欧州を中心に盛り上がりを見せているサーキュラーエコノミー。さまざまな企業が循環型のビジネスを模索しており、それは毎年多くのスタートアップが誕生するドイツの首都ベルリンも例外ではない。
ベルリンと聞いて気になるのは、実際どれくらい取り組みが進んでいるのか、現地ではどんなプロジェクトが注目されているのかだ。IDEAS FOR GOODは、現地のリアルな声を聞くため、ベルリン市内のサーキュラーエコノミープロジェクトを取りまとめる「Circular Berlin」を訪ねた。
Circular Berlinは2018年に創立した非営利団体で、市内のサーキュラープロジェクトをまとめてオープンデータとして公開するほか、サーキュラーエコノミーを市民に広げるための教育プログラムなどを実施している。2019年には、地域コミュニティにサステナブルな変革をもたらす団体を決める「Transformative Action Award」のファイナリストにも選ばれた。本記事では、同団体のデザインリードを担当するパウル・アンカさんへの質問を掲載していく。
ベルリンのサーキュラーエコノミーの今
Q. 単刀直入に聞きます。ベルリンのサーキュラーエコノミーの現状はどうでしょうか。
進んではいますが、正直にいうと複雑です。ドイツは古くからゴミのリサイクルに取り組んできた歴史があり、だからこそ人々の認識という点では課題があります。ベルリンでサーキュラーエコノミー(Kreislaufwirtschaft=循環経済)と聞くと、捨てられる素材の活用を想起する人が多いのです。サーキュラーエコノミーに関する本も多く発行されていますが、内容はほとんどリサイクルやアップサイクル。それ以外のもっと広い概念、たとえば初めから廃棄を出さないためのリ・デザイン(再設計)やリ・マニュファクチュア(再製造)等のことまでは議論されていません。
ただ、ベルリンの企業や団体がサーキュラーエコノミーにポジティブに取り組み始めているのがわかります。Circular Berlinでも1年半ほど前からミートアップを開催してきましたが、企業のCSR担当者など参加者が年々増えてきていて、サーキュラーエコノミーに関心のある人ばかりです。
Q. ベルリンのサーキュラーエコノミープロジェクトの特徴は?
食品ロスや、廃棄プラスチック、ファストファッションなどの問題に取り組むところは他の都市とそう変わらないかもしれませんが、環境保護に関するローカルな草の根活動が多く、プロジェクトが「分散している(Decentralized)」ことが特徴的です。ベルリンはスタートアップの聖地ということもあって、サーキュラーエコノミーに取り組む年齢層も全体的に若い。サーキュラーエコノミーは、この街ではまだまだニッチなコミュニティといっていいでしょう。
Q. Circular Berlinの創立にあたり、どのような課題に取り組もうと思ったのですか?
ニッチで、同じ街の中でも分散していたベルリンのサーキュラーエコノミーコミュニティには、主導する存在が必要でした。誰も、いま街の中で何が起こっているかを把握したり、違うコミュニティとつながったりしていなかったのです。だから僕たちは、都市の「強み」である草の根のプロジェクトをつなげるためにCircular Berlinを創立しました。そして個々で活動している人たちに、「一人じゃない」と伝えました。そんな存在が求められていたから、初めから人々の支持を得やすかったのだと思います。
僕たちは、サーキュラーエコノミーに関するベルリン市内のプロジェクトのマッピングから始めました。Circular Berlinのウェブサイトを見れば、食、繊維・ファッション、製品、建築、エネルギー、デジタルサービスなどさまざまなカテゴリのプロジェクトの概要がまとめて見られます。知識は、オープンにシェアされてこそ発展していくものなのです。
もちろん、Circular Berlinだけでは拾いきれない情報もありました。しばらくはスプレッドシートを使って「ベルリンのサーキュラー・プロジェクト」リストを作り、誰もが自分の面白いと思うプロジェクトを追加できるようにしていたんです。
注目のサーキュラー・プロジェクトは?
