Sponsored by Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot
2025年10月20日〜23日、台湾・台北市内で開催されたサーキュラーエコノミーの国際会議「Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot 2025(以下、APCER)。アジア太平洋地域のサーキュラーエコノミーへの移行を加速させることを目的に、台湾環境部、経済部、農業部という3省とCircular Taiwan Networkが共催した。
この4日間、10カ国から計96人が登壇し、50カ国から500人以上が参加者としてこの場を共にした。政府関係者から高校生まで、幅広い世代、分野、地域の人々が一堂に会する貴重な場となったのだ。
本会議のハイライトの一つが「台湾循環経済ロードマップ」の草案が発表されたことである。主に以下の3つの観点が強調された。
- 2020年比で2050年までに循環経済率を2.5倍に引き上げることを目指す
- 2026年発表予定のロードマップが対象に置くのは、繊維、バイオマス、プラスチック、建築・建設、ハイテク・電子機器、エネルギー・重要材料の6つの主要産業
- 国内政策だけでなく「アジア太平洋域における協働枠組み」を念頭に置く
もとより、台湾では廃棄物のリサイクル率が61.4%、一般ごみのリサイクル率が57.7%(2020年時点)であり、一人あたりの家庭ごみ排出量は1997年の1.1キロから2015年頃には0.4キロまで減少する(2020年時点)など、資源の効率的な使用を推進してきた(※)。
さらにサーキュラーエコノミーにおいては、2016年に政府が国の戦略に取り込むと明示。2018年12月には行政院が「Circular Economy Promotion Plan(サーキュラーエコノミー推進計画)」を承認した。台湾の産業政策「五+二(5+2)創新産業計画」内にもサーキュラーエコノミーが組み込まれており、アジア太平洋では先駆けて政策に取り入れてきた。
そんな台湾で開催されたAPCERは、アジア太平洋における史上最大級のサーキュラーエコノミーの国際会議として、多岐にわたる議論が展開された。本記事では、参加者が一堂に会した2つの全体セッションをレポートする。
アジア太平洋地域から見るサーキュラーエコノミー政策
最初の全体セッションでは、「廃棄物リサイクルからシステム変革へ:アジアの視点から見た国家サーキュラーエコノミーロードマップ」と題して、アジア太平洋の各国から登壇者が集った。それぞれにどのような政策を通じてサーキュラーエコノミーが推進されているのか。その現状と課題、そして展望が共有された。

- チ・ミン・ペン氏:台湾環境部長(台湾)
- ステファニー・ダウンズ氏:WRAP(Waste and Resources Action Program)アジア担当エグゼクティブディレクター
- シャリーニ・バラ氏:International Council for Circular Economy (ICAC) マネージングディレクター(インド)
- 村上 進亮氏:東京大学大学院工学系研究科(日本)
台湾:アジアから世界へ広がるサーキュラーエコノミーのハブを目指す
はじめに、彭啓明環境大臣が登壇し、台湾におけるサーキュラーエコノミーの進捗と将来のビジョンについて触れた。
台湾のリサイクル率(コンポストを含む)は、OECDによると世界5位。ドイツのグリーンテックレポートの手法に基づく計算では、台湾のグリーンテクノロジーの付加価値総額は5,120億台湾ドル(約2兆5,476億円)に達し、その中でもサーキュラーエコノミー分野が最大1,688億台湾ドル(約8,402億円)、従業員10万人以上の創出に貢献しているという。
一方、エネルギーの約85%を化石燃料に依存しており、エネルギー転換は大きな挑戦であると指摘。再エネ分野においても太陽光パネルの廃棄など、新たな課題への解決策が必要であることが共有された。
この現状に対し、彭啓明環境大臣から「台湾サーキュラーエコノミー・ロードマップ(草案)」がこの場で公開された。テキスタイル、バイオマス、プラスチック、建設、ハイテク電子、エネルギーの6分野を重点領域と定め、将来的に台湾が「アジアにおけるサーキュラーエコノミーのハブ」となることを目指すものだ。

