神奈川県鎌倉市の循環型まちづくりを支える「鎌倉サーキュラーアワード」が第2回を迎えた。初回の成果を踏まえ、今回は新たにサーキュラーアカデミーの開講や、より実装を重視したスタートアップ支援など、進化した取り組みを展開している。 スタートアップ部門の主催者への取材を通じて、同アワードの現在地と今後の展望を報告する。(※冒頭写真:第1回鎌倉サーキュラーアワードの結果発表と表彰式の様子)

前回と同じく、「市民部門」「事業者部門」「スタートアップ部門」の3部門で開催される。そのなかでもスタートアップ部門は、鎌倉が非連続的に循環移行するための重要な要素として機能する。同部門のファシリテーターである株式会社カマン代表取締役の善積真吾さんとメンターである株式会社nalu代表取締役のみなみなおこさんに話を聞いた。

話者プロフィール

鎌倉サーキュラーアワード スタートアップ部門ファシリテーター 善積 真吾 さん (株式会社カマン 代表取締役)

ソニーで新規事業開発や新規事業創出プログラム立ち上げに参画した後、地域循環型社会構築のため、2020年末に株式会社カマンを創設。テイクアウト用の使い捨て容器削減のため、地域共通のリユース容器シェアリングサービスMeglooを立ち上げる。慶義塾大学理工学研究科(修士)卒業。スペインIE Business SchoolにてMBA。慶應義塾大学SFC研究所 上席所員、CIRCULAR STARTUP TOKYOメンター

同部門メンター みなみ なおこさん (株式会社nalu代表、地域共創事業プロデューサー、慶應義塾大学SFC研究所所員)

ブランディングを通して社会課題を解決するサポート。つくる側(企業)とつかう側(地域)が一緒に社会課題を解決することにより、持続可能な地域活性化を実現する新たな地域共創型ソリューションモデル「good sharing lab」(IBLC協働事業)を構築。企業の研究開発支援から製品化・社会実装まで地域と連携し、プロダクトを事業化しつつ、地域循環の実現を目指している。

市民・事業者・スタートアップが相互に支え合う

同アワードの実行委員長 田中浩也教授(慶應義塾大学)は、3部門の同時実施がこのアワードの特徴だと前回の取材で強調していた。市民生活や経済にプラスとなる循環型施策の必要性が高まっているという背景がある。

前回、市民部門では61件の応募があった。金賞は「たけみちブラザーズとその家族」(応募アイデア:我が家のごみだったものが救世主に。なんだって変身する「布」が大活躍!)、銀賞は「エコヒーロー」(応募アイデア:家庭用コンポスト&管理デバイス「みえるん」)、銅賞は宮澤彩瑛さん(応募アイデア:よう虫といっしょに家庭のごみを減らそう)。マシンガンズ滝沢賞(特別賞)は原 由美子さん(応募アイデア:もらって嬉しい緩衝材)。52件のアイデアはこちらで閲覧できる。

事業者部門は鎌倉独自のゼロ・ウェイストの認証が付与される仕組み。前回、31社に「ゼロウェイストかまくら認証」が付与された。認定事業者はマップで可視化。街で掲示されており、事業者の認知拡大につながっている。

スタートアップ部門では、全国から25件の応募があった。金賞は株式会社JOYCLE(分散型廃棄物処理システム)、銀賞がbuoy合同会社(海岸漂着プラスチックごみのアップサイクル商品を展開)、銅賞が八神 実優さん(当時。その後生分解おむつ事業を営む株式会社Gaiapostを創業)。受賞者には、行政職員を紹介したり、メンタリングを提供したり、鎌倉と継続的な関係を築いている。また、鎌倉にあるエシカルショップ「えしかる屋」や鎌倉ファーマーズマーケットで応募者による商品のポップアップを実施するなど、実際のフィールドを活用した支援も受ける。環境意識が高いといわれる鎌倉市民から良質なフィードバックが得られる場面があったという。

