2025年11月25日、パシフィコ横浜ノースで開催されたアジア・スマートシティ会議2025(Asia Smart City Conference / 以下、ASCC)において、世界銀行 東京開発ラーニングセンター(TDLC)主催によるセッション「アジアにおける循環型経済の推進に向けた都市廃棄物問題への対応策」が行われた。

本記事では、世界銀行による最新の廃棄物管理に関する報告と、ウズベキスタン、フィリピン、パキスタンの各都市リーダーによる実情報告をまとめる。

世界銀行による廃棄物管理の最新トレンドと警鐘

世界銀行の廃棄物管理および循環型インフラのグローバルリードを務めるKremena lonkova氏は、2026年2月に公表予定のフラッグシップレポート『What a Waste 3.0』での発見を紹介し、世界の廃棄物管理の現状をデータから紐解いた。本レポートは、217か国と約260都市のデータセットに基づく包括的な分析であるとのこと。

同氏が報告で示した最大の懸念は、廃棄物の発生量が2018年時点の予測を上回るペースで増加している点だ。現状のまま推移すれば、今後25年間で世界の廃棄物は50%増加すると予測され、その多くはグローバルサウスの国々で発生するという。

「2018年に世界でどれだけの廃棄物が排出されているかを計算しましたが、今日、私たちは当時の予測よりもはるかに多くの廃棄物を目の当たりにしているのです」

What a Waste 3.0のハイライトを紹介する様子

また、廃棄物収集率の改善が見られないことも課題である。世界全体での収集率は約83%にとどまり、低所得国では28%、サハラ以南のアフリカでは30%程度しか回収されていないという。この停滞は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を危ぶませる要因となっていると指摘された。

さらに、資金面での需給の乖離が示されたのが、中所得国。中所得国が適切な廃棄物管理システムを維持するにはGDPの約0.3%、野心的な循環型モデルを目指す場合には約0.5%のコストが必要とされるが、実際の公的支出はその半分以下にとどまっている国が大半であるという。

アジア太平洋地域に焦点を当てると、東アジアでは今後25年間で廃棄物が30%増加する見込みであるのに対し、南アジアでは100%の増加、つまり倍増すると予測されている。南アジアの収集率は67%と世界平均の83%を大きく下回っており、未回収あるいは不適切に投棄された廃棄物が環境汚染と気候変動の要因となっているそうだ。

このように、都市化と経済成長に伴う廃棄物増大のスピードが、対策のスピードを凌駕しているのが現状だ。特に、世界全体の都市廃棄物総量においては、食品廃棄物が全体の約38%(東アジアでは約45%、南アジアでは約39%)を占めており、これらが分別されずに埋立地に送られることが温室効果ガスの主因となっているとのこと。

参加者の様子

一方で、制度的な基盤は進展が見られる。特にプラスチック汚染に関しては、多くの国が具体的な規制を導入している。さらに、生産者が製品の廃棄・リサイクルまで物理的・金銭的責任を負う「拡大生産者責任(EPR)」についても、多くの国で法制化が進んでいることが確認された。

また、廃棄物管理セクターが持つ経済的なポテンシャルについても新たな光が当てられた。今回初めて追加された「雇用」や「コスト」に関する指標分析に基づき、Ionkova氏は、適切な廃棄物管理が単なるコスト負担ではなく、雇用創出や経済成長につながる機会であることも強調した。

以上のことから同氏は、アジア太平洋のサーキュラーエコノミーへの移行には、まず基本的な廃棄物の収集率を高めることが不可欠であるとの認識を示し、アジア太平洋地域から先進的な事例が生まれることへの期待と共に締め括った。

ウズベキスタン:ヤンギユリ市におけるコミュニティ主導の選別とデジタル化

続いて、ウズベキスタンのConsort Group LLCのCEOであるMurod Khusanov氏が登壇し、タシュケントの衛星都市であるヤンギユリ市での取り組みを紹介した。同市では、かつて管理の行き届かない違法なごみ捨て場が地域全体に広がっていた背景があり、これを管理された収集ポイントへと転換するプロジェクトが進められてきた。

違法なごみ捨て場が存在した一方、各家庭がごみの分別をしていない訳ではなかったという。家庭レベルでの廃棄物分別の実態を調査したところ、約85〜90%の世帯がすでに家庭内で分別を行っていたものの、ジェンダー差や背景知識の欠如などが課題であることが分かった。Khusanov氏はこう述べる。

「平均して約85〜90%の世帯が家庭内で廃棄物を分別していることが分かりました。驚いたことに、これは世帯主が女性か男性かに大きく左右され、女性が世帯主の家庭は男性の場合よりも積極的に廃棄物を分別する傾向があります。しかし別の課題として、『なぜ分別するのか』という意識が欠如している点が見えてきたのです」

コノスルト・グループ LLC最高経営責任者 Murod Khusanov氏
コノスルト・グループ LLC最高経営責任者 Murod Khusanov氏

そこで同市ではインフラやハード施設の整備だけでなく、既存の習慣を「意識的な循環」に変えるためのデジタルプラットフォームを導入。これがConsort社の手掛けた、アプリ・Wastelessを通じてビジネスと家庭、収集業者をつなぎ、ペットボトルや紙、缶などの資源回収を依頼できるのだ。インフォーマルな収集業者も正規の枠組みに統合し、AIを活用したルート作成によって効率的な資源化を図るものである。

また、コカ・コーラ社との提携により、回収されたペットボトルが確実に新しいボトルへと再生されるトレーサビリティを確保するなど、都市ならではのほどよい規模と機動性を活かした循環モデルの構築も進められている。

