現在、プラスチックをはじめとするごみの大量廃棄問題に対処するべく、世界ではリユース容器利用に向けた取り組みが進められている。加えて、新型コロナウイルス感染症蔓延に伴って食品の持ち帰りが増加したことを受け、リユース容器の需要は高まっている。

リユース容器利用の拡大は、プラスチックごみの海洋流出などの環境負荷を削減し、新規雇用も創出するなど、環境的・経済的・社会的価値を生み出すことが期待されている。

こうしたなか、ドイツは国全体でリユース容器利用を拡大するべく、2023年1月に容器包装廃棄物法を改正・施行する。本記事では、ドイツにおけるリユースの文化と動向・同法の概要、現在ドイツ国内でリユース容器提供を大規模展開しているRECUPとすでにリユース容器提供を始めたレストランに、容器包装廃棄物法改正・施行とリユース容器提供全般についてインタビューした内容をご紹介し、ドイツにおけるリユース容器利用の取り組みを考察する。

ドイツにおけるリユースの文化と動向

ドイツ在住の筆者は、ドイツではリユース文化が根付いていると感じる。ドイツの冬の風物詩であるクリスマスマーケットでは、スパイスの入った熱いグリューワインがリユースカップで提供される。このカップは年・都市ごとにデザインが異なり、クリスマスマーケットの楽しみの一つになっている。デポジット代約400円とともにグリューワインを購入し、カップを返却するとデポジット代を受け取れる。

クリスマスマーケットのリユースカップ(写真:クリューガー量子)

ドイツはビールも有名だ。酵母ビールやピルツビールなど、ビールの種類によって入れるグラスも異なる。ビールの特長を活かす形や材質のグラスで飲まないと美味しくないとドイツの人は考えており、紙やプラスチックのカップは論外で、小さな町の催し物でも300円ほどのデポジット代を支払って、専用グラスに入ったワインやビールを愉しむ。リユースは、ごみを出さないという長所もあるが、食文化や伝統をより楽しめるという長所もあると筆者は思っている。

異なる種類のビールグラス。左から、ピルツビール用、ミュンヘンのビール醸造所ホーフブロイハウスのグラス、酵母ビール専用グラス(写真:クリューガー量子)

カフェなどでは、リユースカップを持参してコーヒーを購入する人も増えており、カップを持参する顧客に対して飲み物の割引をする店もある。しかしながら、ドイツでは毎年28億個の使い捨てカップが廃棄されており、約8%のみがリサイクルされている(RECUP調べ)。

リユースに関連して、デポジットシステムはドイツで浸透している。飲料容器を回収してリサイクルし、持続可能性を高めるデポジットシステムは2003年に導入され、現在ドイツ全土の多くのスーパーに飲料容器の自動回収機が設置されている。2020年にオーストリアの環境保護組織Global 2000が発表したレポートによると、ドイツの使い捨てプラスチックボトルの回収率は98%となり、EUで最も高い回収率を達成した。2022年1月からは、すべての使い捨てプラスチック製飲料ボトルがデポジットの対象となっている。

外食産業が提供する食品容器に関しては、EUの使い捨てプラスチック製品禁止指令により、2021年7月から発泡ポリスチレン製の食料および飲料用容器を含む特定使い捨てプラスチック製品のEU市場流入禁止が定められた。カトラリー・皿・ストローなども、特定使い捨てプラスチック製品に含まれる。

これにより、スーパーでもプラスチック製のカトラリー・皿・ストローを見かけることはなくなり、レストランなどは持ち帰り容器として多く使用していた発泡ポリスチレン製容器の使用をやめた。しかしながら、現在も食品の持ち帰りには使い捨てのプラスチック・紙製容器の使用が一般的で、リユース容器を提供しているレストランは稀である。ドイツ政府によると、ドイツでは毎日770トンの使い捨て持ち帰り容器包装ごみが発生している。こうしたことから、ドイツ政府は容器包装廃棄物法の改正・施行を発表した。

ドイツ、2023年1月から一定規模以上のレストラン・カフェなどにリユース容器を顧客に提供する選択肢を設けることを義務付け

2023年1月、ドイツは容器包装廃棄物法を改正・施行し、持ち帰り用の食料・飲料品を販売する一定規模以上のレストラン・カフェ・ケータリングなどに対し、リユースカップ・容器を顧客に提供する選択肢を設けることを義務付ける。使い捨て容器も引き続き提供でき、顧客がリユースカップ・容器もしくは使い捨て容器を選択できるようにする。ただし、リユース容器での提供価格は、使い捨て容器のそれより低くなければならない。店舗面積が80平方メートル以下・従業員5人以下の小規模店舗は同改正の対象外となるが、顧客が持参した容器で食料・飲料品を提供することを推奨しており、その可能性を顧客に明示しなくてはならない。

同法改正の目的は、廃棄物と原材料使用を削減して環境を保護することだ。現在、ドイツ連邦環境省は64の小規模外食施設に対して、リユース容器を使用した持ち帰りへの切り替えプロジェクトを支援している。

