横浜市では、サーキュラーエコノミーの実現を目指し、食品ロス削減や水平リサイクル、動静脈企業との連携など多岐にわたる取り組みが進められている。2025年、これらの活動を深化・拡大し連携を強化することで、市内のサーキュラーエコノミー加速が期待されている。

こうしたなか、chilink WORKSITE MINATOMIRAIにて1月24日、「脱炭素へ皆TRY!みなとみらいサーキュラーエコノミー会議2025」が開催された。今年で3回目を迎える同会議には、横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局のSDGs未来都市推進課担当係長 佐々木結花氏、同局カーボンニュートラル事業推進課担当係長 村尾雄太氏、資源循環局事業系廃棄物対策課減量推進係長 権田優氏に加え、市内でサーキュラーエコノミーを推進するレコテック株式会社の大村拓輝氏および株式会社グーンの石田憲生氏の計5名が登壇した。

当日は、横浜市内における最新のサーキュラーエコノミーの取り組み事例が共有されるとともに、「2025年、横浜のサーキュラーエコノミーを加速するキーワードは?」というテーマでパネルディスカッションが行われた。本記事は、その模様をレポートする。

横浜市内における最新のサーキュラーエコノミーの取り組み

はじめに、横浜市の3名がサーキュラーエコノミーや資源循環に関する取り組みについて説明した。

市内でのアップサイクルの取り組み事例や「食品ロス削減SDGsロッカー」の取り組み

まず、SDGs未来都市推進課の佐々木氏は、横浜市と民間事業者が共同で設立し運営する「ヨコハマSDGsデザインセンター」の取り組みを紹介した。

ヨコハマSDGsデザインセンターはSDGs達成に向けて、市内外の多様な主体が持つニーズとシーズのマッチングなどを実施することで、横浜の環境・経済・社会的課題を解決する取り組みを展開している。アップサイクルの取り組みのマッチング事例として、ラグビーチーム「横浜キヤノンイーグルス」と専門学校「横浜デザイン学院」のマッチングを紹介。両組織は、従来スポンサーが変わるたびに廃棄せざるを得なかったユニフォームを活用して、エコバッグなどのリメイク商品を製作し、チャリティーオークションに出品した。

食品ロス削減の取り組みとして、消費期限内に廃棄されてしまう専門店のパンをロッカーに入れ、店舗価格より安価に販売する「食品ロス削減SDGsロッカー」を紹介した。

2024年1月にSDGsステーション横浜関内に設置した食品ロス削減SDGsロッカー
画像出典:ヨコハマSDGsデザインセンターのウェブサイト

佐々木氏は「食品ロス削減SDGsロッカーの取り組みは、目的が2つある。事業者の廃棄物とCO2排出量の削減への貢献と、市民の皆さんにお得にパンが買える楽しさを提供し、ごみ・食品ロス・CO2の削減に向けて考えるきっかけや行動変容を促すことだ。ロッカーで購入できなかった方が、販売店舗に足を運ぶといった波及効果も見られる」と述べ、取り組みの多面的な狙いや影響について説明した。

食品ロス削減SDGsロッカーの取り組みの展望として、「2026年3月末までに、現在4台のロッカー設置台数を18区で30台以上に拡大することを目指しており、パン以外の食品販売も視野に入れている」と語り、意欲的な目標を示した。

「ボトルtoボトル」水平リサイクルと廃食用油のSAF化「Fry to Fly Project」

脱炭素・GREEN×EXPO推進局 カーボンニュートラル事業推進課の村尾氏は、脱炭素先行地域に選定されているみなとみらい21地区におけるリサイクルの取り組みを2つ紹介した。

まず、使用済みペットボトルを回収し、新たなペットボトルへと再生する「ボトルtoボトル」水平リサイクルの取り組みを紹介。村尾氏は、同取り組みの効果について「水平リサイクルで製造されたペットボトルは、石油由来のバージン材を使用して製造する場合と比べ、CO2排出量を約60%削減できる」と説明した。

2023年度の実証実験には、みなとみらい21地区の37施設が「ボトルtoボトル」水平リサイクルに参加したと報告し、2024年度は使用済みペットボトルを資源として効率的に回収する仕組みをエリア内で社会実装する方針を示した。

2つ目の取り組みとして、家庭や飲食店で使用された天ぷら油などの植物性油を回収し、国内で資源循環してSAF(持続可能な航空燃料)にリサイクルする「Fry to Fly Project」を紹介した。現在、赤レンガ倉庫でのイベントにおける事業系廃食油の回収や、MARINE & WALKでの家庭用廃食油の回収活動などが進行中だ。

「Fry to Fly Project」の取り組みが進むなか、2024年2月に横浜市は日本航空株式会社と連携協定を締結した。同協定のもと、市内のスーパーマーケットなどに設置した回収ボックスを活用し、家庭の廃食油を回収して国産SAFに活用する取り組みを進めている。2025年1月時点で市内の回収拠点は13カ所で、年度中に17カ所まで拡大する予定だ。

