発」の強みを紹介。都市の30%を水域と緑地としてインフラとして機能させるほか、太陽光発電の義務化や「15分都市」の概念に基づくモビリティ設計など、マスタープランの段階から循環型の原則を基盤として組み込んでいると語った。

「私たちの都市は、後付けの対策ではなく、最初から循環性と持続可能性を基礎として設計できるクリーンな開発です。あらゆる側面でサーキュラーな概念を取り入れ、これらが真に融合した世界クラスの都市を実現したい」

アーンドラ・プラデシュ首都圏開発公社アディショナルコミッショナー A. Bhargav Teja氏
アーンドラ・プラデシュ首都圏開発公社アディショナルコミッショナー A. Bhargav Teja氏

また、モンゴルのウランバートル近郊で建設中の新しい衛星都市・フンヌ市の都市開発を担うGunbold Baatar氏も、新都市における資源循環の挑戦について言及。同市では現在、1日1,500トンの処理能力を持つ廃棄物発電プラントや、下水を工業用水として再利用するシステムなど、大規模なインフラプロジェクトが進行しているという。

「フンヌ市は今、まさに循環型のループを作り始めている段階です。これらのプロジェクトを通じて、従来のリニア型モデルから脱却し、資源効率の高い再生型システムへと移行することで、持続可能な行政・経済のハブへと進化させていきます」

フンヌ都市開発公社国営企業最高経営責任者(CEO) Gunbold Baatar氏
フンヌ都市開発公社国営企業最高経営責任者(CEO) Gunbold Baatar氏

循環を実装する条件:資金と市場設計の現実

各都市が描く野心的なビジョンを実現するためには、膨大な資金と、それぞれの地域の現実に即した専門知識が不可欠である。世界銀行のKremena Ionkova氏は、過去30年間の開発金融において循環型分野への投資はごくわずかにとどまっていると指摘し、資金供給に加えて民間投資を呼び込む重要性を強調した。

また、成功事例を他国に展開する際の課題についても、「サーキュラーエコノミーのモデルは、先進的な機関や都市の成功事例をそのまま移せば機能するものではない」と述べ、次のように語った。

「グローバルサウスの都市では、より安価で現実的な選択肢を提案する必要があります。市場と経済の仕組みそのものが循環するよう設計し直さなければ、多くは理想論にとどまってしまいます。だからこそ、市場が循環性を取り入れ、持続可能な状態を実現できるよう、私たちが支援する必要があるのです」

世界銀行 レジリエンス & 土地グローバルプラクティス 主任都市スペシャリスト Kremena Ionkova氏
世界銀行 レジリエンス & 土地グローバルプラクティス 主任都市スペシャリスト Kremena Ionkova氏

デジタル化が加速する都市の循環:可視化と投資の転換

セッションの最後を締めくくったのは、サークルエコノミー財団CEOのIvonne Bojoh氏。同氏は、世界の資源循環率がわずか6.9%に留まり、過去100年間で使用した資源量と同量を、直近のわずか6〜7年で消費してしまったという衝撃的なデータを提示。この流れを変えるためには、デジタル技術による効率化とスケールアップが不可欠であると説き、AIを用いて廃棄物を高精度に分別し価値を高める事例や、オフィス家具のリユースを促進するプラットフォームなど、具体的なテクノロジーの活用法を紹介した。

「サーキュラーエコノミーが実現する場は、都市です。単なる廃棄物管理に留まらず、デジタル技術で資源フローを可視化し、その価値を最大化し続ける仕組みを築かねばなりません。皆さんに持ち帰ってほしいポイントは3つあります。ステークホルダーの特定、エビデンスに基づくロードマップの策定、そして資金ニーズの明確化です。

投資を待つべき相手は、国際開発銀行だけではありません。商業銀行もまた、皆さんの循環型の取り組みに投資を始める必要があるのです。彼らに皆さんのニーズを理解させ、投資の場を拓いていくことが不可欠です」

サークルエコノミー財団CEO Ivonne Bojoh氏
サークルエコノミー財団CEO Ivonne Bojoh氏

「待たない」リーダーシップが、都市の未来を切り拓く

セッションの締めくくりとして、登壇者たちはサーキュラーエコノミーの実現における最大の壁について議論を交わした。人々のマインドセットの変革や、外部コストを反映しない価格体系といった構造的課題が挙げられる中、Bojoh氏は最も大きな障壁となるのは「受動的な姿勢」であるとして次のように述べた。

「最大の壁は、私たちが互いに待ち合ってしまっていることです。欧州の動向や国レベルの法整備をただ待つのではなく、その沈黙を破らなければなりません。今、私たちに必要なのは、不確実な状況下でも一歩を踏み出す大胆なリーダーシップなのです」

最後に、ADBのF.クレオ・カワワキ氏は、今後の展望を次のように締めくくった。

「サーキュラー分野への投資はまだ全体の0.5%にも満たないのが現実です。公的資金だけでは限界があり、いかに民間セクターを巻き込み、商業銀行にとっても魅力的な市場を創出できるかが鍵となります。私たちADBの役割は、横浜市のような先進都市が持つ知見を、アジア各地の『現場』のニーズに合わせて翻訳し、提供することです。ロードマップを描くだけでなく、実際のインフラ投資や技術導入へ踏み出せるよう伴走型の支援を強化していきます。『今すぐ行動を開始すること』に勝る戦略はありません」

アジア開発銀行(ADB)セクター局2 局長(農業・食料・自然・農村開発・水・都市開発・デジタル分野担当) F. クレオ・カワワキ氏
アジア開発銀行(ADB)セクター局2 局長(農業・食料・自然・農村開発・水・都市開発・デジタル分野担当) F. クレオ・カワワキ氏

本セッションは、アジアの都市が直面する課題の深さと、それを乗り越えようとする各国のリーダーたちの強い意志を浮き彫りにした。サーキュラーエコノミーへの移行は、決して平坦な道ではない。しかし、都市間が国境を越えて知見を共有し、失敗を恐れずに実験を繰り返すことで、持続可能な未来の輪は確実に広がっていく。横浜で灯された循環のともしびは、今、アジア全域へと広がり始めている。

【参照サイト】アジア・スマートシティ会議2025 | ASCC