欧州委員会が2026年秋に採択すると見込まれる循環経済法を前に、欧州の環境NGOであるZero Waste Europeが、焼却底灰の建設利用に警鐘を鳴らす研究報告書を公表した。報告書は、EUの循環経済政策が掲げる「有害物質のない循環経済の理念」と、焼却残渣の再利用政策との整合性を問う内容となっている。

報告書「A toxic legacy: Bottom ash in Europe’s circular economy」は、欧州で道路、路盤、コンクリート、セメントブロックなどに利用されている焼却底灰について、長期的な溶出リスク、規制の不統一、試験手法の限界、PFASやマイクロプラスチック対応の不備を指摘している。

焼却底灰は都市ごみ焼却後に残る固形残渣で、粉塵・灰・スラグ・ガラス・石材片・金属などが混在する不均質な物質だ。欧州の焼却底灰には、カルシウム・マグネシウム・シリコンを主成分とし、鉄・アルミニウムに加え、鉛、カドミウム、ヒ素、クロム、亜鉛、アンチモンなど潜在的有害元素(PTEs)が含まれる場合があるとされる。

報告書によれば、焼却底灰は焼却によってしか生成されず、都市ごみ焼却量の約14~31%が底灰になる。また、焼却後に金属回収や粉砕・ふるい分け・洗浄などの処理が行われるが、欧州には統一的な標準処理方法が存在しない。

重要な論点の一つが、リサイクルとの位置づけだ。報告書は、EU法上、焼却底灰から金属を回収した後に残る灰や砂、石のような無機質な部分を道路や建設材料に使うこと自体はリサイクルとは見なされていないと整理する。リサイクルに該当するのは、焼却底灰から回収される金属部分のみであり、循環経済政策の文脈で焼却残渣利用をどう扱うかが問われている。

規制面でもEU内の対応は大きく分かれる。オランダやデンマーク、英国では比較的利用が進む一方、ドイツやフランス、イタリアなどは一定条件下で利用を認め、オーストリアやアイルランド、一部東欧諸国では制限的な対応が取られている。スイスでは金属回収後の残渣を有害廃棄物処分場で管理するなど、国ごとの差が大きい。

報告書が特に問題視するのは、焼却底灰の化学的安定性、PFAS、マイクロプラスチック、そして試験方法の限界だ。焼却底灰は業界内で比較的安定した物質とみなされることがあるが、報告書は、老化処理後も化学変化が続くため、長期間にわたって有害物質の溶出リスクが変化する可能性があると指摘している。

PFASについては、スウェーデンの研究を引用し、焼却底灰中からPFASが確認されたと報告。水に溶けやすい短鎖PFASは、雨水などを通じて土壌や水環境へ広がる可能性がある一方、欧州では焼却底灰由来PFASの溶出を統一的に管理する規制が十分整っていないと指摘している。また、スウェーデンやドイツの研究では、焼却底灰の細かい粒の中からマイクロプラスチックが確認されている。EUは環境中のマイクロプラスチック削減を進めているが、焼却底灰については規制や管理の仕組みが十分整っておらず、適切な規制対象として扱われていない可能性があると報告書は指摘している。

さらに、標準的な溶出試験の多くが蒸留水や固定pH、短期条件を前提としており、地下水中の有機物や長期曝露といった現実環境を十分再現していない可能性があると分析している。

ケーススタディでは、英国では焼却底灰の安全性を判断する試験が業界主導の自主ルールに依存しており、「非有害」と分類されやすい構造だと報告書は指摘している。一方、ドイツでは2023年に「二次建設資材令(EBV)」が導入されたが、対象となる有害物質の範囲や試験方法には限界があると指摘している。

一方で報告書は、焼却底灰の利用すべてが直ちに重大な健康被害を招くと断定しているわけではない。用途や規制条件によってリスクは異なるとしつつ、安全性が十分に確認されないまま利用拡大が進む可能性に警鐘を鳴らしている。

報告書は欧州委員会に対し、焼却底灰に予防原則を適用し、EU全体で統一した分類・試験・長期監視ルールの導入を求めている。また、PFASやPOPs、重金属、マイクロプラスチックへの対応強化に加え、焼却底灰を建設資材として広く使うよりも、環境中に広がらないよう安全に管理・処分することを優先すべきだと提言している。さらに、焼却能力の拡大につながる政策の見直しや、EU排出量取引制度(EU ETS)への完全組み込みも求めている。

EUの循環経済法は、資源循環の促進だけでなく、有害物質なき循環経済をどう実現するかが問われる法制度となる。焼却底灰を資源として扱うのか、それとも管理すべき有害残渣と位置づけるのか。その判断が、今後のEU環境政策の大きな分岐点となりそうだ。

【プレスリリース】New report warns EU Circular Economy Act risks promoting hazardous waste in construction
【参照記事】A toxic legacy: Bottom ash in Europe’s circular economy
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