東レ株式会社は11月1日、熱硬化性樹脂を用いた多様な炭素繊維複合材料(CFRP)から、炭素繊維の強度や表面品位を維持したままリサイクルする新技術を創出したと発表した。この技術で得られるリサイクル炭素繊維(rCF)は、バージン炭素繊維と比較して95%以上の強度を保持するという。
炭素繊維を樹脂で固めた複合材料であるCFRPは、軽量でありながら鉄の数倍の強度を持つことから、航空機や自動車、風力発電のブレードなどに広く利用されている。しかし、その多くに使われる一度硬化すると熱を加えても再び軟化しない「熱硬化性樹脂」は分解が難しく、リサイクルが大きな課題となっていた。従来は、廃棄されたCFRPを高温で熱分解するマテリアルリサイクルが行われてきたが、炭素繊維が熱による損傷を受け強度が低下するため、射出成形材料など用途が限定されていた。また、鉄鋼炉の還元剤として利用するケミカルリサイクルも存在するが、これは素材としての価値を大きく下げるダウンサイクルにあたる。
東レは、有機合成やポリマー重合に関する知見を活かし、三次元に架橋された難分解性の熱硬化性樹脂を、従来よりも低温で分解できる新規の分解剤を発見した。この分解剤を用いることで、航空機や風車、自動車など様々な用途のCFRP廃材から、熱損傷を抑制した高品質なrCFの回収を実現した。東レによると、このrCFの単糸引張強度は、石油由来のバージン炭素繊維に対し95%以上の強度保持率を達成する。また、同社の試算では、このリサイクル技術にかかるCO2排出量は、バージン炭素繊維の製造時と比較して50%以上の削減が期待できる。
この新技術で得られたrCFは、強度が高いだけでなく、樹脂の残渣が少なく表面品位に優れるため、より幅広い用途への加工が可能だ。東レは応用展開の一つとして、短繊維を分散させてシート状に加工する不織布化を推進。回収したrCFは水への分散性を容易に制御でき、均質な形態の不織布や、従来にない和紙の風合いを持つ不織布の作成に成功した。
この和紙調炭素繊維不織布は、炭素繊維が持つ電波遮蔽や熱伝導性といった機能性と、和紙の持つ独特の意匠性を兼ね備えた新素材として、自動車の内外装、建築、電気電子、日用品など幅広い分野での活用を見込む。2025年10月30日から11月9日まで東京ビッグサイトで開催されていた「Japan Mobility Show 2025」では、マツダ株式会社のビジョンモデルの内装や外装部品に、この不織布がすでに搭載された。
東レは、顧客への試作サンプルの提供を開始しており、今後、用途に合わせたさらなる技術検討を進める方針だ。なお、本技術および炭素繊維不織布の加工技術は、環境省の「脱炭素型循環経済システム構築促進事業」により得られた成果だとしている。
【プレスリリース】炭素繊維の力学特性・表面品位を維持可能なリサイクル新技術を創出 – 炭素繊維不織布などから用途展開を推進 –
【関連記事】東レ、日東製網、舘浦漁協がポリエステル漁網の「漁網to漁網リサイクル」を拡大、循環型漁業へ
【関連記事】航空機の「複合材to複合材」リサイクルへ。東レら4社、A380の部品再利用で連携
【関連記事】東レとホンダが挑むガラス繊維配合ナイロン6のリサイクル。互いの得意領域を活かした共創