「鎌倉発のスタートアップも創出したい」アワードを開講

アワードの主催は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」が採択した「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』。同拠点は2023年から2032年までの取り組みのため、必然的に中期目線での目標となる。善積さんは、「COI-NEXTは10年間のプロジェクトで、すでに3年が経ちました。残りの7年でどんな会社が鎌倉にいてほしいかという議論を続けている」と説明。

前回のスタートアップ部門では、全国の有望なスタートアップから応募があったが、課題もあるという。

「前回は全国から革新的なスタートアップの応募があり、鎌倉にとってもプラスになる結果でした。一方で、スタートアップ部門受賞のトップ8に鎌倉のチームが1チームのみでした。全国のスタートアップから応募いただくのはもちろんですが、もっと鎌倉からサーキュラースタートアップを輩出し、鎌倉でも実装できそうなアイデアや事例を作っていきたい。ただ、実際、受賞に至らなかった方々から、『事業化に至るまでの道筋がわからない』という声が多いことがわかったのです」

善積 真吾さん

そこで第2回では、新たな試みとして、初期のアイデアを持つ人を対象とした、サーキュラーアカデミーを開講した。

アカデミーを通じて「知の循環を」

このアカデミーにはいくつもの特徴がある。善積さんやみなみさんを含めた鎌倉在住の4名が講師となり、サーキュラーエコノミーの基礎から事業立ち上げ、PR、資金面について、4回シリーズで講義を提供する。対象は、サーキュラーエコノミーの分野で起業したい人あるいはすでに事業を開始しているスタートアップなどだが、誰でも参加可能。登録者の半数以上は起業準備者だという。

「実装者たちによる実例をもとにした話題を提供するのが、アカデミーの特徴です。動画ではありますが、知見をシェアし合う、『知の循環』のようなものがアカデミーで生まれるといいなと思っています」とみなみさんは話す。善積さんやみなみさんは、起業家として現在進行形で循環型事業に邁進している。二人が培った実践知に触れることで刺激を受けることは間違いない。

みなみ なおこさん

40名収容の部屋に70名が集まる「ギャザリング」

アワードから自然発生的に生まれたというのが、「鎌倉サーキュラーフレンズ・ギャザリング」。鎌倉のひととまちの関係性を案内する「関係案内所はつひので」のファシリテーションのもと、「5分×10名の楽しいピッチ」「サーキュラーフード」「サーキュラー音楽」の3つのコンテンツで提供される。もちろん誰でも参加可能。毎回多くの参加者で賑わっているという。ある回では40名の収容人数の部屋に70名が集まったようだ。

サーキュラーフレンズギャザリング#3の様子(写真:公式note)

毎回、継続参加者とともに、多くの新規参加者もいる。「毎回新鮮で良いコミュニティ」(善積さん)になっているという。ギャザリングに参加しアワードに応募する人もいればその逆の経路もあり、この2つの取組みは鎌倉の循環基盤をつくることに貢献する。「ギャザリングとアワードが両輪でまわっていけば」と善積さんは話す。

アワードとギャザリングを軸とした、鎌倉サーキュラーエコシステムの目指す姿(図:公式note)

「アイデアがあれば応募を」

スタートアップ部門応募のハードルは低い。二人が何度も強調したことだ。

「アイデア段階でもぜひ関わっていただきたいと思います。私自身も行ってきたことですが、行政も関わってくれているので、応募してコメントをもらったというような事実を実績として活用していただきたい」とみなみさん。善積さんも「間口は広いので、これまで鎌倉とご縁がなかった方々もぜひ応募ください」と口を揃える。

アカデミー、ギャザリング、スタートアップ部門への応募など、門戸は広い。今回も全国からサーキュラーエコノミーに資するスタートアップを募集している。サーキュラーエコノミーで何かをしたい人にはうってつけのプログラムではないだろうか。「鎌倉サーキュラーアワード、『知の循環』でサーキュラースタートアップ創出へ (2) 特徴を探る 」へ続く。

【公式URL】第2回鎌倉サーキュラーアワード
【公式note】鎌倉サーキュラーアワード実行委員会
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【参照記事】サーキュラースタートアップの「聖地」を目指す。鎌倉サーキュラーアワード開催の背景とは。実行委員長らに聞く