RECUP:リユース容器提供を大規模展開

RECUPは、2人の創設者Florian Pachaly 氏とFabian Eckert 氏が、使い捨て容器包装ごみについて行動を起こしたいと考え、2017年に設立したリユース容器を提供するスタートアップだ。ミュンヘンに本拠を置き、ドイツをはじめ近隣の国々で多くのパートナー(ドイツ全土で1万1800以上)とサービス展開している。デポジット代はカップ(RECUP)が1ユーロで、ボウル(REBOWL)は5ユーロ。カップは1000回、ボウルは200~500回使えるとしている。

創設者のFlorian Pachaly 氏(左)とFabian Eckert 氏(右)(出典:RECUP)

容器の利用方法は簡単で、デポジット代を支払って容器を購入し、使用後にパートナー店に容器を持っていくと、デポジット代が返却される。アプリのダウンロードやデータ入力も不要だ。

今回、RECUPにリユース容器提供におけるライフサイクルアセスメント・プラスチック容器の選定理由・パートナー店の利点・今後の展望などについてお話をうかがった。

ライフサイクルアセスメントの観点からみて、リユース容器は使い捨て容器より持続可能ですか?

リユース容器は製造時に多くのエネルギーを消費しますが、頻繁に使用できるため、ライフサイクル全体の持続可能性は大幅に向上します。RECUPは17回、REBOWLは11回使用すると、製造および洗浄で消費される資源は使い捨て容器製造で消費される資源よりも少なくなり、使い捨て容器包装より持続可能になります。使い捨てカップの代わりにリユースカップ1個を利用することで、CO2は21g、0.1kWhのエネルギー、430mlの水を節約できます。

プラスチック素材を選んだ理由を教えてください。

RECUPとREBOWLは単一材料のポリプロピレン(PP)製です。現在、PPはリユース容器システムにおいて最も持続可能な代替品です。PPは熱可塑性樹脂で柔軟性と耐久性に優れていますが、食品の安全性を確保し無味無臭で単一材料のため、容器としての寿命を迎えると100%リサイクルできます。製造およびリサイクルの条件を代替材料(セラミックやステンレス鋼など)の条件と比較すると、ポリプロピレン製容器は比較的低いエネルギーを消費し、優れたリサイクル性を有しています。

貴社・ユーザー・パートナーの手間(洗浄など)と、その削減方法があれば教えてください。

洗浄に関しては、問題はないと認識しています。RECUPとREBOWLは、通常のセラミック食器と同じように食洗機で洗浄できるため、衛生的で便利です。

残念ながら、ユーザーはRECUPとREBOWLを自宅に保管したまま返却しないことがあるため、デポジットシステムが機能しにくくなることがあります。この問題に関しては、定期的にSNSなどでユーザーに容器をパートナー店に返却するよう呼びかけています。

RECUP・REBOWL導入によるパートナー店の利点を教えてください。
  • 低コスト:パートナー店は、契約期間に応じたシステム料金として月額25〜45ユーロを支払います。これは、使い捨て容器よりも安価です
  • ドイツのエコラベル「ブルーエンジェル(※)」認証:RECUPのリユース容器システムは、2020年から「資源削減のリユースカップシステム」の分野でドイツ連邦環境省により「ブルーエンジェル」に認定され、REBOWLも2021年から「ブルーエンジェル」に認定されました。パートナー店は、従来の使い捨て容器に代わる環境配慮型製品を提供できます
  • ユーザーに環境保護に向けた行動を提供:パートナー店の顧客はマイカップや容器を持参することなく、店頭でリユースカップ・容器を購入して利用することで、環境保護に貢献できます
  • ごみ削減:RECUPは1000回、ボウルは200~500回使用できることから、使い捨て容器ごみを削減できます
より多くRECUPを使用してもらうために、どのように働きかけていますか?

当システムが便利で簡単であることが、より多くRECUPとREBOWLを使用してもらうことにつながると考えています。当システムでは、ユーザーは商品購入時にRECUP・REBOWLを借りられ、自宅から容器を持参する必要はありません。容器は多くのパートナー店で返却でき、デポジットが返金されます。ドイツではデポジットシステムは浸透しており、アプリのダウンロードやデータ入力も不要です。加えて、キャンペーンやパンフレットなどを通じて、利便性と日常生活での有用性について多くの人に伝えています。

パートナー店やユーザーの反応はいかがですか?

外食産業におけるリユース容器の需要は高まっています。新型コロナウイルス感染症蔓延により、多くのレストラン経営者や消費者は深刻な廃棄物問題や持続可能なアイデアの重要性を認識しました。ガソリンスタンドチェーンやその他の大手チェーンなどでのRECUP・REBOWLの大規模な導入、およびポリスチレンやプラスチックなどの代替品に関する顧客からの具体的な質問は、社会で認識が高まっていることを示しています。

すでにリサイクルされた容器はありますか? 何にリサイクルされましたか?

