コンクリート、鉄、アルミニウム、プラスチック、ガラス、石膏。これらの建材はいずれも循環性に課題を抱え、製造過程で多くのGHGを排出する。裏を返せば、今後新たなテクノロジーやビジネスモデルが期待される材料だ。今後発展が見込まれる循環型ビジネスの機会はどのようなものか。
前編では、コンクリートと鉄鋼について期待されるビジネス機会を紹介した。後編では他4つの建材について紹介するとともに、建材の循環型ビジネスを広げる鍵について考える。
目次(後編)
3. アルミ:「解体」に向けた計画でリサイクルを促進
建築で窓枠や外壁の一部などに使われるアルミ。加工が容易でリサイクルに適した素材だ。既存のアルミ製品からアルミ建材を製造すると、原料から製造するときに比べて、エネルギーを20分の1に抑えられる。理論的には再加工しても品質は変わらず、「永遠にリサイクルを繰り返すことができる」と表現されることもある。
しかし、建設業界ではアルミのリサイクル材の割合は13%にとどまる。この割合を高めるには、廃棄時の適切な分別と扱い、そしてそれを見据えた建設前の計画が鍵だ。アルミは細かな接合部材として用いられることも多く、他の建材と接着していると分別が困難になる。建材の開発や建築の設計段階で、接着ではなくボルトで接合するなどリサイクルを見据えた計画が求められる。
アルミ建材のリサイクルには、デジタル技術が鍵となる。アルミは他の素材と組み合わせた合金が多く、その種類も様々だ。適材適所でマッチングさせる必要がある。ここでも、材料の特性を記録するマテリアルパスポートや、需要と供給をマッチングさせるプラットフォームの広がりが期待される。
2050年で期待される経済効果は200〜400億ドル、アルミ建材の市場規模の2〜4割に及ぶ。
4. プラスチック:分別回収の効率化、代替材料
世界のプラスチック需要の約2割が建材だ。プラスチックは給水管や排水管、断熱材などに使われ、建築や都市を陰から支える。
建設業におけるプラスチックのリサイクル率は17%と低迷しているものの、それだけ今後の伸びしろが大きいともいえる。廃プラスチックのリサイクル後の受け皿としても建設業は有望だ。
プラスチックのリサイクルを困難にしている理由の一つは、その種類の多さから分別回収に手間とコストがかかることだ。これを解決する新たなビジネスは数多くある。なかでも、プラスチックを効率よく分別する技術、低コストで回収するビジネスモデル、プラスチックの代替材料は今後の技術革新が期待される。同時に、各地域がリサイクル施設の規模を拡大するとともに、リサイクルを見据えた製品の規格化も求められる。
2050年時点で期待される経済効果は、380〜1120億ドル。プラスチック建材の市場規模の1〜3割だ。
5. ガラス:リサイクルの質をいかに上げるか
建材のなかでも循環が最も難しい素材は、ガラスではないだろうか。近年、建築物の省エネルギー性能を高めるために断熱性の高いガラスが使われていることが、皮肉にも循環性向上の難易度を上げている。
リサイクルの質と量をいかに上げるか、という点が今後期待されるビジネス機会となる。現状、ガラスのリサイクルによる循環には課題が多い。理由は主に2つあり、1つはガラス建材の分別の難しさだ。ガラスの遮熱性を高めるためのコーティングや、間に挟み込まれるフィルムなどは剥離が容易ではない。建材によっては分別できなくはないが、非常に手間がかかる。もう1つの理由はガラス全般に共通する事項だが、ガラスは不純物が多いと性能が落ちるためだ。板ガラスのリサイクル率は40%と低くはないが、多くは品質を落としたダウンサイクルだ。
建設解体現場から廃ガラスの回収率を上げることが先決だ。ガラスメーカーが自ら廃ガラスを回収しリサイクルする「Glass as a service」のビジネスモデルも注目される。
ちなみにガラス建材のリユースは、リサイクル以上に難しい。年数の経過したガラス製品の品質を、メーカーは保証できないからだ。ガラス窓は日射などの刺激を受けつづけるが、ひび割れることは許されない。年々高まる省エネルギーへの要求を、過去のガラス製品が満たせないこともある。品質保証や法規制がリユース材に対応できれば良いが、安全性にも関わる規制や商習慣を変えるのは容易ではなく、事業者や利用者へのリスクも伴う。
2050年時点で期待される経済効果は、160〜250億ドル。ガラス建材の市場規模全体の1〜2割だ。
6. 石膏(せっこう):ボード材の水平リサイクル
世界で製造される石膏製品の実に96%が建材だ。耐火性能と断熱性にすぐれ、セメントに混ぜられるほか、壁や天井を構成する石膏ボードとして使用されることが多い。もとは岩石から採取されていたが、人工的に合成することも可能だ。
石膏業界の循環型経済への移行で期待される経済効果は、他の建材と比べれば小さい。それでも2050年時点で40〜60億ドル、市場規模の3%と予想される。
石膏のリサイクルはすでにじわじわと進んでいる。ただし、水平リサイクルには壁もある。石膏ボードには石膏のほか粘着剤など他の化学品が混ぜられるため、リサイクル後に再度石膏ボードとして活用する場合は、リサイクル石膏の比率が10%などと制限があった。一方でチヨダウーテが廃石膏ボード100%の石膏ボードを開発するなど、この比率を押し上げる動きもあり、リサイクル率の向上が期待される。土壌改良材などへのダウンサイクルも期待されている分野の一つだ。
リサイクル技術の向上と同時に、解体現場からの回収率を高める必要もある。石膏はアルミなどと同様、他の建材と接着している場合があり分別が難しいのだ。回収率を上げるための法規制も求められるが、解体を意識した設計や製品開発も期待される。
ちなみに石膏ボードは割と脆く、解体時に割れやすいためリユースは難しい。
循環型ビジネスを広げる3つの鍵
