中古家具市場が拡大している。調査会社Grand View Researchによると、グローバルでのセカンドハンド(中古)家具市場は2024年から2030年まで年平均7.7%成長する(参照:“Second-hand Furniture Market Size & Trends” Grande View Research)。同調査によると、消費者のサステナビリティ意識の向上に加え、ヴィンテージ家具やユニークでデザイン性のある家具の人気が高まっていることが背景にある。たとえばアメリカでは1stDibsなど、ハイエンドなアンティーク中古家具を取引するオンラインプラットフォーム市場が確立している。

企業から出るオフィス家具の再流通の取り組みも国内外で活発だ。アメリカのRheaplyや中国のDeartreeのようなオフィス家具のリユースプラットフォームも台頭しているし、Furniture As a Service (FaaS、家具のサービス化)といった新しいタイプのサービスが登場して久しい。

こうした状況のなか、オフィス家具の売買プラットフォームを運営するサイクラーズ株式会社は、不用なオフィス家具にデザイン性などの新たな価値を付与する「リメイク」の後、次のユーザーに販売する事業を開始した。リメイク自体は決して目新しいものではないが、経済性・デザイン性・循環性の三拍子揃うのがこの取り組みの特徴だ。同社取締役経営戦略本部長 山田 晃一さんと、実際にリメイクを行う経営企画部 デザイン課 三谷薫子(冒頭写真右)さん・島田ちひろ(同左)さんに話を聞いた。

ビジネスとしてリメイク家具事業が成立する背景

サイクラーズグループは、金属スクラップリサイクルと産業廃棄物の中間処理を手掛ける東港金属株式会社を中核とする9社と持株会社サイクラーズ株式会社で構成。サーキュラーエコノミー移行に向け事業展開を行う。

同グループの代表である福田隆さんは、まだ使用できる物が産業廃棄物として処理される現状を目の当たりにし、より入口側で価値の高い循環方法を取れないかと考えた。そこでグループ内のトライシクル株式会社が開発したのが企業を対象としたリユースプラットフォーム「ReSACO」。いわば「メルカリ版B to Bプラットフォーム」ともいえるサービスで、これをツールにB to Bリユース市場を開拓してきた。

23,000坪もの広大な土地にある「ReSACO リサイクルセンター」では、不用品が仕分け・保管される。リペア・リユース・リメイク・部品取りなど最適な方法を選択し、リユース品は法人と個人双方へ流通・販売。トライシクルが買い取ったリユース品の8~9割は再販で対応できるものの、劣化が激しいなど販売が難しい残りのリユース品は同社が排出事業者となって東港金属が処理をする。まさに、廃棄物処理業という同グループの母体をフル活用して循環性向上を目指すサービスともいえる。

サイクラーズはこれを「カスケード式再循環選択」と位置づけ、閉じたループをつくるべくM&Aも含めて循環ループの多様化を目指している最中だ。

カスケード式再循環選択の図。廃棄物処理の前に価値の高い循環方法を増やす(同社提供)

業界で珍しい「デザイン課」。美術系大学の新卒3名採用

こういった基盤のもと、次に手を打ったのが今回取り上げるリメイクの取り組みだ。同社は24年2月、ReSACOリサイクルセンターに集積する廃棄予定家具などにデザイン性を付与して、新たな価値を持たせ再び市場に出すことを目的に、「enloop®」というリメイク家具のブランドを立ち上げた。リユース品として販売できない家具を選定し、価値の高い家具へとリメイクする。

サイクラーズ株式会社の経営企画部に美術系大学の新卒デザイナーを採用(現在は3名)。業界では珍しく、まさに事業の柱に育てようという意思表示でもある。実はこの事業を始める前には、福田さん自らがリメイクにトライしていたが、ここへきて専門性を持つデザイナーを採用するに至ったという。3名は、大学時代に培ったデザインの専門性を活かす。リユース品にデザイン性を伴った価値を付与し、リメイク品が受け入れられやすい土壌づくりに励む。

「デザインの力で循環に貢献」。素材選定からリメイクまで

リメイク前:左の飾り棚とテーブル / リメイク後:右の飾り棚とテーブル

リメイクに至るまでの流れを追っていこう。まず、不用家具は、ホテルや飲食店、雑貨、学校などさまざまな施設や店舗などから入荷する。下記図のように、入荷した家具のうち、傷や劣化によりそのままの状態での再販が難しいものを選定。次に、清掃・研磨・分解・塗装しリメイクする。その後、ECやイベント等で販売するというシンプルなビジネスモデルだ。

リメイクの流れ(図:サイクラーズ株式会社)

「1点モノが多いので、一つひとつの素材と向き合ってリメイクの方向性を決めています。たとえば、表面に傷や使用感があるが素材がよいものは、それを活かす方法でリメイクします。素材の価値が低いと判断されるものについては、他の素材と組み合わせています」と、デザイン課の三谷さんは語る。素材によってリメイク方法を変えるのだ。