マッピングした中でも、特にユニークで私たちが知っておくべきサーキュラー・プロジェクトとは何か。パウルさんが挙げたのは、以下の3つだった。
01. Original Unverpackt
パスタやシリアル、スパイスなどの食材のほか、スキンケア製品や洗剤などの日用品を量り売りで販売する小さなストア。使い捨ての容器や包装を使用しないため、利用者はマイ容器、マイバッグを持ち込む必要がある。廃棄物を減らすだけでなく、小売店を構えることで地域経済にも貢献。日常生活をよりサステナブルにするためのWebマガジン「OU Magazine」も運営している。
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02. Schmitdt Takahashi
ベルリンのファッションブランド。要らなくなった古着を回収し、洗浄して新たな服に生まれ変わらせる。「服は、たとえそれが安価なファストファッションだとしても、人の手に渡った時点でストーリーが生まれる」と捉えており、古着の回収の際には寄付者にアイテムのデジタルIDを付与。そして、それがどのような服に生まれ変わったのかを追跡可能。製品に関する情報はすべてオンライン上で公開され、寄付者が服の思い出を共有したり、未来の所有者がコメントしたりできるようになっている。
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03. Grover
最新テック製品を買うのではなく、借りるサービス「Grover」。各メーカーがしのぎを削って最新型のスマートフォンやタブレット、ヘッドフォン、VR、ドローンなどを開発・販売する中、消費者も次々と買い替えて電子廃棄物を大量に出すのではなく、一定期間「試す」ことによって、廃棄を削減する。モノを所有する時代から脱却し、共有することを促す。
Circular Berlinのこれから
ベルリン市内のプロジェクトのマッピングを行い、クロイツベルク区(ベルリンの旧西側の地区。移民やアーティストの多いクリエイティブエリアとして知られる)と協働して、街のゼロウェイスト実施に取り組んだこともあるCircular Berlin。彼らは、これから何を目指すのだろう。
Q. 今取り組んでいる新しいプログラムについて教えてください。
サーキュラーエコノミーの普及には、教育アプローチが欠かせません。僕たちは今、サーキュラー・スクールという名前で、小学4年生から5年生向けに、2週間のサーキュラーエコノミーに関する教育プログラムを始めています。内容は水や電気の利用、繊維、食品廃棄物などについてが主です。プログラムでは、ただ僕らが一方的に教えるのではなく、子供やその先生たちが他の人に教え、サーキュラーエコノミーの価値観をあちこちに広げていけるように知識を共有しています。
今の時代の子供たちは、ゴミを出すのは当たり前でそれをどう活用するか、と考える僕らの世代とは違った価値観を持っているかもしれません。新しい知識に対してもオープンです。これからは、リサイクルやアップサイクルに留まらない見方でサーキュラーエコノミーを捉えてほしいと思っています。
サーキュラー・スクールの教育モジュールは、僕たちがやらなくても他の学校や会社などで実践できるように、すべてオープンソースとしてサイト上で公開される予定です。
Q. Circular Berlinの目指すものとは?
Circular Berlinのゴールは、ベルリンをサーキュラー・シティにすること。バラバラだった地域のコミュニティをつなぎ、循環型社会への移行を加速するのが僕らの役割です。
欧州だと、アムステルダムやヘルシンキがサーキュラーエコノミーに関してはとても進んでいるので、他都市に学ぶことは多いと思います。ローカルなコミュニティが強いベルリンは、この二つの都市のように市や政府機関が指揮をとって進めているわけではないですが、近年はベルリン市のアジェンダにもサーキュラーエコノミーが入ってきています。循環型社会に向けたロードマップも作りたいです。
草の根活動が多いとはいえ、若くて環境意識の高いメンバーたちだけで進めるのではなく、違うバックグラウンドを持った人々や、高齢者や障がい者などと協力するなど、多様性を大事にすることも考えなくてはいけませんね。彼らは建築や繊維、福祉など僕たちがまだ詳しくない分野の専門家である可能性もあります。誰も、自分たちだけでは望む循環型社会の実現はできません。それぞれの業界を超えて、ループを閉じられるようなデザイン(設計)を、僕たちはしていきたいです。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。