日本:中小企業を巻き込み循環する「経済システム」の確立へ
東京大学大学院の村上進亮教授は、日本の取り組みの歴史と現状について解説した。1970年の廃棄物処理法から2000年の「循環型社会形成推進基本法」制定まで、法制度を段階的に整備。当初は「経済」ではなく「社会」の形成を掲げてきたと言える。
そして現在、政府全体ではサーキュラーエコノミーへの移行を国家戦略の中核に据え、経済的側面に重点を置いている。しかしながら従来のシステムがリサイクルに焦点を当てすぎていること、また、多くの小規模事業者で構成される日本の産業において、複雑なシステムを改訂することの難しさが課題となっていると指摘された。一方、好事例としてPanasonicのサブスクリプション事業が挙げられた。
生活者の行動傾向においては、未だ新品を購入する傾向があり、サーキュラーエコノミーの商品・サービスに対する明確な支持が見られないという。ただし、若い世代がサブスクリプションやリファービッシュ品など、新しい所有形態を受け入れ始めていることに言及。こうした変化の兆しを機会として捉えることが重要であると位置付けられた。

インド:企業と生活者の両面から、急成長する経済の基盤を形成
International Council for Circular Economyディレクターのシャリニ・バラ氏は、人口世界一の国インドが直面するスケールと独自のアプローチを説明した。
インドでは、2021年時点で1日あたり16万トンの廃棄物が発生。収集率は95%に近いものの、処理率は50%に満たないという。これに対し、政府は拡大生産者責任(EPR)を5つの主要セクターで導入。また、「Waste to Wealth(廃棄物を富へ)」や、生活者やコミュニティの行動変容を重視した「Mission LiFE(環境のためのライフスタイル)」といった独自の取り組みを推進している。
このように、産業移行と生活者視点の両面からのアプローチを進めるインド。同氏は、その中でも零細・中小企業やインフォーマルセクターが、分散型の地域的解決策を生み出す上で重要な役割を担っていることを強調した。
オーストラリア:調達ポリシーと新たな「リメイド」ブランド活用
WRAPアジア担当のステファニー・ダウンズ氏が拠点を置くオーストラリアでは、2024年12月にサーキュラーエコノミーフレームワークを発表。これを実現すべく、建設、IT、家具、テキスタイルといった大規模な購買を対象とする持続可能な調達ポリシーが導入された。これらの動きには、同社もサポートに入ったとのこと。
さらに、まもなく「Remade in Australia」ロゴを立ち上げ、リサイクルされた材料の使用や、製品が再生された経路を明確にする取り組みを立ち上げる予定だという。
一方、同氏はアジア太平洋地域で広く活動するWRAPの経験から、サーキュラーエコノミーの取り組みが気候変動対策から切り離されていることと、サーキュラーエコノミーを担う人材の不足を課題として指摘。具体的な取り組みを実現するためには、循環型のアクションを義務付ける政策が欠かせないとして、アジア太平洋における政策面でのサーキュラーエコノミーのさらなる推進の必要性が示された。
サーキュラーエコノミーを推進する「良きガバナンス」とは
続くセッションのテーマは「ロードマップから行動へ:循環型ガバナンスの推進と循環型協力の構築」。台湾とEUでサーキュラーエコノミーへの移行を推進する4名が登壇し、サーキュラーエコノミーへの移行を成功させるためには、効果的なガバナンスと国境を越えた協力が不可欠であることが強調された。

