オランダのアムステルダムにあるデザインスタジオ「WAARMAKERS」。彼らを有名にしたプロダクトは「Goedzak」と呼ばれる、ゴミ袋のデザインだった。不要なモノをGoedzakに入れて道端に置いておくことが、「欲しい人は中に入っているモノを自由に持ち帰っていいですよ」という意志表示となる。経済的でサステナブルなアイデアだ。

誰かのゴミが誰かの宝になるシェアリングエコノミー
Image via Goedzak

人目を引く黄色は、通りの雰囲気を明るくするし、片側をあえて透明にすることで、中身が見えるようにした。欲しいと思えば誰かが拾うし、誰にも拾われなかったモノはリサイクルショップによって回収され、再販されるかリサイクルされる仕組みだ。オランダの大手スーパー「アルバートハイン」や、アムステルダム市やアイントホーフェン市などの自治体とのコラボレーションにより、オランダ中で、多くの“破棄されるはずだったもの”に第二のチャンスが与えられ、製品寿命が延びた。

「誰かにとって必要のないものも、ほかの誰かにとっては必要なものかもしれない」。そんなことを私たちに訴えかけるそのデザインは、人間のポジティブな「やさしさ」を引き出した。

僕らのデザインは、人々を利他主義者(Altruism)にします。

利他主義(Altruism)とは、エゴイズム(Egoism)の対概念としてフランスの社会学者によって造られた造語であり、自己の利益よりも他者の利益を優先する考え方だ。

今回は、そんな思想を持った「WAARMAKERS」を訪ね、創業者のMaarten Helotes(マールテン・ヘイルティエス)氏とSimon AK kaya(サイモン・アカヤ)氏の二人に「デザインにおける利他主義とは」「彼らが考えるいいデザインとは何か」話を聞いてきた。

左:Maarten Helotes(マールテン・ヘイルティエス)氏 右:Simon AK kaya(サイモン・アカヤ)氏

Design For Altruism(利他主義のためのデザイン)

サイモン氏とマールテン氏の二人が出会ったのは、オランダ最古でヨーロッパ屈指の名門校であるデルフト工科大学だ。工業デザインを学ぶ中で意気投合した彼らは、デザインが世界をより美しく、持続可能性を作り出すということを強く信じている。「デザインするときは、二人でたくさん話し合いをするのですか?」と聞くと「いや、言い争いだね」と、笑う。サイモン氏は、手掛けるデザインについてこう語る。

「僕たちは人が、他人(できれば知らない人)に利益をもたらすような行動を促すプロダクトデザインを大切にしています。デザインはイデオロギー(社会的・政治的な意見)を具体化して人間のプラスの行動を引き起こし、世界と人の相互作用を生み出します。たとえばGoedzakは、いつも使うゴミ袋を変えるだけで“簡単に”いいことができて、他人の『やさしさ』を引き出すとてもシンプルな仕組みです。Goedzakの中のモノを見れば、誰かがきっと、拾ってくれる誰かを想ってモノを詰めてくれたことを、想像するでしょう。」

「僕たちのデザインはいつも、『人々にどう動いてもらいたいか』『どうしたら人のポジティブな部分を刺激できるか』を考えるところからスタートします。新しいデザインを生み出すことは、人間の行動特性をテストすることでもあります。そのくらいデザインは、人の行動を刺激する。そしてその刺激はいつも、より良い方向への一歩である必要があります。」

彼らが手がけるデザインのすべては、ポジティブな社会的インパクトを生み出すことに焦点を当てて作られている。たとえ人々が無意識に使ったとしても、自然と誰かに想いを馳せるような「やさしいデザイン」だ。

サイモン氏
サイモン氏

「ユニーク」で「持続可能」なプロダクト

WAARMAKERSは、オランダのさまざまな企業や自治体とコラボレーションし、プロダクトデザインを手掛ける。サイモン氏は、「僕たちはデザインを考えるとき、持続可能性やサーキュラーエコノミーを軸に、古材や廃材をもう一度使う方法を考え、素材の背景を伝えることにこだわっています。デザインは、そうした持続可能性をスタンダードにするべきだと、僕たちは考えています。」と、話す。

たとえば、廃棄物をユニークなアイデアと掛け合わせて美しいプロダクトを作ることで、「美しいプロダクトを作るためには、製造プロセスで廃棄物を使うことがどれだけ有効か」ということを証明している。廃棄物を使うことでこれまでになかった発見があり、作れば作るほど、どんどん面白い発想が湧くという。

ここで彼らが紹介してくれた、5つのイチオシプロダクトを見ていこう。

RECASTは、すべてが手作りで作られる
サイモン氏

1. 廃棄物を削減するチューブライト「R16」

ダンボール筒のパッケージを使って作られたチューブライト。あるとき従業員が、電球が入っていたダンボール筒のパッケージを捨てることにもったいなさを感じたことがプロダクト開発のはじまりだったという。

Image via WAARMAKERS

ダンボールは手触りが柔らかく、構造も強くて優れているのにも関わらず、世の中から過小評価されすぎている。もっと正しい方法で使用されれば、美しいモノになると考えた。

ダンボールの色や形は中立なので、どんな場所でもインテリアとしてフィットすることが特徴だ。LED電球を使用することで、ダンボール筒の固定具が熱で破損しないよう工夫されている。オフィスや展示場などでも幅広く利用されているプロダクトだ。

