株式会社サーキュラーエコノミードット東京はこのほど、埼玉県戸田市美女木に「サーキュラーBASE美女木」をオープンした。同拠点は、サーキュラーエコノミーをテーマとした学習・交流拠点として、2年の月日をかけてリノベーションされた。同社グループ会社で、古紙リサイクル業を運営する新井紙材株式会社の埼玉事業所に併設されていた社員寮が使用されなくなったため、再利用・リニューアルされた。
編集部は、同スペースの完成を記念して6月12日に開催されたオープニングイベントの様子を取材した。
当日は、工場視察とスペースの内覧ツアー、サーキュラーエコノミー事例の展示が行われたほか、「サーキュラー建築」をテーマとしたトークセッションが開催された。
前半の工場視察では、回収されてきた多種多様な紙資源がどのようにリサイクルの工程に進んでいくのかについて、現場を見ながら新井紙材株式会社 代表取締役 新井 遼一氏より説明を受けた。リサイクル工程において、もっともグレードが高くリサイクルしやすいのは白色無地の紙であり、色が濃くなったり加工が増えたりするにつれてリサイクルの難易度が上がる。紙の片面に防水目的の加工がされているものなどはリサイクルすることが難しい。
回収されてきた資源のひとつに、書籍があった。書籍の場合、同じ紙類であっても表紙と中身の素材が異なるため、それぞれに分類されて次の工程に回される。メーカー側からするとリサイクルが容易な設計への解像度が上がるような現場視察であった。
BASEに移動した後は、「サーキュラー建築」をテーマに、同拠点のリノベーションのポイントについて関係者によるトークセッションが行われた。第一部では、『サーキュラーエコノミー実践』(学芸出版社)著者の安居昭博氏と、EXPO 2025 大阪・関西万博でサーキュラー建築の実現に取り組む、株式会社竹中工務店 大阪本店設計部 チーフアーキテクト 山﨑篤史氏により、国内外でのサーキュラー建築事例が紹介された。
第二部では、今回BASEのリノベーションにあたり、サーキュラー建築に取り組んだ設計者Ishimura+Neishi 石村 大輔 氏、施工会社の株式会社QUMA 代表取締役 村田 絋一 氏らによる、具体的な工夫や苦労話などが交わされた。
一例として、元あった社員寮を壊す範囲を最小限に抑え、廃材を極力減らす工夫や断熱効果などについて紹介された。室内の壁は、床から約2メートルまでの部分と、それより上の部分とで異なる素材で構成されているが、人の手が触れない高い部分(壁上部や天井)はあえて木材で仕上げず、素材のセルロースファイバーがむき出しになっている。低い部分の壁は汚れやすいので木材を使用しているが、汚れても取り換えやすいように組み立てられている。また、BASE自体が役目を終え解体される際にそれがやりやすいように、釘などを使わない工法が採用されている。
トークセッションの中では、建築業界での事例として、建物を建てる際には経済合理性との兼ね合いになるという点が強調された。既存の建物において資材をできるだけ残して活用する場合でも、場合によっては新築と同程度のコストがかかることもある、それでも古いものを使い続けていくことの豊かさ、価値を広めていきたいという建築に関わる人たちの思いが語られた。
BASEのリノベーションの依頼主である新井氏は、「紙資材を豊富に持っている新井紙材だからできたわけではなく、このような建設方法を一般化していきたい」と、サーキュラー建築の普及に対する思いを伝えている。このスペースを、用途を限定して作らないことで、何にでも使える場所にし、イベントや展示などで多く活用され、社会に役立つ場所にしていきたい、とBASEの今後に向けた期待を込めている。BASEでは今後、回収されてきた紙資源がその後どうなっていくのかを理解・体験してもらうためのワークショップ開催などを計画しているという。