同課の島田ちひろさんは、「もとの素材が丈夫な場合、研磨し雰囲気を変えるだけで使いやすい家具に生まれ変わります」と付け加える。

下記は研磨の様子を撮影した動画だ。

どんな方針でリメイクするかが決まれば、あとはデザイン課のセンスにより家具が生まれ変わる。

ポイントは素材の見極めだという。常務取締役の山田さんも「素材が良いものを選ぶことも重要」と話す。もともとの素材が良質な場合、その分だけリメイクで価値を多く創出できるのだ。

オフィスにある大容量ロッカー。引き出しをオレンジで塗りデザイン性を付与

販売チャネルの多様化も視野に

リメイクされた家具の数々(写真:公式ウェブサイト)

顧客で多いのは、海外も含めた個人や施設関係者だという。テレビドラマの撮影場所でも使われている。EC販売とポップアップイベントが現在の販売チャネル。山田さんは、質を大事にブランドを育てていきたいとしながらも、「今後は、理念に共感いただけるホテルやイベント会場に使ってもらいたいと考えています。我々の量産体制が整えば、小売との提携など販売チャネルの多様化も視野に入ります」と述べた。

マーケティング戦略もシンプルだ。三谷さんは、「リメイクのオリジナリティを訴えるために、リメイクを前面に押し出しています」と強調する。サステナビリティにおけるコミュニケーションには、あえてサステナビリティの性質を表に出さない戦略が取られることも多いが、同社が扱う品はそもそもの価値が高い。ストーリーが脈々と刻まれてきたと訴えるほうが価値あるものとして受け止められやすい。

直近では、椅子の張替・再生を行う株式会社エフラボと、リメイク品販売に関する提携を結んだばかりだ。「製品のリユース・修繕・リメイクの仕方のバリエーションを増やしていく」と山田さん。変化し多様化する需要に適時対応できる体制を整えることで、廃棄物としての処理を免れ新たな息が吹き込まれる製品が多くなるということだろう。リメイク・リユースの選択肢をつくることで、同社の顧客にとってもリサイクル一辺倒だったこれまでと景色が変わる。

循環が生んだ雇用

今回、新卒として入社した2人にも注目が集まる。島田さんは、入社理由と経緯についてこのように語った。「大学では廃棄物と向き合うデザインをテーマに活動していました。デザインの力で環境に貢献し、それだけではなく人をワクワクさせるようなことをやりたいと思っていたところ、大学での求人を見つけ、(同社の)門を叩きました」

「1人目の」デザイン課メンバーとしてこの事業を開拓してきた三谷さんは、「入社時にはデザイン課はありませんでしたが、新しいビジョン実現に向けてチャレンジするというワクワク感がありました」と話す。まさに、「循環が生んだ雇用」「新しい職種の誕生」と言っても過言ではない。

編集後記:長く使われてきた物の価値を高めるサポーター

冒頭述べたとおり、同社のリメイクの取り組みには、経済性とデザイン性と循環性の3つが伴い、さらに雇用も生み出していることが特徴だ。事業がさらに軌道に乗り販売チャネルも多様化した際には、多くの資源が「レスキュー」されることだろう。

一方で、私たちは一歩引いて観る必要もある。不用な家具が発生する理由には、施設閉鎖や移転、家具の入れ替えや時代の潮流により低価値と判断されるなどさまざまな理由があるだろう。当然こういったことを考慮に入れる必要はあるが、「排出発生源」もっというと生産という「蛇口」の段階から、より高い価値の創出方法や仕組みのアップデートを模索すべきであることを教えてくれる。

もう一つ、アップサイクル・リメイクの取り組み自体は、意義があるとされながらもこれまで課題が指摘されてきた。アップサイクル・リメイクされた物がどの程度長く使われ、どの程度次のサイクルへと回すことができるのか。そのアップサイクル品には本当にニーズがあるのか。いわゆる「ニーズのない捨てられるアップサイクル品」になっていないか。こうした問いに度々晒されてきた。

enloop®にはこのような問いに丁寧に応えているように見える。一点一点目の前にある素材と向き合い、特性に応じて価値あるものに変わった品は、仮にオーナーが変わっても長く使われていく可能性は高い。現場で机がリメイクされる様子を筆者が見学したときには、「昭和の高級な古家具が令和のデザイン家具に生まれ変わった」という印象を受けた。仮にデザイン性が価値を下げる要素になるのであれば、再びデザインでその時々における最新のルックスに生まれ変わらせることもできる。そう考えると、家具という製品特性ももちろんあるのだろうが、物が長く使われれば使われるほど価値を高められるようにサポートするのが同社でありデザイン課だという見方もできる。こういった世界観をつくりながらも、同社にとってのビジネスとしても育てていく。多くのメッセージを投げかけているのがこの取り組みなのかもしれない。

【参考】enloop®公式ウェブサイト
【参考】サイクラーズ株式会社公式ウェブサイト
【関連記事】リサイクル事業を通じてサーキュラーエコノミーの実現を目指す。トライシクル株式会社の挑戦
【参考】”Second-hand Furniture Market Size & Trends” Grande View Research