以上で紹介した6つの建材に共通するのは、いずれも資源循環の戦略が経済的に相当な利益をもたらすということだ。
循環型ビジネスの波に乗るために事業者や自治体は何をするべきだろうか。世界経済フォーラムとマッキンゼーのレポートでは、サプライチェーンの枠組みを超えた共同、循環型思考、デジタル技術の3つが循環型ビジネスを加速させる鍵だとしている。この3点について、筆者の考えを加えて以下で解説する。
①サプライチェーンの枠組みを超えた共同
循環型のビジネスモデルは一事業者ではなし得ない。例えば建材のリサイクル率を上げるためには、解体時のみならず建設の計画時から対策を講じる必要がある。たとえば、メーカーはリサイクル・解体しやすい建材をつくる。設計者や建設事業者は部材を解体しやすいように計画する。施主は解体・リサイクルが容易な計画を立てるよう設計者や建設事業者に指示を出し予算を組む。そして建築物を長く使えるよう計画し、維持する。
リサイクルしやすい建材とはどのようなものか、廃棄事業者が気づいている課題でもメーカーは知らないかもしれない。廃材の利用先として、建設業界以外に意外な需要が存在する場合もある。
②計画初期の循環型思考
循環型の建築を実現しようとするとき、初期の計画が非常に重要だ。
建設にかかるCO2排出量は、建築物の設計によっておおかた決まると言っても過言ではない。
設計の仕方次第で、その後の建築物の需要、運用のしやすさや維持管理の難易度も変わる。その建築が長く愛されるかどうかが決まるのだ。建築物の寿命は物理的な建材寿命ではなく、その建築物をオーナーが維持したがるかどうか、つまり社会的な寿命で決まることも多い。
建築物が解体される際、部材を損傷せずに解体できればリユースできる可能性が高まる。より汎用的な寸法で部材を設計していれば、リユース先が見つかりやすい。リユースができずとも、適切に分別できればリサイクルができる。設計時に部材のリユース・リサイクルを見越すことが求められる。建材の開発も同様だ。
③デジタルでの情報管理
鉄やアルミの項で紹介したように、デジタル技術も鍵となる。建築物のライフサイクルにわたって部材の情報が適切に管理されていれば、解体後のリユース・リサイクルに役立つ。部材の情報といっても、製法・メーカー・原材料・寸法・取り付け方など膨大にある。改修・修繕などを経て新築時の設計とは異なる形になることもある。一つ一つの部材について正しい情報が解体時まで管理されていることのほうが珍しいのではないだろうか。マテリアルパスポートなどの情報管理サービスの広がりが期待される。
建材のマッチングも、オンラインプラットフォームなどのデジタルサービスに期待したいところだ。建材は形や色、材質、と分類していくと実にさまざまで、解体時に適切なリユース先・リサイクル先を見つけるのは骨が折れる。メーカー自らが建材を改修するビジネスモデルも出てきているものの、一つの建物で採用するメーカーも様々だ。一括でマッチングを行うサービスは重宝されるだろう。
長期的な成長のため市場が必要とすること
建材の循環型ビジネスには初期コストが高くつくものも少なくない。一方で投資回収は長期的な目で行う必要がある。循環型への移行を加速させるには、行政によるインセンティブと確実な見通しが必要だ。
今の市場では、多くの場合リサイクル材やリユース材を選定するとコストが上がる。大手不動産投資会社などの事業者はESGのためのコストを捻出できても、中小事業者や個人の消費者にとって循環型の建材を選ぶことによるコスト増は必ずしも歓迎されない。循環型のビジネスモデルが広く浸透するためには、消費者が損をしないための明確な規制やインセンティブが必要だ。インセンティブには補助金のほか、埋立税などのネガティブなインセンティブもあり得る。マッキンゼーの欧州での調査によると、建設廃棄物1トンあたりの埋立税を5ユーロ引き上げると、廃棄物をリユースするための追加コストが相対的に6割削減されるという。
法規制を見直す必要もある。特に鉄やコンクリートのように建造物の構造を支える材料の場合、安全性の検証を入念に行ったうえで法規制に反映させる必要がある。安全を脅かす建材が使われてしまっても、簡単には壊せない。この点が建設業界の鬼門で、たとえばIT業界などと一線を画すところだ。アプリの開発ならば早々にベータ版を市場に出せるが、建材はベータ版では使えない。
最後に、ビジネス機会と経済効果には国や地域によってかなりばらつきが出ることには留意したい。カーボンプライシング、脱炭素を目的とした補助金、廃棄物の埋め立てに関わる費用など、経済に影響を与える政策や見通しが異なるからだ。
最後に
先進国で暮らしていると、そもそも建設する量を減らして既存の建物を有効活用することに注力するべきでは、と思うかもしれない。もちろんそれも大事だ。しかし世界的には人口が増加し、かつ貧困層が豊かになるため建物やインフラが増えつづける。国連環境計画(UNEP)によると、世界は延床面積(※)23万km2 分の建築物を毎年新たに建設する。日本の本州に相当する面積が毎年追加されていくのだ。建設業の脱炭素とサーキュラリティは世界的な課題だが、大規模で長期的なビジネス機会でもある。
※延床面積:建物の各階の床面積を合計した面積
本記事で紹介するGHG・CO2排出量や経済効果についての値は、出典を明記しない限り世界経済フォーラムらのレポートおよびマッキンゼーの調査結果に基づく。
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【参照レポート】Circularity in the Built Environment: Maximizing CO2 Abatement and Business Opportunities
【参考レポート】Design innovation for the circular economy