2. 廃棄物の出ない美のサイクルを生み出すランプ「RECAST」

石の複合材料から作られた単一ピースの壁ランプ。製造過程で余った破片はまた繰り返し次のプロダクトに使うことで、廃棄物の出ない生産サイクルを生み出した。色が混ざってもそれがさらに美しいデザインとなっている。

RECAST
RECAST
RECAST
Image via WAARMAKERS

3. 廃棄される木材の物語を伝えるチューブライト「Ninety-four」

Ninety-fourは、木材会社Standoutとのコラボレーションにより、アムステルダム市内にある通常であれば廃棄されてしまう木材を回収して作られたチューブライトだ。コルクに刻印された地理的座標をGoogle mapに入力すると、市内のどの場所にあった木から作られたものなのかがわかる。木は1本1本違うため、プロダクトの模様もそれぞれ異なり、人工的ではなく、自然から生み出された幾何学的なデザインが美しい。

ちなみにアムステルダムにある廃棄食材を使ったレストランInstockの店内でも、このライトが使われていた。アムステルダムは小さい都市なので、同じ志を持った企業同士は自然とつながることを実感する。

Image via WAARMAKERS

4. 旅を豊かにするアプリ

NS(オランダ鉄道)とのコラボレーションで作られたのは、混雑した電車の旅をユニークな旅に変えるクイズアプリだ。アプリを持つ乗客には、まったく同じタイミングで、GPSの位置に基づいて周りの風景に関するクイズが出される。電車から窓の外を見渡し、景色を楽しむことにもつながる。

同じ場所で同じ時間に、同じ経験をしている人たちがいて、それぞれの人々はお互いのことを知り得ない人生を送っている。そんな奇跡的のような機会を利用したい、という想いからアプリ制作は始まった。強制的に人を動かすのではなく、人々の好奇心が自然と湧くように設計されているのが特徴だ。

5. 植物で作られたスクーター「Be.e」

NPSP BiocompositesとバイクメーカーVan.Ekoとのコラボレーションで作られたのは、亜麻とバイオ樹脂でできた環境に優しい電動スクーターだ。部品がはるかに少なく、組み立てが簡単なのが特徴だ。

あえてヨーロッパのスクーターの古いデザインを使うことで、伝統を大切にしながらも飽きが来ないので長く使うことができ、そこにユニークな素材を組み合わせることで幅広い年齢層へアプローチした。

スクーター
スクーター「Be.e」Image via WAARMAKERS

いいデザイナーが作るものは、持続可能でなければならない

二人が10年前にこのサステナビリティに焦点を当てたデザインスタジオを始めたころは、まだオランダの人々にとってサステナブルデザインは新しい考え方で、アイデアを売るのが困難だったという。現在オランダは、国としても2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現するという目標を掲げ、世界のサーキュラーエコノミーを牽引するまでになった。企業もビジネスとしてサステナビリティを積極的に進めている。

二人に「なぜアムステルダムでは、他国と比べてサーキュラーエコノミーがこれほどまでに浸透しているのだと思いますか?」と、尋ねると、モールテン氏はこう教えてくれた。

「アムステルダムの人たちは、サーキュラーエコノミーの考えに心地よさを感じている。環境にいいだけではなく、それは経済的にもいいということを、みんなが理解しています。とても自然に、その考えに行き着きました。」

そして続けた。「単に大量生産をするのではなく、人が長く使えるよりよいプロダクトを作ろうと思うと、それは自然と持続可能になります。」

モールテン氏
モールテン氏

「僕たちは決して、『サステナブルデザイナー』と呼ばれたいわけではない。『サステナブルなデザインスタジオ』として大々的に発信しているわけでもない。ただ、いいデザイナーであることだけを望んでいます。しかし、いいデザイナーが生み出すものは、持続可能である必要がある。それは、絶対条件です。最近は、この考えがここアムステルダムでは一般的になっています。」

最後にこれからの目標を尋ねると「お互いが同じ想いだといいな」と、サイモン氏と顔を見合わせながら、マールテン氏は先にこう答えた。

「ゴールは間違いなく一つではないけれど、オリジナルでクリエイティブなものを作り続けること。自分たちが作るモノに興味を持ち続けるために、進化し続けたいです。自分たちが面白いと思えるということはつまり、自分たちが正しい方向に進んでいることを意味するのだと思います。」

「僕も、同じ考えだね。」と、サイモン氏が続け、「僕たちはちゃんと同じページにいる。いいサインだね。」と、笑いあった。

創業者の二人
創業者の二人

取材後記

「We like Stuff, but we like people better.(ものが好き。だけど、それよりも「ひと」が好き)」

彼らのウェブサイトには、そんな言葉が書かれている。その言葉通り、取材でオフィスを訪ねると、素敵な笑顔で「遠いところからよく来たね!」と、あたたかく出迎えてくれた。人が大好きな二人だからこそ、常に人のポジティブな面を引き出す「やさしいデザイン」を生み出すことができるのではないだろうか。

「作っている自分自身が飽きないデザインを生み出し続けたい」という彼らの想いからは、好奇心を持ち続けることの大切さが読み取れる。常に自分たちのデザインを楽しみ、持続可能が絶対条件である“いいデザイン”を生み出し続けることが、人と社会と環境、そして経済をポジティブに導く。

オランダに溢れるクリエイティブなデザインは、彼らのように少年少女のような好奇心を持ったデザイナーたちによって、生み出されているのだろう。「オランダ人はサーキュラーエコノミーの考えに心地よさを感じている」と、モールテン氏が述べていたが、その「心地よさ」を作っているのは、“いいデザイン”なのではないだろうか。

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。