画像出典:横浜市「廃食油のSAF(持続可能な航空燃料)への利活用の取り組み『市内の回収拠点マップ(PDF)』」※2025年1月24日時点

最後に、村尾氏は「今後も市内の民間企業と連携し、新たな取り組みに挑戦し続けることで、資源循環モデルの構築を目指していきたい」と意欲を示した。

市内の動静脈連携を促進する「横浜市資源循環推進プラットフォーム」の取り組み

資源循環局 事業系廃棄物対策課の権田氏は、2024年10月に発足した「横浜市資源循環推進プラットフォーム」の取り組みを紹介した。

産業廃棄物の適正処理などを推進する資源循環局は、かねてから産業廃棄物リサイクル促進を視野に入れていたが、処理コストなどの課題から焼却処理されてしまう廃棄物も多く、リサイクルの取り組みは進んでいなかった。権田氏は、「脱炭素社会の実現や循環経済の促進といった社会的潮流により、状況が大きく変わりつつある」と話す。

こうした変化を背景に、「動脈産業」と呼ばれる製品の製造・販売業界にはESGへの配慮が求められるようになり、廃棄物の有効利用や不要となった自社製品の再資源化に向けた取り組みが始まっている。一方、廃棄物の処理やリサイクルを担う「静脈産業」は、これを新たなビジネスチャンスと捉え、リサイクル材の積極的な活用を求める声や、新たなビジネスモデルの提案の動きがみられる。

こうしたなか、2024年に横浜市内の静脈産業の事業者7社は共創フロントを通じて横浜市に「横浜市資源循環推進プラットフォーム」を提案し、発足させた。同プラットフォームは、動脈産業と静脈産業の連携(動静脈連携)の促進や、リサイクル技術の開発・実用化に取り組んでいく場だ。

今後、プラットフォームでは動脈産業と静脈産業のマッチングや、動静脈連携やDX(デジタル・トランスフォーメーション)によるプロジェクトが実施される予定だ。

画像出典:横浜市「横浜市資源循環推進プラットフォーム(YRCプラットフォーム)

権田氏はプラットフォームへの参加を希望する動脈産業の企業に対し、「たとえば、廃棄物として処分されているものを再製品化するプロセスや、再生材の活用・供給を希望する場合、新たな静脈産業のパートナーを探している場合、資源循環事業の開始に向けた課題を相談したい場合など、興味をお持ちの方はぜひ連絡してほしい」と、新規プロジェクトの募集や資源循環に対する課題の相談を広く呼びかけた。

【関連サイト】横浜市資源循環推進プラットフォームホームページ

デジタル資源循環プラットフォーム「pool」を活用したサーキュラーエコノミー

市内のサーキュラーエコノミーを推進する民間企業として、レコテック株式会社の大村氏は、資源の「見える化」を通じてサーキュラーエコノミーを促進するデジタルプラットフォーム「pool」を紹介した。

大村氏は、「メーカーが再資源化する際にごみに求めることとして、高品質・低コスト・安定的な調達量・トレーサビリティ確保の4つがある。特定資源は、品質とトレーサビリティを担保しピンポイントで大量に回収することで、ニーズに応えられる」と話した。

これまで、ごみの排出場所と量に関するデータが存在しないという課題があった。こうした状況の解決に向け、レコテックが提供しているのがデジタルプラットフォーム「pool」だ。

poolは、各拠点が排出するごみの内訳やリサイクル率、廃棄物由来のCO2排出量などをダッシュボード上で可視化し、データを活用することで特定資源の回収効率を向上できる。

画像出典:レコテック株式会社「次世代型廃棄物計量管理システム pool」ダッシュボード画面例

加えて、poolを活用して回収した資源は排出場所を特定できるため、追跡可能なトレーサビリティを実現できる。これにより、メーカーは再生材として利用しやすくなる。

大村氏はpoolの先進的な導入事例として「ごみ置き場」を「資源出荷庫」と再定義し、取り組みを進める百貨店の事例も紹介した。

グーンが目指すサーキュラーエコノミー

石田氏は、グーン社が取り組むリサイクル事業や、新規事業である使用済みプラスチックのマテリアルリサイクル事業を中心に紹介。サーキュラーエコノミーに関連する最新の条例や法令を時系列で整理しながら、同社の歩みについて説明した。

グーン社は現在、廃木材や使用済みプラスチックを活用したリサイクル事業に取り組んでいる。廃木材については、建設現場や解体現場から排出される木材を加工し、一部をチップ化してバイオマス燃料として再生する。