- チャールズ・ファン氏:Circular Taiwan Network(台湾)
- ウェイ・ワン・チェン氏:Everlite Chemical Industrial Corporation ジェネラルマネージャー(台湾)
- フリーク・ファン・エイク氏:Holland Circular Hotspot CEO(オランダ)
Circular Taiwan Network代表のチャールズ・ファン氏は、「サーキュラー・トリロジー」として「良きアイデア、良きガバナンス、良きビジネス」という3つの要素がサーキュラーエコノミーへの移行の指針となるとして提案した。これは、SDGsを中核に据え、3つの要素が連動するモデルであるという。
- 良いアイデア(Good Ideas):従来の3R(Reduce, Reuse, Recycle)はリニア経済でも当てはまる概念のため、ニーズの再定義(Redefine needs)とシステムの再設計(Redesign)から始めることが必要。後者が、良いアイデアの原則「2つのR」と位置付けられる。
- 良いガバナンス(Good Governance):規制遵守型から、インセンティブ主導型へ。政府、企業、市民社会が協働し、部門横断的かつ国境を越えた連携を構築する。
- 良きビジネス(Good Business):株主利益だけでなく、より広いステークホルダーの利益を追求する。廃棄物をコストではなく、価値ある資源として取引するビジネスモデルを生み出す。
チャールズ氏は、現在事業やアイデアが単体で存在することを課題として指摘。ニーズの再定義とシステムの再設計から生まれた良いアイデアを、分野横断的な連携(ガバナンス)を通じて持続的なビジネスへと根付かせていくことが重要であると語った。

しかし現実には、既存の二国間・多国間貿易交渉がリニア経済を前提として行われており、サーキュラーエコノミーの原則を組み込んだ新たな対話の枠組みが必要であるとされた。
このサーキュラーエコノミーを前提とした国際貿易の再設計について、台湾の化学大手・Everlight Chemicalのゼネラルマネージャー・ウェイ・ワン・チェン氏が発言。サーキュラーエコノミーのさらなる国際的な拡大に向けて①政策の整合性、②貿易手続きの円滑化、③政府による循環型公共調達のリーダーシップ、という3点が重要であると指摘した。
同社は、社内にサーキュラーエコノミー委員会を設置し、トップダウンとボトムアップ双方のアプローチで変革を推進している。染料製造工程で発生するアンモニア含有廃水を原料として再利用する技術を開発し、年間1,140トンのCO2削減と570万台湾ドル(約2,835万円)の原料コスト削減を達成した事例が紹介された。

また越境した連携によってサーキュラーエコノミーを推進する大きな事例として、EUが挙げられる。Holland Circular Hotspot代表のフリーク・ファン・アイク氏は、EUの動向とその中でフロントランナーとしてのオランダの経験を共有した。
EUグリーンディールは、EU域内だけでなく、EUと取引するすべての国に影響を与える「規制上の現実」となっている。これにより、グローバルなサプライチェーン全体にサーキュラーエコノミーへの対応が求められる。
そんな中オランダは「2050年までに完全なサーキュラーエコノミーを実現する」という国家目標を掲げている。その移行を「Xカーブ」モデル(古いシステムの解体と新しいシステムの構築を同時に進める)で捉え、政府、企業、市民、研究機関が連携する「ネットワーク・ガバナンス」が重視されていることが語られた。
サーキュラーエコノミーへの連携を、アジア太平洋から
本会議の閉幕にあたり、台湾の頼清徳(らい・せいとく)総統が来場し、こんな力強い言葉を残した。
「アジア太平洋地域は、世界のサーキュラーエコノミーを牽引する最もダイナミックな地域となるだろう。このフォーラムは新たな出発点であり、台湾とそのパートナーは共同の努力を通じて、循環型イノベーションを共有の繁栄へと転換し、連携によってビジョンを現実の進歩に変えることができることを示すことができる」
プレスリリースより引用

まさに、重要であるのはこのAPCERの「あと」に各政府や企業、市民がどう行動するかである。現在地と課題を言葉で交わした今、役割を補い合いながら具体的な一歩を行動で示していくことが必要だ。
その時、果たしてアジア太平洋の各国は、資源を奪い合うのではなく、資源を共有しモノを循環させるための協力体制を確立することができるだろうか。サーキュラーエコノミーを推進する背景には資源の制約があり、資源の争奪と表裏一体である。この舵取りをサーキュラーエコノミーの実現に向けていくには、人々が共有できるアジア太平洋ならではのナラティブが必要であるのかもしれない。
【参照サイト】Launching a New Era of Circular Collaboration from Taiwan|Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot 2025
【参照サイト】Taiwan Showcases Asia-Pacific Leadership in Circular Economy at APCER & Hotspot 2025
【参照サイト】【LIVE】亞太循環經濟論壇暨熱點 APCER & Hotspot 2025|October 22, 2025