フィリピン:マニラ首都圏における高密度都市の行動変容とインフラ

フィリピンのマニラ首都圏開発局(MMDA)のRomando Salandanan Artes氏は、ムンバイやダッカに匹敵する人口密度を持つマニラ首都圏の廃棄物問題について語った。1,400万人以上が居住し、1日あたり約1,230万キログラムの廃棄物が発生する同地域では、急速な都市化がインフラのキャパシティを圧迫しているという。

ただし同氏は、廃棄物管理における最大の障壁が、規制やインフラ以上に「人々の行動」にあると指摘する。インフラが整備されていても、日々の習慣が変わらなければシステムは機能しないからだ。現状の収集システムにおける限界について、同氏は次のようにデータを引用した。

「環境省と経済省の研究によると、現在のシステムが整備されていても、マニラ首都圏の廃棄物のうち、適切に収集され衛生埋立地に持ち込まれているのは約85%にとどまります。残りは多くの場合、他の廃棄物に混入するか、水路に流出しているのです」

そこでMMDAは、インフラ整備と行動変容のアプローチを組み合わせて対応している。インフラ面では、プラスチックやガラスをレンガに加工する施設や、堆肥化設備の導入に加え、水路沿いの不法投棄を防ぐためにリニアパーク(線状公園)を整備し、物理的に投棄できない環境を作り出している。行動面では、コミュニティ単位での分別指導や監視カメラによる不法投棄の摘発に取り組むなど、ソフトとハードの両面から「分別が当たり前」となる社会規範の形成を目指しているのだ。

マニラ首都圏開発庁 長官 Romando Salandanan Artes氏
マニラ首都圏開発庁 長官 Romando Salandanan Artes氏

パキスタン:汚染が進む都市廃棄物の管理改善への挑戦

パキスタン・シンド州廃棄物管理局のTariq Nizamani氏と、同州政府のAnwar Shar氏は、同国有数の巨大都市・カラチの事例を報告した。人口推計2,000万人超を擁するカラチでは、1日あたり1万5,000トンもの廃棄物が発生しており、世界でも汚染が深刻な国の一つとして知られる一方、長年十分な廃棄物管理がされてこなかったという。Nizamani氏は次のように強調した。

「カラチは、ムンバイやデリー、ダッカを超えて、世界でも最も多くの廃棄物を排出する都市であり、そのうちの42%が生ごみです」

特に30年以上にわたり使用されてきたジャム・チャクロ(Jam Chakro)投棄場の環境負荷は甚大であり、世界銀行の支援を受けたSWEEP(Solid Waste Efficiency & Emergency Project)という取り組みによって、この巨大な“負の遺産”の閉鎖と近代的な衛生埋立地への移行が進められている。Shar氏は、その投棄場の規模と環境負荷について次のように詳述した。

「ジャム・チャクロの敷地面積は100万平方メートルを超えています。これまで投棄された廃棄物の量は1,100万立方メートルを超え、そこからのメタン排出量は1時間あたり3〜10トンにおよびます」

シンド州固形廃棄物管理局シンド州政府 地方自治・住宅・都市計画局マネージング・ディレクター Tariq Nizamani氏
(登壇者手前から)シンド州固形廃棄物管理局シンド州政府 地方自治・住宅・都市計画局マネージング・ディレクター Tariq Nizamani氏、シンド州政府 地方行政局プロジェクト・ディレクター Anwar Shar氏

このプロジェクトでは、単に投棄場を閉鎖するだけでなく、浸出水管理やガス回収システムを備えた埋立地を新設し、カーボンファイナンスを通じて約2,000万ドル(約31億円)の資金を確保することに成功しているとのこと。また、市内4箇所に廃棄物回収のハブとなる中継輸送施設を建設し、収集から処分までのプロセスを効率化しようとしている。

カラチの事例は、制御不能に見えた巨大都市の廃棄物問題であっても、適切な投資と制度設計があれば管理可能な状態へ転換できることを示すだろう。

まとめ:都市の廃棄物管理が生む循環へのインパクト

本セッションの締めくくりとして、世界銀行のKremena Ionkova氏は、各国の取り組みを振り返り、廃棄物管理における進捗を評価した。パキスタンの事例については、かつてはあまりに巨大で手の施しようがないと思われた問題に対し、数年を経て衛生的な埋立地への転換と温室効果ガスの抑制という具体的な成果が出ていることを評価し、マニラやウズベキスタンの事例からも、制度改革や民間セクターとの連携が着実に実を結びつつあることが確認された。

Ionkova氏がクロージングでパキスタンのプロジェクトを振り返って述べた以下の言葉は、廃棄物管理の重要性を象徴していた。

「コロナ禍前、同僚たちと座って話をしていた時、彼らが『カラチにある巨大な投棄場を何とかしなければならない』と言っていたのを覚えています。それはあまりに大きく圧倒されるほどの課題で、今すぐ力になれるかどうか確信が持てませんでした。

しかし今、このような変化を目にしています。2,000万人超という人口を考えれば、それは本当に素晴らしい成果です」

世界銀行 レジリエンス & 土地グローバルプラクティス主任都市スペシャリスト Kremena Ionkova氏
世界銀行 レジリエンス & 土地グローバルプラクティス主任都市スペシャリスト Kremena Ionkova氏

本セッションが示したのは、都市における基本的な廃棄物の収集・管理・適正処分という「足元」が確立されて初めて、その先のサーキュラーエコノミーが可能になるということ。未回収のごみが環境に流出し、あるいは有害なガスを排出している状態では、資源の循環を望むことはできない。

急速に都市化が進むアジアにおいて、まずは確実に廃棄物を管理・計測し、減少させる変化を追い続ける。その地道で強固な基盤の上にこそ、真に持続可能なサーキュラーエコノミーの未来が築かれるだろう。

【参照サイト】アジア・スマートシティ会議2025 | ASCC