使用済みプラスチックは、廃プラスチック類を主原料とする細かく砕かれた燃料「フラフ燃料」として再生し販売。石田氏によると、フラフ燃料は石炭に比べてCO2排出量が約17%少ないのが特徴で、こうしたリサイクル活動を通じてサーマルリサイクル推進に取り組んでいる。

2022年11月からは、横浜市で初(グーン調べ)となるマテリアルリサイクル事業を開始した。同取り組みでは、使用済みプラスチックを再生原料としてペレット化し、新たなプラスチック製品に再生している。

石田氏は、「このマテリアルリサイクルは、脱炭素化やプラスチック新法施行など環境の変化に迅速に対応するべく大きく舵を切った当社の取り組みの一つだ」と強調し、事業展望について「カスケード利用により、使用済みプラスチックの品質を選ばずに再資源化に取り組んでいきたい」と語った。

画像出典:株式会社グーン「再生プラスチック製造事業 再生プラスチックの製造ライン

海外での取り組み事例として、フィリピン・セブでのプラスチック・リサイクルプラントの取り組みも紹介した。フィリピンでは、都市で排出されるごみは分別されることなく埋立てられ、ごみの収容能力の限界が見え始めているという深刻な問題がある。これに対処するべく、グーンはセブ現地で使用済みプラスチックをフラフ燃料に加工し販売している。

「これはフィリピンに限らず、東南アジア主要国に共通する都市問題だ。世界の海と陸は繋がっているため、新興国の環境問題は地球環境に直結する。環境問題解決はボーダレスである」と述べ、新興国での資源循環への取り組みが持つ重要性を伝えた。

パネルディスカッション

各取り組み紹介の後、横浜市・村尾氏、レコテック社・大村氏、グーン社・石田氏の3名によるパネルディスカッションが行われた。

2025年、横浜のサーキュラーエコノミーを加速するキーワードは?

「2025年、横浜のサーキュラーエコノミーを加速するキーワードは?」というディスカッションテーマに対し、村尾氏は「三方良し」の考え方を挙げ、「資源の出し手良し、回収者良し、世の中良し、というようにバランスよく成立している状態にすることが重要だ。そのためには、関係者同士で十分なコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことで、時にはシビアな課題についても率直に意見を交わせる関係性を作っていくことが大切だ」と述べた。みなとみらい21地区では、こうしたコミュニケーションを円滑に進めるためにエリアマネジメント組織(一般社団法人横浜みなとみらい21)が重要な役割を果たしていることに触れ、まとまった量の高品質の資源を集めるには「資源の出し手のまとめ役を担う人材や組織を育成し、エリア全体で応援していくことが重要だ」と語った。

大村氏は「廃棄物のデータ化」をキーワードに掲げ、「資源は1カ所にまとまって存在することで価値が生まれるが、ごみは分散しているため価値を引き出せていない。ごみを資源として価値化するには、データ化を進め、エリア全体で『このごみがこれだけ出ている』という情報を可視化することで、新たな価値を創出できる」と述べ、データ化の可能性について言及。「この観点から、横浜市のような大消費地は将来的に資源の大量供給地となる可能性がある」と指摘した。

石田氏は、村尾氏が挙げた「三方良し」の考え方は公民連携や動静脈連携に通じるとの認識を示し、環境負荷の高い紙おむつのリサイクル事例を挙げて説明した。「一般家庭から紙おむつを回収・分別し、再資源化する取り組みは自治体と企業の連携がなければ実現できない」と強調した。

編集後記

食品ロス削減SDGsロッカー、ボトルtoボトル水平リサイクル、Fry to Fly Project、デジタル資源循環プラットフォーム。それぞれが異なるアプローチながら、市内で多くの関係者が連携し、横浜のサーキュラーエコノミーを着実に前進させていることが伝わってきた。

資源としてのごみの価値を高めるには、「どこで」「どれだけ」「どんな資源」が排出されているのかをデータ化し、現状を正確に把握することが重要だ。データを活用することで、横浜が「資源の消費地」から「供給地」へと転換する可能性を秘めていることも示された。

しかし、データだけでは循環は生まれない。データを活用し、実際に行動を起こすのは「人」である。ごみを資源として活用・再生するには、公民連携・動静脈連携・市民参加など、さまざまなステークホルダーがつながり、共に考え、実践していくことが求められる。

「三方良し」の精神のもと、関係者同士が信頼関係を築きながら対話や協働を重ねていくことで、横浜のサーキュラーエコノミーは加速していくであろう。

2025年、横浜のサーキュラーエコノミーはどこまで前進できるのか。会場には学生の姿も見られ、未来の担い手たちとともに「サーキュラーシティ・横浜」の可能性を感じられる場となった。

【参照サイト】ヨコハマSDGsデザインセンター
【関連サイト】横浜市脱炭素先行地域ホームページ
【関連サイト】横浜市資源循環推進プラットフォームホームページ
【参照サイト】レコテック株式会社
【参照サイト】株式会社グーン

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事です。