リサイクルされた容器はまだありません。リサイクルには一定量のRECUP・REBOWLが必要です。一定量が集まったらメーカーに送り、工具箱の製造などに使用されます。食品安全上の理由で、リサイクルされたRECUP・REBOWLから新しいRECUP・REBOWLを製造することはまだできません。

容器包装廃棄物法が2023年に改正されることについて、見解を教えてください。

2023年からリユース容器提供が義務化されることは、政府からの強力な推進力となり、当社にとってもレストラン・カフェ経営者への働きかけの基盤となります。新型コロナウイルス感染症蔓延後、外食産業と消費者はリユース容器システムを求めています。法律改正により、長期的に使い捨て容器を完全に廃止するという当社のビジョン達成に向けて、当社は大きな一歩を踏み出します。ドイツの立法府・環境保全団体・多くの都市・連邦環境省が、リユースへの取り組みを推進し続けていることを嬉しく思います。

RECUPの展望・目標・計画を教えてください。

現在、多くの重要なプロジェクト・製品・デジタルデポジットに取り組んでおり、配達部門全体のソリューションを開発して提供するという目標にも焦点を当てています。今年と来年は、特にレストランと配達サービス部門で市場を大きく牽引し、2023年1月から外食業界で必須となるリユース容器提供のためのインフラの開発を進めていく予定です。

リユース容器提供を始めたレストラン「ZAFFERANO」

イタリアンレストラン「ZAFFERANO(住所:Poststrasse 34 69115 Heidelberg)」は、ドイツ南西部ハイデルベルク市中央部にあるレストランで、すでにリユース容器を提供している。ZAFFERANOの従業員の方にお話をうかがった。

容器包装廃棄物法が2023年に改正されることについて、見解を教えてください。

同法改正には賛成です。昔から、多くの人が陶器など使い捨てでない容器を自宅で使用しており、環境に配慮してさらに行動したいと考えていると思います。

リユース容器提供を開始した理由を教えてください。

ごみを減らすこと、環境に配慮した取り組みを進めたいと思ったからです。2020年、新型コロナウイルス感染症対策における最初のロックダウンの後にRECUPのリユースカップを導入し、2021年9月にREBOWLを導入しました。ピザは大きいことから、現在も段ボール製の容器包装を使用しています。

リユース容器を導入した感想はいかがですか?

とても満足しています。この容器は便利で、プラスチックの味はまったくせず、重ねられ、安定しており、料理が漏れません。リユース容器のコンセプトはとてもいいと思います。

リユース容器導入前・導入後に難しかったことはありますか?

唯一の難点は、当レストランのパスタの量には、容器が大きすぎてパスタが少なく見えてしまうことです。

手間(洗浄などによるコストや労働コスト)は、使い捨て容器使用と比べてどうですか?

リユース容器提供における手間は、それほどありません。レストランで通常使用する食器などと一緒に食洗機でリユース容器を洗浄しており、通常の洗浄と変わりません。使い捨てアルミ製容器やプラスチック容器の値段は、100個で約20ユーロです。リユース容器を使用する方がコストを削減できます。

従業員と顧客の反応はいかがですか?

リユース容器のデポジット代に不満を感じるお客様もいますが、とても多くのお客様がリユース容器に大変満足されています。従業員も大変満足しており、家に料理を持ち帰るときに利用しています。

筆者の家から徒歩5分のビオスーパーもリユース容器を提供しており、その体験をここにご紹介する。利用方法はとても簡単だ。パン・チーズ売り場で従業員にREBOWLを買いたい旨を伝え、チーズやケーキを容器に入れてもらう。従業員はそれをレジに持って行き、顧客は他の商品とともにレジでREBOWLのデポジットを含むすべての会計をし、使用後にREBOWLを返却するとデポジット代を受け取れる。容器はシンプルかつ飽きのこないデザインで洗練されており、固くてしっかりした印象を受けた。

(写真:クリューガー量子)

おわりに

「リユースに舵を切るドイツ」というテーマで、ドイツにおけるリユース文化・動向、法律改正、リユース容器提供サービスについてみてきた。デポジットシステムやリユース文化が根付いているドイツでは、今回の法律改正による「一定規模以上のレストラン・カフェなどへのリユース容器を顧客に提供する選択肢提示の義務付け」は、ごく自然な流れのように感じる。

ドイツ国内でリユース容器提供を大規模展開しているRECUPと、リユース容器提供を始めたレストラン「ZAFFERANO」からは、容器包装ごみ削減による環境負荷低減と、リユース容器の提供・利用全般についての想いを伺うことができた。使い捨て持ち帰り容器包装ごみを削減するべく、行政・企業・消費者が共同で資源を効率的に活用する仕組みを迅速に作り行動するドイツの姿勢とこれまでの成果から多くを学び、行動に移していきたい。

ブルーエンジェル:連邦環境自然保護原子力安全省が責任を負う、世界で初めて導入されたエコラベル制度。次の主な条件を満たす製品・サービスが認定される。他の製品と同等の機能を持つこと、あらゆる側面の環境保護が考慮されていること、環境への配慮が特徴であること、使用や安全性に問題がないこと

【参照サイト】Mehrweg fürs Essen zum Mitnehmen
【参照サイト】RECUP
【参照サイト】世界の主要な環境ラベル制度
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*冒頭の画像の出典:RECUP